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鉄道英雄伝説 ―鉄オタの異世界鉄道発展記―  作者: 葉山宗次郎
第三部 第二章 帝国再建
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公社と鉄道特会

 ユリア即位後、最も活気がある省庁と言えば新設された鉄道省に他ならなかった。

 その鉄道省は発足直後から異様な程の勢いで活動を始めた。

 それが出来たのも初代大臣である玉川昭弥の事前調査が良かったからだ。

 クーデター直後、帝都に行き帝国の鉄道関係者と会って帝国の鉄道の現状について聴取した。

 勿論正式にユリアが皇帝に認められている時ではないし、一王国の鉄道大臣に過ぎない昭弥に帝国の鉄道事情、特に財政や人事など通常は教えてくれない。


「ユリア陛下が即位した時、大丈夫ですか?」


 と、帝都に乗り込み鉄道関係者に耳打ちすると大概の関係者は話してくれた。

 ユリアの武勇伝を知らない人間は居らず、殆どの人間が昭弥に協力してくれた。


「ユリア陛下以外が皇帝になったら、鉄道はどうなるでしょうね」


 非協力的な関係者に、そう耳打ちすると大半の人間が協力してくれた。

 鉄道が強い力を持っているといっても、まだ水運や海運が優位だと唱える人間もおり鉄道は不安定な立場だ。

 これまで強い立場にいられたのは先帝が強力に鉄道の敷設を進めてきたからだ。

 だが、皇帝が変わったら鉄道の政策がどうなるか分からない。

 鉄道全廃を求める意見さえ、ごく僅かだが存在していた。

 なので鉄道事業を強力に推し進めているルテティアのユリアを応援しようという雰囲気が帝国鉄道には出来つつあった。

 昭弥はそれを利用して必要な資料を手に入れた。

 それを元に昭弥は強力に鉄道省、ひいては帝国の鉄道を動かそうとしていた。


「こっちの資料、全て纏めておいたわよ」


 昭弥の元にいる秘書の筆頭であり狐人族のフィーネ・フックスが紙束をテーブルの上に置いた。


「ありがとう」


 昭弥はフィーネに顔を見せることなく返事をした。

 自分の机に座る昭弥は、机に山積みとなった紙束と整理用の棚に囲まれて姿が見えないので仕方ない。

 更に昭弥の周りにも大量の棚と紙束が置いてあり、身動きが取れない状況だった。


「一寸は片づけないと埋もれるわよ」


 両手と尻尾で巧みに書類の雪崩を抑えながらフィーネは昭弥の後ろに回ってきた。


「しつこくやっているけど休憩したら?」


「これだけはやっておかないと後々問題になる」


「何をやっているの?」


「鉄道特会の準備だよ」


「特会?」


「特別会計。鉄道専門の特別会計だよ。まあ、帝国の予算を認めて貰う為の物だよ」


「帝国の予算は元老院で認められるものじゃないの?」


 帝国は現代の民主国家と同じように政府、行政府が予算案を作成し立法府である議会に提出して可決されたら執行される。


「そう。で、行政の予算は基本的に一般会計と呼ばれている。特別会計はそこには含まれていない予算、別枠にするんだ」


「どうしてそんな事をするの?」


「他に予算を流用されないためだよ」


 そう言って昭弥は説明を始めた。


「通常、政府は税金を集めて各省庁に分配して執行する。通常、各省庁は税金を受け取るだけだ。けど鉄道は違う」


「旅客や貨物の収入がある」


「そうだ」


 昭弥は説明を続けた。


「鉄道は収入もあるけど石炭の購入や施設管理の為の費用もかかる。それらを賄うには別枠にしておいた方が良いんだ」


「国家予算の中に埋もれたら分からないからね」


 そう言って周りの書類を見てフィーネが言った。

 この周りにあるのはここ数年の国家予算の決算書だ。この中に鉄道予算が埋もれており、それを見つけ出して必要な予算を割り出す作業を行っていた。


「そして鉄道は初期投資の費用を返済する必要もあるので独自の予算が必要だ。他に盗られる訳にもいかない」


 同時に一般予算というのは他省庁との予算を取り合うことだ。

 自分たちが稼いだ金を取られて行くのは断固として阻止したい。


「盗まれていたの?」


「なんか事実上、そんな事が多かったみたいだね。後で辻褄を合わせていたけど。あっちこっちに予算を回していた」


 特別会計は他の会計と独立させると言う意味もある。

 例えば一時期、自動車重量税やガソリン税などの自動車関連の税金を一般財源化しようという動きがあった。

 だが自動車関連の税金は目的税として成立している。目的税とは集めた税金を特定の目的以外に使わない事を定めた税金だ。

 自動車関連以外で使うには色々と制約がある。

 リグニアにも相続税が軍人の退職金や年金の予算として使用する目的税となっており重要な財源となっていた。

 昭弥は、その制度を応用して鉄道専門の会計部門を作ることを大蔵省に認めさせた。

 流動的に使えないが目的以外に流用されることの無い予算として存在意義がある。


「おまけに赤字垂れ流しだったしね」


「そうなの?」


「僕も気が付かなかったけど、考えて見れば当然のことだった」


「え?」


「考えて見て。ルテティアより非効率的な財政状況で、帝国直轄領のみならず他の領邦を含むルテティアより広い範囲に線路を引いている。最近は王国を真似て列車を直接走らせていた。赤字を出しながら。建設費の償却も終わっていない状況でどうやって黒字に出来る?」


「あ」


 ルテティアも確かに広いが、リグニア帝国はより広い。ヨーロッパ大陸とアフリカの地中海沿岸を含めたくらいの大きさがある。そこに鉄道を張り巡らせるのだから、多大な費用がかかる。


「皇帝私領のアエギュプトゥスからの収入で補填していたりして赤字を埋めていたよ」


 アエギュプトゥスとはトラキアとは海を挟んで反対側にある場所で皇帝私領になっている。小麦の名産地で帝国中へ輸出しており、財政は豊かだ。

 そのため、歴代皇帝が支持率を上げようと見世物や派手なパフォーマンスをする為の予算元として使われていた。

 事実上皇帝の個人的な財布であり、先帝は鉄道の建設費につぎ込んでいた。


「まあ、それでも最近は黒字になりつつあったけどね」


 鉄道というのは結構儲かる。産業の盛んで物流が大きい地だと特に顕著だ。

 二十世紀初めの帝政ドイツでは、ドイツ帝国の全官業収入、国家が行う事業による収入の半分がプロイセン国鉄、鉄道による収入だった。そのためプロイセン国鉄は世界最大の企業と呼ばれていた。

 一九〇八年の収益は約六億マルク、当時の日本円で約二.八億円(四.二マルク=一ドル=二円として計算)。

 日露戦争前一九〇三年の日本の歳入が二.六億円、日露戦争の戦費が一三億円だから如何に巨大な金を生み出していたか分かるだろう。


「それらを利用されないようにする必要がある。だから切り離して会計を行う必要がある」


「けど最終的には株式会社化するんでしょう」


 昭弥から運営方式を聞いていたフィーネが疑問に思った。


「正確には公社化だけどね」


 昭弥としては最終的には国鉄の帝国版、リグニア帝国国有鉄道とも言うべき組織を作ろうと考えていた。

 一応特別会計で独立採算制を取っているが、赤字には一般会計からの補填がある。そのことにあぐらを掻いて赤字垂れ流しになるのは避けたい。

 だが民営化すると利益追求で鉄道網が壊滅する可能性が有る。

 だから政府が出資して株主となり経営が独立している公社として最終的にたどり着かせようとした。


「でもどうしてはじめから公社にしないの?」


「……初期予算を国債で手に入れたかったから」


 鉄道は優れた交通機関だ。それは昭弥が一番よく知っている。

 だが欠点は多い。

 その一つが初期投資が莫大になり、開通するまで収入が入る事は、ほぼ無い。

 特に帝国全土の鉄道網を完成させる必要があるので、その費用は莫大だ。

 その費用を運賃収入のみで確保するのは難しい。また、株式を発行しても十分な資金が確保出来るか保証が無い。

 だから最初は帝国の一機関として始めて、発行された国債を元に帝国鉄道の株を買って貰って公社化する予定だ。


「そのために必要な予算を出さないと」


「手伝うわよ」


 そう言ってフィーネは昭弥の首に自分の両手を巻き付けてきた。


「何しているの?」


「肩もみ」


「知っている肩もみと違うんだけど」


「うーん、結構良い香りね。昭弥って」


「匂い嗅ぐのやめて」


 ここ数日、書類仕事で顔を洗うだけで風呂に入っていない。

 鉄オタだが昭弥も男であり異性に匂いを嗅がれるのは気になる。


「新しい書類持ってきたよーっ」


 その時、もう一人の秘書である虎人族のティナ・ティーグルが入って来た。


「テールヤ!」


 昭弥の名前を伸ばしてピョンとジャンプして紙束向こうの昭弥の顔を見ようとしたが


「何やっているの!」


 首に腕を絡めているフィーネを見て激昂。


「私も!」


 そう言って虎人族の身体能力を生かして紙束を飛び越えて昭弥の元にダイブ。


「うはっ」


 常人でしかない昭弥にその衝撃は抑えきれず、椅子が大きく揺れて机に接触。

 周りの紙束に接触して雪崩を引きおこし三人を埋めてしまった。

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