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マラーターの商人 クラウディア篇

開業したばかりのクラウディアの駅に到着したマラーターの商人サラ。彼女は商売をしようと鉄道を使って王都に向かおうとする。

「凄い活気のある町やな」


 船の甲板から町を見たサラ・バトゥータは簡単の声を上げた。

 彼女はマラーターの中でも有数の商家バトゥータ商会現当主の娘だ。幼い頃から父親を泣き落として船に乗り込みインディゴ海を渡り歩いていた生粋の商人だ。

 その経験と父親の交渉を間近で見て体得した交渉術で今では商会の手代の一人として、専用の船を持ち、各地を回っていた。今日は、新たに出来た港町と発展する王都に商売の話の種が無いか偵察に来たのだ。


「船も多いし、人もぎょうさん来とる。出来たばっかりの港とは思えへん」


「そうですね。お嬢」


 脇に控えていた男、手代のヤジードが相づちを打った。


「お嬢は、やめや。これでも番頭やよ。番頭と呼びや」


「へい、お嬢」


「むーっ」


 サラは、頬を膨らませた。

 小麦色の肌に金色の髪、彫りの深い顔と一度見たら忘れない美人であり、子供っぽい仕草も、魅力的に感じ男は頬をゆるませた。


「はあ、仕方ないわ。先に上陸して手続きしてくるよって、荷揚げ頼むわ」


「はい、お嬢」




 上陸したサラは早速港湾事務所に向かった。

 同じように船で入港した船員達が荷揚げ許可を貰ったり、人足の手配をしようと入っており、混雑していた。


「一寸、済みませんわ。通して貰えへん?」


「なんだ」


 並んでいた船員は不機嫌そうに振り返った。


「あ、どうぞ」


 だが、美人のサラをみて鼻の下を伸ばした船員は思わず、鼻の下を伸ばし道を空けてしまった。

 同じように次々と進んで行き、受付まで着いてしまった。


「バトゥータ商会のサラや。入港したんで、荷の積み卸し頼むわ」


「解りました」


 対応した受付係は、若い女性で淡々と作業を続けた。


「ところで荷は何処に運ぶのでしょうか?」


「とりあえず、倉庫借りて入れて保管しておいた後、王都に運ぶ予定や」


「王都に運び込む倉庫などのあては、あるのでしょうか?」


「いや、これから調べるところや」


「でしたら王都に運ぶ予定の荷物は貨車へ直接運び込まれては?」


「え? いつになるかわからへんで」


「王都には貨物駅に隣接した倉庫街があって簡単に借りられますよ」


「そうなんか?」


「はい、ですから予め王都に運ぶ荷物は貨車に入れておけば、倉庫に入れる手間が省けますよ」


「そらええわ。それ頼みたいわ」


「はい」


「それで貨車と王都の倉庫は何処で借りられんの?」


「ここで手続きが出来ますけど」


「出来るんか!」


「はい、この事務所と王都の倉庫会社は王国鉄道の系列なので、簡単にできます。手紙のやりとりに三日ほどかかりますけど、出来ます。ただ、初めての方は倉庫を自分の目で確認したいという人が多いのですが」


「ならうちも直接、向かうわ。けど貨車は貸してな。料金はいくらや」


「これです」


「通常より安いわ……って貨車の賃料と輸送料、保管料は別かいな!」


「はい、貨車を倉庫代わりにする方も多いのでこのような料金体系になっています。しかしトータルでは他より安いはずですよ」


「確かに、全部足し合わせても他で貨車に乗せて貰うより二割引くらいの値段やわ」


「はい、どうします? 川船という手もありますが」


「ええわ。貨車にしといて」


「はい、ご利用ありがとうございます」




「と言うわけで一寸王都に行ってくるわ」


 契約が終わったサラは一旦船に戻り、そう皆に伝えるとクラウディアの駅に向かった。

 先日開業したばかりだったが、多くの人が集まっており、ここも活気に満ちていた。


「広い駅やな」


 まず驚いたのが駅前広場だった。

 多くの馬車や人が集まっていたが、雑然としたものではなかった。

 商売上、サラは王都の帝国鉄道の駅を訪れたことがあるが、荷馬車も何もかもが、四方八方から入ったり出たりするのではなく、きちんとした流れを形成している。


「これが駅舎かいな」


 次に驚いたのは立派な建物が作られており、そこにひっきりなしに人が入ったり出たりしている。

 何より、中央にある高い尖塔の頂上近くに時計が設置されていた。

 サラが見上げたとき、丁度時計が九時を指して鐘の音が響き渡った。

 だが、サラがサラに驚いたのは、時計の鐘ではなく周りの建物から人々が出てきて駅に向かって歩いていた。


「皆どうしたんかい。いきなり歩き始めたで」


 疑問に思っていると近くに居た駅員が寄ってきて説明した。


「まもなく王都行きの列車が出発するので人々が集まってきているんです」


「ほうか。って、乗り遅れてしまうわ」


「ご心配なく出発まで時間があります。そこの切符売り場で切符を買ってホームに行けば十分間に合います」


「切符? なんやそれ」


「乗車料金を払ったことを証明する手形みたいなものです」


「何回も使われたらどないするんや?」


「改札に入るとき入ったという証明に一部分を切り取ります。さらに、到着駅で切符を回収して再使用できないようにしています」


「へー、考えとるんやな。ところでウチ、王都に行きたいんやけど」


「それなら、ご案内します」


 駅員の案内もあり、サラは簡単に切符を買う事が出来た。


「おおきに、親切やな」


「いえ、仕事ですから」


「案内することがか?」


「ええ、新しい仕組みなので戸惑う人も多いので、私のような駅員が何人もいて案内をしています」


「一寸わかりにくわな」


「しかし、慣れれば便利ですし利用される方は何度も鉄道を利用されるので大変なのは最初だけです」


「確かにな」


 これまでは列車毎に列車主がいて料金交渉をしてから乗り込んだり荷物を預けたりしていた。目的地に向かう列車を見つけなくてはいけないので、探すのが大変だった。

 しかし、この方法なら窓口が解っているし、違う場所で切符を買っても乗れるので便利だ。


「さて、まもなく王都行きの列車が出ます。こちらへどうぞ」


「おおきに」


 サラは案内されて階段が壁に幾つも設けられた中央通路を歩いて行く。


「線路が見えへんな。この奥にあるんかいな?」


「いえ、この上にあります」


「なんでや。いちいち階段使うのめんどいやないか」


「列車が走っていても隣のホームに移動できますし、何より安全です」



「確かにな」


 目的のホームに到着したサラは待っていた列車に乗り込もうとした。


「あ、お待ち下さい。よろしければ一等車で移動しませんか?」


「一等?」


「はい、個室で空きがある場合、車掌から切符を購入すれば利用できます。ソファーの座席で良ければ二等車があります」


「そうやな。一寸でも楽に行きたいわ。一等の個室一つ購入できないか頼んで貰うわ」


「はい」


 駅員は直ぐに個室の空きがないか確認し、最後の一室を確保した。


「有りました。王都まで行けます」


「おおきに」


 ほっぺにキスをしてサラは駅員と別れた。

 サラが乗り込んで汽車の出発の汽笛が鳴るまで駅員は呆け、汽車が動き出した瞬間、大きく手を振ってサラを送った。

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