ダキア王国女王コスティア
ダキア王国女王コスティアが広間に入って来ると全員の視線が彼女に集中した。
簡単に言えば美女。
白磁のような白い肌に晴れ渡った空のような碧眼、ふわふわの透き通るような輝く金髪。
背が高く腰の部分はキュッと細く艶めかしい曲線が腰を形成しスラリとした足に流れこむ。
何より存在感があるのは胸だった。
まさしく巨大な胸で、ただ大きいだけでなく張りがあり、つんと立っている。
コスティアが身に纏う白のドレスは胸元が大きく開いており、彼女の奥深い峡谷を強調していた。
昭弥も含めて全員が彼女に視線が集まる中、コスティアはユリアに向かって歩み近づくと大声で叫んだ。
「ユリアお姉様ああああああっ!」
そのまま彼女はユリアに抱きついた。
「お久しぶりですわ!」
「……」
ユリアの背中に両腕を伸ばし抱き上げてコスティアは喜ぶが、抱き上げられたユリアは終始不機嫌だった。
「別れてから長くお会いできなくて本当に寂しかったですわ。再びお会いできて光栄です」
「クーデター前に先帝の会合で会ったハズだけど」
「あれから三ヶ月以上も会っていませんわ」
「三ヶ月しか、よ」
「ああああ、ユリアお姉様のお声が聞けて感激!」
ユリアは冷静に返すがコスティアはユリアの声を聞いたことで感動し内容のことなど理解していないようだ。
「……誰ですか?」
昭弥は美女の行動に引きつつ隣にいたラザフォードに尋ねた。
「ああ、そういえば昭弥は初めてだったね。いつも出張やらなんやらで城や仮王宮にいなかったからね」
「すみません」
昭弥は週に一度は遠隔地への出張の他にも鉄道大臣や会社社長としての仕事があり、ユリアの元にいることは少なかった。そのためユリアが誰と会っているか知らないことが多い。
「まあ、ユリア様が会わせないようにしてもいたしね。あの方は、ユリア様の従姉妹でダキア王国の女王コスティア様だ。先帝の妹君でもある」
「え?」
先帝フロリアヌスの妹と聞いて昭弥は警戒したが、ラザフォードは首を振った。
「いやいや、妹とはいっても異母妹で兄妹仲は良くなかったようだ。で、ユリア様が可愛がったことで懐いているんだ」
「ああ、なるほど」
疎まれていたときに手を差しのべられたのが凄く嬉しくて今でも続いている。瞳が光で輝いている。アニメ絵のシイタケが実在していた事に昭弥は新たな発見と驚きを感じた。
と昭弥は微笑ましく思って二人に目を向け直したが、いつの間にかコスティア様が目の前にいた。
「あなたが、昭弥様ですね」
「は、はい」
至近距離にコスティア様の顔があって昭弥はドキドキした。
切れ長の目に長いまつげ、薄いが血色の良い唇、キメの細かい肌、それらが至近距離で確認できて昭弥の心は揺れた。
「調子に乗るなよゲス」
その目の前の美女からドスの効いた声が流れて来て、昭弥のドキドキは無くなった。
「貴様のような不潔な生き物がユリアお姉様の近くに、いえ、同じ世界にいること自体許されないのよ」
それまで大きかったつぶらな瞳が小さくなり、鋭い目つきに変わって昭弥を睨み付けた。
美女は怒ると迫力があると言うが本当だ。特にユリアを拡大強化したようなコスティアに睨まれると昭弥の心の奥底から原始的な恐怖がわき上がってくる。
「それをお姉様の広い心による御慈悲で生きてることを許されているのよ。自分が好かれているからとか贔屓されているとか、勘違いすんじゃねえぞゴミ。もしも、お姉様を穢したり、指一本でも触れてみろ。貴様が犯した罪の一つ一つにつき生きたまま串を身体に刺した後、焼いて上げるわ」
「仲が良さそうですね」
コスティアに脅されて気絶寸前だった昭弥を救ったのはユリアだった。
ただ昭弥に話しかけるコスティアへの嫉妬心で怒りの炎を向けていたため、昭弥は再び気絶しそうになった。
「そろそろ離れてくれないかしら」
「ああ、お姉様! 申し訳ありません勝手に離れてしまって!」
そう言ってコスティアは昭弥を放り捨てるとユリアの元に戻って抱きしめた。投げ出された昭弥は大広間の床に倒れて気絶した。
「大丈夫ですか?」
「は!」
次に目覚めた時に目に入ったのは、ユリアの幼馴染みでメイドで昭弥の義妹か義姉のエリザベス・ラザフォードだった。
「な、なにが」
慌てて状況を確認すると、昭弥は大広間とは別の部屋のベットに寝かされていた。
「大広間で気絶されたのでこちらに運びました」
「あ、済みません」
そう言って昭弥は頭を下げた。義理の姉か妹なのだが、そうした姉か妹か分からない曖昧さ故にメイドと客人の関係が一番しっくりときた。
「それでユリアさん……いや陛下は?」
「ユリアさんで良いでしょう。姫様、ユリアも堅苦しいのは嫌いですから。私も公式の場以外では気分で、色々と呼んでいますから」
「気分って……」
主従関係でそれはどうかと思うが、表向きと実際は違うのだろう。本来、ユリアとエリザベスは仲の良い幼馴染みで主従関係など無いのだろう。
ただ、裏で二人がどういう呼び名で呼んでいるのか昭弥は気になった。
「昭弥は大丈夫?」
だがユリアが入って来たため昭弥が問いかけることは無かった。
「はい、一寸気を失っただけで問題ありません。姫様の方も大丈夫ですか?」
「元老院議長のトラキア候への話しは終わったわ。私を皇帝として承認して欲しいと頼み込んだけど良い話は聞けなかったわ」
「コスティア様の方は?」
「もう遅いから帰って寝なさい、と言ったら涙を流しながら帰って行ったわ」
ユリアはホッとしたといった感じで部屋の椅子に座ると昭弥を睨みながら尋ねた。
「巨乳のコスティアがいなくなって残念?」
「ありません!」
首を高速で横に振りながら答えた。
あんな恐ろしい美人に睨まれた上、その数倍も恐ろしいユリアに睨まれたら死んでしまう。
だがユリアは直ぐに視線をはなし、釘を刺すように昭弥に言った。
「……そう。でも入れ込まないでね。あの子、コスティアは裏切り者だから」
「くっ、人の弱みにつけ込みおって小娘が」
とある屋敷の広間で主人を待っていたトラキア侯爵は先ほど会ったユリアに対して悪態を吐いた。
借金を一部棒引きにする代わりに自分を皇帝に推戴するよう要求してきた。
倒産状態だったトラキア侯爵領だったが、ユリアが女王を務めていたルテティア王国からの援助、融資が無ければとっくに破綻していた。だが、その代わりにトラキアは自らが持っていた鉄道の利権と港湾を差し出すこととなった。
一応借地という事になっているが地代は融資、借金の利子で消えて行く。しかも港湾や連中の持っている鉄道の周辺はルテティアの法が優先される。
事実上トラキアはルテティアの支配下にあった。
何とかしたかったが借金の額が膨大でどうしようもなかった。
だが東方戦争が始まって転機が訪れた。
元老院を構成する多数の貴族議員が従軍していった。トラキア侯爵も出兵したかったが借金のために軍備を整える事が出来ず断念した。
しかし冬季に起きた周の大反攻の為に多数の貴族が戦死、行方不明となった。
当然元老院の議員の多くも戦死、行方不明となりその中には議長も含まれていた。
そのため残った議員の中で最古参だったトラキア侯爵が議長に任命された。
議長は議事進行に大きな影響力を持つ、そして元老院は皇帝の即位を承認する。そのため次の皇帝候補者が自分に会いに来る。
その一人の屋敷に侯爵は来ていた。
「お待たせいたしました」
そして屋敷の主がやって来てトラキア侯爵は頭を下げた。
「お目にかかれて光栄ですダキア王国女王コスティア様」
相手は先ほどユリアを抱きしめていたコスティアだった。
「止して下さい。帝国元老院議長が一王国の女王に頭を下げないで下さい」
そう言ってコスティアはトラキア候に座るようすすめ、自分も座るとすぐさま尋ねた。
「ところでユリア様に皇帝位は相応しくないと思いません?」




