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鉄道英雄伝説 ―鉄オタの異世界鉄道発展記―  作者: 葉山宗次郎
第三部 第二章 帝国再建
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元老院

「今の元老院がどういう場所か知っているかい?」


 夜が明けるとラザフォードは昭弥が休んでいる部屋を訪れて尋ねた。

 丁度エリザベスの給仕でユリアと朝食を摂っている時で、これ幸いにと三人に尋ねた。


「帝国貴族と帝国国民がそれぞれ選挙で選出した議員で構成されています。形式上は帝国の最高意志決定機関でありますが、大半の権限を皇帝に預けている状態です」


「預けている状態?」


 エリザベスが優等生のような模範解答を出したが、昭弥は疑問が残り尋ねた。


「自ら行使しないんですか?」


「共和制の時はね。けどリグニアの領土が大きくなると、それに合わせて議員の数も増やした。そのため意見が割れやすく取り決めるのが大変になった。そこで直ぐに決断し実行する人間、皇帝を選び出して権力を貸し与えたんだ」


「よく分かります」


 かつて王国の議会で鉄道建設計画を提出したら百家争鳴で決まらず結局、女王であったユリアに一任して決まった事があった。

 それが帝国でも行われているという訳だ。


「しかし貸し与えているというのは?」


「権力を手放したくないからさ。皇帝に与えるのは自分たち、元老院が承認しなければ皇帝になれないようにした訳だ」


「面倒な事を押し付ける人間を選んでいるだけに見えますが」


「その通り。皇帝なんて面倒事を引き受ける苦労人さ。だが帝国を動かす権力が付随してくる。それを欲しがる人間は多い。本来なら使命を果たすための道具なんだが、自分たちの利益を得るために私用している」


「それを防ぐ為に私が即位するのですね」


 黙っていたユリアが口を開いた。

 既に決意に固めた意志の光を瞳に宿していた。

 昭弥はその姿を見て頼もしく思いつつも尋ねた。


「それで、ユリアさんが承認される可能性は?」


「最有力だが、すんなりとはいかないね」


「どうしてですか?」


「まず有利な点を説明しよう」


 そう言ってラザフォードは紙を出してペンを走らせた。


 1.皇族であるコルネリウス氏族の出身でミドルネームになを残す正統な継承者である

 2.ルテティア王国女王としてルテティア王国の発展に尽力。その成果は帝国中に響いている。

 3.先帝を暗殺し、劣勢だった東方戦争を逆転させ終結させた。


「これが陛下が有利な点です。特にコルネリウス氏族というのは大きいです。ここ最近は帝国皇帝の条件としてありますからね」


「どうしてですか?」


「他の氏族が皇帝になる事はない。ここ数百年の暗黙の了解だ」


「それは許されないんじゃ? 多くの貴族がいるのに。それに暗愚な皇帝が出てきたらどうするんですか?」


「何をもって暗愚か証明する? 英明である、とどうやって知らしめる? その基準が明確でなければ候補者達が乱立して揉めるだろうね。だからコルネリアス氏族に限定した。これなら候補者を絞りやすい」


 ラザフォードの意見に昭弥は納得したが、また疑問が出てきた。


「でも何時でもコルネリウス氏族に優秀な人がいるとは限らないのでは? それに他の氏族や部族の人々が納得しないのでは?」


「それに関しては皇帝が優秀な人物を重臣として引き立てることで補っている。そして皇帝の権限の一部を貸し与える。優秀な人材なら誰もが納得するし、成果も出して帝国の為になる。そして志有る者は重臣になろうと努力する。皇帝の仕事は事実上、人材登用のみと言って良い」


「なるほど」


 確かに上手いシステムだと昭弥は思った。


「でも優秀な人物かどうやって見分けるんですか?」


「一番成果を上げている君が言うか?」


「そうなんですか?」


『上げているよ!』


 ラザフォードに言われて昭弥は首を傾げるが他の三人に否定されてしまった。


「王国の国力は倍以上になった。こんなことを成し遂げた人間は有史以来無い」


「昭弥は王国の為に全力を尽くしてくれました」


「あなたが無能というなら、この世の人間は全て無能です」


 ラザフォード、エリザベス、ユリアの三人が口々に言って昭弥を追い詰める。

 褒められているはずなのに何故か追い詰められて昭弥は話題を変えることにした。


「で、即位に不利な点は何ですか?」


「……次の点だね」


 そう言ってラザフォードは、玩具を取り上げられた子供のように不機嫌な顔をしながらペンを走らせた。


 1.先帝を暗殺したこと

 2.元老院の承諾無しに軍を動かし、戦争を終結させたこと

 3.元老院の承認無く皇帝になることを宣言し、皇帝のように振る舞ったこと


「有利な点とダブっていませんか?」


 箇条書きにされた不利な点と有利な点を見て昭弥は指摘した。


「長所は短所になり得るよ。短距離は早い馬が長距離が苦手なのと同じだ。陛下は、成果を上げてきたが、すべて元老院の承認を得ていない。そのため元老院はユリアが自分たちを蔑ろにしていると考えている。むしろ、自分たちに相談無く事を進めたことを元老院は良く思っていない」


「何もしなかった、戦争が不利になっても止めさせることが出来なかった自分たちの事を棚に上げて?」


「そうなんだが、自分達が尊重されないことが彼らのプライドを傷つけているんだね。蔑ろにされることを彼らは良しとはしていない」


「舐められないように虚勢を張る不良じゃないですか」


「そうだね。しかも自分たちは不良とは違うと同族嫌悪から声高に言っている。自分の方が上品だと思っているしね」


 ラザフォードの言葉で昭弥は中学時代のいじめっ子を思い出してウンザリした。下らない要求を拒絶しただけで生意気だとか、格下のゴミに舐められたとか難癖付けて虐めてくる。

 悪口に言い返しただけで馬鹿にするなと殴られたことさえあった。

 そんな連中と話し合わないといけないとは非常に暗い未来だ。


「そう、悲観することはない。元老院はこちらになびきつつある」


「どうしてですか?」


「力関係が逆転しつつあるからだよ」


 そう言ってラザフォードは説明を続けた。


「元老院を構成するのは帝国貴族と帝国国民だ。この二つが両輪となって帝国を支えているのだが、東方戦争で一変した」


「どういう事です?」


「貴族に戦死者、捕虜が多数でたため貴族議員の多くが新任、あるいは欠員が出ている」


 帝国貴族は高貴なる義務と言って戦場に赴くことを良しとする風潮がある。それは元老院議員でも同じで議員は戦場に赴く者が多い。

 今回の戦争でも領地拡大の野望があったとはいえ、多くの議員が従軍した。だが周の大反攻で多くが戦死、捕虜となった。


「で、新しい議員が選出されるのに時間が掛かる。さらに平民出身議員が力を付けてきた」


「どういう事です?」


「君の鉄道の成果だよ」


 呆れたようにラザフォードは説明した。


「鉄道のお陰で商業が活発になり、各地で産業が発展しつつある。戦時下でもだ。それどころか戦時特需で一部の平民が産業を興したことで富を得ている。そのような平民が帝国全土で増えつつあるんだ」


 その言葉を聞いて昭弥は中間層が産まれつつある事を悟った。

 これまでは大きな農地、領地を持つことや取引、商業が富の源泉だった。勿論、加工、工業による富も得つつあったが比較的少なかった。何故なら取引量が少なかったからだ。

 平民では資本が足りず十分な輸送手段、馬車や船を使うことが難しく、調達できても輸送費が嵩み利益が少なかった。

 だが鉄道がそれらを引き上げた。物流が盛んになり取引量が増えた結果、輸送費が大幅に安くなり平民でも大きな利益を得られるようになった。

 更に遠くへ行けるようになった為、遠くの消費地へ商品を運べる、取引の機会が増えた。それが平民へ富が行き渡るようになった原因だった。


「彼らは陛下がルテティアで行った施策、鉄道敷設を帝国においてより強力に行う事を求めている。だからユリア陛下に期待するところは大きい。一方、貴族達は自分たちの既得権益を奪われる可能性が高いので即位して欲しくないと考えている」


「でも、人数的にはユリアさんが優位なのでは?」


「ところが議決に影響力のある議長がトラキア侯爵だ」


「港と鉄道を借りていますよね」


 破産状態のトラキア侯爵に融資をする引き替え条件に港と鉄道を借りる約束をしていた。


「それが侯爵にはお気に召さないようで、承認して欲しければ我々に港と鉄道を返還するように、と言ってきた」


「それは虫が良すぎませんか?」


 借金の肩代わりをしたのはルテティアだ。暴いたのは昭弥だが、倒産状態にしたのは侯爵だ。


「彼にはその論理が通用しない。我々への逆恨みでそのような行動に出ている。まあ彼にとっては正統な復讐なのだろう」


「けど、こちらが侯爵に従う必要はないでしょう」


「勿論だ。だから手を打っている」


「どんなです?」


 また悪辣な手段を用いるな、と思いつつ昭弥はラザフォードに尋ねた。


「もう一人の候補者であるコスティア様の屋敷を監視している。対抗馬として担ぎ上げるならコスティア様以外にはいない」


 先帝が皇帝に即位すると皇帝の親族の多くは粗方失脚したり追放された。残った親族も先の東方戦争で戦死したり捕虜となった人々が多く候補者としてはユリアに見劣りする。

 もしユリアに対抗するのならコスティアを担ぎ出して皇帝にするしか道はない。

 だからこそラザフォードはコスティアの監視を強めていた。

 そうラザフォードが話していると部屋の扉が開いた。

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