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鉄道英雄伝説 ―鉄オタの異世界鉄道発展記―  作者: 葉山宗次郎
第三部 第二章 帝国再建
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凱旋即位

 凱旋式は四月の晴れた日に行われた。

 帝都郊外の小高い丘にユリア以下凱旋式に参加する将兵が集まった。

 その数一〇万。

 数百万に及ぶ帝国軍の総数に比して少ないが、各軍から選抜された連隊が集まっている。

 何より何千キロも離れた戦場から一週間ほどで帰ってきたことに帝都の市民達は驚いていた。

 市民のどよめきの中、戦の神マルスの司祭が凱旋式に参加する将兵に対して祝福を与え、ユリアがそれに答える。


「出発!」


 ユリアの号令で参加部隊が前進を開始した。

 軍楽隊が先頭に立ち演奏しつつ歩いて行く。

 その後に続くのは各軍の選抜部隊が続く。

 歩兵が殆どだが、騎兵や砲兵も続いて行く。

 全員が正装をして煌びやかな出で立ちをしており帝都住民を楽しませた。

 何より彼らが驚いたのは、最後の決戦で活躍した巨人族の重装甲歩兵だった。

 見上げるような巨大な人型がガトリングや巨大砲を上空に向けつつ進んで行く姿は、恐怖すら感じる。

 ただ、全ての将兵が通り過ぎる凱旋門が彼らには小さすぎて脇を通ったのは、ご愛敬と言ったところか。

 彼らの後に続いて行くのは主役であるユリアだ。

 凱旋将軍として古代戦車、二頭の馬が牽くチャリオットに戦装束を着込んで乗り込み、住民に姿を見せた。

 古の戦装束を着込んだ姿は神々しく、畏敬の念を抱いた住民も少なくなかった。

 やがて一団は目的地パルテノン――万神殿の前に到着する。

 各連隊は整列しユリアを迎えた。

 万神殿の正面にチャリオットを乗り付けたユリアは、降り立つと万神殿の玄関に向かう。


「リグニアの神々よ」


 神殿の前でユリアは大声で述べた。


「この度、我らは勝利を収め多大な戦果を上げました。これも神々の皆様方の御恩寵あっての事です。与えられた御恩寵に感謝し、報いるためにここに我々が得た軍旗を捧げます」


 背後にいた各連隊から代表してそれぞれの軍が奪った軍旗を持った兵士達が前に進んで行く。そして神殿の前に軍旗を投げ入れて敬礼。

 戦勝を宣言する儀式だ。

 捧げられた軍旗を見て帝都の住民は歓呼の声を上げ、数万の群衆の声が大気を揺さぶった。

 それを聞いたユリアも周りで見ていた帝国宰相ガイウス、ラザフォード、シャイロック、そして昭弥もそれが薄氷の勝利であり、寧ろ戦いはこれからだと言うことを知っていた。

 だから彼らは顔をしかめたが、ユリアは笑顔のまま住民の声に応えた。

 やがて万神殿の近くに置かれた元老院の建物からトーガを纏った議員が訪れた。

 そしてユリアの前に立つと彼女に伝えた。


「元老院よりユリア・コルネリウス・ルテティアヌスに伝える」


「ユリア・コルネリウス・ルテティアヌス、謹んでお聞き致します」


「先日、元老院は貴殿の皇帝即位を承認致しました。リグニア帝国市民のため、謹んでお受けなさるよう求めます」


「ユリア・コルネリウス・ルテティアヌス、元老院およびリグニア帝国市民の皆様のために謹んでお受け致します」


 そう言って頭を下げてユリアは受け入れた。


「では参られよ」


 議員はクルリと回り元老院へ向けて歩き始めるとユリアもその後ろに付いて元老院に向かった。

 ユリアは元老院の議場において議員達からの質問を受け、答える。

 皇帝としての資質があるかどうかを問う質問だが、長い間に儀礼的なものに成り下がっている。

 事実上、候補者同士の暗闘で終わっており、この質問を受ける事自体が皇帝となる事のゴールだった。

 全ての質問が終わり、議長がユリアに告げた。


「ユリア・コルネリウス・ルテティアヌス。元老院はあなたを第九九代リグニア皇帝と認めましょう。リグニア帝国市民及び国民の為、全身全霊をもって任を全うして貰いたい。その勤めを果たす限り、我らは尽力を惜しみません」


「ありがとうございます」


 ユリアは頭を下げる。

 そこへ議長がやって来てユリアの頭に帝冠、赤いベルベットで作られた帽子と、それを保護する宝石付の八本のハーフアーチで作られた冠を被せた。


「今ここに新皇帝が誕生した。これよりユリア・コルネリウス・リグニアヌスと名乗られよ」


「ありがとうございます」


 リグニア皇帝とその直系親族を意味するリグニアヌスの名前を与えられ、ユリアは顔を上げて前に進んだ。

 そして元老院議事堂の前に集結したリグニア軍将兵と市民の前に立つ。


「私は今リグニア帝国の皇帝の地位に、帝国の第一人者となりました。皇帝となったからには今後の人生を、その全てを帝国に捧げる事を誓います。帝国市民および元老院が成し遂げてきた偉業を継承し、先人に恥じない繁栄を帝国にもたらすことを宣言します。帝国の守護神達よ、帝国に祝福を」


 ユリアが天に手を伸ばした瞬間、突如上空が七色に光りヒマティオン、ワンピース型の上衣を着込んだ女性がクジャクを連れて降りてきた。


「ミネルヴァ様だ……」


 将兵や市民達が現れた女性に目を奪われた。

 目の前に現れた帝国主神十二神の一人であり女神として二位にあるミネルヴァが現れたことに群衆は息を呑んだ。

 皇帝は最高司祭を兼ねているため即位の際には、主神の誰かが降り立ち祝福する。

 その際に誰が降りてくるかで皇帝の権威が変わる。

 このところ下位の神々が多かったが久方ぶりに最上位に位置する神、ミネルヴァが現れたことに将兵、市民達はユリアが将来有望な皇帝であると期待を抱いた。


「ユリア、帝国全てに責任を負う者よ。私たち主神は直接あなた方に接することは出来ません。故に祝福と僅かな力を与えることしか出来ません。ですがあなたは私たち以上に帝国を素晴らしい未来に導くことが出来るでしょう。あなたが皇帝位に就くことを祝福し、困難な道を歩み素晴らしい未来に帝国を導くであろうと信じます」


 ミネルヴァの言葉はその場にいた市民全員の頭に響き渡り、話が終わった瞬間、集まった群衆は歓呼の声を上げた。




「本当に神が降りてくるんですね」


 側で見ていた昭弥は驚いた様子で答えた。


「実際に神官達が使う魔法は神から与えられた奇跡だからね。実際にいるよ。ただ、かつての戦争で実体が無くてね。この世界で力を行使しようとすると依り代か分身が必要なのだが、依り代は力が強すぎて死んでしまうし、分身は力が弱すぎる。ああやって幻影を送り込んで祝福するんだ」


 隣にいたラザフォードが説明した。


「しかし、よかった。第三階位のミネルヴァ様がいらして。商業と工業、戦争を司る方でこれからの帝国に相応しい」


「けど、どうして最高位か二位の神様が出て来なかったんでしょう」


 出来れば最高位の神に祝福して貰って権威を増したかった、と昭弥が思いながら言った。


「たぶんまたユピテル様が女性の元に行ったのでユノ様が懲らしめているんだろう」


「……どういうことです?」


 溜息を吐きつつラザフォードは説明した。


「ユピテル様は女好きでね。気に入った女性とは必ず関係をするんだ」


 ラザフォードの言葉を聞いて昭弥は呆れた。


「関係する人はいるんですか?」


「自ら名乗り出てくるようなのは相手にしない。自分が気に入った女性だけだ」


「受け入れる人はいるんですが?」


「たいていは美男として現れるんだが、市民は皆女好きを知っていて逃げている」


「当然でしょう」


「だが、それで諦めるような神では無い。農場の娘には牛に化けて近づいたり、女騎士なら馬に化けて近づく。それを知って警戒して部屋に閉じこもっても霧に化けて部屋に入り込み関係を持つ」


「とんだ強姦魔だ」


 自分の能力を生かさず、女性ばかり追いかけることに昭弥は呆れた。


「だが、大抵は妻のユノ様に見つかってお仕置きを受ける。嫉妬深いユノ様だから毎度のお仕置きはキツいぞ」


「いや、嫉妬深いんじゃ無くて、普通の対応でしょう。浮気しているのにお仕置きだけで済ませ、その後も一緒にいるなんて素晴らしいじゃ無いですか」


「そうだね。お仕置きで済んで良かった。生きたまま手足を切断されたり、心臓をえぐり取られたり、生皮を剥がれる程度で済むからね」


「お仕置きのレベルじゃない」


「まあ神様だから簡単に治ってしまうけどね。痛覚はあるようだけど。今回は何日で許して貰えるかな」


 その言葉を聞いた昭弥は例え機会があっても、神には絶対にならないと心に決めた。

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