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全国運用の利点

「穀物輸送作戦は七割方終了しました。軍の輸送も終了。暫くは警戒と監視の為に部隊駐留がありますが、補給物資の追送以外はありません。ダイヤは平常に戻ります」


「それは良かった」


 閣議から帰ってきた昭弥は再び頷いた。


「軍に頭を下げて鉄道軍の車両を借りる事を覚悟していたんだけどね」


 昭弥があの時統括指令所を離れたのは、軍が保有している車両を借り受けるために軍務省に向かったからだ。

 だが、それはブラウナーが危惧したとおり軍に貸しを作ることになり、国鉄の無能を示してしまう。

 下手をすれば、この事をネタに国鉄が軍の支配下に置かれる可能性もあった。特に鉄道軍のハレック元帥は国鉄を支配下に置こうとしているので油断ならない。

 それでも穀物輸送が帝国には重要と昭弥は考えて軍の車両を借りる事にした。


「軍に頭を下げる寸前にエフタル侵攻の報告が来て良かったよ。軍務省で聞いて直ぐに皇宮へ向かい緊急閣議に参加。軍の緊急輸送に関する全ての権限を貰って軍の車両、列車の運行権を貰った。お陰で軍の車両も穀物輸送に使えたよ」


頭を下げる直前、エフタル侵攻の報が入り軍の方から部隊輸送の要請がやってきた。昭弥はこれ幸いと輸送要請の承諾と引き替えに軍保有車両の一時指揮権移譲を求めた。

 はじめはごねたが、輸送費用の軽減を条件に引き受けさせて必要以上の譲歩を行わずに済ませることが出来た。


「そのためにエフタルの侵攻を促したんですか?」


「まさか、偶然だよ。そんな事をしたらユリアに殺される」


 流石にエフタル侵攻を工作するような事は昭弥には出来ない。

 やったら反逆罪か外患誘致罪で死罪になる可能性が高い。


「まあ、エフタルとか災害とかあったが何とかなったな」


「大量の貨車を用意できたことが大きな戦力となりました。帝国全土の車両を使えたのが大きいです」


 ブラウナーは今回の輸送作戦をそう評価した。

 軍の車両が使えたのも良かったが、国鉄内でも全国に散らばる貨車を指揮命令し動かすことが出来たのが良かった。

 貨車の余っている地域から不足している地域へ移動させることが出来た。

 全国をカバーしている国鉄だからこそ出来る技だ。


「やはり一元化しておいて良かった」


 帝国の東西南北それぞれに鉄道会社が出来たとしよう。

 それぞれ一〇〇両の貨車を持っていて通常時に平均必要車両が一〇〇両とする。

 通常なら問題はないが、それぞれの会社である季節だけ五〇両需要が増える。東の会社が春に増え、西の会社は夏に需要が増えるとする。

 この場合、需要を満たすために、それぞれの会社で予備に五〇両の貨車を余計に持つ必要がある。

 その場合四社各一五〇両、合計六〇〇両が必要になる。

 だが一社、国鉄に纏まっていたとしたらどうだろう。

 四社の地域は国鉄の一地区となる。

 平均的な需要は四〇〇両、地域的な季節の変動はそれぞれ五〇両なので、配転するための五〇両だけを用意すれば良い。自由に移動できるし時間的なズレがあるから被ることもない。

 つまり国鉄一社のみだと四五〇両だけで運営出来る。

 分割するより一五〇両も少なく済み、それだけ購入費、整備費、維持費が掛からない。

 勿論、単純化して書いてあるが大枠を書くと以上のようになる。

 車両を全国に回して有効活用出来るのが国鉄の強みだ。

 各地の運転士や車掌、検修員も他の地区へ応援に回せるように制度もマニュアルも用意している。ブラウナーに全国共通のマニュアルを作らせたのも、標準車両の制度を整備して全国に配備したのも、他の地区へ派遣されても直ぐに行動できるようにするためだ。

 その成果は今回、余すこと無く発揮できた。

 地域分割された鉄道会社など恒常的な需要に対応できても季節的な変動に対応できない。

 協定などを作り上げて各社が車両を融通する方法もあるが、手続きや金銭のやりとりが複雑になり上手く行かない。

 全土をカバーできる国鉄にした昭弥の目論見は上手く行った。


「しかし、アルカディアとチェニスを結ぶ路線が貧弱ですね」


「うん、そこは僕も一番の問題だと思っている」


 だがアルカディア―チェニス間の路線は複々線化を行っていたがそれでも足りない。

 東と西の連絡路として今後も需要が増える事が予想されているが、鉄道では限界がある。

 スエズ運河がなくなって鉄道輸送のみで荷物を輸送するようなものであり、とても運びきれない。鉄道は船の輸送力に敵わない。


「それに関しては手は打ってあるよ。この後見せてあげるよ」


「今、この部屋から出る事は出来ませんからね」


 焦点の合わない目でブラウナーは呟いた。

 ブラウナーだけでなく会議室のメンバー、オーレリーやサラも呆れたような顔で昭弥を見ていた。

 疲れではなく、非難するような視線だ。


「どうしてこの会議室を可動式にしたんですか?」


 総裁会議室はボタン一つで上下に移動して地下にある統括指令所に移ることが出来る。

 今回の作戦中、統括指令所に移動する時この装置を使って昭弥達は移動した。


「移動に便利だろう。会議室に座ってるだけで下に移ることが出来るんだから。緊急時に参集した後、事態が深刻になっても資料とかと一緒に降りる事が出来るし」


「階段を使えば良いだけでしょう」


「……僕の趣味だ」


 ブラウナーの追求を受けて昭弥はようやく認めた。


「まあ、下に降りるときは良いですけど。上がるときに機械が故障しては無意味ではないですか」


 輸送作戦が順調に進んで行き、通常ダイヤへの移行へ目処が立ったことから統括指令所より離れる事にした。

 そこで来たときと同じように会議室の部分を上昇させようとしたのだが、指令所の天井部分を過ぎたあたりで故障して停止してしまった。

 そのため、国鉄上層部の殆どが会議室に閉じ込められてしまった。


「電話は通じますし、輸送作戦は一段落して各地の支社の運転指令所や統括指令所で大丈夫ですけど、何かあったらどうするんです」


「いま、セバスチャンが救助隊を編制して来てくれているよ」


 今、昭弥の執事で情報収集担当のセバスチャンが、救助隊を編制して上から吊り上げる準備を進めている。


「次からは装置を使わず階段で移動する事にしましょう」


「……そうしよう」


 ブラウナーの言葉に昭弥は素直に同意した。

 可動式の物は故障が多い。

 耐えられる軸重を増す為に軸を太くしたり、荷重――載せる荷物を減らしたり可動部分を軽くしてゆく。

 会議室は机やら電話やら人が乗るので重すぎたのだ。

 一同はこの後、救助隊に救出され通常業務に戻った。

 なお、会議室の故障は直ったが、上昇させたまま固定され二度と動くことはなかった。

 統括指令所の会議室スペースには改めて会議室が作られ以降、国鉄上層部は階段を使って統括指令所にやって来る事となる。

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