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鉄道英雄伝説 ―鉄オタの異世界鉄道発展記―  作者: 葉山宗次郎
第三部 第一章 戦争終結
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作戦会議

 自分を運んだ鉄道自動車製造が作った自動車エクウスから降りたブラウナーは改めて車体を見回した。


「馬無しの馬車なんてたまげたな」


 感嘆の言葉しかない。馬がいないのに馬より早く走れるなど魔法の様だ。


「馬がいないんだから馬車じゃ無くてただの車では?」


 後から降りてきたマルケリウスが指摘する。


「うーん、何かイマイチな名前だな」


「大分余裕だな」


 迎えに来たトラクス大将が額に血管を浮き上がらせつつ二人に尋ねた。


「失礼いたしましたトラクス大将閣下」


 二人は気が付くと敬礼して答えた。

 トラクスは答礼した後、二人に話しかけた。


「遠路ご苦労。ルテティア第二軍の将兵は監視状態で最前線に送られたと聞いていたので心配したぞ」


「何とか生きて帰れました」


 遠い目をしながらブラウナーは答えた。

 フッカー大将の命令違反のお陰で生き延びたが、その後待っていたのは地獄の最前線送りだった。

 督戦隊に銃を突きつけられつつ周の猛攻を抑える。それも守備位置を殆ど変えずにだ。さらに補給は殆ど無い。

 そんな最悪な状況の中、二人は他の将兵と共に生きて帰ってきた。

 ただブラウナーとマルケリウスだけは九龍の東方総軍司令部へ出頭命令を受けて鉄道を乗り継いでやって来た。


「宜しい。では新たな戦地に向かえるな」


「まだ戦えと?」


 ウンザリするようにブラウナーは呟いた。


「周が戦争を止めようとしないからな。一度決戦で大打撃を与えて交渉の席に着かせる。時間が無いからサッサと向かうぞ」


 そう言ってトラクスは二人を連れて目的の部屋に向かった。


「上手く行くんですか?」


 トラクス大将の後に続いて歩くブラウナーが尋ねた。


「上手くいかせろ。その決戦部隊の参謀として二人には活躍して貰うんだからな」


「げっ」


「そう露骨に嫌な顔をするな。キチンと少将へ昇進させて権限も増やす」


 トラクスは嫌な顔をするブラウナーを宥めたが、その程度だとブラウナーの士気は上がらない。


「その前に休暇が欲しいのですが」


「部隊には与えておくが士官以上は働いて貰うぞ。決戦まで時間が無い。準備を進めるために書類仕事だ」


「そんな……」


「まあ、決戦後に休めば良いよ」


 しょんぼりするブラウナーにマルケリウスは声をかけた。


「本当に気楽で良いよなマルケリウスは」


「静かに。着いたぞ」


 そう言ってトラクスが開けた部屋の中には


「おう、小僧共が来たようじゃな」


 赤く燃えるような髪と瞳を持つ軍服を着た少女、いや幼女が部屋の真ん中の椅子にチョコンと座っていた。


「……誰です?」


 初めて見る幼女にブラウナーは思わずトラクスに尋ねた。


「妾を知らぬのか? まあ、仕方なかろう。この姿になって半年も経たぬ故、仕方ないのう」


「失礼いたしましたヴィルヘルミナ元帥閣下」


「ええ!」


 素早く敬礼したマルケリウスの言葉にブラウナーは驚いた。


「待て! ヴィルヘルミナ元帥は七〇近い婆さんだぞ! 負傷して後方へ行ったんじゃなかったか。というかこの幼女が!」


 驚くブラウナーにヴィルヘルミナは穏やかに説明する。


「かつての妾の姿を知っておるのか。まあ幾度もルテティアを訪れた故、古参兵の中には知っておる者も居ろうな。負傷したのは本当じゃ。ジャネットの魔道ガスを浴びてこの姿になってしまった故、軍務遂行不能と判断され更迭されたからの」


「ああ、なるほど」


 ジャネットという魔術師の名前を聞いてブラウナーは納得した。

 これまで幾度も戦場に自分の実験兵器を持ち込んで派手に爆発するところをブラウナーは見ている。

 なにより一度巻き添えを食らって死にかけているので説得力がある。

 一応、軍服の肩章が元帥であったし間違いない。資格無く付けたら最悪極刑に至るものだ。そんな事をする子供も親もいない。


「ご災難で」


 元帥と認めたブラウナーは頭を下げた。


「気にするな。腰の痛みが無くなったのを喜んでおるからの」


「と言うかよく分かったなマルケリウス」


「お若い頃の肖像画を見たことがあって、その姿に似ていたからね」


「女の年を口にするのはタブーじゃぞ」


 座るが良い、と言ってヴィルヘルミナは三人に座るように促した。

 といってもトラクスとは打ち合わせを終えているらしく、トラクス大将は席に着くなり黙ったままだ。

 なので話しは専らヴィルヘルミナ元帥とブラウナー、マルケリウスで話すことになる。


「二人を呼んだのは他でもない。妾が再度着任する南方軍集団において決戦を挑むことになったからの。その幕僚として来て欲しいのじゃ」


「なんで私も? マルケリウスならともかく」


 ブラウナーが疑問を口にした。

 兵隊出身で幕僚の経験は殆ど無い。

 確かにアクスム駐留軍で参謀長だったが、事実上指揮官として東奔西走した。王国の参謀将校過程は東方戦争前に卒業していて、この戦争には参謀長として従軍した。

 しかし八〇万近い兵力を持つ軍集団規模の幕僚経験など無い。

 そんな自分が就任しても良いのかという疑問がブラウナーの頭を過ぎった。

 軍団規模ならアクスムの経験が役に立つかもしれないが、軍の上の軍集団だと無理に近い。参謀は自分の部隊を掌握するだけで無く、周辺の同格部隊との交渉調整、上級部隊との意思疎通も任務に含まれる。

 軍集団以上の部隊のことなどブラウナーの知識にない。


「安心するが良い。軍集団の参謀長はマルケリウスじゃ。ブラウナーには主力部隊の参謀長を務めて貰う」


「ええ!」


 ヴィルヘルミナ元帥の言葉にブラウナーは再び驚いた。


「師団規模の連合部隊じゃ。その規模なら幕僚が務まるじゃろう」


「それぐらいなら何とか。でも主力ですよね」


「そうじゃ。恐らく次の決戦では文字通り戦を決するような戦力じゃろう」


「役に立つのですか?」


「ユリアの旦那の玉川昭弥とか言う小僧が鉄道兵器製造にて大急ぎでこしらえている所じゃ。大分自信があるようで胸を張っておったわい」


「ああ、あの人か……」


 ヴィルヘルミナ元帥の言葉にブラウナーは納得した。

 かつてアクスム駐留軍参謀長時代、当時アクスム総督だった玉川昭弥総督とよく会っていた。

 そして彼が毎回送り出してくる新兵器によって自分たちがどれほど助けられたことか。

 もし、総督がいなければブラウナーの両脚は大地から離れていただろう。

 何より武器の製造が趣味と言うくらい毎度毎度送り出している上、使えるものばかり。戦局が逆転したことだって一度や二度では無い。

 だからブラウナーは武器製造者としての昭弥を非常に評価していた。

 鉄道に心血を注いでいる昭弥が聞いたら泣き崩れること必至の評価だったが。


「それなら安心ですが、大丈夫なのですか? 私のような者が運用に携わって」


 それでもブラウナーは不安をぬぐえなかった。何より自分が抜擢された理由が分からないからだ。


「獣人、いやアクスム出身兵をまとめ上げたお主なら出来るじゃろう」


「そんな曖昧な。というか人間が操るんじゃないんですか。そもそも周の新戦法を破ることが出来るのですか?」


「出来る。と、そこにいる小僧は主張しておる」


 ヴィルヘルミナ元帥の視線の先にはマルケリウスが座っていた。


「おい、大丈夫なのか? マルケリウス。武器で優位に立っている俺たちを叩きのめしている連中に勝てるのか?」


「大丈夫だよ」


 穏やかに微笑みながらマルケリウスは答えた。

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