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トンネル調査

 全員で総裁室の片付けを終えた後、昭弥達はすぐさま大迷宮に向かった。

 執務をしようにも焼け焦げては使えず改装が終了するまで立ち入り出来ない。

 他の部屋で執務をするのも良いが、一々引っ越しするのが面倒なので事務処理をオーレリーに任せて昭弥自ら調査に訪れた。


「本社から離れて良かったんですか?」


「重要幹線の調査は必要だ」


 同行するブラウナーのツッコミを笑ってやり過ごし、昭弥は大迷宮のトンネルを管轄する保線区に入り、レホスに尋ねた。


「そのスライムが出たのは何処だい?」


「トンネルの上あたりだ」


「換気孔のエリアか」


 蒸気機関車は大量の煤煙を出す。そのためトンネルに入ると煙の逃げ場が無くなり充満して乗客や機関士が煙に巻かれる事になる。

 この大迷宮トンネルは一日に四〇〇本以上の列車が通るため、換気は重要になると考え、迷宮の一部の通路を換気孔に改造したり新設していた。

 煤煙は煙突から上っていくため、換気孔もトンネルの上方に作られていた。


「この辺りの調査は?」


「頻繁に列車が通るんだぞ。こんな煙たい場所に行きたい奴なんていないよ」


「たしかに」


 石炭の煙が絶えず充満する部屋に入りたい人間などいないだろう。


「保線区の方は?」


「換気装置の点検以外は行っておりません」


 区長が申し訳なさそうに言った。線路のあるトンネルならともかく、換気孔は強制排気用のファンが備えられている場所以外を点検することはない。

 排水溝を毎日調べないのと同じで、換気が出来ていれば問題無いと判断していた。


「兎に角、調べて見るか」


 そう言うと昭弥は、保線区が使う軽便ガソリンカーに乗り込んで点検孔へ進んでいった。

 点検補修、移動用に作られた点検孔は本線を走る列車を妨害しないように万が一の避難路として別のトンネルに作られている。と言っても迷宮の通路を改修しただけで、あちこち迷宮時代の石造りのままだ。ちなみに新たに作られたトンネルは、コンクリートで覆われている。

 点検孔には通信や電源のために各所にケーブルが張られている。だが断線、停電した場合などの非常時を考えてガソリンカーを使用している。

 電灯に照らされた軽便軌道の上を、ガソリンカーがエンジンの轟音を響かせながら男女十数人を載せてトンネルを走ってゆく。




「この上だな」


 昭弥は自ら運転して目的地にガソリンカーを止めて、点検用の階段を指した。


「国鉄総裁が自ら運転するのか」


「毎日では無いけど時折運転しているよ」


「へー、あの大きな社屋でふんぞり返っているだけかと思った」


 昭弥の言葉にレホスは感心したが、鉄道好きで視察と称して乗り回している姿を見ているブラウナーは眉をひそめた。


「さて、皆準備しようか」


 それぞれガソリンカーから降りて装備を確認する。

 昭弥は拳銃と万が一に備えてダイナマイト数本。爆発物は危険じゃ無いかと思われるが、爆風は柔らかい方向、空間へ抜ける性質があり、よほど至近距離で大量に爆発しない限り構造物などの堅い物を破壊する事は出来ない。橋やトンネルを爆破したければ、構造物に穴を穿ち、ダイナマイトを詰め込まないと非効率だ。

 一本や二本程度爆発させたところで大きな問題は無い。

 レホスは相変わらず二本の剣にマント。

 ピニョンはレイピア。

 ブラウナーは最新式の一〇発装填可能なボルトアクション小銃だ。

 他に獣人秘書達、フィーネやティナたちは小刀を持っている。

 そして、全員にヘッドランプを持たせている。腰のバッテリーからケーブルを伸ばしてバンドで額に固定したランプから灯りを取る。

 ケーブルが少し邪魔だが、バッテリーの重量で頭が重くなるよりマシだ。LEDや高性能バッテリーなどない、この世界ではヘッドランプは非常に重い。

 可能な限り軽量化されているだけマシだ。

 松明なども持って行くが、予備かモンスターに投げつけるためのものだ。戦闘時などに両手が塞がっていると危険なのでメインはヘッドライトだ。


「準備出来たね。行くよ」


 そう言うと昭弥は共通鍵を回して点検用のハッチを開けた。

 開けると、煤の匂いが漏れ出てきて昭弥は顔をしかめた。


「結構酷いな」


「総裁、先に行かないで下さい」


 ヴァルトラウトがそう言って、昭弥を後ろに下がらせようとする。


「万が一何か有ったらどうするんですか」


 そう言って自分の方に抱き寄せて通路から遠ざけた。


「一寸! 抜け駆けしないでよ!」


 それを見たティナが文句を言って昭弥を奪おうとした。


「総裁の警護は鉄道公安の仕事です」


 だが、ヴァルトラウトも放さない。


「近くに居るのは秘書。公安は施設の安全管理が優先でしょう。先に行って調べてきなさいよ」


「二人ともケンカしない」


 ヒートアップする争いをフィーネがたしなめた。


「重要なのは、黒いスライムの正体を暴くことでしょう」


「う……」


「そうだけど」


「なら、二人とも先に行って調べてきなさい。私たちは周辺を調査してから追うから」


『待て!』


 フィーネの言葉に二人が待ったを掛けた。


「自分だけ側に残るつもりでしょう」 


「そうやって抜け駆けする気でしょう」


 二人は追求するがフィーネは軽くいなした。


「貴方たちは足が速くて鼻が利くから捜索に優れている。私は分析力に優れている。決断するのは総裁だから、貴方たちの集めてきた情報を分析して伝えるには私が側に居た方が良いわ」


「納得出来るか!」


「……とりあえず俺たちが先に行って調べてくるな」


 昭弥達の痴話げんかを見て呆れたレホスがそう言い残して自分のパーティーを連れて換気孔へ入っていった。


「頼みます」


 同じく呆れたブラウナーが申し訳なさそうに頼んだ。


「良いですよ、今回は調査費用も貰っていますから」


 二人は未だに痴話げんかをしている連中を残して足早に換気孔へ滑り込み、調査を始めた。

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