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鉄道英雄伝説 ―鉄オタの異世界鉄道発展記―  作者: 葉山宗次郎
第三部第五章 帝都騒乱

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鉄道軍のブラウナー

 ユリア達が宮殿に戻った後、元老院は逃走したガイウス派に対して出頭勧告を出したが当然ガイウス派議員は処罰を恐れて出頭に応じずそれぞれの領地に帰っていった。

 昭弥停職に伴う貴族の権力争いにより鉄道が混乱してていたためと貴族達が各地で鉄道を強奪、勝手に運転して領地に逃げていったためだ。

 そのため昭弥は元老院に彼らを処罰する法案を提出する事となった。

 残った元老院議員は皇帝派であり、提出された彼らへの国賊認定、追討令は即日可決し、残った閣僚で構成される内閣も追認しガイウス派は国賊となり追討が開始された。

 だが、その前から既にラザフォードは動いていた。

 病気から復帰したベリサリウスを軍務大臣に任命。軍部を掌握すると帝国内の各都市への派遣を行った。

 初期こそ国鉄の混乱によりガイウス派議員の捕捉に失敗して逃走を許したが、ルテティア軍を中心にユリアへ忠誠を誓う部隊を中心に鉄道を使って主要都市へ送り込み、これを制圧。

 大半の都市を手中に収めた。半月ほどで帝国の八割方を抑える事に成功しガイウス派を抑えつつあった。

 その中心となったのは鉄道軍司令部で指揮を執ったブラウナーだった。




「し、しんどい」


 国鉄本社内にある司令室、通称オペラハウスに入ったブラウナーは掲示板を見つつ、手元の書類を処理していた。

 ガイウス派にハレック元帥は組みしていたためラザフォードの告発で逃走。帝国軍の戦略機動の要である鉄道軍が機能不全に陥った。

 そのため国鉄に出向してダイヤ編成に詳しくなってしまったブラウナーが戻り軍事輸送の責任者となった。そして鉄道軍司令部となったオペラハウスで各地の部隊に命令を出している。


「各地の部隊を転戦させるのが本当にしんどい」


 ただでさえ乱れているダイヤを修正しつつ部隊輸送を行わなくてはならない。

 しかも今回は元老院の重鎮がこぞって造反したため彼らの影響下にある帝国軍部隊が各所に居る。

 敵か味方かを判断して敵を封じつつ、味方の部隊を移動させなければならない。それも敵の勢力下を避けつつだ。そして作戦を計画する統帥本部より下された作戦に従って、必要な場所へ兵力を送り確保、反乱軍への討伐を行えるようにダイヤを作成する必要がある。


「オマケに物資輸送も考えないといけないんて」


 軍を司る者が絶対にやるべき事は兵士達に物資を供給する事である。兵士は人間であり戦う前に生きなければならず、彼らに衣食住その他を与えなければならない。

 それが出来なければ戦う前に瓦解してしまう。

 その重要な作業をブラウナーが担っていた。


「物資も不足気味だし」


 帝国全体では十分な物資があるはずだ。だが、何処にどれだけの物資があるか、誰から買えば良いのかが分からない。

 通常なら簡単にできるはずだが、元老院の騒動で混乱しており、何処に何があり何処に運べば良いのか、そこから考えなければならない。

 そのためブラウナーの処理能力はパンクしかけていた。


「せめて物資の確保さえ出来れば良いんだけど、輸送手段も限られているし、何処に運べば良いかも分からないなんて……」


 頭を抱えていると電話が鳴った。


「こちらブラウナー」


『昭弥だ』


「あ、総督。どうしました? こちらはパンク寸前ですよ」


 どれが味方で敵か分からない状況では自分の手持ちの列車どころか車両数さえブラウナーは把握できない。何か無茶をやれと言われても無理だ。

 だが、昭弥の電話は逆だった。


『各支社に命じて予備の機関車と貨車を出すように命じた。あと、各列車を統合したり運転中止にするなどしてダイヤの空きを確保している。蒸気機関車のために石炭輸送は必要だがかなりの輸送量が確保出来たはずだ。詳しい報告書は今作成して出来上がったものから順次送っている』


「あ、ありがとうございます」


 列車とダイヤの空きが出来ればパンク寸前の輸送量を改善できる。

 しかも昭弥の場合、国鉄各支社の保有台数及び稼働率を把握している。どれだけの機関車が何処にいて何台使えるか大体予想できる。国鉄は昭弥の子飼いだから確実に従ってくれる。

 混乱していると言っても元いた機関車が消えた訳では無い。何処に何両有るか把握しているだけでも指示が出しやすい。そのため混乱した支社も昭弥の指示で正常に戻っていった。

 そこから列車を編成してブラウナー自身の元で運用出来るのは福音だ。


『あと安定した地域を教えてくれ。支社へダイヤ管理権を移す。軍用列車は可能な限り通すように命令しておくから。少しは鉄道軍が処理する仕事が減って負担が軽くなると思うが』


「宜しくお願いします」


 電話を切ったブラウナーは喜んだ。心強い援護射撃のお陰で輸送力は何とかなりそうだ。同時に自分の仕事も少なくなる。安定した地域は国鉄に任せればよい。多少乱れていたとしても装甲列車を有する鉄道公安隊がいるので大丈夫だ。


「あと必要なのは部隊と送るための物資だな」


「ブラウナー少将。軍務大臣と主計局長から連絡が入っています」


「見せてくれ」


 ベリサリウス元帥からの知らせは敵味方の判別が出来た部隊のリストだった。味方となる部隊へ優先して送ることが出来る。

 反乱軍に参加したり旗色を明確にしていない部隊があるが、彼らに物資を送らずに済ませれば良い。


「あとは物資が確保出来れば」


 それに関しては主計局長ユーエル大将からだった。元ルテティア王国軍でブラウナーの上官だった女性だ。商家出身で経済関係に詳しいので軍の経理や調達を担当する元締めである主計局の局長を務めている。


<帝国内の各商家、企業に連絡して物資を確保した。十分に活用して欲しい> 


 その一文で始まるリストには各企業から調達可能な物資と現在位置、調達予想価格が書かれていた。


「ヨッシャ! これで物資を送れる」


 物資を確保し輸送手段が出来て送り先も分かっている。これで動ける。

 だが、最後の一文でブラウナーは固まった。


<追伸。私は前線視察のため帝都を離れるので物資の分配宜しく。権限は添付した命令書にあるので思う存分に使ってね>


「……あの尼。面倒な事を俺に押し付けやがった」


 物資で一番面倒なのは確保した物資をどのように分配するかだ。どの部隊にも過不足無く、必要な時に必要な量を送るのは難しい。そして足りない場合には優先順位を決めて低い部隊への供給をストップしなければならない。

 そうした作業は非常に面倒くさい。それをユーエルはブラウナーに押し付けた。


「そんなにお姉様の元に行きたいか!」


 ユーエルの士官学校時代の先輩である近衛軍団長アデーレにユーエルはゾッコンだ。

 一緒にいようと前線視察にかこつけて近衛軍団と行動を共にするに違いない。


「戦争なのにそんなにお姉様と百合百合したいか! 乙女は年上眼帯が好きか! 仕事しろや帝国軍人!」


 ブラウナーは叫ぶがどうしようもない。ユーエルの言っていることは一応理が通っているし、やるべき調達は済ませている。

 実態は褒められた物ではないが。

 現場に必要な物が下りてきたのだから後は現場、ブラウナーの作業であり任務を遂行しなければなかった。


「ええい! こうなったらやってやるよ!」


 ヤケクソぎみに怒鳴ったブラウナーだったが仕事は的確で帝国軍に物資が行き渡り始めていた。

 電信と鉄道により部隊は迅速に展開し帝国主要都市はユリア達の支配下に置かれて行く。

 ガイウス達は追い詰められ北の領地、ポメラニアに追い詰められていた。

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