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新兵器開発

「あー碌でもない」


 ストレスが溜まったある日、昭弥は自分の義父でもあるラザフォードの執務室に入るなりソファーに座って身を預けた。


「よほど疲れているようだね」


 叱ること無くラザフォードは昭弥をねぎらった。


「生産を多くしろ、もっと運べ、車両をもっと寄越せ。五月蠅くて五月蠅くて。戦争なんてやるもんじゃありませんよ」


 戦時体制に入って部隊の移動、物品の輸送、製造、仕分けで王国鉄道は大車輪で動いている。更に、鉄道部隊の増設も行われ、鉄道会社の社員の一部が動員されている。人数が少なくなって人員のやりくりで社長である昭弥は激務に次ぐ激務だ。

 疲れが出てもしょうがない。


「けど儲かっているんじゃないのかい?」


「否定はしませんけどね」


 確かに昭弥の王国鉄道は鉄道本社だけでなくグループ全体に注文が入り、売上高はうなぎ登りだった。


「ですけど入金された訳ではありませんからね。それに支払いは下落傾向の帝国金貨。インフレの可能性もあって利益が出てくるかどうか。下手をすれば、帝国から金が足りないので国債で支払うとか言われる可能性があります」


「確かにな」


 先日の帝国での国立銀行による経済の混乱もあり、支払いの立て替えを頼むと帝国から要請が来ている。王立銀行のシャイロックと協議したが、全額は難しいという話になり、どうするか頭を悩ませている。


「ところで戦争は上手く行きそうか?」


「鉄道が通じているなら勝てます」


 昭弥は断言した。

 戦争は兵力の多寡で決まるから、多い方がかつ。寡兵が勝つという番狂わせがあっても何回も起こるものじゃない。

 大量の兵力を運ぶ事の出来る鉄道をもつ帝国は、大軍を運んできて勝てる。最初は負けていても最後には必ず勝てる。

 周は鉄道を導入していない。

 少なくとも一部地域のみで開通しているだけだから、全国に鉄道を敷いて、各地の兵や物資を輸送出来る帝国に勝てる可能性は少ない。


「通じていないところならどうかな?」


「聞きたいですか?」


「いや、予想は付くよ」


 そう言ってラザフォードは明言を避けた。

 代わって昭弥が尋ねた。


「ところで一つ質問して良いですか?」


「なんだい?」


「戦争に勝ちたいんですか?」


「そりゃ、勝つべきだろう」


「あー、違うな。戦争に勝った方が王国にとって良いのですか? 帝国が勝って良いのですか? 勝利することが最良なのですか?」


 昭弥の指摘にラザフォードは顔を強ばらせた。

 戦争に負けるより勝った方が良いのは分かっている。その方が被害が少ない。

 だが勝利によって得るものが本当に損を上回るかどうかは別だ。

 車両開発で潤沢な開発費を投入し、機械を導入しても、大量に生産しても、お客様が乗ってくれないと赤字になる。あるいは収入より維持費が高くなって赤字になる。

 やたらと高い偏差値の高校に入るために努力して中学時代を無駄にして合格して入学しても、相性が悪くて後々不登校や退学になったら全くの無駄、害悪だ。

 そういう事がこの戦争に無いかどうか、昭弥は気にしていた。


「……そうだな。新たな領土が手に入るが、経営となると難しい」


 ただでさえ帝国本土では経済的な混乱が起きている。領土経営の経費を帝国が出せるかどうか。そこから利益を出せるかどうかも怪しい。

 特に侵略したての領土など反乱が起きやすい。


「九龍王国でも負担だな。現状維持が一番良い」


「下手に進撃しない方が良いと?」


「そうなるな」


「わかりました。やってみましょう」


 そう言って昭弥は執務室の電話を借りてある場所に掛けた。




「……」


 一時間後王城に白衣を着た一人の女性がやって来た。

 ぶつぶつと何かを呟いている。

 不気味に思う衛兵だったが昭弥卿が招いた人物なので通している。だが、挙動が怪しい。


「!」


 不審に思った衛兵がよく観察すると、白衣の間から明るい茶色の尻尾が出ている。よく見ると頭髪も同じような色の短髪。

 アクスムの猿人族の娘だ。

 そういえば昭弥社長は女王陛下のお気に入りを良い事に、アクスムの獣人族に娘達を献上させ、夜な夜な楽しんでいると聞いたことがある。

 彼女もその一人かと、衛兵は納得した。

 そして、彼女の呟き声が更に聞こえてくる。


「……長くて……太くて……デッカい……硬い奴が必要……中身も……デカくて……重くて……硬い奴が……凄い勢いで……出して……吹き飛ばせる程の……」


「!」


 何やら別次元で不審な言葉を彼女は呟き続けていた。

 思い浮かんだ噂と絡んで衛兵の股間が動き出し始めた。

 だが彼女は呟きを止めず、更に衛兵の心をかき乱す。衛兵が理性を失う寸前、目的地の執務室に到着して扉を開けて入れて上げた。


「どうぞ」


 そう言って衛兵は直ぐに扉を閉じた。

 中に義父であるラザフォード公爵もいた。二人は血のつながりは無いとの事だが、二人で楽しむのだろうか。

 そう思った衛兵の心は更にむらむらとした。




「社長、来ましたよ」


「ありがとうアガーテ」


 彼女はアガーテ・アーレンス。

 猿人族の娘で、一種の人質としてやって来た。最後まで反抗してきた猿人族からのため他の秘書からも一段下に置かれていた。それともう一つの理由から昭弥は彼女を別の場所に送っていて、そこを任せていた。


「社長、もっとデカくてブットくて長い奴を」


 いきなりとんでもない事を言う彼女に、傍らに居たラザフォードは驚いた。


「そのことなんだけど、ラザフォード公爵の許可もあって作って良いよ」


「やったーっ!」


 その瞬間、彼女は喜びを爆発させた。


「出来るぞ、これで一〇センチ以上、いや一五センチや二〇センチの奴も作れる」


「もっと大きい奴も良いよ」


「本当ですか! ありがとうございます! デカくてぶっとい奴を作れます! もう周囲が吹っ飛ぶほどに」


 ハッスルしながら言う彼女を流石に注意するべきかとラザフォードが考えているが、彼女は止まらず更に言い続ける。


「最新の機材も導入して大型化して、もっとデカいのを作りますよ。いやー、デカいのは良いですよね周りも吹っ飛んで」


「そうだね。一つ大きいのを頼むよ」


「任せて下さい。どでかい大砲、加濃砲や臼砲を作り出して見せます。どんなのが良いのかな。もう発射して発射されて打ち込んで打ち込まれて吹き飛んで吹き飛ばされる。あー考えただけでいいな。やっぱり大砲は良いですよね。長くて太くてデカい奴からデカい弾が飛び出すのが良いんですよね」


「……一つ良いかな」


 彼女がハッスルする横で肩をずり落としたラザフォードが昭弥に尋ねた。


「何でしょうか?」


「彼女は一体何者だ?」


「見ての通り、私が預かっている猿人族のアガーテ・アーレンスです」


「それは分かるけど、彼女は何をやっているんだ?」


「大砲の開発です」


 猿人族最後の抵抗の際に、アクスム駐留軍は大量の大砲を持ち込んで撃ち込んだ。更に猿人族も大砲を持ち込んでいたため壮絶な砲撃戦となった。

 その時の戦いに参加していたアガーテは、派手な砲撃戦を体験し大砲に魅入られてしまった。

 人質として送られる娘を選ぶときは真っ先に立候補し、昭弥の元に着くなり「デカくて太くて長い奴を作らせろ」といって周囲を混乱させた。

 大砲の事だと分かると、昭弥は鉄道兵器製造の研究所に彼女を送り大砲の開発を行わせていた。

 以来、彼女は明けても暮れても、食事と睡眠、生理活動以外の殆どを大砲の研究開発に身を捧げていた。


「必ずや作り出しますよデカくて太くて長い奴を」


「……元気すぎない?」


 引き気味にラザフォードが尋ねた。

 意訳すると、黙らせたらどうだ?


「そうですね。一寸、冷静になって貰いましょう」


 そう言うと昭弥はアガーテに近寄り、耳元で囁く。

 次の瞬間、アガーテは顔が真っ赤に染まり頭から湯気を噴き出した。


「な、何を聞かせるんだ!」


 先ほどとは打って変わって狼狽し大声で叫ぶアガーテ。


「バカ! 変態! 色魔! 種馬!」


 口から罵詈雑言を浴びせると昭弥から離れ部屋から出て行ってしまった。


「……何を話したんだ?」


 あまりの変わり様にラザフォードが尋ねた。


「軽い猥談ですよ」


「軽い?」


「本当に軽いですよ。一寸小耳に挟んだことを話したら真っ赤になるんです。凄くウブなんで」


「と言うことは重い方も知っているのだろう。しかし、彼女もなんとまあ」


 エロい響きで真面目なことをいうのに、真面目な響きでエロいことを言うと真っ赤になるウブだなんて面白い娘だ、とラザフォードは思った。


「……ところで猥談のネタは何処から仕入れてきたんだ?」


「聞かない方が良いですよ」


 ラザフォード公爵の実の娘のエリザベスが連れてきたメイド、マリアベルからとはとても言えない。

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