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鉄道英雄伝説 ―鉄オタの異世界鉄道発展記―  作者: 葉山宗次郎
第三部 第二章 帝国再建
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帝都到着

 周との戦争、リグニアにおいて東方戦争と呼ばれる事となる戦争が終結した翌日。

 新たにリグニア帝国皇帝への即位を宣言したユリアは帝都リグニアへの移動を宣言し汽車に乗り込んだ。

 皇帝への即位は宣言に過ぎず、正式に承認されるには元老院の承認がいる。

 その承認を受けるために帝都へ向かうべくユリア達は乗り込む。


「では、出発いたします」


 今回の帝都移動計画の最高責任者であるオーレリーがユリアをはじめとする一同に伝えた。

 王国貴族だが貴族の慣習として幼少期に他の家で奉仕して勉強するという風習のため、一時期昭弥の元に来て学んだ少年だ。

 中々素直で物覚えも良く好人物だが、仕えている駄メイドのせいで台無しになっている。

 それでも本人の能力がカバーしているので評価は良い。その証拠にユリアが自分の秘書として引き取った程だ。

 その関係もあり今回の移動計画を立てて実行する責任者に抜擢された。

 昭弥がやっても良かったのだが、他に仕事があり、この程度はこなして貰わないと昭弥自身が困る。なので、オーレリーに全て任せた。

 お召し列車に乗り込んだユリアをはじめとする要人一同は王都ルテティアを経て一路トラキアを目指した。

 最短で帝都へ行くには、トラキアまで鉄道で行き蒸気船で海路を進むのが一番早いからだ。

 一応、帝国鉄道も戦時下と言うことで事実上支配下に置いているが線路の状態が悪い上、車両限界が違いすぎて入らせることが出来ない。スーパーライナー、アメリカの大型車両を日本の新幹線で走らせるようなモノだ。レールの幅は同じでも車両の大きさが違いすぎてトンネルやホームに車体が当たってしまう。

 よってトラキアまで行き連絡船へ乗り換えることによって短時間で帝都に乗り付けることにした。

 ただ九龍出発前と王都とチェニスで機関車交換をしたとき短いながらも演説を行い改めて即位宣言と自分への協力を求めた。

 演説は有線放送により王国と帝国の周辺部、東方の戦場に流された。

 幾度も演説を流したのは人々の耳に残りやすくするためだ。

 人々の記憶に残すために企業のCMを何度も流すのと同じだ。召喚前に鉄道の宣伝や広告についても勉強した昭弥の提案だった。

 少なくとも放送が流れた地域に関してはユリアの支持を固めることが出来た。

 トラキアの半島先端にある旅客港に到着すると待機していた蒸気船へ乗り移り帝都リグニアへ向かった。




「着いたわね」


 最速の蒸気船でやって来たユリアは上陸前に呟いた。

 今までも何度も訪れた帝都だが、今回は皇帝に即位できるか否かが掛かっている。

 もし失敗すれば自分達がおしまいである事は分かっている。

 多くの人間の運命が関わっていることを自覚してユリアは船から降りた。


「お待ちしておりました」


 昭弥達を迎えたのはティベリウスだった。

 帝国伯爵だが王国鉄道の役員であり、帝都支店の総支配人をしている。

 主に帝都に駐留し帝国や周辺貴族との交渉を行っていた。


「全ての準備は出来ています。こちらへどうぞ」


 ユリアが即位を宣言してからティベリウスは、元老院議員と接触しユリアの支持を集めることに奔走していた。

 元老院は帝国の最高機関であり皇帝の選出と承認も元老院が行う。

 故に議員の多くの支持を得なければならないので、ティベリウスに抱き込み工作を依頼していた。

 その努力は結実し元老院の四分の一の議員が帝都に置かれたルテティア王国の屋敷に集まりユリアを迎えた。


「人数が少なくありませんか?」


 屋敷の大広間に集まった議員の数を聞いて昭弥は疑問に思ってラザフォードに尋ねた。

 今はユリアの帝都到着を祝うパーティーが行われておりユリアは議員と歓談している。

 戦衣装ではなく白を基調としたドレスでユリアの容姿に相応しい清楚な出で立ちだ。

 昭弥はラザフォードと共に、その群から離れてその様子を見て観察していた。


「過半数か三分の二を確保しないと不味いのでは?」


 転移前の世界では議会の多くは議決に過半数、特に重要な議題に対しては三分の二を確保することが求められる。三分の二で議決するのは接戦の末、議決しても半数が納得せず痼りを残すことを防ぐ為だ

 四分の一では、そのどちらも確保出来ない。


「その通りだ」


 昭弥の疑問に隣にいたラザフォードは同意した。


「だが少なくとも彼らは自分の利益の為に動いている」


 ユリア派の議員達は口々にユリアへの忠誠を誓うが、多くはルテティアの鉄道技術やユリアが持つであろう皇帝の権力を狙っていた。


「前途多難ですね」


「そうでもないよ。結構厳選している。渡すものが少なくて済む議員、我々の力になってくれる議員を中心に選んだからね」


「? どういうことですか?」


「ここ最近、百年ほどの間だが皇帝の権力が代替わり毎に縮小している。どうしてだと思う?」


「分かりません」


「皇帝になるには元老院議員の過半数が支持する必要がある。そして普通は皇帝候補者は複数いる。議員を取り込むにはどうすれば良い?」


「見返りを約束するんですか?」


「そうだ。皇帝に就いたあかつきには地位、領土、権力を渡すと約束する。そして即位すると渡すんだ。それが代替わり毎に行われたらどうなる?」


「皇帝の権力は小さくなります」


「そう。そして権力、権威の小さくなった皇帝は在位中にも元老院から退位勧告をされて、退位することになる。そしてまた代替わりだ」


 ラザフォードの言葉を要約するとこうなる。


1.皇帝の権力、権威が低下

2.新たな皇帝になろうとする者が出てくる。

3.自分が皇帝になれるよう元老院議員への工作開始。

4.抱き込み工作の材料として皇帝就任後の領地、権力、特権付与を約束

5.工作が成功すれば皇帝即位

6.即位後、功績のあった者、抱き込んだ議員に約束を果たす。

7.貴族に領土、権力を渡した結果、皇帝の権力、権威が低下する。

8.1に戻る


 悪循環の無限ループとなっていた。


「先帝が賢明だったのは、歴代皇帝が貴族へ与えてしまった領地、権力、特権を再び皇帝へ取り戻すことだ。そのために新たに発明された鉄道を使い、それを皇帝の権力として使い発展させ貴族の権力、特権を弱体化させることだった」


 だからこそ先帝は鉄道網を発展させ、帝国の物流を強化することによって諸侯の領地が独立している状態を破壊し、帝国として一体化させようと目論んだ。


「つまり帝国を強化するためですか?」


「そうだよ。そして、やらなければ貴族の権力が大きくなりすぎて独立されてしまう。言に辺境、我々ルテティアは独立しようとした」


「うっ」


 実際独立を画策していた昭弥には重い言葉だった。


「で、今度は私たち、ユリア、いや陛下と共に貴族から権力を奪い返す必要があると?」


「そういうことだ」


「うわあ」


 権力闘争という言葉を聞いて昭弥は不安になった。鉄道オタクの昭弥としてはそういうドロドロしたことに関わり合いになりたくない。

 だが、付き合わなくてはならないだろう。

 それに隣にいる養父は、そんな事が三度の飯より好きそうだ。

 下手をしたら昭弥自身を操り人形にしかねないが頼りになりそうだ。


「ダキア王国女王コスティア陛下ご来場」


 その時、入り口の方から侍従が大声で伝えると、大広間の扉が開くと煌びやかな装いをした美女が現れた。 

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