逃走
ごめんなさい。
作者の確認ミスで、投稿していませんでした。
「状況はどうなっている!」
監獄内にいた刑吏の警備責任者が怒鳴り散らす。
諸侯の兵が入り乱れているため当初より混乱ぎみだった。しかも彼らが勝手にユリアを連れ出す事も考えられるため囚人以外も監視しなくてはならなかった。
そこへ侵入、襲撃と爆発が加わり大混乱状態だ。
「ユリア様が連れ出されたのは確実なようです」
「くっ」
最も警戒厳重な塔から逃げ出されて顔をしかめる。脱走は責任重大であり、良くてその月の給与半減、下手をすれば免職だ。
「火を消せ! 獄内を封鎖して逃すな!」
「ホームからの通信がありません!」
話を聞いて責任者は直ぐに理解し、ホームに向かった。
「何が起こった!」
ホーム内に入ると警備担当の刑吏や諸侯の兵が倒れてロープで縛られていた。
「ストロガノフという男爵の兵が列車に乗ってやって来たのですが、許可証が無いので入れる訳にはいかないと言っていたら爆発が起き、その隙を突かれて制圧されてしまいました」
縛られていた担当者は怯えつつ報告した。
「クソッ」
ここから侵入されたことは間違いない。
「仕方ない。この機関車を使って追いかけるぞ」
連中が乗ってきたであろう列車に乗り込んで追いかける事にした。
諸侯の兵士が集結する前は、ホームに入ってくる列車確認の一環として運転士に動かし方を聞いていた。だから多少は動かせる。責任者は運転席に座ると鍵を運転位置に回したが反応は無くメーターは動かず電球も点灯しない。
「どういうことだ」
よく見てみるとパンタグラフが上がっているのに電圧が上がっていない。
「送電が止まっているのか」
直ぐにホームの事務所から運転司令室に繋がる電話をとる。
「おい! 監獄に通じる路線の通電が無いぞ!」
『監獄からの出火を確認しました。安全の為に送電を止めています』
駅のみならず周辺の家屋が火災を起こした場合、列車への延焼を防ぐ為該当区間への乗り入れは禁止される。さらに架線が熱で切断した場合を想定し通電を中止する。
運転指令の処置は適切な対応だった。
「ホーム内は安全だ。直ぐに通電を」
『係員からの安全確認報告がありません。工員によって架線の安全が確認されない限り通電できません』
正規の訓練を受けた工員でなければ架線の安全を確認できない。運転指令には規則通りの事しか出来なかった。
「クソッ」
責任者は電話を叩き付けると新たに電話した。
「騎兵隊を出して追撃しろ! あと宰相に繋いでくれ。ユリア様に逃げられたと。しかし、連中はどうやって出て行ったんだ」
昭弥達が運転している車両群は無動力の客車ではなく、それぞれガソリンエンジンを搭載しているので自力走行可能。電源が無くても走れる。
ちなみに先頭の車両は昭弥が運転している。
「後ろから騎兵隊が来ています」
「思ったよりも速かったな」
運転している昭弥が呟いた。
もう少し混乱してくれると思ったが、敵も練度が高いらしい。
「さて逃げるとしようか」
そう言って昭弥達は次のポイントを通過した。切り替え場所は既に制圧して切り替え済み、と言う事にして職員が協力してくれている。後日追求されても刃物で脅迫されて何も出来なかったと証言するだけだ。
昭弥達の車両は本線を離れて下の軌道線――路面電車の線路に入る。
帝都内は網の目のように軌道線が張り巡らされている。そして国鉄の本線と軌道線の軌間は同じ。自由に動ける。
「馬鹿め! レールの上から逃げられるか!」
追撃隊の隊長は、軌道線に下りた逃亡者を見て勝利を確信した。
帝都全域に移動できるがレールの上だけ。騎馬はレールの無いところも走れるから先回りできる。
追撃隊の隊長は部隊を二つに分け、一方を先回りさせて挟み撃ちにすることにした。
だが騎兵隊が二手に別れた後、逃走する車両群がいきなり一八〇度反転して、道路上を疾走しこちらに横一列で走ってきた。
「なっ!」
いきなりの反転に隊長は咄嗟に避けるしかなかった。
「お、追え!」
隊長は一瞬唖然とするが、直ぐに追撃命令を出す。
「どうして鉄道が道路の上を走れるんだ」
追撃隊の隊長が不条理だとばかりに叫ぶ。
「驚いているみたいですね」
助手席に座って窓から後ろを見ていたセバスチャンが報告する。
「そんなに珍しい車両じゃないんだけどね軌陸車は」
「いや、いきなり道路を走ったら驚きますよ」
軌陸車とは保線用に作られた車両というより線路上を走れる自動車で、通常は道路を走りレールの上を誘導輪――小さな車輪で走る事が出来る。
自走可能な上、道路上も移動できるので作戦に使用した。今回は保線区へ配備予定だったのものを一寸お借りしている。鉄道軍でも使用されているのでブラウナー達にもなじみがあった。
今回の作戦では人員輸送用という建前で列車に繋いで監獄に持ち込む。
救出に成功した後、監獄で爆発が起きれば送電が停止されるので、電気車両は動けなくなる。そのまま軌陸車で軌道線に下りた後、誘導輪を引き上げて自動車のように使用すれば帝都内を自由自在に動き逃走出来る。
なので昭弥がハンドルを握って運転している。そして予め考えていた逃走ルートの裏路地に入って行く。他の車両は追撃分散と囮を兼ねてバラバラに逃げる。
追撃部隊はどれを追いかければ良いのか分からず混乱する筈だった。
「追撃隊が私たちに向かって来ます」
「何で俺たちなんだ」
自分だけに何故か追撃が集中して昭弥は焦った。追撃隊の隊長は車両の動きを見て勘でどれが重要な車両か見抜いて追撃してきた。
本来なら他の車両が牽制したり囮になって追撃が分散するはずなのに纏まってこられるとは。
計画通り一騎や二騎の追撃なら拳銃で何とか出来るが十数騎は多すぎる。
「何か武器になるものは」
昭弥は武器を探すが護身用の拳銃だけだ。他にも持っておけば良かった、と後悔するがもう遅い。
「私が追い払いましょうか」
「結構です」
ユリアの提案を即座に却下した。帝都内で力を解放したら廃墟になりかねない。
「ダッシュボードに何か無いか?」
と昭弥が言うとセバスチャンが手を入れて引き出す。
「フィルムが入っていました」
「何でだよ」
突っ込むが題名を見て黙り込んだ。
<尻尾でシッポリ>
「……」
題名だけでどんな内容か理解出来た。
「セバスチャン! 投げるから撃ち抜け!」
「はい」
昭弥は言うと同時にフィルムを騎馬に向かって放り投げる。それを車から身を乗り出したセバスチャンは騎馬の直前で撃ち抜く。
爆発物であるフィルムが派手に爆発して騎馬をなぎ払う。
「まだ来ています!」
「こいつもだ」
<俺のペットは虎娘>が放り投げられ、同じようにセバスチャンに撃ち抜かれて爆発する。
「もう一丁」
<じゃれる猫>が飛びまたも爆発する。その後、数本のフィルムを投げて全騎を撃退できた。
「しかし、どうしてここにあんなフィルムがあったんだ」
昭弥が呟くと箱乗りしているフィーネ達がすすり泣きながら呟く。
「折角撮ったのに」
「撮影代高かったのに」
「昭弥に見て貰おうと思ったのに」
「お前達か!」
題名が題名だけに獣人が出てくると思っていたが、まさか彼女たちとは思えなかった。
というか撮影代を自分たちで出して撮っていたのか。ああいうフィルムや作品が市場に出ると回収するのは不可能になる。それ以前に自分の黒歴史となって悶絶することになる。
映画が出来て間もないため、そうした危険性を理解していないようだ。一つ教えておかなくては。
「ねえ昭弥。どうしてこんなフィルムが置いてあったの?」
後ろに座っていたユリアが昭弥の耳を指で摘まみつつ尋ねてきた。
「只今」
帝都の一角にティベリウスが用意してくれた隠れ家、ガレージ付の建物に軌陸車が入ると耳が紅くなった昭弥がホウホウの体で下りてきた。幸い耳は千切れていない。
「お帰り、首尾はどうだった?」
「成功」
迎えに出てきたティベリウスとエリザベスに今回の結果を見せた。
「エリザベス!」
「ユリア!」
昭弥が運転してきた軌陸車から下りたユリアはエリザベスに抱きつく。余程嬉しかったのか自らより大きいエリザベスを抱え上げてしまった。
エリザベスも自分の幼馴染み、義妹予定者が帰ってきたことを喜び特に文句は言わず寧ろ穏やかに尋ねる。
「大丈夫? 酷い事されていない?」
「平気よ」
大丈夫なことをアピールして答える。
「それでこれからどうするの?」
自分を助けてくれたことは嬉しいが、元老院決議および内閣決定に反する事を行っており、ユリア達はリグニア帝国の反逆者だ。
市民の支持も元老院に向かってしまうだろう。
「大丈夫、考えがあるから。それより、これは車のように動かせるのよね」
エリザベスはユリアを安心させ地面に下りた後、昭弥に尋ねた。
「ああ、軌道上も道路上も動かせるように作ってある」
昭弥達が使ったのは軌陸車、車輪の付いた自動車だ。当然、道路も走行できる。
「ならこれから向かう所があるわ」
「大丈夫なのか?」
昭弥は心配してユリアを抱き寄せながら尋ねた。
「ええ、任せて。リグニアから追い出されるような事は無いわ」
そう言ってエリザベスは先頭に立って軌陸車に乗り込み、目的地を告げた。
「まだ見つからないのか!」
ガイウスは苛立たしげに叫ぶが朗報が来ることは無かった。
「軌道上を探せば見つかるはずだろう!」
「しかし、忽然と消えてしまって」
「言い訳になるか。こうなれば帝都中を探して見つけ出せ」
元老院の議決と内閣決定はすでに下っており連中の運命は既に決まっている。
だが逃げ延びてゲリラ戦を繰り広げられたり、やルテティアへ逃走しての独立、第三勢力へ亡命して内部工作などを行われると帝国の脅威となり、今後の帝国運営に差し障りが出てくる。
だから捕まえたい。
「連中は今どこにいる」
苛立たしく呟いていると有線放送のスピーカーからユリアの声が流れて来た。




