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周軍大反攻

 城市の見張り台から、東の方で幾つもの火柱が林立するのが見て取れた。いや、火矢のように遠くから光の尾を残して地面に落ちて爆発している。

 それが、ずっと続いている。


「何事だ!」


 思わずウァロは叫んだ。

 狼狽えるのは指揮官として、みっともない姿だったが、何が起きているのか全く不明だった。

 我が方の新型大砲でもこんな勢いで発射することは出来ない。

 魔術師の集中投入という事も考えたが、周の連中は占いばかりで攻撃魔術を使うことは少ない。

 情報が必要と思い見張り台から降りて自分の司令部へ駆け込んだ。


「前線からの報告は! 何処から攻撃が来ている!」


 司令部付きの通信技士達に怒鳴るように尋ねたが、返ってきたのは情報の洪水だった。


「第四分遣隊より攻撃の報告」


「第三監視哨より東方での爆発を確認」


「第七分遣隊攻撃を受けているとの報告が」


「第三大隊より救援要請」


「八中隊、損害多数」


「第一五中隊、指揮官戦死」


「第二一中隊、応答なし」


「第一一分遣隊、応答なし」


 次々と入ってくる報告で一時司令部は混乱状態に陥った。入ってくる情報を分類して分析して、通信のあった地点を地図に示すことでようやく東方の防衛線全域で攻撃が行われていることを知った。


「間違いないのか。これほど大規模な攻撃が出来るのか」


 自分たちの大砲でもこれほどの攻撃が出来る訳では無い。

 数キロに及ぶ防衛線に満遍なく濃密な砲撃を行うなど何千門も必要だ。

 周のような蛮族に出来る訳がないと思っていた。


「敵は何処から侵入してきている」


「第八分遣隊より通信。陣地内に敵部隊侵入、白兵戦に突入す」


「第三中隊陣地へ侵入、応援求む」


「第五大隊より、増援要請」


「待てどこから敵は入ってきているんだ」


 敵兵の侵入に驚いたウァロは思わず尋ね返した。


「前線より入ってくる通信は全て敵兵の侵入を報告しています」


 やって来る通信をとりまとめた参謀長が報告した。いくつか報告が無い陣地もあったが、その陣地はこちらからの問い合わせに対する応答自体がない。




「敵の陣地、制圧完了しました」


 周の兵士が指揮官に報告した。


「よし」


 周辺を見て抵抗する人間がいない事、いや、動いているのが我が周の兵士のみである事を確認した。リグニアの兵士は全て地面に倒れている。その倍ほど周の兵士が倒れているが想定内だ。敵の拳銃やライフルによる抵抗で一人制圧するのに数人がかり、そして半数が死傷する。

 突入前に爆弾を投擲したが、どうしても生き残りが出てしまう。そいつが反撃してくると、数人の周兵が撃ち殺される。

 最終的に敵の倍近い損害が出てしまう。

 だが、陣地は制圧した。


「隊長、後方より部隊がやって参りました」


「信号を上げろ。でないと俺たちが焼き尽くされるぞ」




「前方の陣地、制圧完了しました」


 前方から上がった打ち上げ花火を見て、兪は戚に報告した。

 火龍の大量使用による制圧射撃で陣地を瞬時に麻痺させる。その隙に歩兵が接近して、突入し制圧。全ての前線陣地を攻撃するので敵は対応できない。

 あとは人数にものを言わせて陣地を制圧する。

 爆弾と前装銃のみでは被害は甚大だが、制圧しなければこの後の作戦に支障が出てしまう。

 制圧できなかった場合も後続部隊による再攻撃を行うという、対応策は考えてあるが余計な時間を取りたくなかった。


「第二段階に移ります。ご命令を」


「では、全軍出撃!」


 戚の号令と共に船体に板を付けた氷上船、風力車が、一斉に帆を張り、連日吹き続く北風を受けて凹凸の無くなった雪原を飛ぶように進んで行く。

 制圧された陣地の横を通り過ぎ、次の目標である敵の城市に向かって行く。

 前方の城市の脇を通り過ぎようとする氷上船へ帝国軍は砲撃を仕掛けるが、高速で移動する氷上船に狙いを付けるのは至難の業で、多くを取り逃がした。

 重い防寒服に身を包み雪に足を取られながら進むのでは、カタツムリのように遅くて、十分砲撃を浴びせる事が出来るのだが、滑るように進む氷上船を攻撃するのは難しかった。

 そして一部の氷上船は火龍の射程に入ると、船上の甲板に火龍を並べ城市に向けた。


「撃て」


 先頭の氷上船から火龍が続々と打ち続けられ、城市周辺の陣地に滑り込んで行く。

 駐留しているリグニア軍の兵士は次々と降ってくる火龍に当たったり、爆発に巻き込まれたり、炎に包まれ、大混乱に陥った。

 掩体壕に入っていた兵士は助かったが、のぞき穴から外を見ようものなら、爆風や油が飛び込んでくるため、顔を上げることが出来なかった。

 火龍が放たれている間、何の抵抗も出来ず、敵兵の接近を許した。

 そのため城市に取り付き、周辺の陣地を制圧して行く。

 生き残れた陣地から大砲とガトリングが火を噴くが、すぐさま火龍が千発単位で殺到してきて陣地ごと燃やしてしまった。

 城市が殆ど陥落寸前である事を確認した戚は命じた。


「ここはもう大丈夫でしょう。制圧部隊に任せて前進を続けて下さい」


「はい、ですが。速力を落としませんか? この勢いですと落伍者が出ます」


「却下します。最大限で各自進んで下さい。落伍者は置いてゆき、各自追いつくように」


「宜しいのですか」


 この寒さでは、歩いて追いつくことは出来ないし、凍死の可能性も有る。事実上氏ねと言っているようなものだ。

 だが、戚は揺らがなかった。そのことを解っていても命じた。


「この作戦で必要なのは速力です。如何に早く敵の後方へ進出し奪回できるかに勝負が掛かっています。迅速に前進しても落伍者は追いつくか、後続の船に乗れば良いのです。ですが、逃げ遅れた敵は、抵抗して我らに押しつぶされるか、降る以外はありません。敵を壊滅させるためにも、迅速に後方へ進出して下さい。如何に早く進むかで勝敗は決まります」


 穏やかだが有無を言わせぬ迫力、決して曲げることの無い意志を持って戚は命じた。


「全部隊、最大速力で進みなさい」


「は、はい!」


 その迫力に押されて兪は、麾下の部隊に前進命令を出す。

 城市を後方に残すことになるが、気にしない。氷上船には大量の火龍の他に兵士や食料燃料を搭載しており、後ろからの補給は必要ない。水は雪を掬って燃料で熱すれば得られる。

 風が吹く限り、彼らは前進し与えられた目標へ向かって突進を続ける。

 だが、前方に新たな敵が現れた。




「師団長! 味方の連隊がやって来ました!」


「よし、良いぞ!」


 後方警備に置いていた予備の歩兵連隊の一部が鉄道を使ってやって来ている。

 一編成のみで一個大隊が乗っているに過ぎないだろうが、今の状況では非常に役に立つ。

 盛大に汽笛を鳴らした後、停車してその場に歩兵達を展開させる。広大な平原に歩兵達は展開して周軍への反撃を開始した。

 一人一人が展開する散兵戦術のため、大砲で狙い撃ちできないし、後装ライフル銃のため発射速度も高く火力も高い。

 氷上船相手でも大砲で狙い撃ちできる。

 はじめは上手く抵抗できていると思われたが、やがて氷上船が停止して火龍を並べると再び大量発射した。

 ロケット弾は、命中率が低いが大量投入で広範囲への制圧攻撃を可能とする。特に遮蔽物の無い広い平野は、効果を上げやすい。

 何の障害物も無い平原に展開していた歩兵や砲兵達は、無数のロケット弾の飽和攻撃を受けて、大地ごと纏めて焼き尽くされた。

 大損害を受けて混乱したところへ周の歩兵が殺到。大軍の前に救援の部隊は全滅した。

 残った兵も列車に乗り込み命からがら撤退した。

 勝った周の兵士達は何事も無かったかのように氷上船に乗り込むと、進撃を再開した。




 結局、ウァロ少将の師団は、前方に展開していた二個歩兵連隊は全滅。

 城市にいた予備部隊は戦ったが、周囲を敵に占領され、鉄道も遮断。周囲から孤立した。城市の城壁を盾に籠城していたが、周の大軍の中では小さな岩礁に過ぎなかった。日に日に不利に陥っていることを実感した上、城市内の民衆が蜂起して城門を開けたため、周の大軍が侵入、数日の内に陥落した。

 結局、後方で警備にあたっていた一個連隊のみ脱出出来たが、迅速に進む周の大軍の為に各所で包囲され、撃滅されるか、降伏するしか無かった。

 彼らだけで無く、北方軍集団の全戦線で同じような事が起こり、周の大軍の侵入を許した。一部、防御準備に成功して籠城するが、周りが制圧されているため、孤立し各個撃破されて行くしかなかった。

 鉄道輸送により対応しようとしても、各所で周の大軍により線路上を占領され、移動が制限された。

 それどころか、一部の操車場への攻撃が行われ、占領されてしまい鉄道網の分断が起きて、効率よく増援を送ることが出来なかった。

 何より、周の総兵力が多すぎて北方軍集団の対応能力を超えていた。

 入ってくる情報は全て交戦中、応援望む、助けてくれ、という悲鳴ばかりだ。

 それらの通信は直ぐに入ってこなくなったが、陣地が制圧されたため、というのは自明だ。

 こうして周は二日間にわたり進撃を行い、北風が常に吹いていたこともあり二日間で最大百キロの進軍に成功。

 その中にいた大半の兵力を撃滅か捕虜にした。

 リグニア帝国軍北方軍集団は事実上、壊滅した。

 紛れもなく、この戦争が始まって以来、初めての周の大勝利であった。

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