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鉄道英雄伝説 ―鉄オタの異世界鉄道発展記―  作者: 葉山宗次郎
第三部 第二章 帝国再建
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遷都の意味

 帝国全土を結ぶ基本計画が出来上がると昭弥は猛然と仕事を始めた。

 だが、同時に帝都の建設も行わなければならず、並行して進めていた。


「しかし、新帝都の建設ですか大丈夫なんですか?」


「何が?」


「新庁舎の建設とかですよ。上手く行くんですか?」


「博覧会で使ったパビリオンをそのまま使う。パビリオンの周りには広場も作ってあるから新しい建物を作ることが出来る。建設労働者用の住宅も作っているから問題は無い」


「しかし予算とかはどうするんですか?」


「各企業に社屋を建てるために土地を買って貰う。それで建設費を賄わせて貰うんだ」


 実際に満州国の新京や、ナチスドイツのベルリン改造計画で行われた手法だ。

 予め土地を格安で購入して交通の便を整えてから諸経費と利益を入れて高めに売りつける。

 鉄道会社で良くやられる手法だ。


「いますかね」


「皇帝とのパイプを作りたがる人達が多いだろうからね。必ず売れるよ」


「しかし、企業がやって来てくれますかね」


「どういう事だ?」


「いや、メリットが無いと来てくれないのでは? 何しろ儲かる土地でないと。新帝都というのは大きいですけど。全力を注いでくれるとは思えません」


 それを聞いた昭弥はニヤリと笑った。


「良い質問だな。実はアルカディアは今後重要な帝国の経済の拠点となる」


「どういう事です」


「帝国の領土が東方へ大きく広がっている。そのことを考えると旧帝都リグニアでは遠すぎる。だから東方に近く玄関口になっているアルカディアへ移動させるんだ」


「ですが、鉄道のお陰で移動は簡単になっていますし電信や電話も伸びており通信は簡単に通じるのでは?」


「それは事実だね。けど、実際に見るのと又聞きでは意味が無い。まあ、報告を確実にするように方策は考えてあるけど、せめて最大の流通路だけは監視下に置いておきたい」


「最大の流通網ですか?」


「ああ、アルカディアとチェニスの間だ。チェニスは東方への玄関口でアルカディアは帝国本土への入り口だ。双方との取引が大きくなることが予想されている。ここを抑えておくことが必要だ」


「しかし、それでも遷都なんてやり過ぎでは?」


「いや、そうでもないよ。と言うより遷都しないと都市交通が建設できない。線路は中心街を通せないし道路も狭すぎる」


 東京の山手線は今でこそ環状線として機能し東京の中心となる路線だが、最初は違った。

 最初に出来たのは新橋と品川、その後群馬方面から絹製品を輸出のために横浜へ運ぶために池袋、新宿、渋谷と路線が出来た。つまりCの字型に作られており、最終的に上野、秋葉原、東京駅の部分が出来たのは最後、大正時代、関東大震災が起こったあたりになってからだ。

 何故ならその地域は当時の中心地銀座に近く、下町だったため人口も多く鉄道建設が難しかったからだ。

 一方、今でこそ池袋、新宿、渋谷は副都心と呼ばれるほど発展しているが、当時は東京の端っこ、田畑の広がる農業地帯だった。原宿など原野、荒れ地だった。ちなみに現在でも当時の農業の名残で農協がある特別区も多い。

 そのため建設が容易であり距離が長くなるにも関わらず建設された。

 結果として環状線運転が出来る様になったのだが、既存の大都市に鉄道を建設する難しさがおわかりになるだろう。


「郊外に作ることも考えたけど、乗り換えの利便性を考えると中心部に環状線を作る方が良いんだよね。直ぐに乗れるし」


 実際、海外の都市、ロンドン、パリ、モスクワなどの鉄道は地下鉄を除き、長距離列車の出発駅は中心から離れた郊外に作られている。

 これは中心街へ鉄道を敷くのが難しいことを示している。さらに環状線も無く接続が難しく、他の駅へ向かうのに馬車やバス、タクシーを使っていた。


「鉄道が便利に乗れるように考えているんだよ。環状線を直径五キロにしたのも何処からでも歩いて一時間以内にどこかの駅にたどり着けるように計算している」


「路面電車もあるのでは?」


「結んでいるけどね。けど都市内交通機関だからね。帝国の首都だから帝都の外からやって来る人達が簡単に目的地へ行けるように密な鉄道網が必要なんだ」


「だから環状線を二重にしたんですか」


「そ」


 現在環状線は二つある。直径五キロの中央環状線と直径一〇キロの内環状線だ。この二つは南端の中央駅で接するように作られている。

 更に中央環状線から放射状に八方へ路線が延びており各地を結んでいる。


「これだけあれば簡単だろう」


「それだけ建設したのに、更に外側に環状線が必要なんですか?」


 実は二つの環状線の他にも外環状線と呼ばれる環状線が新帝都の外側を走っている。


「これは必要だ。これは貨物線なんだ」

「貨物なら余計に中心部を通さないといけないのでは?」

「都市部の主要列車は旅客の方が多い。勿論貨物もあるけど、都市に必要な量は比較的少量だ。そして貨物の大半は中継ぎ、帝国本土と東方の間でやりとりされる貨物が多い。中心部を通すと路線がパンクする」

 山手貨物線という路線があるが、かつては貨物便が多く走っていた。だが、新宿駅での航空燃料輸送列車火災事故や貨物輸送の減少、旅客列車の需要増のため、現在は湘南新宿ラインと埼京線が主に走っている。


「そこで中心部を通らないバイパス線を作ったんだ」


 町の中心部を迂回して郊外を通って他の路線と接続する路線。距離は長くなるが、別の線が出来ることで多くの旅客列車を通すことが出来る。

 東京におけるかつての山手線、武蔵野線と同じだった。

 当時世界最新鋭の武蔵野操車場が建設されたのも武蔵野線が貨物の主要路線だったためだ。


「郊外の方が広大な操車場が作れるしね」


 何より膨大な長大編成の列車を留置するためのスペースを確保出来るのは郊外なので、都合が良かった。


「貨物の取り扱いは港に繋がるバイパス線周辺の操車場で仕分けなどを行う。帝国の物流の半分とは行かなくても何分の一かがここで取り扱われることになる。それを抑えておくのはこれからの帝国に必要な事ではないか?」


 昭弥がブラウナーの目を見ながら尋ねた。

 確かに、膨大な物流を管理、掌握できるのは大きい。

 物流においては海運がコスト面で良い。それは鉄道と比較してさえそうだ。

 玉川大臣の尽力で性能が向上した鉄道であっても海運には敵わない。

 そして帝国の海運の大半を担うのはリグニア海とも呼ばれるレパント海とルテティアが面するインディゴ海だ。そしてこの二つは大アルプス山脈によって隔てられており、船で越えることは、まず不可能だ。

 だが、ここは鉄道が通っている。

 インディゴ海とレパント海を結ぶ鉄道線の片方のターミナル。

 それがアルカディアだ。

 今後、インディゴ海とレパント海を結ぶ連絡線はより多くの輸送量を誇ることになるだろう。

 その時、アルカディアを抑えている存在が帝国を支配することになる。

 最早、レパント海で完結できる帝国ではなく、東方からの物流も制御する必要が出てくる。

 レパント海を抑えられる中央部という地の利で帝国を築き上げたリグニアという地が自らの東方拡大、そして流通革命という自らが起こした事態によって引きずり下ろされようとしていた。


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