表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
317/763

価格統制令

本日は遅れて申し訳ありません。

急な私用が入り、遅れてしまいました。明日は、いつも通り投稿予定です。


7/22 文章修正

 突如これまでに無い、巨大な爆発音が墨谷関に響き渡った。


「何が起きた」


 急いで外の様子を見ると、防衛線の一角から巨大な爆煙が吹き上がっている。

 そして、暫くして再び爆発音が響いた。

 巨大な爆煙は、城壁の何倍にも高く上っている。


「魔法攻撃でも行われたのか」


 これまでに無い攻撃に兪は一瞬噂に聞くジャネット魔術師の魔法攻撃や、ユリア女王の攻撃を思い浮かべた。だが、暫くして、部下が報告してきた。


「これは魔法攻撃ではありません。敵の砲撃です」


「なんだと!」


 確かに榴弾を使った攻撃はよくある。しかし、これほどの威力のある砲弾を撃ち出す大砲など存在するのか。

 兪が疑問に思っているとき、敵の陣地から連続した轟音、大砲の発砲音が響いてきた。

 そのうち砲弾が上空から降り注ぐ音が響き、最高潮に達したとき、地面が噴火した。

 周囲の土を巻き込んで天高く吹き上げた。

 あそこには防衛用の塹壕陣地が構築されていたはず、敵の砲撃から防御するための設備を用意していたはずだ。

 そこへ伝令がやって来た。


「防衛陣地消滅! 敵の砲撃により掩体壕、塹壕、土と共に巻き上げられ、消滅しました!」


 兪は何も言えなかった。

 相互に連携して防御する陣地が破壊されては抵抗など出来ない。

 敵はそれを知ってか知らずか、他の陣地へも砲撃を継続している。次々と陣地が破壊、いや消滅させられてゆく。

 見ると敵がこちらに向かって ゆっくりと歩いてくる。

 こちらの陣地が消滅したか確認しているのだろう。ワザと撃たれやすいように堂々と歩いてこちらにやって来る。


「最早、これまでか」


 防御陣地が消滅しては抵抗は無意味だ。

 兪は前線からの即時撤退と第二陣への収容を命じた。

 この後、幾つ物防衛陣地を作っており、いくらかは抵抗出来るだろう。だが、陣地丸ごと消滅させる大砲を持つ敵に勝てるだろうか。




「目標の陣地占領しました」


「おう、ご苦労さん」


 伝令の報告を受けてブラウナーは損害が出なかったことに満足した。

 今回、使用したのは二八サンチ榴弾砲。要塞攻撃用、沿岸部防御用に作られた大砲だ。

 固定式の要塞砲で野戦には不向きと思われていたが、鉄骨を組み合わせた特設の砲架を作り上げて野戦運用出来るようにしていた。

 ルテティア王国軍の正式兵器だったが、その威力に帝国軍東方総軍予備に指定されて、あちらこちらへ転戦され中々使わせて貰えなかった。

 今回重要地点への戦力集中投入という大義名分で運び込む事が出来て、投入した。

 攻略に手間取って大砲の方が追いついてきた、とも言えるのでブラウナーの内心は複雑だった。だが、使えるものはとことん使わせて貰おう。


「被害は?」


「非常に軽微です。陣地ごと敵を吹き飛ばしましたから」


 二〇〇キロを越える巨大な砲弾が空高くから降り注いでくるのだ。これに対抗出来る陣地や城塞などない。


「これで連中の城塞を破壊出来ますね」


「そうだな」


 だがブラウナーは心から祝えなかった。

 砲身だけで一〇トン以上、砲架などを合わせれば三〇トン以上になる巨大な大砲だ。

 砲弾も二〇〇キロ以上あるから運ぶだけで一苦労。

 他にも用意するべき物が多い。

 これを使えば簡単に破壊出来るが、移動するのに何日かかる。普通の道では一日に四キロぐらいか。鉄道が無ければろくに輸送出来ない。

 確かに強くなったが、前に進む力を我が軍は失っているようにブラウナーは感じていた。




「ルテティア第二軍が、墨谷関突破に成功しました。これで中原への突入が出来ます」


「そうか」


 宰相ガイウスの戦勝報告に皇帝はつまらなそうに答えた。


「ユリアの部下達に頼らなければならないのは業腹だな」


「ですが兵力が少なくなっております」


 占領統治や、後方に残った敵の掃討に膨大な兵力が必要となっている。正面兵力が少なくなっており、ルテティアに更なる増援を求める事となってしまった。


「募兵はどうなっている?」


「戦況が悪いと言うことが伝わり始めたのと軍需で他の産業でも人を求める動きが大きくなり、減っております」


 新たな兵力が必要な時期に減っているのは宜しくなかった。


「奴隷にも従軍を許せ。兵士として従軍すれば解放奴隷にすると」


「し、しかし。それでは各地の農園で収穫が不足するのでは」


「奴隷の募兵は収穫後とせよ。そうすれば問題あるまい」


「いえ、それ以前に小麦粉などの物価が上がっております」


「不作なのか」


「いえ、予測では平年並みですが、収穫前と言うことで品薄が。更に遠征軍の需要を見込んで買い占める動きがあります。それで値上がりが起こりはじめております」


「悪党共め」


 フロリアヌスは、頭にきていた。


「これより一部の価格を統制する。必要な物に関しては上限を設ける」


「そ、それは、経済が混乱することに」


「いいから行え」


 皇帝フロリアヌスの命令は直ちに実行され、帝国全土に振れが出された。

 小麦、卵、牛乳、肉、野菜などの価格が固定されて販売されるようになり、物価は一応安定した。

 だが、それは品物がある時に限られた。




「価格統制令となりましたか」


 皇帝から発令された物価の上限を決める勅令を聞いて、昭弥は呆れた。


「価格の調整はそれぞれが行わないと無理なのに」


 確かに同一の製品だったら問題無いだろう。だが、それぞれ品質が違うし、求める人の財力も違う。様々な価格を持つ商品が結果的に世の中を豊かにする。


「どうやって監視しているんだ」


「警察や憲兵が見張っています」


「ご苦労なことだ」


 何より無意味なのは、それぞれの取引に監視を付けなければならない事だ。店頭はまだマシだが、裏で取引されたら無意味だ。そのような取引が行われていないか捜査する必要があるが人手が必要。つまり、無駄な経費、ひいては無駄な歳出が出る事になる。

 その分、他の犯罪の捜査が疎かになるし無意味な法律と言うことで人々が呆れる。

 昭弥のいた世界では資源ゴミの盗難が問題になっていたが、自治体が集めるのでは無く、自由に売買させて、問屋から税金を徴収した方が安上がりでは無いかと昭弥は思っていた。江戸時代は、そうやってゴミの収集とリサイクルを行っていたのだし。


「実際の売買はどうなっている?」


「全体的に市場に入る物品が少なくなっていますね」


 情報収集を行っていたセバスチャンが答えた。彼は帝国内や王国内における諜報や情報収集を担当していた。


「闇市に流れて売り買いされているようだね」


「その通りです。あとは買い占め、売り惜しみですね」


 一般に売買は、売る方と買う方の合意で成立する。売る方が安い値段で売るしか無い状況で長期の保存が可能な商品なら売り惜しみをする。


「差額とかはどうなっている?」


「商人達があの手この手で少なくしようとしています」


 例えば売る量を減らす、水増しすると言った手だ。小麦に混ぜ物を入れたり、ワインに水を足すと言った事だ。値段はそのままだが、売る量を減らせばそのまま値上げと同じになる。

 あと、未完成品を売るという手だ。

 例えば鍬だったら金属の刃の部分と木の柄に別れているがそれぞれ、別売りにする事で、鍬の価格統制を逃れて、金属の刃と木の柄を自分の好きな値段設定して売り、客に自分で組み立てて貰う。未完成品だから鍬の価格統制は受けないという理屈だ。


「他にもおまけを付ける方法ですね」


「おまけ?」


「ええ、無名作家の絵画や彫刻を売るんですよ。例えば金貨一〇〇枚で」


「そんな価値あるの?」


「さあ、芸術の価値は曖昧ですから。で、その絵画や彫刻を買うとおまけで小麦粉が一トン付いてきます」


「おまけの小麦の方が、メインの商品じゃないのかそれ?」


「ええ、事実上。ですが、商品はあくまで統制令外の絵画や彫刻なので、そこに付いて来る小麦はおまけなので価格統制から逃れます」


「よくやるね」


「最高なのが警察や憲兵を使った取引です」


「なんだそれは? 警察は価格統制を行う側だろう」


 治安維持の他にも価格統制の監視役という役目を警察や憲兵は負っていた。それを使うとはどういう事だ。

 昭弥が疑問に思っているとセバスチャンが説明した。


「まずAとBの商人普通に取引します。価格統制に従って。ですが、金貨一〇〇枚分足りないとします」


 その時支払う側のAは財布に金貨一〇〇枚分の小切手を一〇枚入れておいて、支払う側のBの店にわざと置いていき、そのまま出て行く。

 Bも素知らぬ顔でAが出て行くのを見送り、暫くしてAの財布に気が付いた振りをする。そして、その財布をAではなく警察に持って行き、恐れながら落とし物です、とご注進する。

 その時、Aが落とした振りをして警察にやって来て自分の財布を見つける。落とし物が戻ったことで法律に則り、謝礼として財布の中身の十分の一、金貨一〇〇枚分の小切手一〇枚の内、一枚をBに渡します。法律上は取得物への謝礼だが、事実上差額分の支払いを価格統制に引っかかること無く行える。

 話が終わって、昭弥は大爆笑した。


「上手いことを考えるな!」


 取り締まる警察を利用して取引を合法的に成立させるなんて素晴らしい話しじゃ無いか。


「それで帝国の生活はどうなっている」


「徐々に、物価が上がっていましたし、価格統制で商品が少なくなっています。ソロソロ限界でしょう」


「人の上に立つ人間が最低限やるべき事は、その人が食えるようにすることだからね」


 食料が無ければ生きられない。

 それを得る手段が無くなれば、人は生きるためになんだってする。生きようとする意志が強ければ尚更だ。例え犯罪行為でも犯すだろう。

 それを防ぐ為の施策を行うのが政治だ。

 最低限の事を行わずに外征を行うなど、言語道断。

 そんな国はいずれ滅ぶしか無い。

 その直前に講和の機会があるはずだ。

 昭弥はそれを狙っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ