コンテナの弱点
「コンテナ導入後、効率が上がっています」
執務室でブラウナーが経営状況を報告した。
ブラウナーの予想とは違ってコンテナによる改善は目覚ましく列車の荷役時間が短縮され定時出発率が高まっている。
省力化も進み、荷役に必要な人員が大幅に削減され、他の部署への配置転換が進んでいる。人員に余裕が生まれ事業拡大が進んでいた。
これにはブラウナーもコンテナの優秀さを認めざるを得なかった。
「コンテナを使ったシステムに切り替えているからね」
コンテナ駅建設やコンテナ専用貨車の運用、フォークリフト、コンテナ積載トレーラーの導入など大規模に進められた。利便性が高まったことによりコンテナの使用範囲は増えている。ただ、新たに出来た製品の生産体制はまだ稼働したばかりで生産数は低い。だが、いずれ生産が軌道に乗れば、帝国全土に広がる。
だが昭弥が進めたコンテナ導入は、ただ単にコンテナを使用することだけではない。コンテナを使って最大限に効率が良くなるようなシステムを作り上げていた。
大規模な工場から製品を送り出すとき、倉庫の代わりにコンテナに入れておき出荷の要請が来た時、各地の出荷場へコンテナごとそのまま送り出す。
各地の出荷場はコンテナを受け取り、需要に応じてコンテナから出して行く。
積み込み、積み出しの時間が大幅に短縮され、効率が高まり利益が出ている。
何より倉庫が最小限に抑えられるので倉庫建設費、経費が少なく済んでいる。
これらは主に国鉄系のグループ企業で行われており、これら企業の経営改善にも寄与していた。
「それに各地にコンテナ貨物駅を作って効率を高めているからね。効率よく積み込めるように考えている。」
例えばコンテナ専用駅と仕分け設備の建設だ。
幾つかコンテナを置いておけるスペースを作り目的地別にコンテナを用意しておく。
荷物が到着する度にその品物を管轄支社の仕分け駅へのコンテナに入れる。
コンテナは定期的にやってくるコンテナ列車に載せられて運ばれて行く。
そして運び込まれたコンテナは大規模コンテナ駅の仕分け設備で支社内の各コンテナ駅行きに改めて仕分けされコンテナに載せられて運び出される。
「仕分け駅が余計では? ドアツードアが出来ていませんが」
ドアツードアとは、コンテナ輸送の基本概念で、出発地から目的地までコンテナを開かずに済ませると言う事だ。
コンテナは載せ替えの手間が最小限に済むように考えている。昭弥のいた世界でも可能な限りコンテナを開けずに済ませるように考えていた。
しかし現状、小口のみとはいえ複数回仕分けの手間があるのは不便だ。
「まあ工場間の輸送とかには便利なんだけどね」
例えばある部品工場で作られた半製品を各地の組み立て工場に出荷する時は出来た製品をコンテナに積み込んでいって、そのコンテナを列車で運んで行けば良い。
また各地の配達場やコンテナ駅に運んで行くことは簡単だ。
「けど、小口には向かないんだよ。いきなりコンテナを家の前に置かれても邪魔だろう」
「……確かに」
自分の家の前にコンテナが置かれた場面を想像してブラウナーはウンザリした。
玄関を塞がれるようにコンテナが置かれたら迷惑だ。あんだけデカい、一部屋ぐらいある鉄の箱が置いていかれ、入っているのは小箱一つだけ。
なによりコンテナをどう処分すれば良いのだ。
「コンテナは半製品とかを大量輸送することに優れているんだよ。小口だと寧ろコンテナ自体を運ぶエネルギーの方が大きくなるから、かえって非効率なんだ」
「それでも小口も運んでいますね」
「最終的に届ける宛は消費者だからね。一人一人相手に届ける必要があるから。そのために少しでも効率よくしようと途中で混載輸送にしたんだよ」
混載輸送とは、違う種類、違う目的地へ行く荷物を一緒に載せるやり方である。
例えば途中まで同じ方向の荷物を一緒に入れて配達所まで運び込んで、そこからは配達員が届ける方法だ。
目的地別にコンテナへ積み込む作業があり、コンテナ本来の機能から離れている。
「でも便利なんだよね。列車への積み込み時間が短縮できるから」
短所をあえて受け入れて混載輸送を行わせているのは、貨物列車への積み込みが簡単だからだ。
荷物を受け取ったらとりあえずコンテナに入れておき保管。
貨物列車が来たら、すぐさまコンテナを載せてコンテナ駅へ。
コンテナ駅で仕分けを行い、方向別にコンテナに収容し再びコンテナ列車へ積み込み出発。
各地区のコンテナ駅で再び仕分けして目的駅別に積み込み、列車に乗せる。
列車は目的の駅に着くとコンテナを下ろして、代わりに荷物の入ったコンテナを載せて出発する。
これまでの貨車と変わらないが、列車への積み卸し時間が大幅に短縮される。
有蓋車の場合、多くの人の手が必要で一駅あたり二、三〇分掛かった。貨車ごと置いて行く方法もあるが、入れ替えが面倒だったし線路を占有する。
だがコンテナなら設備があれば数分で載せ替えが可能だ。
そしてコンテナなら列車が出て言った後でゆっくりと中の荷物を出すして、代わりに発送する荷物を入れる事が出来る。
何より積み卸し中の列車が線路を占有せず作業を行える。
これは鉄道の稼働率を引き上げることを意味する。
故に昭弥はコンテナの導入を決めた。
「大規模コンテナ駅に仕分け用の施設が必要になるけどね。ただ、集中して仕分けが出来るようにしておけば、効率的に輸送できるよ」
そのため昭弥は各支社毎に仕分け用の大型貨物駅を二、三箇所作っている。
お陰で管轄下の駅や他の管轄への仕分けを行い効率よく発送していた。
「結構面倒ですね」
「けど必要だろう」
現在帝国でまともに物流を担えるのは鉄道以外にない。船もあるが沿岸部や河川、運河しか動けないので利用が制限される。
帝国の全領土を素早く移動できるのは鉄道以外に無かった。
「しかし、過剰投資では」
「そうだと思うけど、他に手段が無いのも事実だからね」
現状は鉄道のみが有効な輸送手段であり物流の根幹を成している。舟運もあるが、スピードでは鉄道に敵わない。
「それでもやり過ぎでは?」
「そう思うかも知れないけど、今後の事を考えるとね」
日本で貨物輸送の現実を知る昭弥としてはこれぐらいの設備を準備している。
貨物輸送が日本で壊滅したのは、コンテナを積極的に導入しなかったからだと昭弥は思っている。
特に国鉄独自規格で通していたのが不味かったと思う。国際規格の船舶用コンテナが運べれば、貨物輸送に活躍出来たことか。内陸部でも海外へ迅速に貨物を運べるし、逆も簡単にできる。
最大の原因が国労のクズ共のストライキでトラック輸送に持っていかれた、という事はあってもコンテナ輸送が出来なかったのは痛いと思う。
何より民営化で第二種事業者のJR貨物となり独自にダイヤを組むことが難しい。経営合理化の名の下に貨物駅を廃止しまくっているため、コンテナに荷物を積み替えることが出来ない。などの悪条件により今後日本はよほど大きなコンテナ駅か工場直通の貨物列車以外は無くなってしまうだろう。
世界的には鉄道こそ貨物輸送の主役なのに鉄道大国である日本が壊滅状態なのは無様だ。
そのような未来をこの世界で再来させてはならないと昭弥は考えていた。
だから、コンテナの最大のネックとなるコンテナへの積み卸し仕分けを効率的に行える施設を作り社会システムの一つにしようとしていた。
鉄オタとして貨物輸送の重要さを知った後、調べまくり、コンテナ輸送に必要な施設としてコンテナへの積み卸し仕分けの施設を増やす必要があると結論づけた。その時の研究成果を生かして各所にコンテナの荷物を仕分けする施設を建設させていた。
「こんだけ準備を進めれば鉄道貨物が壊滅する事はないだろう」
とりあえず自分の業績が今後社会の中で生きて行くことに、日本では望めない事業を達成できた幸福感に包まれ昭弥は椅子に深く座った。
「しかし、欠点のあるシステムを使うのはどうかと思いますけど」
頭に過ぎった懸念をブラウナーは伝えたが昭弥は、何ら表情を変えず答えた。
「欠点の無いシステムなんて無いよ。状況によって長所か短所が出てくるだけだ。どういう状況で効力を発揮できるか把握しておいて、その都度対処すれば良い」
「確かにそうですね」
昭弥の言葉にブラウナーは納得した。
各兵科にも長所短所があり、歩兵は砲兵に弱いが、砲兵は騎兵に弱い、だが騎兵は歩兵に弱い。状況に応じて、相手の戦力に応じて部隊を出すのは当然だ。
コンテナで不便な状況は別の手を使えば良い。ただそれだけの事だ。
コンテナが使える場所まで状況を持って行けば良い。
そのための方法も、この総裁は考えていた。あとは、細かい運用を考えれば良い。
「というわけで改善点をマニュアルにして配布しておいて」
「はい」
また仕事を押し付けられたが、嫌な気持ちにブラウナーはならなかった。
帝国を更に生かす、いや躍動させる仕事を行う事に喜びを感じていた。




