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鉄道英雄伝説 ―鉄オタの異世界鉄道発展記―  作者: 葉山宗次郎
第三部 第二章 帝国再建
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鉄道省と人事

 リグニア帝国国有鉄道の創設目指して鉄道省で毎日職務に精励していた昭弥だが。


「終わらねえ……」


 ちっとも進展していなかった。

 ティナの起こした雪崩によるものでは無い。元から作業量が多すぎるのだ。

 何しろ帝国鉄道省の規模が控えめに言って巨大すぎた。

 ざっと記すと


 鉄道省内の主な部局と役割

 鉄道総局 鉄道関連全般

 郵政局  郵便、貯金、郵便為替など

 電信局  電報事業

 電話局  電話事業

 電力局  電気事業全般

 自動車局 自動車事業全般

 工業局  工業機械全般

 気象局  気象観測

 厚生局  職員の健康管理、食品の衛生管理、医療


 他にも本省内の内局やら各地方の出先機関もあり、それらを整えなければならない。

 何故か鉄道以外の分野も混ざっているか、キチンと理由がある。

 郵政――昭弥が発案したのと輸送手段が主に鉄道、特に長距離は鉄道が唯一。

 電信――主要電信線が線路沿いに敷設されており鉄道が管理しているから。

 電話――電信と同じく主要電話線が線路沿いで鉄道が管理。

 電力――鉄道で開発され最大の利用者が鉄道であるため。送電線も線路沿いにあるため。

 自動車――鉄道会社で発明、生産されているため

 工業――先端工業品の多くが鉄道会社で発明、生産されたため。

 気象――鉄道運行の安全確保の為、気象の把握が必要で沿線に気象台を配置したため

 厚生――職員の健康管理をやった関係で創設。生ものの輸送を行う為の調査研究管理も


 他にも幾つもの機関を内部に抱えていた。

 一見すると鉄道に関係ないように見えて鉄道が密接に関わっており、どれも手を抜くことが出来ない。


「働き過ぎなんじゃないの?」


「そうだね」


 再び書類に埋もれた昭弥にフィーネが尋ねる。


「どこかに人手があれば良いんだけど」


 王国鉄道省の拡大型で役人の多くは王国鉄道省からの出向で賄われているが、人数が足りない。

 帝国政府から雇いたいところなのだが、官僚の数が少ない。

 何しろ帝国政府の役人が全体で数百人程度なのだ。

 元老院議員や属州――帝国政府の直轄領の長官が持つ権限が大きくて中央政府の役人が少なくて済んでしまっている。

 実際のローマ帝国も似たような物だったし、江戸時代に江戸の町、人口五〇万の町を受け持っていた南北奉行所の役人の総数は数百人程度だ。

 それも町人の自治組織が整っていたからに他ならない。


「王国鉄道の方から引き抜くのも限界でしょう」


「うん。これ以上引き抜くと向こうの事業に支障が出る。というか出ている」


 復員で列車本数が増えている上に、戦争で痛んだ線路の補修が必要であり、その事務処理の作業が追加されたため滞りが出ているという報告を受けている。

 百戦錬磨のルテティア王国鉄道職員の引き抜きも今以上には難しいだろう。


「大丈夫。手は打ってある」




「予備役に編入ですか」


 ブラウナー少将はウンザリした表情で尋ねた。

 装甲師団の参謀長を解任された後、ある予備歩兵師団の師団長に補任された。

 予備歩兵師団とは文字通り予備の部隊だ。現役の師団が兵力を失ったとき予備師団の兵力を供給するのが任務だ。

 だが、終戦になってから任務は百八十度変わった。

 戦時中に増設された師団の兵力を引き受けるのだ。復員により多くの兵力を引き抜かれた部隊を解散して残った要員を予備師団に入れておく。そして人員がそれぞれ再就職先を見つけたり、職業訓練を終えてから復員させるのだ。

 そのため人の入れ替わりが激しく師団長とはいえ事務作業ばかりで嫌気が差していたときに軍務省から転属命令が出て内心喜んでいた。


「違う違う」


 命令を下したスコット統帥本部総長はブラウナーに伝えた。


「先の戦争では鉄道が大きな役割を果たした」


「そうですね」


 線路が有る限り遠隔地へ大量の兵力と物資を輸送できる鉄道は一〇〇〇万近くに膨らんだ帝国軍を支えた。

 雪に強く、冬季の間でさえ運転できるため食料に事欠くことはなかった。

 前線近くに通じていた場合、直ぐに後方に下がり休養することが出来た。リゾート地として宣伝され整備されているリビエラにも軍の保養地が出来ており、ブラウナーも休養に行き戦場の垢を落として英気を養い再び戦いに赴いたものだ。

 だが、鉄道から離れると途端に状況は悪化した。

 物資が来ない。

 それは悲惨の代名詞だ。

 絶大な威力を発揮する大砲は重くて配備できない。ガトリングも大量に消費する弾薬が来ない。

 資材が来ないから防御陣地も建築できない。

 食料もやってこないから飢える。

 冬など更に酷い。石炭などの燃料も運ばれてこないから暖も取れない。

 物資が無いのであれば現地調達しかないが、有ればの話しだ。町村が近くにあるならともかく草木の生えない荒野では得るものがない。

 最前線で戦っていたブラウナーにとって鉄道のありがたみはよくわかっている。

 だからと言って軍を辞めて行くのは嫌だ。


「はじめは予備役でとも思ったのじゃが、鉄道に詳しい人間は軍にとっても貴重じゃ。そこで統帥本部付として現役で出向する」


「そうなんですか」


「うむ。大臣たっての希望もあってな。大臣は軍が要らないというのなら内で引き取るとか言っておったがの」


「総督がですか?」


 アクスム駐留軍時代に当時アクスム総督として赴任してきた昭弥と面識があり、色々と手助けをしてくれていた。

 貧弱な駐留軍を支援して貰い、本当に助かった。助けが無ければブラウナーは密林で戦死していただろう。


「向こうでは参事官の役職を用意してくれるとの事じゃ。頑張って来てくれ」


「はい」


「それと給与は軍と鉄道省の俸給が両方支給するとの事じゃ」


「全身全霊をもって職務を遂行致します!」


 元気よくブラウナーは答えて総長執務室を後にした。


「やれやれ」


 はじめは装甲師団の師団長をしていた孫娘といい仲になり始めていると聞き、予備師団に左遷。更に鉄道省への出向話を聞いて体よく予備役にしてやろうと企んだ。

 だが、直前に孫娘にバレて「お爺ちゃんなんか大っ嫌い!」と泣き叫ばれた。鉄道省側の要請もあり現役での出向ということでようやく孫娘を説得した。

 何とか一仕事を終えてスコット元帥は椅子に深く座り込んだ。


「まあ、働き口としての鉄道省は有り難い事じゃし」


 軍にとっての最大の問題は、膨れあがった人員の復員だった。

 国家財政を圧迫した戦争が無くなったため、大きく膨れあがった軍の人員の多くが必要なくなった。

 軍の任務は治安維持や国境管理など最小限に抑えられ金のかかる遠征は今後行われる事はないだろう。

 そのため人員が大量に余り、大半を予備役に編入するなどの措置が必要になる。

 大まかに見積もっても総兵力の七割を減らすことになる。

 事実上、戦争は引き分けだったが、戦後処理は大敗走と変わりなかった。

 そして軍から下手に人を放り出せば野盗となる。それを鎮圧するにも金がかかる。

 何としても働き口を得る必要がある。

 その点、大量の人員を求めて尋ねてきた鉄道省は軍務省にとって渡りに船だ。

 スコット元帥にとっても、自分の部下が路頭に迷うことがないのは有り難い。

 再び深く長い息、今度は安堵の溜息を吐くことが出来た。




「結構軍務省から人が入ってきているわね」


「ああ」


 人員の採用書類を見ていたフィーネに指摘されて昭弥は頷いた。


「鉄道を利用してくれたのは軍だからね。鉄道の仕組みを知っている人が多いので大量に採用しているよ」


 鉄道と軍隊は似たところが多くある。

 時間厳守だし、厳しい規律に従い、近年の傾向だが技術に強い人間を必要としており教育を施している。

 これらの特徴は鉄道マンに近い部分がある。

 そうした事を見て昭弥は元軍人の採用を軍務省に打診した。

 特に鉄道軍にいた人員は有り難い。軍用列車を運転していた人間、整備に関わっていた人間、敷設と保線に関わっていた人間。

 必要なスキルを持った人間が文字通り五万といる。


「活用しない手は無いよ」


「けど、乗っ取られない?」


「要所要所は王国鉄道の生え抜きでカバーするよ」


 ハレック元帥が鉄道を傘下に収めたがっている。昭弥としてはそれを撥ね除けつつ自分の事業を進めるしかない。


「今は人員が少ない。増やすには軍から採用するしかない」


「大丈夫なの?」


「手は打つよ」

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