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経営の常道

鉄道の経営が順調かどうか調べる昭弥達。

「社長。今期の収入が纏まったわ。あと、輸送量の資料が旅客と貨物でそれぞれ出とる」


「ありがとうございます」


 昭弥はサラから書類を受け取って確認した。


「素晴らしいね。収入は大幅に上がっている」


「旅客、貨物共に増収増益や」


 サラも貿易関係を任されているので満足だった。


「けどな、鈍りはじめとるん」


「どういうことです?」


「一番収入が大きいのは、帝都への貨物列車や。けど、これ以上列車を走らせるのは無理なんよ」


「セント・ベルナルド峠のせい?」


「当たりや」


 サラが別の書類を出して説明した。


「あそこはウチらの会社と違って単線やから一日おきに上りと下りが入れかわるんや。よって通せる列車の本数が半分以下や。おまけに帝国鉄道の分もあるわけやから、これ以上の増発は無理や」


「仮に出来たとしても帝国鉄道だと事故が多く遅延も多いからこちらのダイヤに乱れが生じる」


「その通りや」


 現状では、多くの列車をセント・ベルナルドに留置しておきダイヤの時間になったら順繰りに送り出す方式を採っている。

 こうすることで、少しでも空きを減らしている。

 また、旅客列車に関しては帝都直通便は作らず、セント・ベルナルド止まりにしてある。

 帝都行きに関しては、セント・ベルナルドで切り離し、別の列車として帝都に送り、帰ってきた列車に関しては、王都行きの列車で空いている列車に繋げて帰るという方式を採っている。


「このセント・ベルナルドの部分だけでも新線を作って輸送量をふやさんと」


「いや、新線は暫く作らない」


「なんでや」


 昭弥の言葉にサラは驚いた。


「帝都行きの貨物は会社の金の卵を生み出す鶏やで」


「確かに、けどあのあたりは帝国の直轄領で建設には帝国と交渉しなければならない。下手に申し出るとどんな条件を吹っ掛けられるか分かったもんじゃ無い」


 ただでさえ借金をしてるのに、これ以上条件を付けられるのは勘弁したい。


「あと新線の建設も危険だ。あのあたりは緩やかだけど、山岳地帯だから厳しい」


 平らなところと険しいところだと、険しい方が建設は難しい。半年ほどで線路をコルトゥーナからオスティアまで延ばせた理由も、平らな場所に線路を敷くことが出来たからだ。


「何より、峠を越しても帝都までは帝国鉄道を使うことになる。そこも単線だし、事故が多い。思ったほど状況は良くならないよ」


「せやけど」


 だが、サラは更に勧めようとした。収入が一番大きいの帝都行きだからだ。それを感じ取った昭弥は更に反対の根拠を示した。


「それに帝都行き列車に頼るのは危険だ」


「旅客も帝都行きの列車が多くを占めとるんや」


「帝都頼りの収入を改善する必要がある。もし、帝都が不況になって帝都行きの貨物と旅客が激減したとき、この王国鉄道も収入激減だ」


「確かにな」


 言っていることは正しい。

 バトゥータ商会でも寒さに強い作物と暑さに強い作物を同時に扱うことで、暑くなろうが寒くなろうが一定の収入が入るようにしている。


「でも消費地があるんか?」


「この王都だよ」


 昭弥は気軽に答えた。


「需要あるんか?」


「ある。というより需要が生まれるように事業を進めてきたからね」


「どういうことや」


「本社や製造工場、機関区、車両区などの鉄道会社関連だけでなく、港や研修施設を作ったのも人を集めるためさ。そこで働く人間に支える事務の人間。更に彼らを当てにして商人達が集まる。鉄道が来たことにより、人が集まりつつあるんだ」


 いわゆる相乗効果だ。

 一つの地場産業しか無くても、働く人や家族を相手にする商売、飲食業、スーバー、床屋、郵便局などその人達が必要とする商売が出てくる。そしてそれらの産業で働く人も商売の対象になるから集まる人も多くなる。

 元になる産業の何倍もの金が動くことさえ有るのだ。

 昭弥はそれを狙って様々な事業を行った。


「ホテル業や倉庫業、貸店舗業、不動産業などに手を出したのもそのためだ。実際、利益が出ているだろう」


「まあ利益は上っとるな」


「なら問題ない。王都周辺で列車を動かして利益を上げよう」


「そんなん有るんか?」


「前回の数字を見ると貨物も旅客も帝都行きの列車の割合は変わっていないね」


「そうやけど……!」


 そこまで言われてサラは気が付いた。


「そう、収入額全体は上がっているのに割合は変わらない。全ての路線で収入が増えているんだ。沿線で経済が活発化している証拠だ」


「と言うことは」


「他の路線でも増収するチャンスが増えている」


「ほな他の路線でも貨物列車や旅客列車をふやすんか?」


「うん、特に各駅停車の貨物列車を増やそうと思う」


「どうしてや?」


「元々、農作物の需要はあったけど、腐敗や保存の問題で王都に入ってくる量は限られていた。馬車や水運だと何日もかかってしまうので、小麦など腐らないもの以外、生のまま運ぶのは無理だった。だが、鉄道なら一日で運び込むことが出来るから問題ない。これらの農作物を王都に運び込めば、新たな産業になるし鉄道会社も儲かる」


「なるほどな」


「他にも様々な物が運ばれて来たり、王都から運んだりするようになる。いや、そうなるように仕組んでいる。先物市場の情報が届いたけど、数ヶ月先まで取引量が多い」


 昭弥が先物取引市場を開いた理由は、物価の安定と輸送量の確保だ。

 先物取引というとギャンブルのように聞こえるが、実際は逆で安定した取引を行う為の仕組みだ。

 例えば、普段食べる米の値段がその時々の値段で売買されているとしよう。その時々で売買されるため食費がいくらかかるか分からない。特に長期間、数ヶ月先の事が分からないと、どれだけ出費を抑えたり増やしたりすれば良いか分からない。

 そこで登場するのが先物取引だ。予め何ヶ月か先に商品を決まった値段で買うことを決めておけば、先の見通しが分かる。そうなれば予定が組みやすくなる。

 物価が時価では無く定価で売買されているのは、先物取引により決まった値段で予め購入できるからだ。

 農家の方も、売れるかどうか分からない作物を作るより、買ってくれる相手がいて予め値段が決まっていればそれに合わせて種をまき肥料を使い、人を雇って収穫できる。

 このように物価を安定させ、一定の商取引が出来る様にしている。

 また、鉄道会社に取っても有効だ。

 取引量が分かれば、どこからどこへどれくらい荷物が運ばれるか分かる。

 予め貨物列車を用意しておいて走らせる事も出来るので、ダイヤを組むのに役に立っている。


「凄いわな。しかし……」


「何です?」


「いや、昭弥はん会社より王国の発展を第一に考えているようで」


 サラに指摘され昭弥は黙り込んだ。

 まずったか。サラは一瞬触れてはならない話題だったかと思い込んだが、昭弥はゆっくりと話し始めた。


「鉄道が好きなんだ」


「はあ」


「けど、この国は鉄道が出来たら王国の外から安い商品ばかりが入ってきて王国の商品は売れないわ、王国の富は出ていくわで大変だ。それが鉄道が原因だと言われて悲しかった。鉄道は上手く使えば豊かになれるのに、逆に貧しくなると言うのは許せなかった。だから豊かになれるように色々としたのさ」


「すごいわ」


 サラは素直に驚いた。

 自分は商売をやっているが、商家に生まれたからなんとなく自分も継ぐんだと思って、入って来ただけだ。

 自分の好きなことで人々を豊かにしようと決心し実行している。

 王国の支援、帝国の資金援助などがあったにしろ、それらを有効に活用して成果を上げるのは至難の業だ。


「しかし、よく上手く行くわ。まるで昭弥はん別世界から来たみたいやわ」


 何気なく言ったサラだったが、昭弥は今度こそ本当に固まってしまった。


「あの……昭弥はん」


「という話は置いておいて、早速貨物列車の手配を頼みます。とりあえず一日一本ぐらいで動かします。ただ予備の用意を忘れずに、これは収入が上がったときの増備にも使いますので多めに」


「は、はいな」


 力強く、半ば強引にやれと口では言っていないが、昭弥の目に今までに無い強い力を感じてサラは飛んで出ていった。

 今までに無い昭弥の態度にサラは驚き、困惑しながらも仕事にかかった。

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