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鉄道英雄伝説 ―鉄オタの異世界鉄道発展記―  作者: 葉山宗次郎
第三部 第二章 帝国再建
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調整会議

「軍務省としては鉄道省の意見に反対である」


「内務省としては鉄道省の意見に反対である」


「大蔵省としては鉄道省の意見に反対である」


「司法省としては鉄道省の意見に反対である」


「農務省としては鉄道省の意見に反対である」


「商務省としては鉄道省の意見に反対である」


「……」


 鉄道省へ出向して一時間もしないうちにブラウナーは出向してきたことを後悔し始めた。

 窮地の玉川総督、もとい大臣と挨拶を交わした後、辞令、そして大量の会議資料を持たされ帝城へ向かった。

 会議が開かれるので一緒に来てくれと言われて付いていった。

 鉄道省の役割と権限に関する他省庁との調整会議ということだが、開始直ぐにこの有様だ。

 と言うより、敵が多すぎる。

 何より鉄道収用論者のハレック元帥が強固に鉄道を軍の管理下に入れるよう主張するので肩身が狭い。

 他の省庁に関しても要約すると、自分たちの既得権益を侵すな、寧ろ自分たちに寄越せ。

 内政全般を司る内務省は、街道整備を管轄しており、鉄道は街道の一種なのだからウチが管轄するべきだ。

 大蔵省は、鉄道省の規模がでかすぎて金がかかるから規模縮小か経費を削減しろ。

 司法省は、鉄道施設内の事件や犯罪を鉄道省が扱うことが、自分たちの権力を奪うことに繋がると反対。

 農務省は、農作物の輸送は自分たちの管轄だと主張。

 商務省は、商取引関連の事案が鉄道には多いので自分たちが受け持つと言う。

 新分野とはいえ、新たな省庁が出来るとそれまでの権限を奪われる事が多い。新設部隊が出来たときでさえ銃や備品の割り当てで血で血を洗うような争奪戦になる。更に巨大な省庁では押して知るべし。

 そしてブラウナーの新上司である玉川大臣は


「認められません。鉄道省の提出した案の通りにして貰います」


 交渉術も何も知らない。

 唯々自分の考えた最良プランを出していっただけだ。

 完璧主義者で良心があり、必要以上の事はしない。

 真っ直ぐ正論を吐き、偽ることを知らない尊敬すべき人。

 だから小悪党にさえ道を遮られる。

 計画書をよく見たが細かい数字まで良く出していた。

 必要な分、キチンと利益と人件費の分も含めて出している。

 だが、これでは相手への譲歩の分が無く拒否されるだけだ。相手に譲る分くらいは、盛っておくべきだった。


 ブラウナーはそう考えて溜息を吐いた。


「まあまあ、静かに」


 混乱する前に宮内大臣のラザフォードが口を挟んだ。帝国宰相のガイウスがいるが現皇帝が信頼する人物でありポッと出てきた東方の辺境民の大臣より、他の閣僚は重視していた。


「確かにこれまでの帝国に類を見ないほど大きな組織です。しかも関係各所が多いため、多くの省庁に関わってくる。その整合がとれずにおります」


 ラザフォードの的確な言葉に全閣僚が黙った。


「ですが、帝国鉄道省の設立は既に勅命が出ており設立しない訳にはいきません。これは決定事項です」


 勅命

 皇帝直々の命令に閣僚達は黙り込んだ。


「そう深刻にならずに。妥協案としてこのような事はいかがでしょう」


 内務省は鉄道を別の交通機関として認め街道には含めない。ただし路線周辺の道路整備は鉄道省と協議の上行う。代わりに自動車関連の権限を内務省に渡す。

 軍務省は戒厳令下の区域、軍用地を除き鉄道に関する権限を放棄する。代わりに輸送に関する協議を行う機関を設け軍隊輸送を行う。その際は適正な料金を支払う。

 大蔵省は鉄道事業に関わる費用を出す。代わりに監査権といずれ出来る公社の株式の売却を担当する。

 司法省は鉄道内の司法権を認める。正し裁判権は司法省内に専門機関を置いて対処する。

 農務省は輸送の為の施設を作るまでとし、輸送は鉄道省に一任すること。

 商務省は商取引の監察に止めること。


 ラザフォードの提案は問題無かった。寧ろ必要な仕事を行っていると言って良かった。


「何か異議はありませんか?」


 尋ねるが誰も反対はしなかった。


「では、以上を正式なものとして決定します」




「やれやれ、何とか決まった」


 会議の後、自動車に乗り込んだ昭弥は白目をむきながら魂を吐き出すように溜息を吐いた。


「お、お疲れ様です」


 同乗したブラウナーが労いの言葉をかけた。

 あんた座っているだけで何にもしていないだろう、と突っ込みたかったが自分の提案が通るか否かが決まる会議だったので致し方ないと思った。


「ここ数日、何が必要か決める為に必死だったからね。流石に疲れた」


 軍務省と内務省、商務省は何かしら横合いからちょっかいを出してくるだろうから、退けるための協定が必要だった。

 予算は今後の拡張と各地の私鉄と領邦鉄道の買収があるのでこれだけの巨額の費用になる。

 司法権は、各地を横断する鉄道では車内で起きた犯罪が通過場所によって管轄が違うと問題だ。何しろリグニアという国は結構物騒だ。窃盗や器物損壊は日常茶飯事だし時には列車強盗も押し寄せてくる。

 旧国鉄のように鉄道公安官の他にも車掌や駅長にも司法警察権を与えないと鉄道施設内の治安が保てない。

 農務省もちょっかいを出してくるだろうが、農作物輸送は大事な収入源なので仲良くしないとダメだ。

 これらの調整が必要だった。


「何とか一段落して本当に良かったよ」


「殆どラザフォード大臣に任せていましたけど」


「人を頼るのも仕事をする上で必要なスキルだよ。一応、自分ですべき事はやったよ」


 そう言って昭弥は閣議に出した計画書をブラウナーに渡して見せた。


「へーっ」


 渡されたブラウナーはざっと見ながら、計画書が細部にまで良く目を向けていると感心した。

 参謀長として従軍し指揮官が命令を下しやすいように配属部隊のみならず周辺部隊と上級司令部の情報を集めて纏めて渡したりした。更に命令が下ると実行するために、配下に細かい指示を出したり、関係各所、上級司令部配下の補給部隊や輸送部隊に連絡を入れたりして大変だった。

 摩擦が起きるであろう部分を予想し対策を立てておいたのは凄い。

 最後をラザフォードに助けて貰ったとはいえ、凄い仕事量だ。


「兵器製造だけじゃなかったんですね」


「どういう意味だよ」


 ブラウナーの言葉に昭弥は正気に戻って真顔で返した。


「いや、出来上がってくる兵器の質が良いので本職は兵器製造なのかと」


「徹頭徹尾、いや鉄頭鉄尾、鉄道だけだよ。鉄道の応用範囲が広いだけだ」


 大砲の砲身と砲弾はピストンとシリンダーに通じるところがあるし、銃器の製造は配管の製造工作に関連する。

 兵器製造などその応用に過ぎないが、本職と思われるのは不本意だった。 

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