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鉄道英雄伝説 ―鉄オタの異世界鉄道発展記―  作者: 葉山宗次郎
第三部 第二章 帝国再建
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ゴールドラッシュ

「どうしてこうなった……」


 金鉱を発見して一月後、マイヤーの領地は荒れ果てていた。

 マイヤーは大々的に工夫を集めて採掘しようと考え、各地に人員を募集した。

 そうしたら帝国のみならず、その外からも人々が金を掘り当てようと殺到してきた。

 大半が正規の工夫では無く自ら掘り当てようと無断採掘を始めた。

 何しろ川底の砂を掬って揺らすだけで採れるほど大量に埋蔵されている。

 砂金鍋一つで金を得ることが出来るため、簡単に盗掘できる。

 それどころか工夫達も金を奪って逃走することが多かった。

 マイヤーも監視を増やしたが、盗掘者の数が多すぎる。しかも数は日を追う毎に倍々ゲームで増えて行く。

 しかも戦争での放出品なのかダイナマイトを使った発破採掘まで勝手に行われている。鉱脈から手っ取り早く採掘しようという考え方だが、出鱈目に発破しているため各所で崖崩れなどが多発し地形はメチャクチャになっていた。

 武装制圧しようとしてもダイナマイトや武器で応戦しており、激しい戦闘が日に何度か起きていた。

 それどころか、盗掘者達が金や日用品を取引する市場のようなものまで出来た上、一部は砦のように防御を固めて応戦まで行っている。

 それらの取り締まりでマイヤーも配下達も疲れ切っており採掘どころではなかった。




「申し訳ございません」


 緊急対策会議が招集され、その席上でマイヤーは謝罪の言葉を述べた。

 一月前、啖呵を切っておきながらこの醜態では立つ瀬も無かった。


「この上は領地を返上し謹慎致します」


「殊勝な心がけです。ですが領地が無ければ役目に支障を来すでしょう。領地替えで済ませます」


「ありがとうございます!」


 寛大な処罰にマイヤーは感動し潤んだ目でユリアに感謝の言葉を述べる。


「では、この問題をどのように解決しましょうか」


 とユリアが言うと閣僚の間から様々な意見が述べられた。

 金の採掘を行う事では一致していたが、その方法は様々で軍隊で完全封鎖した上で採掘を行おうと言う強硬案まで出ていた。


「鉄道大臣はどう思いますか?」


 様々な意見が出てきた後、ユリアは昭弥に尋ねた。


「大規模な坑道施設や発破が必要となる区画を除き、解放しましょう」


「どういう事です?」


「発破や坑道作業が必要な場所は我々が採掘し、川底の砂金などは一般に開放しましょう」


「それでは帝国の収入にならないではないか!」


 内務大臣のアポロドロスが反対の意見を表明した。

 勝手に持って行けというのは帝国の富を手放すのに等しい。


「その代わり、帝国銀行の支店を設けて帝国リラで金の買い取りを行います。幾ら金でもそのまま通貨としては利用は困難です。採掘者でも現金化を行いたいと思っているハズです。そのための施設を作り国が管理すれば問題の多くは解決するでしょう」


「だが、それでも勝手に持ち出されるのでは」


「それは仕方ありません。何しろ掬えば金が採れるような状況です。かといって盗掘を止めようとしても金の取れる流域が広すぎて監視できません。ならば採掘を自由に認めてその金を通貨と交換した方が良いです。ですが環境や地形への影響の大きい地域や坑道などが必要な場所のみを帝国が採掘します。それだけでも十分な利益になります。それに採掘者からの金の収入も多くなります」


「無法者を認めるというのか」


 警察業務も担当する内務省としては見過ごすことが出来ずアポロドロスは反対した。

 だが昭弥も冷静に切り返す。


「現状では取り締まりは不可能です。ならば逆に利用するしかありません。勿論全てを許す訳ではありませんが、少なくとも費用対効果は良いはずです」


「だが」


「もう良いです」


 なおも意見を言おうとするアポロドロスをユリアは黙らせた。


「鉄道大臣の意見を採用します。更に今回の件の対応を一任します」


「え」


 いきなり言われて昭弥は戸惑った。

 国鉄創設のために日夜奔走しており、そのような余裕は無い。


「通貨不足でデフレになりつつあるので、準備金調達の為にもお願いします」


 そう言って大蔵大臣兼帝国銀行総裁のシャイロックが頼み込んできた。

 近年の準備金不足でデフレになりつつある。管理通貨制にしたくても、信用がないので無理だ。

 結局金本位で何とかするしかないが、金が無ければ話しにならない。

 だから、金をどうしても獲得したい。

 それなら昭弥が最適だった。


「……分かりましたよ。けど、帝国銀行支店の設営とかお願いしますよ」


「それは承りました」




 翌日、マイヤーの領地が鉄道省管轄地へ変更されると同時に昭弥は、鉄道公安隊や軍部隊を動員して金鉱地域へ乗り込んだ。

 抵抗する無法者達を制圧し秩序を回復。

 安全を確保した上で川沿いを伝って鉱山地帯へ鉄道を延伸すると共に沿線に駅と町を建設。鉄道系の商店、飲食店や安宿を展開して採掘者を客として受け入れた。

 鉱山周辺にも町を建設し労働者を住まわせはじめた。




「統治は無事に進んでいます」


 軍部隊と公安隊の指揮を行っていたブラウナーが視察に訪れた昭弥に報告する。

 軍時代にゲリラ討伐などを行い、その手腕を昭弥に評価されていた。

 そして占領後の統治にも手腕を発揮しており、町は平穏を保っていた。


「ありがとう。だいぶ賑やかになっているようだね」


 町は整っているとは言えなかったが、あちこちで建物の建設が進んでおり、活気に満ちていた。


「ええ、最初こそ警戒したり反抗して武装攻撃もありましたが、装甲列車も投入して完全に制圧。換金開始後は自分たちにも利益があるとわかり大人しくなっています」


 剣や銃どころか戦後のどさくさで流出した大砲さえ装備した採掘者相手の戦闘は激戦となった。だが、最終的に練度も数も勝る帝国軍によって制圧され反抗は無くなった。

 更に換金が始まると直ぐに現金化したい、遠くへ運ぶ手間が無くなると歓迎され昭弥の政策は受け入れられた。

 一部、地下へ坑道を掘っていた者達は、投入した労力の結晶を守るべく抵抗したが、軍部隊によって制圧された。

 町には帝国銀行の支店が開設され、採掘者達は換金を開始。手に入れた現金を元手に街に繰り出し、酒、女、博打などを楽しんでいた。

 自然発生的に出来た市場や町は、金の換金率が悪いため早々に廃墟となった。


「しかし、本当に儲けているようですね」


 自然発生的に出来た町も、新たに出来た町も価格設定が高い。

 通常の二、三倍は普通だ。


「それでも需要を満たせませんが」


「やはり予想より流入量が多いか」


「ええ」


 昭弥が計画したときよりも更に採掘者の流入量が増えていた。そのためあらゆる物が足りなかった。

 例えば宿屋など、正規の部屋が足りず相部屋は普通。バーカウンターの上、テーブルの上や下、果ては床まで寝床を指定した上、料金をふんだくるのだ。

 勿論、文句を言う者もいるが外で野宿より屋根の下で眠る方が安心であるため、高くても、劣悪な環境でも宿で眠りたいという者が多かった。

 こんなのは一例で似たような事は他にもあった。


「そのため市街地は計画地域より更に拡大しています」


「不味いなスプロール化が始まっている」


「スプロール?」


「計画した時より都市が拡大していく事だよ」


「喜ばしいのでは?」


「無計画に拡大して行くんだ。後々問題になる」


 スプロールとは虫食いの意味で、都市が無秩序に発展して行く事を指す。都市が発展する際に郊外に向かって広がるが、その時無秩序に、都市計画に関係なく農地があちらこちらで宅地化するなどして虫食い状態で開発される様を指す。

 スプロール化すると土地の権利が複雑化したり、道路の接続が悪いなどの悪影響が出てくる。

 利用者の増大、乗り入れ線の増加により増築に増築を重ねた渋谷駅や梅田駅、名古屋駅のようにダンジョン化してしまう、と言えば分かって貰えるだろうか。

 拡張したは良いが、古くなって改装しようにも利用者が多すぎて工事が出来ず放置される。あるいは長い年月と莫大な予算を投入する羽目になる。

 それは昭弥としても避けたかった。


「まあ精々稼いで貰う事にしよう。彼らの相手は税務署に任せよう」


「? どういう事ですか?」


「無許可で建築物を建てると、べらぼうに罰金や税金が掛かるようにしたんだ」


「どうして?」


「スプロール化を避けるためと財源確保、通貨の回収の為だ」


 金を現金化したら採掘者は通貨を手に入れる。それらを手にした彼らは飲み食いに使う時、税金としてその現金の一部を国に返すことになる。


「全額回収できる訳では無いけど、金の換金に使う金額が増える」


「……待って下さい。ここら辺の店舗は殆ど鉄道系、政府の資本が入っている店舗だけですよね。つまり、利益は全て国が手に入れる事になりますよね。他の店舗を認めないのは、政府の外に現金が出て行かないようにしているんですか?」


「建物があると商売の規模が大きくなるからね。しかも建物なら簡単に差し押さえしたりすることが出来る。行商人くらいだと規模が小さいから流出する金額も少ないので見逃しているけど」


 その行商人も商品を手に入れるには、この町か、外の町で手に入れる必要があるが、外の町までは料金が掛かる。鉄道を利用しても運賃が掛かる。

 そのことを考えて、昭弥は建物に馬鹿高い税金を掛けていた。

 税金を安くするには家賃の高い鉄道系不動産の建物を借りるしか無い。勝手に建物を建てると馬鹿高い税金が掛かり、最悪差し押さえ、破却となる。

 その悪辣さにブラウナーは、青ざめた。


「それと建物だけど足りない分を纏めておいてくれ。建設の準備も頼む。何資材は十分にある」


「何処から持ってくるんですか?」


「アルカディアの港に放棄された船が多数ある。その船をバラして木材にする」


「どうして放棄される船が多いんですか?」


「ゴールドラッシュで金を掘り当てようとする水夫が多くて乗組員が足りない船が多くなっている。出港出来ずにそのまま残されているんだ。何時までも停泊されても迷惑なんで出港出来ない船には罰金と支払えない場合は没収することにした。その船を競売に掛けて売れなかった船は解体して木材にしているんだ」


「良くこんなこと思いつきますね」


「まあ、例が無い訳では無いから」


 カリフォルニアゴールドラッシュの時、似たような事が起こっていた。大陸横断鉄道が建設される切っ掛けとなった為、色々詳しい。

 そのため何が起こるか想定できており、自分で開発することも検討していた。だがマイヤーに拒絶された後、失敗することを予想して準備を進めていた。


「まあ、準備金は用意できそうだな」

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