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ヴィルヘルミナ元帥

 年が明けて、三月後半以降に行われるであろう東方侵攻作戦<グラディウス>に備えて、遠征軍の輸送に全力を尽くしていたある日、昭弥は王城に呼び出された。


「一体何だろう」


 昭弥が疑問に思って登城すると喜色満面のユリアが出迎えた。


「昭弥、良く来て頂きました」


「ええ」


 弾んだ声で迎えるユリアに昭弥は引き気味だった。これほど喜ぶ姿を昭弥は見たことが無かった。


「何か良いことがあったんですか?」


「はい!」


 元気よくユリアは答えた。


「今日はヴィルヘルミナ元帥様がいらっしゃるのです」


「……なんか嬉しそうですね」


 帝国軍の最高幹部の一人のようだが、帝国と反りの合わないユリアが喜ぶ相手とは珍しい。


「はい、元帥様は私の憧れの人で目指すべき人なのです」


「……ふーん」


 気もそぞろに昭弥は聞いた。


「僅か十歳の頃から側仕えとはいえ従軍し、士官となり幾多の戦いに参加。今なお帝国に勝利をもたらし続けている生ける伝説です!」


 ユリアの言葉は更に熱を帯びていくが、逆に昭弥の心情はやかではない。


「ヴィルヘルミナ様のお姿もそれは素晴らしく、特別に描かせた肖像画を特別室に置いて毎日拝んでいるほどです」


「!」


 流石に行きすぎだと思い昭弥は口に出した。


「あの、どういう方なのですか?」


「そうですね。口にするより見る方が早いでしょう。こちらへ」


 そう言ってその絵のある特別室に昭弥を連れて行った。


「これがヴィルヘルミナ様のお姿です」


 そこに有ったのは、戦場で旗を掲げ全軍の戦闘に立って戦う騎士の姿だった。

 深紅の全身鎧に、風にたなびく真っ赤な髪、燃えるような闘志を宿した紅い目。

 立ち姿は神々しく、背後に居る帝国軍の士気が上がっているように見える。

 何より、鎧の隙間から見える肌が白く美しい。

 戦乙女という表現がピッタリの美人だった。


「女性ですか」


「はい、帝国の歴史上でも希な女性元帥です」


 帝国の女性観は基本的に良妻賢母だが、周辺を開拓したり征服してきたため、女性が前線に立つ事も多かった。

 そのため、女性の英雄が現れることも良くあるし王国軍や帝国軍に女性軍人は多い。

 だが流石に元帥は希だ。

 現在女性の帝国元帥はヴィルヘルミナともう一人だけだ。


「幾度か遠征にご一緒させて頂いた事があるんですが、本当に良かった。英雄譚をお聞き出来て」


「それは良かったですね」


 昭弥はいつものように話した。先ほどまで元帥が男性では無いかと疑っていたのだ。

 女性と知って気持ちが晴れて和やかに話せるようになった。

 そして改めて元帥の姿を見ると、凄い美人だった。

 何より、胸甲が凄く大きい。鉄板の厚み以上に大きい。


「何処を見ているんです?」


「いいえ」


 ユリアに指摘されて昭弥は慌てて否定した。


「間もなく、ご到着なされます」


「それは楽しみです」


 本心から昭弥は言った。

 何しろ目が釘付けになるような美人だ。ユリアも確かに綺麗だが、可愛いという感情になるが、ヴィルヘルミナ元帥は大輪のバラのような美人だ。

 会うのが楽しみだった。

 ユリアは迎えるべく自ら玄関に向かう。

 玄関には既に軍楽隊とルテティア王国軍の高級武官が多数待っていた。

 凄い歓迎行事だ、皇帝相手でもこれほど大きくやらないのに、と昭弥が思っていると馬車が到着した。


「元帥様!」


 扉が開くとユリアが飛び出して元帥に抱きついた。


「久しぶりじゃのう。ユリア陛下」


 出てきたのは鎧姿では無く軍服を着た女性だ。

 少々、尊大な言葉遣いだが、それが自然な響きに感じてしまうほど魅力とカリスマのある美人だ。

 白く美しい磁器のような肌に、燃えるような真っ赤な髪と瞳。

 先ほどの肖像画と同じ、いやそれ以上の美人だろう。

 半世紀前は


「……失礼かもしれませんが、おいくつですか」


「女性に年を聞くものではないぞ。まあ、そこに居るスコットの坊やよりお姉さんだがの」


 王国軍最先任のスコット元帥を小僧呼ばわりするなんて、本当にただ者ではなかった。

 スコット元帥は怒るどころか、頭を下げてヴィルヘルミナ元帥を迎えた。


「お久しぶりでございます元帥」


「そうじゃのう。と言うより遅いわ。ようやく元帥になりおって。おぬしならもっと早く昇進出来たものを」


「はっ不徳の限りであります」


「勘違いするな。昇進させない者の目を疑っておるのじゃ」


「!」


 帝国では支配下の王国を含め元帥へ任命出来る人物は皇帝陛下ただ一人だ。それを堂々と批判するところから、ヴィルヘルミナ元帥の性格と立場が解る。ユリアが懐いている理由も。


「ミードの腕白も居るのか。おぬしスコットより年上で士官学校出じゃろう」


「前線で暴れられないなら階級など不要です」


「虚勢をはるな。事務が面倒くさいだけであろう。本来なら、おぬしがスコットの代わりを務めねばならんのだぞ」


 幼少の頃から帝国軍に従軍しているだけの事はあり、帝国軍やその参加の王国軍の事、高級士官の性格なども詳しいようだ。


「今度の戦では、お前達の配属される南方軍集団の総司令官を務めることになったのじゃ。しごいてやるから感謝するのじゃぞ」


「やはり来なければ良かったな」


「勝手に来たのはお主じゃろう」


 ぼやくミードをスコット元帥がたしなめた。


「え? 歓迎行事じゃ無かったんですか?」


 混乱する昭弥に少々呆れるようにスコット元帥が説明した。


「ヴィルヘルミナ元帥はそういう堅苦しい事が嫌いなんじゃ。そんな虚勢をはるくるなら演習にでも行けと言っておるからの。ここに来たのは皆、元帥に一目会いたいからじゃ」


 そう言うとミード将軍がそっぽを向いた。周りを見ても、ヴィルヘルミナに対する視線は温かく信望の光がこもっている。

 これほど人望に篤い人は珍しい。

 と思っていると昭弥の元にやって来て、目を覗き込んできた。


「あ、あの」


 昭弥の戸惑いもお構いなしに、ヴィルヘルミナは昭弥の目を覗き込む。


「……ふむ、王国を発展させ、先の大戦を勝利に導いた英雄と言うから、どのような豪傑かと想像しておったが、このようなひ弱な青年とは思わなかったのじゃ。じゃが、功績を実力で打ち立ててきた程の才能の持ち主の様じゃ。ユリアが惚れるのも無理ないのお」


「ヴィ、ヴィルヘルミナ様」


 元帥の言葉にユリアの顔が真っ赤になった。


「ユリアの子が見たいと思っていたが、大丈夫そうじゃ。帝国に身を捧げ、男を迎えなかったからの」


 後で聞いた話しだが、ヴィルヘルミナ元帥は生涯独身。養子養女はいても、実の娘も息子もいないそうだ。美人の遺伝子が伝わらないのは残念だ。


「故にユリアを失礼ながら孫娘のように思って来た。その子供を見る事が出来そうじゃ。ひ弱そうじゃが、獣人十数人を相手に夜な夜な戦っておるそうじゃて」


 その瞬間、場の空気が凍り付いた。


「……どのような噂でしょうか?」


 笑顔のままユリアがヴィルヘルミナ元帥に尋ねた。


「? なんじゃ? アクスムの獣人族を武力で従わせ、各部族から美女を献上させ自らの屋敷に住まわせ酒池肉林の生活を送って居るとか。ひ弱そうに見えてやり手じゃのお」


「……」


 全員、何も言わない。

 この間に昭弥は自分の現状を再確認した。

 彼女たちは、確かに昭弥の元に居るが秘書としてだ。

 彼女たちに手は出していない。だから問題無いはず。

 いや、それは昭弥の考えで外から見るとどうだ。

 彼女たちは、部族との友好を示すためにやって来ている。だが、この習慣は一種の人質あるいは献上しての従属と見なされる事が多い、と後になって知らされた。

 で、彼女たちが住んでいるのは何処だ。自分の屋敷だ。

 広すぎるし、鉄道が好きなので昭弥はいつも鉄道駅のステーションホテルに住んでいるが、屋敷で囲っていると見られてもおかしく無い。

 冷静に見ると、完全に真っ黒だ。


「昭弥」


 背後からユリアの、やけに優しい声が響いてきた。

 振り返ると、ユリアが満面の笑み、女神のような笑顔を浮かべて立っていた。背後にどす黒いオーラいや炎を魔王の様に纏わせて。


「詳しく聞かせて欲しいのですが」


 尋ねられた瞬間、昭弥は駆けだした。

 文字通り、命を賭けた逃走劇が始まった。

<お知らせ>

 急なお知らせですが、鉄道英雄伝説を七月一日(金)の投稿からしばらくの間、お休みしようと思います。

 理由は作者のパソコンのウィンドウズ10へ試験移行と鉄道英雄伝説の校正です。

 前々からウィンドウズ10へ移行しようかどうか、ネットなどで調べて迷っていましたが、実際に自分でやってみないと解らないと判断し試しに移行しようと思います。

 ただ、どのような不具合があるか解らないので、投稿や感想の返信を勝手ながら、お休みしようと思います。

 また、初投稿以来、誤字の多さを指摘されており、これを機会に纏めて校正を行おうと思います。

 投稿再開は来週中の平日から遅くとも七月一一日(月)の18時台の予定です。

 再開の前に活動報告でお伝えする予定です。

 どうかご理解をお願いいたします。


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