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鉄道英雄伝説 ―鉄オタの異世界鉄道発展記―  作者: 葉山宗次郎
第三部 第一章 戦争終結
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交渉開始

「相変わらずとんでもない威力だな」


 流石武器作りが趣味の総督だ、とブラウナーは心の中で付け加えた。

 昭弥が聞いたら心底嫌そうな顔をして否定する言葉だが、ブラウナーは妥当な評価だと思っている。。

 それだけの成果、戦果、戦禍を昭弥の送り出した兵器達は生み出していた。


「末恐ろしくなるぜ」


 自分が参謀長を務める新設の装甲師団、その中核を為す独立重装甲歩兵第五〇一大隊、巨人で編成され彼ら専用の装甲と武装が与えられた重装甲重装備の大隊。

 それが専用列車に乗せられて運ばれて来るのだ。

 火龍や小銃は装甲ではじき飛ばせる。

 周軍の攻撃を防ぎきった後、主装備のガトリングを使って掃射し堅い目標物は小銃を大型化した大砲で吹き飛ばす。

 この戦術で周軍を掃討する。

 それがブラウナーの役目だった。

 本来なら装甲師団丸ごとで攻勢に出るべきなのだが、各所で反撃の為に分割されブラウナーが一隊を率いて救援に駆けつけた。一編成に全ての装甲戦力を乗せられないという理由もあり、各所へ分散投入されている。

 だが分割されても、その攻撃力と防衛力は猛威を揮っていた。


「しかし、マルケリウスも上手くやったな」


 マルケリウスの作戦は簡単だ。

 周軍が防御線を全て排除してやって来るのなら、全て排除できないようにすれば良い。最前線の各地に防御を固めた拠点を作って出来る限り後続部隊の足止めを行う。

 それでも拠点の隙間から侵入されるが、これらは後方の鉄道線を使って迅速に部隊を移動させて叩きつぶす。

 最初の拠点を攻略出来なかったのなら、後方へ進出する部隊も減るので対処は簡単だ。

 線路を破壊する部隊とはいえ、燃えやすい氷上船を中心とする部隊で後方へ進出するほど分割あるいは離ればなれになり一隻か二隻になる。

 そうした単独の氷上船を装甲列車で叩きつぶした。

 最初の第一線で多くの部隊を拘束し、侵入してきた少数の部隊を鉄道を使って撃退。

 しかる後に最前線陣地の救援に行く。

 以上が作戦の内容だった。

 しかし予想よりも進出する部隊と線路の破壊、更に吹雪で後方が混乱し前線部隊への増援が遅れてしまった。

 ブラウナー達も本来なら四日ほど早く到着予定だったが、途中で線路復旧と残敵掃討で遅れに遅れて今になってしまった。


「粗方片づいたようだな。アクスム軽歩兵部隊投入」


 ブラウナーが命じると列車の各所からアクスム出身者、獣人で構成される部隊が飛び出してきた。彼らは獣人の身体能力をフルに生かし、雪をものともせず前進して行く。

 そして彼らは重装甲歩兵が見逃した周兵を見つけ出し掃討して行く。

 あっという間に鉄道線の周辺から周兵は掃討され、鉄道工兵が前進してレールの復旧と除雪車のレールへの復帰(巨人族の皆さんが梃子で引っ張り上げた)を行い前線への補給線を回復させた。




「無事か! ガブリエル!」


「ユンガー中将!」


 自分の上官であり近衛歩兵第一軍団長のアデーレ・ユンガーが師団の操車場に降り立つとガブリエルは敬礼もせずに駆け寄った。

 それをユンガーは咎めず寧ろねぎらうように抱きしめた。


「遅れて済まなかった」


「いえ、信じておりました」


 そこで自分の状態に気が付いたガブリエルはアデーレから離れて敬礼をした。

 アデーレは答礼して状況を伝える。


「補給部隊も連れてきている。食料と燃料が満載だ。たっぷり食べて休んでくれ」


 そう言っている間にも復旧した鉄道線から続々と列車が到着し増援と補給物資を下ろしている。

 続々到着する補給列車に前線の陣地からも兵員達がやって来て補給物資を受け取り各陣地へ運んでいる。

 欠乏寸前だった彼らには嬉しい贈り物だろう。


「あたしの料理も出来ているから食べてくれ」


「ありがとうございます」


 ガブリエルは、予備役時代のユンガーが開いていた料理店の常連でありその味を知っている。軍団長になった今も当時の意識を忘れず給食部隊に最良の食事を提供するように命じているし、時折自分で作っている。

 飢餓寸前だったガブリエルの部隊にとっては勲章以上に嬉しいことだ。


「休んでいろ。後はあたし達がやる」


「何をするんですか?」


「敷設されていた線路を復旧しつつ反撃を行う。今がチャンスだ」


「ですが冬で雪に埋もれていますよ。敵の破壊工作もあるでしょうし」


「一から敷設するより遥かに楽だ。というより今反撃しなければ無意味だ」


「ならば私たちも」


「いや、四六時中防御に専念していたお前達は休んでいろ。命令だ。おい! ブラウナー!」


「何でしょう」


 かつて自分の元に配属されていた将校で今自分の指揮下にある装甲師団の参謀長である少将の名前を呼んだ。


「前進する。突破口を開け」


「了解しました」


 命令を受けてブラウナーは自分の部隊に命令を下した。直ちに巨人族の重装甲歩兵が前進を開始。周軍を蹴散らし始めた。

 呂は反撃するように命令したが到底敵うはずがなく、司令部にリグニア軍が近づくと先頭に立って退却を始めた。

 帝国軍の進撃は止むこと無く、線路を復旧させつつ東進を再開した。




 周による南方奪回作戦はリグニア帝国軍の大反撃により失敗した。

 作戦参加兵力三〇五万のうち、戦死、行方不明、捕虜の数は二〇〇万以上。負傷者に戦傷は殆ど無かったが、冷たい大地を歩いたため逃げ延びた半数以上が凍傷にかかるという大損害となった。


「どうしてくれるのだ!」


 命からがら飛龍で帝都に逃げ帰ってきた呂は、秦宰相の叱責を受けた。


「国土を奪回するどころか逆に軍を滅ぼされてしまった。敵の反撃まで受け再び神聖なる領土を奪われている。この罪をどう償おうというのか」


 心の中の怒りを全てぶつける秦。

 呂を大将軍に据えて最後の作戦で大勝利を収めさせることで戚に並ぶ武功とし、軍を掌握させようとした。それが今回の大敗北ですべて潰れた。

 まだ多くの兵が残っているが勝てる作戦が無ければ領土を奪い返すなど出来ない。

 使っていた戦法は氷上船を使う事が不可欠であり春に向かうこれからの時期、氷と雪が溶けた大地で運用することは出来ない。

 南方に通用するのは今の時期だけで失敗し今、今年度中の奪回は不可能だ。

 しかもその戦法も失敗したので勝つ見込みもない。これから再び領土を奪われるだけだ。

 雪解けと共に連中は鉄道とか言う鉄の化け物を使って再び乗り込んでくる。

 下手をすればこの帝京も奪われる可能性さえある。去年は冬と共に反撃し撃退できたが、作戦が敗れた使用不能となった今、周が存続できるかどうかも分からない。

 そんな状況で呂に怒りをぶつけても、何も解決しないことは秦も分かっていた。しかし何の方策も見つけられず怒りをぶつける以外に出来ることがなかった。


「失礼いたします」


「何だ! 今取り込み中だ!」


 勝手に入ってきた役人に秦は怒鳴るが、役人は縮こまりながらも用件を伝えた。


「へ、陛下が朝議を求めております」


「……なんじゃと」


 周の現皇帝文武帝は、先帝の遺児であったがまだ幼なく政務の殆どを宰相である秦に任せていた。

 それが自ら朝議、政務を行うと言い出した。

 すぐさま衣装の乱れを整えると皇極殿に向かった。


「陛下、宰相秦、只今参内致しました」


「うむ、宰相ご苦労であった」


 声を掛けられて秦は違和感を感じた。これまで余りに大きな職務に心が潰れそうで自信の無い声だった。

 しかし今の声は覇気に満ちている。


「戦況の方はどうだ」


「は、西原平原南方においてリグニア帝国軍に攻撃を……」


「嘘を言うな。リグニアの反撃に遭い大損害を受けていると聞いているぞ」


 秦の額に冷や汗が流れた。


「どうも戚を下がらせてから作戦が失敗するようだ。朕は人事を一新させるべく戚を大将軍に戻す。そしてリグニアとの講和を行おう」


 その言葉に秦は驚き一瞬、黙ったが直ぐに反対した。


「お待ち下さい。我が周に並び立つもの無く天子様の威光をもって、ただ蛮族がひれ伏すのみ。和を求めるなど並び立つことを認めるようなもの。周の存亡に関わります」


「だが、このままでは周は攻められ滅び去るのみ。ならば民が苦しまぬように今止めるべきだ。朕は止めるべく講和を説く」


「しかし」


「これは勅命である。リグニアに講和交渉を求めると、同時に交渉中の休戦を求めよ。戚を全権委任大使とし前線へ行き交渉を行わせる。良いな」


「……陛下の御心のままに」


 皇帝が朝議で宣言した以上、宰相に過ぎない秦に止める事は出来なかった。


「リグニアが認めるか」


 皇極殿を出た秦は誰もいない事を確認して吐き捨てた。

 精々リグニアに撥ね除けられ自分の顔、皇帝の威信に泥を塗らせよう、と秦は考えた。

 威信の無くなった皇帝など滅ぼされても仕方ない。

 易姓革命。

 天命が今の皇帝を必要としないとなったら、新たな皇帝が出てくるだけだ。

 その時、自分が皇帝になろうと秦は決めていた。今回の一件はその実現に大いに役に立つ。

 だが、秦の予想に反してリグニアが講和を受け入れてきた。

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