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迷宮からの来客

 マリーが暗殺計画を放棄したとき、昭弥は広軌鉄道の計画を実行に移していた。

 既にいくつかの区間では建設が始まり、いずれ帝国全土を結ぶ計画だ。

 だが、意外なところから計画は中断を余儀なくされる。




「建設工事は進んでいるね」


 広軌鉄道の建設状況を記した報告書に目を通しながら昭弥は呟くと、オーレリーは喜々として説明を始めた。


「はい、資材も優先的に貰っているので無事に進んでいます。実験線での走行試験も開始され、あとは大迷宮に通すだけです」


「あそこは本当にデカいからね」


 アルプス山脈を貫通する大迷宮。それを使ったアルカディア―チェニスの連絡線は国鉄の大幹線だ。

 ここを増強することが喫緊の課題だ。


「だが、ここだけで済ませるのはだめだ」


 現在、広軌鉄道の建設計画はそれだけでは無い。帝国全土を結ぶ計画が始動しており、各地で建設準備、あるいは一部建設が始まっている。

 完成すれば今まで以上に帝国は発達するだろう。


「けど仕事量が増えすぎよ」


 フサフサのシッポを揺らしながらフィーネがやって来た。


「決裁は滞らせていないよ」


 多数の計画を同時並行で行っているが、それぞれに権限移譲を行うなどして昭弥の仕事を軽減している。

 勿論、計画を立案すること、権限を与えること、資源の配分、計画の進捗状況の確認など昭弥の仕事は多いが、自分で全てやるよりマシだ。

 それらは報告書で確認して監査の人間を適宜派遣することで照合している。前は自ら直接視察していたが、最近はオーレリーやブラウナー、そしてフィーネをはじめとする秘書達などに任せることが多くなっている。

 勿論報告書には目を通しているし必要な決裁はしている。


「会見とかしていないでしょう。貴族とか商人とか領主から会見の依頼が絶えないのよ」


「どうせ、言うことは同じだろう」


 ウチの町、領地に鉄道を。

 国鉄の場合、建設は国費で行われるため地元の負担は殆ど無い。

 地元負担の場合、反対運動が大きくなるのと受け入れさせたとしても貧しすぎて雀の涙ほどの予算しか取れないからだ。

 だから、大量の国債発行で国鉄予算を拡充させた。金鉱の発見もあり豊かになっており建設などは上手く行っている。

 潤沢な予算と一〇〇パーセント建設費支出、懐を痛めずに鉄道を建設してしかも豊かになる事から各地より鉄道建設を懇願する願書が出ていた。


「そういうのは却下しているだろう」


 現在は国鉄整備法により主要都市を結ぶ線路の建設、買収が行われており他の地域への整備は行っていない。

 しかし実際のルート選びの際、何処に通すかで自分の町や領地に引っ張ってこれる可能性が有る。さらに本来の計画をサポートするための支線や先ほどのゴールドラッシュのように帝国に価値のある場所が見つかった場合、新たに建設できるように定めてある。

 それを使わせようと謁見を求める連中が多い。


「他にも建設反対派が多いのよ」


「一々聞いていたら日が暮れるよ」


「けどその中に一寸変わった人がいたのよ。総裁の友達だから会わせろと」


「そんな連中多いだろ」


「でも、出してきたのは……」


「ただいまー、書類届けてきたよ」


 フィーネが言いかけたが、窓から入って来たティナの暢気な声が遮った。


「……窓から出入りするなと言っているだろう」


 虎人族のティナは身体能力が人間の数倍ある。そのため二階や三階の窓に飛び込むことなど朝飯前だ。

 だが、迷惑きわまりないので止めるように伝えている


「こっちの方が早いよ」


 しかし、ティナは一向に改めようとしなかった。


「そのうち、そこに鉄格子を嵌めるから」


「えーなんで?」


「そう簡単に入られたら賊が侵入してくる可能性があるからね。人間ならまず不可能かもしれないけど獣人とかも入ってくるのは問題だよ」


「えー私たちもダメなの。悪い人はいないよ人間だけだよ」


「人間でも侵入されると問題なんだよ」


 昭弥が叫んだときフードを被った複数の人影が窓から多数侵入してきた。


「くせ者! 窓から入るなんて礼儀知らずね」


 そう言ってティナは自分の事を棚に上げて電撃を放つ。

 だが、レジストの魔法を付与しているのか全く効かない。


「なっ!」


「離れて!」


 フィーネが叫んで前に出て魔力を高めマジックアローを放つ。

 勿論、相手には効かないが牽制にはなった。そして目くらましにも。


「セバスチャン!」


 フィーネの言葉で影に隠れていたセバスチャンが飛び出し、昭弥を廊下に連れ出す。ちなみオーレリーはマリーが抱きかかえて早々に離脱している。

 入れ替わって公安本部長のヴァルトラウトをはじめとする公安官と他の獣人秘書達が入って来て激しい戦闘になる。

 しかし、剣戟の音が響くだけで賊を制圧できずにいた。

 相手は狭い場所での戦闘に慣れているようだ。


「え?」


 その時、昭弥は気がついた。似たような音、リズムで斬り結ぶ、狭い場所での戦闘になれた知り合いを


「全員止まれ! レホス! ピニョン!」


 昭弥が扉から叫ぶと、部屋に居た全員が止まった。


「手荒い歓迎だな」


「誰だっけ」


「レホスだよ!」


 ど忘れして尋ねてきたティナにレホスは叫んだ。


「窓から入る失礼な人は知りません」


「全くだ。鏡に向かって言っておいてくれ。それ以前に友人が訪ねてきても門前払いする方がどうかしていると思うんだけど」


 拗ねた顔で黒髪の二刀使いの男は文句を言った。


「で? 何が起きたんだい? 迷宮で何かあったのか?」


「ああ」


 彼の名はレホス。アルカディア―チェニスを結ぶ連絡線が通過する大迷宮で冒険者をやって暮らしている。

 大アルプス山脈があり、帝国は東方への進撃が出来ずセント・ベルナルドを使うしか無かった。

 だが、昭弥が大迷宮を鉄道トンネルにする事を思いつき、短期間の内に建設。現在は複々線が通る大幹線となっている。

 現在計画中の広軌鉄道も通すことを計画しており、国鉄にとって重要な場所だった。


「何か問題でも?」


「変なスライムが増えているんだ」


「変なスライム?」


「ああ、鉄道が通ってからモンスターの数が少なくなっておかしいなと思っていたら黒いスライムが現れ始めたんだ。最初は倒せたんだがドンドン数が増えて不気味だ。列車の数が増えるに従ってドンドン増えていきやがる。中には装備を溶かされたとか、攻撃したら自爆したなんて言っている奴もいる」


「え?」


 この世界に居る魔物は様々な能力を持っている。中には、酸を出す魔物もいるがスライムが装備を溶かすなど聞いたことが無い。まして自爆など想像の外だ。


「まあ、そういう奴は出会っていないんでガセの可能性もあるが、黒い奴が出てきていて俺たちの元にもきている。鉄道のせいじゃないのか?」


「迷宮に元から居たんじゃ無いのか?」


「いや、あんなの見たこと無いぞ。それに鉄道線路周辺は、建設の時からいつも見回っているが、あんなモンスター、スライムは見ていない」


「だとしたら鉄道開通以降に出てきた訳か」


 昭弥は、腕組みして考えた。


「解った。直ぐに調査に向かおう」


 チェニスへの路線は大幹線であり、モンスターによって不通になるのは避けなければならない。路線への被害が出る前に向かうべきだと昭弥は判断した。


「来てくれるのか」


「ああ。ただし、この部屋を片付けてからな」


 散乱し、所々焦げたり、灰になった書類、家具類を見ながら伝えた。

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