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帝京砲

 袁が出て行くと昭弥は直ぐに支度を始めると同時に、現状を再確認した。

 どうして皇帝が自分を今頃になって呼び出したのか。

 戦況が思わしくないので、敵国の大臣を呼び寄せて話しをする事で我が軍は対等に戦っていることを示したいのか。

 あるいは、昭弥を引き出し打ち据え、首を刎ねることによって味方の士気を上げようというのか。

 切羽詰まっているなら後者の可能性はあるが、それなら問答無用で兵士を派遣して召し捕るはず。城内に呼び寄せて捕らえる可能性もあるが、招いておいて捕まえるという行為は徳の高さ、正しい行いを行う皇帝という理想からは外れており、やるとは思えない。

 ケルススからの連絡でも、膠着状態とは言え、この帝京にリグニア帝国軍、ルテティア王国第二軍が接近している。

 彼らとしては、今下手に動いても困るだろう。かといって内部が動揺しており、本格的に交渉し始めていると言うデモンストレーションが必要だと考えて謁見させようと考えているのだろう。

 その中で講和について切り出そうと昭弥は考えた。

 すぐさま礼服を着て、迎えの馬車に乗り込み皇城の皇極殿へ向かう。

 皇帝が執務、謁見を行う重要な建物で、大きな行事、各国の使節を迎えるのに使われる。

 つまり、昭弥が事実上使節として認められたことを示すものだ。

 馬車から降りて、会見場所に向かう途中、幾つもの門を通過して行く。門を過ぎると広い広場を通り、城内を流れる川、切り出した石で舗装されている川に掛かる橋を通る。

 再び門を通り過ぎると目の前に巨大な建物が現れる。それが会見場所の皇極殿だった。

 五段の石段の上に作られた建物だが、石段の広さに比べて小さい。

 かつてはより大きな建物が建っていたそうだが、火災により焼失。再建されたとき小さめに作り今の大きさになった。それでも十分大きい。

 昭弥が入り口に入ると、皇帝が正面に控えていた。


「ルテティア王国鉄道大臣玉川昭弥にございます」


 名前が呼ばれて、昭弥は前に進んで一礼した。

 しかし、周りにいた重臣達は不機嫌な顔をした。

 そして皇帝の横に控えていた儀典長らしき人物が昭弥に苦言を呈した。


「皇帝の御前である三跪九叩頭の礼をせよ」


「え?」


 昭弥はその言葉を聞いて唖然とした。

 三跪九叩頭の礼とは、皇帝に対してその特に敬意を示すため跪き三回床に頭を叩いて礼を行い顔を上がる。これを三回繰り返すので三回跪き九回頭を叩くことから、三跪九叩頭の礼と呼ぶ。

 主に臣下、朝貢国の君主が行い、皇帝に対して臣従するという意味だ。


「お断りします」


 交渉代表である昭弥が行うとリグニア帝国、ルテティア王国が臣従すると言う意味になってしまう。それは拒否した。

 あるいはそれを狙って強要しているのかもしれない。

 しばらくの間、彼らの間で問答が続いた。




「何じゃこりゃ……」


 一方昭弥が皇極殿に入った時、南西へ一〇〇キロほど離れた場所にいたブラウナーは絶句していた。

 独立重砲兵大隊付属の鉄道中隊が作り上げた引き込み線に運ばれて着た列車砲を見て驚いていたのだ。

 砲身長二八メートル、口径二一センチの巨大砲を搭載した化け物列車砲だった。


「あはははははは、どうですかこの巨大でぶっとくて長い大砲は」


 開発責任者であり据え付けの指揮を行っていたアガーテが、ブラウナーに大声で尋ねた。


「この大砲で帝京を破壊してご覧に入れましょう」


「何か砲身の上に立っていますけど何ですか?」


「あれは支柱ですよ。砲身が長すぎるので砲口のあたりをロープで結びつけて砲身が自重で垂れ下がるのを防いでいます」


 砲身が自重で垂れ下がるなんてどれだけデカい物を作っているんだ。


「キチンと使えるんですか?」


「試射は済ませています。九龍では一二〇キロ先の標的に命中させることが出来ました」


「一二〇キロ……」


 ここから発砲すれば北東方向に帝京を直撃させることが出来る。


「本当に飛ぶんですか?」


 現在の大砲は精々一〇キロを越えるか否かだ。これだけの長い砲身を持つ大砲を運用出来ない、あまりにも重すぎて大砲全体が地面にめり込むからだ。だが、大きくしたからと言って十倍以上の射程が得られるのか。


「装薬を強力にしました。更に、仰角を最大五〇度まで上げています。これにより非常に高い高度へ行きます。高い高度だと空気が殆ど無く、砲弾を遅くする空気抵抗が非常に少なくより遠くへ飛ばせます」


「へー……」


 空気が薄いとか空気抵抗とか解らない単語を使うアガーテにブラウナーは絶句した。玉川総督といい、彼女といい、鉄道に関わる人間は極限まで行くとこんな人間になるのかとブラウナーは呆れた。


「しかし物々しいですね」


「これだけ巨大になると、色々支援も必要ですし、何しろ積んだまま運ぶ訳にはいきませんから」


 車両限界を超えている砲身を外して何とか通したり。長すぎて仰角が大きすぎるので砲尾が地面にぶつかるのを防ぐため、高い位置に砲身を取り付けたり。

 色々と規格外な事が多くて、支援するための部隊が多く必要だった。

 まず大砲本隊を運用し発砲する砲兵中隊。

 車両の管理と線路の建設を行う鉄道中隊。

 弾薬の管理輸送を行う弾薬中隊。

 射撃に必要な諸元を集め指示する観測部隊や気球、ペガサスを管理する観測中隊。

 接近してくる敵から大砲を守る護衛中隊

 彼らの生活、炊事、洗濯、衛生その他諸々を行う支援中隊

 これらの中隊をまとめ上げ、他の部隊と連携を行う本部中隊。

 たった一門の大砲を操作するために一個歩兵大隊、六〇〇人以上の人員が直接関わっていた。


「準備完了しました」


「よし、恥知らずな蛮族共を吹き飛ばしてやる。目標、敵首都帝京中心部、皇城、皇極殿!一発カマしてやれ!」


 なお、ブラウナーもアガーテも昭弥が現在皇極殿にいることを知らない。 

 帝国大本営がワザと知らせていなかった。


「方位修正完了」


 この列車砲は旋回装置が無く、曲線状に作られた線路の上を走る事によって方向を修正する。そのために専用の機関車も付属していた。

 本当ならターンテーブルの上に載せたいところだが、あまりにも巨大すぎるのと、反動で列車が動くこと、工事の時間が掛かるため、採用できなかった。それでも、位置や砲口の方角を正しく向ければ目標を撃ち抜ける。

 適切な位置に着き、方向が目標、皇極殿に向かっていることを確認。仰角と射距離が合っているのを確認してアガーテは命令した。


「撃て!」


 引き金を引くと、ハンマーが叩かれ装薬が一挙に爆発し、二一センチの砲弾が飛び出す。

 砲弾は発射音と強烈な衝撃波を残して帝京、皇極殿へ向かって飛んで行く。 


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