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鉄道英雄伝説 ―鉄オタの異世界鉄道発展記―  作者: 葉山宗次郎
第三部 第一章 戦争終結
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防衛戦開始

「攻撃開始!」


 呂将軍の命令で未明に攻撃が始まったのは、晴れた夜の未明だった。

 吹雪いていたのが嘘のように収まり北風だけが吹いていた。

 攻撃には絶好の条件であり、百キロに及ぶ前線上を火龍が火を噴き夜空を飛んで反対側にある帝国軍の陣地に降りて行く。

 樟脳を含んだ火薬や油の詰まった筒が飛び込み帝国軍の陣地を炎上させた。

 その隙に周の歩兵達が前線陣地に忍び寄る。

 リグニア帝国軍の火力は圧倒的だが、火龍の攻撃がある間は頭を上げられず攻撃不能となる。

 その隙に前線に取り付き白兵戦に持ち込んで占領する。そして氷上船が突入し後方へ進出して領土を奪回する。

 それが周軍の新戦術、新戦法だった。

 この方法で今冬からの大反攻でリグニアに奪われた領土を奪回してきたのだ。

 今回の南方奪回がその締めくくりとなる。三〇〇万以上の兵を集めて攻撃を行う大攻勢。

 敵は精々八〇万を超えるか否か程度だと推測されていた。


「勝てる」


 呂は確信した。

 他の戦線でも攻勢をかけて牽制している。

 大反攻による損害で兵力不足のリグニア軍に増援の余裕は無い。

 この戦いは勝てる、と呂は確信していた。

 戦線のほぼ中央にある前線近くに置いた司令部で指揮を執っている。 進撃で部隊が前進しても指揮が執れるようにだ。

 成功を前提にした位置取りであり呂の自信を現していた。

 だが突然、前方から砲撃音が響いた。


「連中まだ生きていたの」




「撃ちまくれ!」


 火龍の攻撃が終わった後、ガブリエルは砲撃を命じた。

 敵の位置はわからない。だが兎に角撃って敵を接近させないことが必要だった。

 少し小高い丘の上に作った司令部の掩蔽壕、屋根を作って土を被せて火龍の攻撃に耐えられるようにした壕の覗き穴から見る戦場は地獄だ。

 あちらこちらでリグニア軍の着弾による炎が立ち上がり、その中に人影が映る。

 心地よいものではないが、攻撃が成功している証拠だ。

 だが砲撃というのは当てずっぽう、命中など期待できない。敵が多い場所に向かって出鱈目に撃っているようなものだ。電信によって弾着修正は行っているが火力不足だ。

 おまけに雪が敵になっている。砲弾が雪の中に入って爆発の威力を殺している。予想より周兵の損害は少ない。

 そのために足止めの鉄条網が作られている。雪で積もる度に掘り出すのが大変だが、足止めには十分だ。

 更に各部隊が最新式の後装銃で敵を銃撃して行く。発射速度が速く伏せたまま装填できるので便利だ。

 そして足の止まった周兵にガトリングによる弾幕が止めを刺し、陣地前で押さえている。

 戦闘開始から暫く経つが陣地に侵入されたという通信報告は無い。最新の電信を使った通信網が各陣地を結んでおり、砲撃で断線しない限り大丈夫だ。

 電気が入るか切れるかで信号となりやりとりが出来るそうだ。どういう仕組みかはよく分からないが直ぐに連絡できるのはガブリエルにとって有り難い。

 直接会話できる電話という通信装置もあるそうだが、生産が間に合わず配備されていなかった。

 それでも状況は分かる。少なくとも敵兵が侵入していないのは良い。


「おい、機関車は後方へ移動したか?」


「はい、攻撃開始と共に命令し向かわせました」


「宜しい」


 幕僚の報告を聞いてガブリエルは安堵した。

 ユンガー中将から敵の攻撃が始まったら、どのような手段を使ってでも機関車を後方へ送り出せと命令されていた。機関車こそ重要だという上級司令部からの命令だった。

 そこで操車場にいた機関車を全て、列車に繋がっていた機関車も含めて標準軌の機関車は全て後方へ走らせた。

 狭軌の機関車は師団内の補給が主で後方への線路が無いため師団の主陣地に残している。

 他の部隊に補給に行っていた機関車もやって来て彼らも後方へ送り出している。

 そのために大火力を集中させて援護させた程だ。何とか上手く行って、今は周軍への対応を行っている。

 だが、その砲撃が少し鈍り始めた。


「どうしたんだ」


 疑問に思って周軍の方向を見て直ぐに気が付いた。


「夜が明けたか」


 丁度東の大地から出てくる太陽が目に入った。

 強烈な爆発の光を見ても、弱々しい冬だとしても朝の日差しはキツい。

 その光の中にいる周の兵士を狙うには太陽が眩しすぎる。


「各陣地に相互援護を命じろ!」


 他の陣地に向かっている敵を横合いから攻撃したり、後方から予め決めておいた地点へ砲撃する援護方法だ。

 元々敵兵が雲霞の如く押し寄せてきたとき十字砲火で仕留めるために考えたのだが、意外と役に立つ。


「何とか一波は凌げるかな」


 砲撃音が止んできた。周の兵士を撃退出来たらしい。ひとまずホッとしたガブリエルだが、通信兵の話を聞いて絶句した。




「目の前の陣地の砲撃に失敗したですって」


 苛立たしげにオネエ言葉で呂は聞き返した。


「はい、ですが陣地周辺に進入路を確保しています」


「敵の陣地が残っているんじゃ後方から砲撃されちゃうじゃ無いの」


「ですが、後方へ兵力を送らなければ作戦は失敗です」


「むう」


 前に第一波の攻撃で残った陣地に攻撃を仕掛けてイタズラに兵力を失ったことがあり、呂としても二度と同じ失敗を繰り返す訳にはいかなかった。


「第二波の目標を前方の陣地に変更させて。予備も追加して正面陣地に再攻撃を仕掛けるわ。他の部隊は予定通り進撃させて」


 以前は他の部隊の予備も掻き集めたため失敗した。今回は正面の陣地の後方へ向かう予定の部隊も正面の陣地攻略に向かわせる。

 第二波と予備は味方が占領した陣地を超越して進撃するのが作戦なので、陣地が落ちていないなら攻撃させるしかなかった。


「しかし、予備の兵力が」


「目の前の陣地を潰さないと予備も前に行けないわ。兎に角目の前の陣地を落として。落とした後は総予備に進撃させるわ」


 部下の進言をはね除け、呂は攻撃を命令した。




「敵の第二波接近」


「後方からの増援は?」


「断線しており通信不能。状況不明です」


 幕僚と通信兵の報告を聞いてガブリエルは頷いた。

 一応陣地を作って防御していたが陣地の無い部分、師団の両翼から離れた位置から侵入されて後方に抜けられてしまった。

 本来なら隣の師団がもう少し近づいてがっちりと抜ける隙も無いほど固めたい。だが兵力不足の為、部隊の間隔を開けて守備していた。

 そのため各所に隙間があり後方に進出されて標準軌の鉄道路線、補給線が占領されてしまった。

 増援無し。

 通信線も切られて電信も他部隊や上級司令部への通信は無理。

 幸い、最後の通信で襲撃報告と増援要請を出せたし、師団内の陣地とは連絡が取れる。


「大丈夫でしょうか?」


「心配するな。はじめから予定通りの行動だ」


 兵力不足と周の攻撃を受け止める防御の為、ユンガー中将からは兵を散らして配備する散兵では無く陣地防御にして守りを固める。陣地と陣地の間をすり抜けてくる周兵は攻撃可能なら攻撃するが他は放って置く。

 つまり、孤立する前提で陣地構築をしていた。


「弾薬と食料の再分配を行え。給食も行って兵士に食べさせろ。温かいものだぞ。それと兵士には汗を拭うように伝えろ。汗が流れると凍って悲惨だぞ」


 部隊への指示を終えた後、出されたお湯を受け取って飲んだが、見張りの叫び声に邪魔された。


「敵の攻撃です」


「退避しろ!」


 見張りが掩体壕に飛び込んできた直後、火龍が雨あられと陣地に降り注いだ。

 風に煽られた火龍の一部が司令部の周りにも落ちている。


「被害は?」


「軽微のようです」


 部下の報告を聞くがどうしても気になってガブリエルが覗き穴から確認すると、雪原上を大量の氷上船がこちらに突撃してくる光景が見えた。


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