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マラーターの商人 列車篇

「ええ子やったな」


 満足したサラは自分の個室へ移動した。


「列車内を移動できるなんて便利やな」


 個室毎に区切られていたこれまでの列車と違って、閉塞感がなく動きやすい。個室に入ると中はソファーにテーブル、個室専用のトイレもあった。


「女の一人旅には持ってこいやな」


 設備の充実ぶりに満足したサラは、荷物を置くと他の車両を見学しに行った。

 二等車はソファーの椅子が左右に二つずつ付いたゆったりとした車両だった。

 ここは、人が少々疎らで服装を見ると中流階級、小さな商いをしているような商人や、大店の手代らしい人達が利用している。

 更に前に移動すると三等車。

 ここは左右に三人座れる背もたれ付の木のベンチが一つずつ置かれているだけだった。大勢の人が利用しており、座れず通路に立っている人もおり、移動するのが難しく扉から見ただけで引き返した。


「ほんま、利用者が多いな」


 自分の部屋に戻ると次の駅に着いた。

 見ると三等車や荷物車では多くの人が乗り降りしたり荷物の受け渡しをしていた。


「結構、活気があるんやな」


 一通り見て納得したサラは、部屋のソファーに座ると眠ることにした。


「暫くかかるから一寸寝とこうか。寝る子は育つと言うし」


 胸を締め付けていた服を緩めてソファーに深く座って眠り始めた。


「はあ、よく寝たなあ」


 比は真ん中から少し傾いた程度。昼過ぎだ。


「あかん。お昼食べ損なったわ」


 小腹が空いたのでカバンに入れていた干し肉を出して食べようとした。切り終わって食べようとしたとき駅に到着すると、美味しそうな匂いが外から入ってきた。


「なんや。このごっつうええ香りは」


 ドアを開けて外に出ると駅のホームに売り子が立ってシチューを売り出していた。

 シチューだけではなかった、焼き鳥や、魚の串焼き、カットされた果物、ワイン、羊の丸焼きの切り売りまでしていた。


「すごいわ」


 屋台の周りには乗客が多く集まっており購入している。


「なあ車掌はん、アレはなんや」


「売店ですよ。長距離を走る列車の乗客相手に売っているんですよ」


「買ってきてええの?」


「はい、列車の出発まで五分あるので乗り遅れないよう注意して下さい」


「はいな」


 ホームで買えるだけ買って個室に帰った直後、列車出発した。


「ほんま美味しいわ」


あったかい食事が列車の中で摂れるなんて夢にも思わなかったサラは、無我夢中で食べた。


「はー、お腹いっぱいやわ」


 旅では粗末な食事が当たり前だが、たっぷり沢山の食べ物が食べられたので満足だった。

 共同の洗面所で備え付けられた砂で皿を洗っていると車掌が通りかかってサラは質問した。


「どうしてあんなに売り子がいるん?」


「沿線の村人ですよ。ウチの車掌が村人にホームで売ることを許したんですよ。少し料金を取っていますけどね」


「それであんなに?」


「ええ、皆さん長距離の移動は大変ですから喜んでいますよ。村人も現金収入が入るので満足しています」


「けど開業してまだ僅か、あんなに上手く行くもんなん?」


「社長がハウツー本を出して出店者に配っているんですよ。料金設定から乗客が何を求めているか。食事はどういうものが良いか。持ち運びやすいように切り分けろとか、サンドウィッチを作れ、皿のない客のためにパンを用意しておこうとか」


「そんなん村人だけで出きるん?」


「出来ないところもあるんで、高価な物とかは鉄道会社が購入して貸与したり、販売したりしています」


「そこまでやるん?」


「どうかと思いましたけど、乗客には好評でしかも沿線の村人にも好評。会社には運賃以外の収入も入っていますから、万々歳です」


「商売が上手いな」


 サラは本心から思った。

 商売の基本は、関わった全員が幸せになることだ。

 それぞれが足りない物、余っている物を確認して間に立って契約を成立させ、出てきた利益から少し頂くのが商売人だ。

 安く買って高く売るのもその延長で、余っているから安いものを買って不足しているところに運んで高く売ることで商売を成り立たせている。

 しかし、この方法は多くの人が幸せになるようにしている。


「凄いわ」


 納得したサラは、再び個室に戻った。


「ほんま社長に会いとうなってきたわ」


 サラは、商売の方法に感心し支店を作ったら絶対に会おうと決めた。

 個室でのんびりしている間に日がだいぶ傾き、夕方になった。

 そして列車はゆっくりと速度を落とし、止まった。


「どうしたん?」


 案内に来た車掌にサラは尋ねた。


「今日はここで終了です。王都には夜明けに出発します」


「ほうか」


 サラは寝具の用意を始めた。


「よろしければホテルに泊まりませんか?」


「ほんなんあるん?」


「ええ、鉄道会社の経営しているホテルで一泊二食付きで格安です」


 そう言って料金表を見せた。


「ほんま安いわ」


 サラは驚いた。


「でも部屋は大丈夫なん? ダニや南京虫と寝るのは嫌ややわ」


「出来たばかりですから安心して下さい。それに綺麗ですよ。よろしかったら見学してから泊まっては?」


「そうするわ」


 サラは車掌に案内されてホテルに向かった。


「結構大きいな」


「列車の乗客を全員泊められるように設計されています」


「列車に残っとる人もいるんが?」


「宿泊料を節約しようとする人達です。あまり居ませんけどね」


 ホテルに入ると列車の乗客でロビーはごった返していた。


「大きいわ」


 思ったより広いホテルにサラは驚いた。


「多くの人が満足できるようにホテルを建設できるようにと作ってあるんです」


「三等の人の分もあるんかいな?」


「ええ、大部屋を利用する人が多いです。それでも広くて快適です。勿論個室もありますがどうします?」


「個室を頼むわ」


「はい」


 車掌がフロント係に交渉して個室を依頼した。


「おおきに」


 蝋燭を貰い、閂の使い方を伝えられ自分の個室に入った。

 列車より広めで十分休める空間だった。


「ほんまええわ」


 サラは満足だった。


「けど、ほんまに、こんなんやり方で大丈夫なんかいな」


 設備投資に力を入れており快適だが、投資を回収する必要がある。料金が安いので回収率は低いはずだ。どうやって回収するのか。


「そのことも聞いておく必要があるわな」


 今後王国や帝国と貿易を行う上でも調べておく必要がある。そう思ってサラは一晩眠ることにした。

10/27累計10000PVを越えました。ご愛読ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 利用者視点で描く事で、主人公が心を砕いていた利便性等が理解できてよかったですが、それ以上に…鉄道の旅はやっぱり楽しい!
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