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鉄道英雄伝説 ―鉄オタの異世界鉄道発展記―  作者: 葉山宗次郎
第三部 第二章 帝国再建
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経済政策

 正式にリグニア皇帝に即位したユリアは、直ちに組閣を命令した。

 だが戦争とその終結による混乱を避けるため殆どの閣僚が留任となった。

 新任としてはユリアや皇族などの生活、教育、財産管理を行う宮内省の大臣にラザフォード公爵が任命され、軍務大臣にはヴィルヘルミナ帝国元帥が、大蔵大臣に王国銀行で活躍したシャイロックが就任する。

 そして新設の鉄道省に昭弥が初代大臣として任命されたのは当然の人事だった。


「では、御前会議を開始します」


 全ての閣僚を集めての御前会議が始まった。

 実際には戦地の九龍で行われていたが、ユリアが勝手に宣言してそれっぽく見せただけで正式なものはこれが初めてだった。


「最初の議題は経済状況の改善です。閣僚の皆さんの忌憚の無い意見を求めます」


 そう言ってユリアは頭を下げて伝えた。

 答えたのは当然のことながら財政、経済を担当するシャイロックだった。


「現在、帝国の経済状況は混乱の一言に尽きます。国法銀行が乱立し、通貨発行権を乱用して通貨を乱発した結果、通貨流通量が増大したためインフレとなっています。しかもいくつかの銀行が潰れており、通貨の効力が無くなりいたずらな損失を抱えている状況です」


 実際に昭弥も、そのことで頭を抱えていた。

 鉄道銀行や王国銀行を通じた取引ならともかく、帝国国法銀行、帝国の国法で作られ通貨発行権を持つ銀行の銀行券は厄介だった。何しろ流通枚数も種類も多いので選別するのが大変だ。

 王国銀行の通貨で取引を頼むと言っても、これしか無いと泣いてしまうお客様もいる。

 駅に銀行の派出所を設けて両替しているが非常に手間取るし、中には潰れて紙切れになった銀行券もある。

 普通に交換していたが、その日の終業時に銀行の倒産を知って紙切れになった事も一回や二回では無い。

 そうした損失がどれだけあったことか。


「なお戦争終結により購入した軍需物資の支払いが行われるため通貨の流通が更に多くなりインフレが加速します」


 軍需物資の購入は手形や為替で支払われている。そのため支払期日があり、その日までは現金を用意せずに済む。だが期日が来れば支払わざるをえない。つまり通貨が余り気味の市場に更に通貨が供給されることになる。

 丁度日本が終戦を迎えた後、酷いインフレを起こしたようにだ。

 戦中もインフレ気味だったが、配給や大蔵省の国債強制購入などの物価抑制が効いていたため数倍程度で済んでいたが、戦後は戦争中の支払いを決済したため物によっては価格が一〇〇倍にもなった。

 それが帝国で起きようとしている。


「他にも不況が訪れようとしています。何しろ一時一〇〇〇万近い総兵力を誇った帝国軍の多くが復員し通常の市民となります。彼らを雇えるだけの雇用があるかどうか。また縮小する軍需の産業からも余剰人員が出てきますので彼らを雇う必要が出てきます」


 軍隊は戦争中に人員が増えて戦争終了と共に減っていく。

 戦中と戦後の差は、兵士が一般人に戻る事を意味する。元の職業に戻れるのなら良いが、兵士の多くは社会の余剰人員、失業者などが多い。しかも戦後は不況になる事が多いので戦前に職のあった者さえ復職・再就職できるか分からない。

 彼らを吸収できるほど雇用を増やさないといけない。


「以上の事から早急な対策が必要です」


「何か方法はありませんか?」


 その意見を聞かれたシャイロックは答えた。


「まず、混乱の原因である通貨の管理、通貨発行権を一部を除いて帝国へ一元化するべきです。そのための組織として帝国銀行を設立し帝国全土に通用する通貨を発行させます」


 一部と言ったのは、今後一時的に通貨の供給が必要となる開拓地、九龍王国やアクスムなどに大量の通貨を供給するためだ。

 開拓地だとその地域内での通貨が必要となる。だからといって帝国全土に通用する通貨を発行すると、いずれ帝国全土に回ってしまって帝国全土がインフレになる可能性が高い。

 そこで一部地域限定の通貨を発行して、その地域だけ通貨量を増やす。交換レートは帝国本土の通貨と同額で交換できる地域限定なので帝国全土に回ることはない。

 戦前日本が朝鮮、満州、台湾で使っていた手段を昭弥が思い出しシャイロックに提案した。満鉄や台湾鉄道、朝鮮鉄道などの歴史を調べたときに分かったことで今回、利用できそうなので実行してみることにした。


「しかし発行権を手放してくれるでしょうか?」


「通貨発行権を手放す代わりに、帝国銀行が発行する新通貨を優先的に供給すると伝えます。また、発行した通貨を有利なレートで交換できると伝えます」


「それで上手く行きますか?」


「他にもやるべき事があります。税務署を作り、更に銀行で源泉徴収を行いましょう」


「税務署ですか?」


 聞き慣れない単語にユリアは首を傾げた。


「主に税金額の算出、通知、徴税を行うのが仕事です」


 これは昭弥とシャイロックが話し合っている時に、出たのだが帝国をはじめとする諸国に税務署という組織はない。

 ではどうやって税金を集めていたかというと、一部の業種、酒場や問屋などに特許状を出して更新料名目で税収を得ていた。

 そして一般の民衆に対する税金は徴税請負人が行っていた。

 例えば収穫量の三割を徴収する税があったとしよう。徴収量を算定して実際に徴収、換金して国に収めるのが税金だ。

 その全てを徴税請負人という民間人が行っていた。

 徴税請負人は入札で決まり、高い金額を入札した業者に渡される。

 言わば徴税のアウトソーシングだが、大きな欠点がある。

 どうやって徴税請負人が利益と経費を生み出すかというと、実際の徴税額よりも多く徴収するからだ。

 つまり徴税額が三割の所が四割になったり五割に増えたり六割になったりしていた。

 しかも徴税という国家権力を得ているので取り立ては過酷を極めていた。

 暴力団を税務署員にしていたといえば分かるだろう。

 ちなみに昭弥の世界でも徴税請負人はフランスではブルボン王朝の末期まで存在しており、フランス革命の原因の一つと言われている。

 税金は必要だが過剰に取れば可処分所得、使える金がなくなり経済が停滞する。

 そうしたことを防ぐ為にも、帝国全土で源泉徴収の確立と税務署を設立することをシャイロックは昭弥と話し合った。

 可処分所得が増えないと物流も増えないので鉄道も発達できない。

 鉄道は人や物を運ぶのが本質だ。

 運ぶ人や物が無いと鉄道の運営に関わる。だからこそ、健全な経済発展と適切な税処理は鉄道の発展に不可欠だ。


「今後の帝国の為にも必要です」


「軍需物資の支払いはどうしますか?」


「国債で代替するしかありません」


 通貨でなく国債で支払いう。支払期限の事実上の延長を依頼するのだ。


「勿論、人件費の支払いなどは行えるよう極力配慮致します」


 従業員の給与が支払えるように銀行で兌換出来る様にする事になる上、国債も市場で取引できるのでどれだけ意味があるか分からないが何もしないよりマシだ。


「また資産に応じて国債の強制買い取りを命じます」


「しかし、戦争と経済混乱によって市民は疲弊しています。国債の強制買い取りは負担が大きいのでは?」


 国債を強制的に買わせる、と言うより財産を強奪して受取証代わりに国債を置いていくという行為も普通に行われていた。強奪したままより遥かに良心的と言えるが、奪うことに変わりは無いし、市民の怒りも大きい。


「いえ、市民の多くは買わされたということより、負担の違い、格差の大きさを怒るものです。公平に買い取らせれば問題はありません」


「しかし、どうやって資産の有無を判断するのですか。銀行の口座だけでは分からないでしょう」


「そこで新通貨への移行を利用します。新通貨への交換を一人三回のみとし、それぞれ換金限度額を設けます。限度額以上の交換は国債での支払いとします。これで問題はありません」


 これも昭弥とシャイロックが話し合って決めたことだ。

 問題は出るだろうが、やらないよりマシだ。


「では、経済政策は以上としましょう」




「はあ、何とかなった」


 経済問題が終わった後、幾つか重要な議題が討議され、昭弥も鉄道関連で意見を述べることになったが、スルーした。

 鉄道は費用が掛かるし、物流が盛んでなければ利用者も無く収入は無い。

 経済政策さえまともであれば、昭弥が指揮する鉄道の分野は、必ず成功する。

 昭弥にはそれだけの自信があった。


「さて、いよいよ。こちらの出番かな」  

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