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進撃困難

「サラさんからの報告で使節との接触と、捕虜の身代金交渉が行える事になりました」


「それは良かった」


 ルテティア王城の一角、ラザフォードの執務室で昭弥は報告した。


「周とのチャンネルを作ることが出来ましたね」


 一応他にもあるのだが、周の中枢、それも広範囲にチャンネルを持つにはこれが必要だと考えていた。


「講和交渉の方は出来そうですか?」


「難しいな。進撃が止まらないからな」


 西原平原での決戦後、無人の野を行くが如くの勢いで進撃していった。このような状況では、周はともかくリグニア帝国側の方が講和を求める事はない。


「ですが、ソロソロ終わりになると思いますが」




 激しい弾着の煙と轟音で墨谷関の前の大地が吹き飛ぶ。

 やがて土煙が晴れて関の城壁と門が見えるとノエルは命じた。


「前へ!」


 号令と共に第一旅団の将兵が前進を開始する。だが、城壁の遙か前で突如地面から周の兵士が現れて銃撃してくる。

 その場に伏せて応戦するが銃撃は止む気配は無かった。


「全然効かないわね」


「地面に塹壕を作り、隠れているようですね。装填も穴の中で行っているようです」


 隣にいたブラウナーが、その様子を見ながら答える。

 これまでなら、平原を無防備に進んでくる横隊列に向かって一斉射撃を行えば良かった。こちらの射程が長いので敵のアウトレンジから一方的に撃ち殺せた。例え、射程内に入れさせても敵が装填中にこちらは数発射撃出来るため、一方的に戦えた。

 だが、塹壕を掘って身を隠すようなってからは違う。

 幾ら新型でも地面を貫通出来ないし、弾道は直線的なので、地面に掘られた塹壕の奥にいる敵を攻撃出来ない。


「新型の火薬と信管じゃ無いの?」


「地面どころか木の葉に当たっても爆発しますからね」


 昭弥が作り出した伊集院信管を元に作った信管だ。

 偏心錘、ネジ、撃針、雷管で構成されている。

 どんな動きをするかというと

 偏心錘の中にネジ、更に中に撃針が隠されており、それらの前方に雷管があるのだが、錘が邪魔をして撃針は雷管に叩き付けられることは無い。

 その信管を装着した砲弾をライフリングが為された大砲から撃つと砲弾は回転が与えられ目標に向かう。

 その回転によりネジに付いていた偏心錘が回転をはじめ、移動すると共に中に隠されていた撃針が現れる。

 何か物に当たると慣性の法則により撃針が前に移動して雷管を直撃して爆発。

 砲弾の火薬に引火して爆発する。

 と、言う仕組みだ。

 昭弥本人は鉄道を守るためとか言っているが、それを口実に新兵器を作っているとしかブラウナーには思えなかった。

 だが、それらの砲弾を撃ち込んでも敵の抵抗は止まなかった。

 塹壕をジグザグに掘っているため、被害を抑えているようだ。それに新型の大砲でも、塹壕を直撃させるほど命中率は良くなく、精々塹壕の周りに落ちる、たまに塹壕に当たってくれる、という感じだ。


「突撃して塹壕を奪ったらどう?」


「敵の大砲が生きているため、無理に突撃をすると大損害が出ます」


 敵も大砲を塹壕に持ち込んでいる。しかも掩いを作って防御を固めているため、破壊が困難だ。

 進撃途上、いくつかの城市を攻略したが、ここまで抵抗するのは初めてだ。


「迂回出来ないの?」


「騎兵連隊が周辺を偵察しましたが、ここ以外の場所は地形が悪く鉄道を建設するのに時間が掛かります。我々単独でしたら、移動出来そうですが」


 西原平原は、平原と言っても湿地や沼もあり、乾いた場所が制限される所もある。

 そうした場所は交通の要所として城市が建設され栄える。

 そして鉄道建設に最適な場所となりやすい。迂回路もあるが、鉄道が延伸出来なければやがて立ち枯れる。

 だから目の前の城市を何としても攻略しなければならなかった。


「もどかしいわね。昔のようにぱぱっと進みたいんだけど」


「そうですね」


 ブラウナーは同意した。

 確かに鉄道のお陰で移動は簡単になったし、補給も良かった。

 しかし、逆に鉄道の無い場所では部隊の行動が制限されている。いや、下手をすれば鉄道が無ければ行動出来ないレベルになっている。


「鉄道建設の状況はどうなっているの?」


「ここから後方へ五〇キロの地点まで来ています。ただ兵站駅の準備が整っておらず馬車は更に二十キロ後方から来ています」


「軽便でしょ。標準軌は?」


「更に後方です」


 建設速度が遅く、補給がやって来るのに時間が掛かる。軽便鉄道により最低限の補給が軍主力へ行われているが、軽便の補給が無ければ維持も難しい。


「軍主力が来るまでどれくらい掛かるの?」


「二日ほどですね」


 東西五〇〇キロほどの西原平原。通常なら最短一〇日もあれば横断出来る。だが鉄道建設に時間が掛かっており、その歩みは遅い。

 平らなのだが、田畑、特に水田が多く。軟弱地や泥濘が多い。

 北の方は寒く麦が主で畑が多く、移動速度が速いという報告を受けていた。水田より畑の方が鉄道建設が比較的楽だからだ。


「なあマルケリウス。そっちの方はどうだった?」


「籠城している奴への説得は王氏でもダメだったよ」


 ブラウナーの言葉にマルケリウスが応えた。

 投降してきた周の女将軍戚王氏。彼女に西原平原各地の城市へ使者としておくり開城を説得して貰った。

 お陰で不要な争いをせずに済んでいた。


「ところで鉄道の方はどうなっている?」


「運転は問題無いみたいだけど、上の方で一悶着があったらしい。補給の事で玉川大臣と補給担当者が言い争いになったらしい」


「どうして?」


「鉄道の延伸が間に合わず、単線で運転しているところがあるんだけど、そこへの補給が遅れていてね。補給不足が深刻で問題になったんだ。そこで、一方通行させようと軍の補給担当が提案したんだ」


「一方通行? やって来た列車はどうやって返すんだよ」


「そのまま捨てるんだって」


「えっ」


 日露戦争のロシア軍がシベリア鉄道で行った方法で、ヨーロッパから兵士を運んできたら機関車以外の貨車を捨てて、送り返す必要を無くして兵力増強を行った。

 そのため日本軍は予想外の兵力増強に苦戦した。

 それを、遠征軍でも行おうと言う提案が出された。


「まあ流石に玉川大臣が強固に反対して取りやめたそうだが」


「だろうね」


 鉄道を愛する玉川大臣がそんな事を許すはずは無い。

 と、綺麗な美談にしているが、実際は、


「鉄道に罪は無い、車両を捨てるのは止めてくれ」


 と戦時中逃げたら危険だということで動物の殺処分を言い渡された動物園園長のように泣いて懇願したというのが真実だ。

 結局、鉄道運用担当のハレック元帥も強固に反対し、取りやめとなった。

 現在は鉄道軍の総力を上げて何とか複線にする努力を進めている。


「軍本隊がやって来るのにどれくらい時間が掛かるかな」


「鉄道路線の建設がおわった時だな。一応、軽便が出来て物資は運べるが重装備、重砲類が到着するには標準軌が必要になる。レールの運び込みが始まって各所で建設しているが、どうしても十日はかかるだろう」


「実は大本営から早急に突破しろと指示が来ている」


「おいおい、どうしてだよ」


「第八軍が強固な抵抗に遭っていて、背後を攻撃してくれということだ。で、ルテティア軍を方向転換させると、攻略中の城市から敵が来て補給線を攻撃されるから、攻め落として逆に防御拠点にしてしまえ。だから早く突破しろだって」


「それは解るけど、重砲はくれるんだよな」


「軍の重砲兵旅団を使えって」


「鉄道が無いのに配備出来る?」


 重砲が非常に重い。大きさは様々だが、最大級の物だと砲身だけで一〇トン以上、全て合わせると三三トンという重さ。

 鉄道以外での陸上輸送は不可能だった。


「しゃあない他の方法を考えるか」


 ブラウナーは大臣と話したときのことを思い出しつつ、作戦案を練り始めた。




「敵が撤退して行きます」


「よし、良いぞ」


 ルテティア軍が攻略中の城市、天水の守備を命じられた兪将軍が、部下の報告に答えた。

 ここから東の土地は人口が多く、被害も大きくなる。

 なので死守命令を受けていた。

 城市は分厚い城壁に高い塔を持っているが、敵の攻撃は非常に強力で城壁を簡単に破壊する上、瓦礫が兵員を殺傷する、という話しを聞いている。

 だから大砲の攻撃による被害を抑えるため塹壕を掘り、兵隊を中に入れる。

 これなら、大砲の被害を防げるし、前装銃でも装填を行える。

 実際、塹壕によって敵の接近を防ぐことが出来ており、しばらくは持ちそうだ。


「陥落した陣地はありません」


「よし、上手く行きそうだ」


 既に数日以上、敵の攻撃を受けているが突破されていない。

 敵の兵力が増え、こちらの死傷者も出ているが陥落した陣地は無い。例え敵に占領されても、直ぐに近くの塹壕から増援を送って奪回している。予備兵力がある限り大丈夫だ。

 いずれ、破られる時が来るかもしれないが、まだ先になりそうだ。

 安堵したとき、今までに無い砲撃がやって来た。

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