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鉄道英雄伝説 ―鉄オタの異世界鉄道発展記―  作者: 葉山宗次郎
第三部 第一章 戦争終結
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攻撃と防御

「本当か?」


「ああ、大丈夫だよ」


ヴィルヘルミナ元帥の前で答えるマルケリウスにブラウナーが尋ねた。


「信用できないかい?」


「そりゃ、あの花火の化け物みたいな物の攻撃を受けたらな」


 心外だといった雰囲気のマルケリウスにブラウナーは正直に答えた。

 周は攻撃前に火龍というロケット兵器を帝国軍の前線に雨あられと降らせ、混乱させた上で突撃してくる。そうして幾つもの前線が破られてきた。

 その度にブラウナー達は孤立し救援が来るまで苦戦を余儀なくされた。

 そんな恐ろしい兵器が怖くないとかいうマルケリウスが信じられなかった。


「ああ、あれは怖くないよ。と、言うより余り威力はないし、脅威でも無い」


「? どういう事だ?」


「彼女の戦術はこうだ」


 そう言って部屋の片隅にあった黒板にチョークで書き始めた。


1.予め前線に沿って百キロ以内に戦力を集めておき前線から順に第一波、第二波、予備の三つの部隊に分ける

2.最前線に置かれた第一波は帝国軍の前線を火龍で一斉攻撃し帝国を混乱させ攻撃できないようにする。

3.帝国軍の混乱に乗じて周の第一波は突撃し帝国軍の前線を破壊する

4.占領した前線に向かって氷上船にのった第二波が突撃して前線後方の陣地を占領する

5.予備は氷上船に乗り込み第一波、第二波が占領した前線を乗り越えて帝国軍の後方へ向かって一直線に突き進む。


「これが彼女の戦術だ。火龍で前線を混乱させて機能不全にした後、真っ直ぐ一直線に全部隊を突撃させ後方奥深くまで部隊を進めていく」


「ああ、おそろしいな」


 ブラウナーは口元を歪ませながら答えた。

 この戦術で何度も痛い目に遭っていたからだ。


「でもこれには幾つか欠点がある」


「? どこにだ?」


 ブラウナーの質問にマルケリウスはゆっくりと答えた。


「この戦術は基本的に帝国軍の前線や陣地に乗り込んで制圧する必要がある。そのため大損害を受ける。その上で更に部隊を前進させるので大量の部隊が必要だ。それだけ兵站の負担が大きい」


「おい、俺たち以上の兵力を運用してると言う事かよ。俺たちは鉄道でようやくだぜ」


「簡単だよ。氷上船で輸送しているんだ」


 凍り付いた大地の上を橇の付いた船で移動するのが氷上船だ。大小様々な大きさがあるが、大型になると小型外洋船くらいの大きさがある。


「今は強い北風が吹いているから簡単に東西方向へ移動できるしね。なによりこの戦法の最大の要点は、この氷上船による遠隔地への兵員の大量輸送だ」


「? 前線を占領されるからじゃ無いのか?」


「そうだよ。けど、それは後続を僕たちの後方へ送り込むための手段、準備に過ぎないんだ」


「後方へ兵力を送るのがそんなに凄いのか? 確かに後ろに回られると補給が無くなって困るが」


「それが今の帝国軍には一番キツいんだよ。何しろ弾薬の消費量が増えたからね。後方からの補給が無いとあっという間に弾薬が欠乏する」


「それはよく分かっているよ」


 防御戦の時、ブラウナーはそのことを良く分かっていた。

 補給が途絶えて減っていく弾薬を寒さと恐怖で震えつつ数え、何処の部隊に配置し直すか考えた。弾薬が無くなれば敵を防ぐことは出来ず皆殺しに遭う。だから何処の部隊も必死に弾薬を確保しようとした。

 予備が無くなって弾薬が余っている部隊に回収に行ったが碌に戦っていないのに撃ち尽くしたと言われて隠してあった弾薬を見つけ出す作業までした。

 それだけ弾薬不足と欠乏は怖い。


「後方へ移動するということは補給線を抑えるのと同意義なんだ。だからこそ今の帝国軍に対して有効な戦術なんだ。特に鉄道は一箇所を切断されると通行不能になる。しかも広範囲で突破し後方へ行くから前線部隊の殆どが補給不能になる」


 殆どの部隊は鉄道線に沿って活動しており武器弾薬、部隊の補充は鉄道で行われる。それが寸断されるのは、帝国軍の活動が停止するのと同じだ。

 そのことを改めて言われてブラウナーは、ぞっとした。


「……確かに恐ろしい戦法だな。だが、対抗できるのか?」


「簡単だよ。突破出来ないようにすれば良い。簡単に言うとこれまで僕たちがしてきたように各部隊を拠点に入れて防御させる。そして後ろに行こうとする氷上船を撃破していけば良い」


「けど上手く行くか? 火龍の雨あられだろう」


「火龍は確かに一斉攻撃に仕えるけど持続力がない。一回撃てば終わりさ。あとは慎重に排除すれば良い」


「けど百キロ単位で攻撃してくるんだろう。どっか突破されるんじゃ無いのか?」


「そうだね。けど、後方には鉄道線があるのだから装甲列車を使えば良い」


「これまでもあっただろう」


「今までは義勇軍やパルチザン対策に運用されていたからね。彼らに立ちふさがるように配備すれば立派な防御施設だ」


「それにブラウナーが運用する新兵器もあるしのう」


 マルケリウスの言葉を補強するようにヴィルヘルミナ元帥が付け加えた。


「まあ、それは良いのですが上手く行きますか?」


 だがまだ浮き上がる疑問をブラウナーはヴィルヘルミナ元帥にぶつけた。


「どういう事じゃ?」


「聞く限りでは、今回の作戦は周が攻撃を仕掛けてきたら我々は防御。敵の攻撃を耐えて私が参謀を務める部隊で反撃する作戦のようです」


「概ねそうじゃ」


「つまり防御ということです。ですが敵、攻撃側の最大の長所は攻撃地点と時間を選べることです。南方軍集団での決行を考えているようですが、中央軍集団や北方軍集団で攻撃を行ったらどうするのですか?」


「大丈夫、南方軍集団へ攻撃してくるよ」


 ヴィルヘルミナ元帥に代わってマルケリウスが自信をもって断言した。それでもブラウナーは疑いの目を向けた。


「何でだよ。南方軍集団は今まで大規模攻勢は無かっただろう」


「だからだよ。南方軍集団を攻撃できるのは今しか無いんだ」


「どうして断言できるんだ?」


「氷上船の限界があるからね」


 尋ねられたマルケリウスは逆にブラウナーに尋ねた。


「氷上船はどういう物だ?」


「え? 冬の間雪や氷で覆われた大地を風を受けて進むんだろう……」


 そこまで言ってブラウナーは気が付いた。


「南方軍集団は南だから雪と氷で覆われる期間は冬のど真ん中、これからの時期しか無い」


「その通り」


 正解を出したブラウナーをマルケリウスは褒めた。

 氷上船は何の障害物の無い雪原、障害物が雪に覆われる冬の間しか使えない。今季は冬が早く来たのでより使いやすくなっている。

 だが、冬が終われば氷上船が使えなくなり、この戦法は使えなくなる。


「特に南方は冬が短い。準備や戦闘後の補給とかを考えると今の時期しか攻撃できない。今を逃したら周は南方の占領地を奪回できる機会が無くなる。少なくとも次の冬が来るまで失う」


 自信を持ってマルケリウスは断言した。

 自力での領土奪還を目指している周にとっては奪回の機会は絶対に逃せないだろう。

 だから今、攻撃に出て行くしか無い。


「だけど本当に来るのか? 中央や北方の方が動きやすいから、そちらに行く可能性も大きいだろう」


「そこは北方軍軍集団と中央軍集団を九龍山脈に撤退させる事でカバーする」


「それで上手く行くのか?」


「思い出してくれ、この戦法は氷上船で後方へ移動するんだ。山脈で使えるかい?」


「あ」


 氷上船は凍り付いた大地の上を滑るように走る。平野も起伏や障害物があるが雪に覆われて殆ど平坦になる。

 だが起伏や谷の多い山岳地帯では使いにくい。

 氷上船が要となる周の戦法は山岳地帯では使えないのだ。


「使用可能な場所が南方のみになるから南方軍集団へ攻撃を仕掛けるしか無い。例え北方や中央に攻撃を仕掛けても、後方へ行けないから前線で撃破できる」


「確かに上手い考えだな」


「まだ不安かい?」


「ああ。さっきも言ったが攻撃側は、攻撃するかしないか自由に選べることだ」


 この作戦は周が攻撃してくることを前提に立てられている。

 もし、周が攻撃を取りやめたら作戦は意味が無い。

 確かに今の話しだと彼らの次の機会は半年以上先の冬だ。攻撃しないと時を失う。それを向こうも分かっているが攻撃するか、しないかを決める事が出来る。

 それが事実なだけにマルケリウスも答えることは出来なかった。

 その時ヴィルヘルミナ元帥が済まなさそう二人に言おうとしたが出来ずにいた。

 なのでそれまで黙っていたトラクス大将が代わりに口を開いた。


「そこで二人には答えて貰いたいことがある」


 トラクス大将の声と共に奥の扉が開いて一人の人物が入って来た。


「始めまして、マルケリウス少将、ブラウナー少将。スコルツェニー大佐です」


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