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鉄道英雄伝説 ―鉄オタの異世界鉄道発展記―  作者: 葉山宗次郎
第三部第五章 帝都騒乱

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反乱軍の機動戦術

「反乱軍の攻撃が激しくなっています!」


「連中の兵力集中が激しいか」


 帝国軍第二軍を率いるフッカー大将は雪交じりの激しい寒気の中、呟く。

 この一月で反乱軍側の町を占領しつつ本拠地であるポメラニアへ北西側から向かっているが敵も貴族私兵を糾合して反撃を始めている。


「敵部隊が判明しました。敵は帝国軍第八軍団です」


 相手は元帝国軍だが自分たち第二軍を攻撃してくるため今では完全に敵と認識している。

 帝国軍第八軍団はガイウス派の指揮官の多い軍団で当然反乱側に付いている。そして軍団の番号は若いほど、編成時期が古く精鋭と見なされている。

 特に第八軍団は攻勢に定評があると言われていた。

 真っ正面から受けて立つのは分が悪い。


「迂回して挟撃したいところだが、これじゃあ無理だな」


 自分の白い息に包まれる雪をみてフッカーはぼやく。

 加えて足下の雪はくるぶしまで積もっている。奥地へ行けば膝下まで深くなるだろう。

 このような状況で行軍など不可能。少人数によるゲリラ戦ならともかく組織的な攻撃、連帯規模以上の行動など無理だ。


「鉄道から離れれば、あっという間に行動不能だな」


 それでも戦争が出来るのは鉄道があるからだ。鉄道は雪に強いので何とか運べる。レールの上にある雪さえ排除すれば、ぬかるむこと無く重い列車が通って行ける。

 お陰で雪中にもかかわらず食料、燃料の補給に事欠かない。東方戦争の時は鉄道事情が悪く――敷設する距離が長い上に、戦場までの距離が長く列車自体が少なくて前線に物資が殆ど来なかったが、鉄道網の整った帝国内なら潤沢な補給が来てくれる。

 だが、鉄道線を外れたら寒気の中で凍える事になる。

 そのため鉄道線沿いに行軍し反乱軍が撤退時に破壊したレールを修理しつつ移動するしかない。

 自然と鎮圧軍が前線に送れる兵力は最小限となってしまい十全な鉄道網を持つ敵に対して不十分な兵力で受け止めることとなる。

 そのため劣勢になる事が多い。


「防御陣地の構築はどうなっている?」


「準備出来ています」


「よし後退! 敵が本格的に攻めてくる前に逃げるぞ」


「後退ですか?」


 フッカーの副官が尋ね返す。

 入隊してからずっと帝国軍にいた彼にとって帝国を裏切った悪逆なる反乱軍に対して逃げていくようで不満なようだ。


「状況が不利なのは明白だ。この状況ではいらぬ損害が出る。帝国軍にとっての不名誉はいたずらに兵を損なうことと心得ろ」


「は、はい」


「よし! 後退だ! 見落としがないようにな! 人員優先で物資は置いて行け!」




 数日後ポメラニア南東部。


「姉御。敵陣地の制圧終了したぜ」


 テオドールが上官である近衛軍司令官アデーレに報告する。


「よし良くやった。クリスタはどうしている?」


「追撃に行ったよ。敵が退いている今がチャンスだと喜々として行った」


「大丈夫か? 雪で道に迷うぞ。しかもあいつは迷子の常習犯だろうが」


 ルテティア王国軍時代もアデーレはクリスタの上官であったため、演習中彼女の部隊が道を間違えて迷子に。迷いに迷った挙げ句、後方に出てしまいそこで昼寝をしていた事が度々あった。

 道迷いを戦地でやらかさないかとアデーレは心配だった。


「大丈夫だよ姉御。線路沿いなら間違いようがないよ。それにクリスタの奴、本番には強いし、敵の位置を勘で掴みやがる。敵が罠を仕掛けていても嗅ぎ取って自然と帰ってくるよ」


「確かに」


 クリスタの勘は非常に良く図上演習の時、アデーレ自身がクリスタの奇襲を受けて危機に陥る事が度々あった。


「まあ寝床を用意しておいてやろう。防御陣地の構築を行え」


「あいよ。よし、お前ら穴を掘れ!」


 アデーレの命令を受けてテオドールが部下に命じる。

 部下達はシャベルを手に取ると雪上に幅二.六メートル、長さ六メートル、深さ二メートルの穴を複数作る。

 そして穴が出来るとそこへコンテナを入れる。

 すっぽりとコンテナは入り、雪上から出てきた部分を掘り起こした雪で埋めると即席の壕が完成した。

 あとはそれらのコンテナ壕を結ぶ塹壕を掘れば完成である。


「コンテナは使えるな。物資を直ぐに下ろして倉庫代わりになるし、空になっても埋めて壕の代わりになる」


 アデーレは感心するように言う。


「全くだ。普通なら穴を掘ってそこに木材を使って壁と天井を作って埋め戻す必要があるのにコンテナは埋めるだけで代用になる」


 テオドーラも同意する。木材を加工して壁や天井を作るというのは以外と手間だ。その手間が省けるコンテナは有り難い。


「お陰でユックリ休めるわ」


「あんたは本当に怠け癖が強いね」


「無駄な体力を使わないと言ってくれ」


 その時、前方から砲撃音が響いてきた。

 そして、小柄な女性がヒョッコリと現れた。


「姉御、姉御、敵がやってきよ」


 暢気に答えるのはアデーレの部下であるクリスタだ。


「どうしたんだクリスタ。追撃していたはずじゃないのか」


「連中の応援がやって来たようで引き返したー。結構来ているよ」


「それを早く言え」


 慌てて双眼鏡を持って前方を注視する。確かに反乱軍の部隊がこちらに向かっている。


「軍旗を見る限り第八軍団のようだね」


 数日前、フッカーの軍を攻撃していた筈だが今日ここに居るということは転戦してきたというわけだ。フッカーは少し浮ついた雰囲気があるが性格は粘り強く防御に定評があり、そう簡単に敗北する様な奴では無い。同数なら確実に粘り勝つ。

 しかも反乱軍には鉄道による潤沢な補給がある。物資不足で逃げることはない。

 考えられるとすればフッカーの防御に根を上げた反乱軍が他の戦線で挽回すべく転戦させたか、アデーレ達の攻勢に危機感を抱いて迎撃に使ったかだ。


「クリスタ後方に下がれ! テオドーラ迎撃準備! 陣地で迎え撃て!」


「あいよ」


「あーい。そういえば姉御。メシある」


「何時でも食欲があるのが羨ましいよ」


 暢気に尋ねてくるクリスタにアデーレは呆れつた。そういえば準備出来ているのだろうか。


「御安心下さいお姉様。既に物資の輸送を始めています。給食列車も到着しクリスタちゃん達の食事は直ぐに用意できます」


 報告したのは前線視察に来たユーエルだった。そして状況を確認すると補給状況改善のために陣頭指揮すると言ってそのままアデーレの元に居座っている。


「わーい、じゃあ姉御の料理が食えんだ」


「ごめんなさい。お姉様は指揮に忙しくて料理をしている時間がないの。代わりにお菓子をたっぷり用意したわ」


「わーい」


 喜んで後方に行くクリスタを見送った後その場に残ったユーエルにアデーレは声を掛けた。


「しかし主計局長のお前が前線にいて良いのか」


「私の仕事は済ませていますし、前線でも電信や電話があるので仕事は出来ます。優秀な部下がいるので任せて大丈夫です。混乱した前線の補給を改善することの方が大事です」


「そういういうものか?」


 電話と電信のお陰でどんなに離れていても一瞬で連絡で来る。その気になれば前線から帝都の軍務省に直接会話が出来る。だから前線で執務が出来ると言っていても不思議ではなかった。大筋を示し大幅な権限移譲が行われているが仕事を押し付けられたブラウナーにとっては不幸でしかないが。


「それよりお姉様お茶が入りましたわ。一服しましょう」


「いや、あたしは後方のスコット元帥に敵と接触したことを報告しないといけないんだが」


「そんな雑事は直ぐに私がかたづけますわ」


 そう言って討伐軍総司令官のスコット元帥の司令部にユーエルは電話をかけた。スコット元帥の参謀長トラクスに必要十分で私情を挟ませない完璧な報告を行った後、即座に電話を切る。ついでに足りなくなりそうな物資の追加発注を帝都の部下と調達先の企業に要請。そして分配一切をブラウナーに押し付けユーエルはお姉様とのお茶を楽しんだ。

 敵の攻勢はテオドーラが陣地によった防御で防いでおり二人のお茶を邪魔をする者はいなかった。




「近衛軍の陣地を突破出来ません。敵は強固な陣地を作っていたようです」


「この短時間でか」


 報告を受けて反乱軍総司令官のハレック元帥の表情が苦々しいものとなった。

 現状は最悪に近い。

 全帝国軍と少数の反乱軍で何とか互角に戦っている。戦力差は一対十と言ったところか。

 それでも戦えるのは帝国軍が全土の治安確保の為、兵力を分散させているのと、ハレックの鉄道を使った機動戦によるものだ。

 現在ポメラニアは東西南北いずれの方向からも攻撃を受けている。

 圧倒的な兵力を持つ帝国軍は外線戦略で四方八方より進軍し反乱軍を包囲しようとする。

 対する反乱軍はウィストゥラ川の畔にあるポメラニアの首都ワルスポリスを中心に内線戦略を採用。各方面へは最低限の防御部隊のみとし全軍の大半を機動打撃部隊に編成し鉄道を使って各方面へ移動させ各個撃破を狙っていた。

 端的に言えばかつてのルテティア大戦を再現している。

 実際、二度目という事もありハレックの指示は的確で決定的敗北はなく、全体を俯瞰すれば善戦していた。


「善戦しているようですなハレック元帥」


「ガイウス宰相」


 反乱軍の首領となったガイウスがハレックに声を掛ける。


「勝利を与えてくれるのは嬉しいぞ。諸侯への説得に使える」


 善戦する反乱軍という事実は様子見の諸侯を寝返らせるのに役に立つ。特に帝国の主要都市を制圧され緒戦から劣勢だった状況においては有効だ。


「ですが、状況が不利であることは変わりありません」 


 しかし、ルテティア大戦と違ってハレック達には援軍が無い。帝国軍は帝国本土の主要都市を掌握し鉄道網を手に入れ全土から兵力を集める事が出来る。

 一方、反乱軍はポメラニアに抑え込まれガイウス派の諸侯の私兵と反乱軍に賛同した帝国軍を編入しているだけだ。

 戦力差が大きく各方面に最低限の守備隊だけを置いて残りは全て鉄道移動に特化した機動打撃部隊に集中させる。鉄道が提供する機動力によって機動打撃部隊を適宜各戦線に送り局地的優位を作り出しての各個撃破を目論んでいた。


「それに主力軍を各戦線に投入しても勝ちきれません」


 機動打撃部隊を投入しても反乱軍は各戦線で決定的勝利を収めていない。

 帝国軍は機動打撃部隊がやって来て兵力差が縮まり劣勢になると直ぐに後退して防御を固めてしまう。そうしている間に他の戦線で帝国軍が侵攻してきてしまい、完全撃破する前に機動打撃部隊を転戦させる羽目になっている。

 結局、敵に一寸した損害を与えて小さな勝利を収めた後、機動打撃部隊は転戦。すると帝国軍が再侵攻してきて突破されてしまい機動打撃部隊が戻ってくるまで後退を続ける。

 全体的にジリジリと戦線後退を余儀なくされ劣勢になりつつあるというのがハレックの実感であり事実だった。


「何より帝国軍の攻撃が激しく各戦線へ緊急投入が頻発し軍団を分けることが多くなっております」


 敵である帝国軍の連携も見事な所がある。嫌なときに同時に襲いかかってくるために兵力を分割して緊急投入しなければならない。

 例えば北方戦線へ投入しようと第八軍団が急行中に東方戦線が攻勢を受けて危機的状態となったので移動中の一部部隊を転用させる。何とか小康状態を保っていると今度は西方戦線が危機に陥ったので移動中の部隊の目的地を変更させて転用する。その度に部隊が分割されるので集中運用が出来ない。

 修学旅行で団体行動をしているはずが、混雑に巻き込まれて班毎にバラバラになってしまったようなものだ。

 お陰で最強と目される第八軍団が各戦線に現れて帝国軍が所在を掴めず慎重になっている利点があったが、指揮官のハレック元帥でさえ第八軍団の所在を見失う事が頻発しており褒められたものではない。

 兵力の補充も足りない。

 貴族領で兵を募集しているがそれでも足りず、各貴族領の奴隷を戦後解放すると約束して無理矢理活用している状況だ。

 そして冬だ。日々厳しくなる寒さで兵士達の行動が鈍っている。

 寒さで帝国軍も動きが鈍り鉄道線から離れて行動できずにいるがこちらも同じ。迂回など出来ない。千日手の状況となっており軍事的に勝てる見込みがなかった。


「何よりワルスポリスの前に敵の大軍が集結しつつあります。まもなくウィストゥラ川が凍結して横断可能になるでしょう。その場合、各戦線への補給と兵力の転用が不可能となります」


 現在司令部を置いているワルスポリスの目の前に大軍が集結している。今年の冬は厳しくウィストゥラ川は凍結して歩行可能になる。

 川を歩いて渡ってこられたら占領される。ワルスポリスは反乱軍の拠点であり各戦線への兵力輸送、物資供給の要だ。物資をここで集中管理し分配することで、反乱軍は何とか冬季でも維持できている。

 ここを制圧されたら敗北するしか無い。


「しかし、小娘共も手出しできまい」


 川は障害だが今は凍結して渡河する事が出来る。だがウィストゥラ川の川幅一キロ近くと広く氷原となった川の上を歩くのは無防備すぎる。

 それに凍結と言っても雪が積もり歩きにくい。騎兵であっても雪の上を迅速に動けない。

 渡河に苦労している所を防御陣地に籠もった砲兵が砲撃し、掩体壕のガトリングが火を吹いて渡河中に鎮圧軍を撃破してくれる。

 巨人装甲兵の攻撃に対しては新型の速射砲で撃ち抜けば良い。最悪の場合は川の氷を爆破して川に沈めてしまえば良い。


「最低でも現状を維持して欲しい。このまま打つ手無しとなれば小娘も我々を認めざるをえまい」


 最早帝国内にガイウス達の居場所はない。ならばポメラニアを中心に独立し帝国と距離をおいて状況の変化を待つのが良い。

 それ故、最低でも現状維持とポメラニアの独立を帝国に認めさせようとガイウスは工作を続けていた。

 そのためには反乱軍が帝国軍に勝ち続ける、ポメラニアを保持して存在し続ける必要があった。

 だがそれは帝国軍も理解していた。

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