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各駅貨物列車

新たな列車を迎えるトム。そこに乗っていたのは

「おはようございます皆さん」


『おはようございます駅長』


 トムは部下の顔を見て異常が無いか確認する。よし、顔色の悪い部下は居ない。全員業務を遂行できる。

 父親の命令で鉄道会社に入ってから直ぐに王都へ行き鉄道学園で二ヶ月の短期研修の後、駅舎の建設工事に監督として参加。同時に村の人を何人か駅員もしくはその見習いとして採用し体制を整え、開業。

 以来、大きな事故無く今日まで遂行してきた。

 そして今日、新たな仕事が入る。


「前から伝えているように今日から貨物列車が停車するようになります」


 これまでは、各駅停車の後ろに貨物車を付けてやりとりしていただけだが、今日から全車両貨物車の貨物列車がやって来る。


「知っての通り、農協が王都の市場に農作物を売ることになります。これまでの荷物車では足りません。そこで貨物列車が到着する事になります。これは鉄道会社としても喜ばしいことでありこのカンザス村が発展できるかの試金石になります」


 農作物は売れなければ現金にならない。現金収入の少ないカンザス村にとっては貴重な収入源になるだろう。


「また停車時間は十分余裕を持っているとはいえ、定時運行が重要。迅速に荷物の積み卸しを頼みます」


『はい!』


 生まれた村の将来が決まる重要な仕事に駅員達は、気合いの入った声で答えた。

 やがて時間となった。


「列車が上り第一閉塞に近づいて来ます」


「ポイント交換良いか?」


「ポイント確認良し」


「よし、場内確認」


「列車ありません」


「良し」


 一つ一つ確認して行く。いつもと違う作業なので慎重に行わなければ。


「貨物線へ送るんだ。信号確認」


「進行良し、確認」


「全てよし」


 これで列車を受け入れる準備は整った。

 やがて貨物列車がゆっくりと近づいて来る。そしてポイントに入り新たに作った貨物線へ入って行く。

 やがて貨物列車は停車位置で止まった。


「貨物列車、停止しました」


「よし。列車に行ってくる」


 トムは、司令室を部下に任せて、貨物列車に向かった。

 連絡橋を渡って反対側へ行き、貨物線のホームに行く。

 既に有蓋車のドアが開かれており、ホームに置かれていた貨物、カンザス村で作られた野菜類を駅員達と臨時に雇った人達が次々と載せている。


「お疲れ様です」


 トムは車掌に話しかけた。


「お疲れ様です」


 だみ声で車掌は答えた。


「大丈夫ですか?」


「はい、どうも初めての仕事で緊張して体調を崩したようです」


 少し気怠そうに答えた。


「そうですか」


 肩章を見てトムは気が付いた。何もない。見習いか。慣れない仕事で緊張しているのか。

 なら仕方ない。


「車掌長はどちらに?」


「あちらに」


 そう言って列車の最後部を指した。


「ありがとう」


 それだけ言うと、トムは後ろに移動した。


「お疲れ様です。駅長のトムです」


「お疲れ様です」


 トムの挨拶に車掌長は敬礼して答えた。


「どうでしたか道中は?」


「異常なしです。何処も野菜や木材を積み込んでいます」


「全て王都行きですか?」


「ええ、王都の貨物駅行きですからそこから王都で必要とされているところに運ばれるのでしょう」


「この貨物列車だけで足りるでしょうか?」


「無理でしょう。だから社長は更に増発するつもりのようです。下手をしたら一日三本かそれ以上、走らせるかもしれません」


「三本! 多すぎませんか?」


「いや、貨物の増加量を考えると足りないかもしれません。元々旅客列車の荷物室がパンク状態なので各駅の専用貨物列車を走らせようと考えていたようです。下手をすると各駅から一本出すことになるかも知れないと言っていました」


「各駅から一本! まさかそんな」


「今まで川を通じて送っていた荷物や、新たな商品が次々と出来て王都に運ばれています。今まで以上に輸送力が必要だと社長は言っていますよ」


 それを聞いたトムは固まった。

 確かに川を通じて運ばれる荷物が鉄道によって運ばれたら膨大な量になる。それに今まで需要のなかった生野菜がこうも多く求められている。何よりそれらは鉄道でないと、運べない。船だと時間がかかって腐ってしまうが、鉄道なら一日で低コストで運び込むことが出来る。

 つまり、鉄道が独占的に輸送するのだ。

 王都の需要に左右されるだろうが、下手をしたら一駅に一本というのは絵空事ではない。


「それだけの野菜が金になれば、村は潤うな」


 だが、現金が入るのは悪いことではない。これだけ金が入れば村は発展し町や都市になることも夢ではないだろう。


「社長もそう仰っていたよ」


「社長に会うのですか?」


「いや例の研修の講演会だよ。貨物列車の乗員研修に社長が出てきたんだよ」


「ああ」


 二人が言っていたのは、各種研修に必ず一回ある社長直々の講演だ。週に二、三度鉄道学園に列車で来て、主に幹部に必要な心構えと将来展望を語っている。時折、鉄道の情熱が溢れすぎて脱線することがあるが、鉄道話なのでどれだけ社長が鉄道に情熱を注いでいるかを確認できる場になっており、社長に忠誠を新たにする者も多い。

 トムの推測も、研修と、社長の講演から情報を得てたどり着いたのだ。


「忙しくなりそうですね」


「ええそうですね。でも駅員が足りるかな」


「貨物列車も運転できる人員と積み込み監督の車掌が足りない。慢性的に人員不足になりつつあるよ。まあ、頑張るしかない」


「そうですね。おっと、ソロソロ時間ですね」


 出発時間が迫ってきていた。

 既に積み荷の積み込みは追え有蓋車の扉は閉ざされていた。


「積み込み完了いたしました」


 車掌の一人が報告した。


「ご苦労、車掌車に戻れ」


「はい」


 先ほどの車掌見習いも一緒に車掌車に乗り込んでいる。


「それでは失礼いたします」


 そう言うとトムと車掌長は敬礼で別れた。

 乗り込むと、機関車から大きな汽笛が鳴った。同時に車掌長が、車掌車のハンドルを回してブレーキを解除する。

 信号は進めに代わっていた。

 貨物列車はゆっくりと進み出し貨物線を離れ本線に入ると加速して王都に向かっていった。

 それをトムは見えなくなるまで、敬礼して送った。



「危なかった」


 車掌車の中で、ジャンは心臓の鼓動を抑えるのに必死だった。


「予想していて良かった」


 新しい配属先が各駅の貨物列車だとは思わなかった。一体、へんぴな村にどんな品物があるというのだ。乗せていたのは皆自分の村の採れた野菜で、他の駅で積まれた物もほぼ同じ。そんなモノが売れるのだろうか。


「けど、増発するんだよな」


 先ほど車掌長とトムの話を聞いてジャンは考えた。各駅の貨物列車が増えると言うことは、自分が乗る可能性も高まり、トムと出会う可能性が高くなる。

 向こうは駅長でこちらは車掌見習い。あまりの格差に合わせる顔がない。


「転属するか」


 ジャンは心に決めた。

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