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高速走行

「王都鉄道管理局運転指令所への連絡は終えた?」


「終えました」


 昭弥がウェントゥスに乗り込んだ頃、本社でも準備に忙しかった。

 ウェントゥスが最高速度で走れるよう高速線への移動経路の確保、高速線上からの列車排除を進めていた。

 秘書筆頭のフィーネが陣頭に立って指揮していた。


「管理局局長がラッシュ時に入るんで停止は無理と言っています」


「社長命令と言って。東西急行線だけ空けて走らせて。郊外で高速線に乗るまでの間だけ何も通さないで、と言って。スジ屋はどこ」


 ダイヤ編成を行う専門家であるスジ屋を呼んだ。ダイヤグラムを覗いて何処に通せるか確認させる。


「今作りました。これで走らせる事が出来ますよ」


「よし、直ぐに持って行って、これで動かすように言って」


「はい」


「高速線運転管理局はどう?」


「現在、九龍高速線の全列車退避及び保線の確認、他の作業中止命令を行っています。間もなく完了します」


「急いで。時速二百キロは何が起こるか解らないわ。機関車の配備状況は?」


「各駅に機関車が起動出来るように準備中です」




「王都内を通過します」


 機関士が昭弥達に報告する。

 外環を通って高速線へ向かうことも出来るが、長大な貨物列車が走っている可能性も有り、待避線が多い王都内の東西急行線を通ることにした。


「直ぐに行けるか」


「大丈夫でしょう」


「じれったいな」


 機関車の遅い動きにセバスチャンが愚痴る。


「ボイラーを温めるには丁度良い運転です。緊急点火なんでまだ冷えている部分も有りますから。慣らし運転には丁度良いです」


「そう思うことにしよう」


 ルビコン川に掛かるルテティア大橋を通過。ここを通って高速線に入った。


「高速線内への進入しました。高速運転に入ります」


 機関士は、すぐさま準備を始める。


「蒸気弁全開へ。高速運転開始!」


 レバーを開くと急に機関車が加速し始めた。これまで以上の加速でドンドン速度が上がって行く。

 機関士はレバーを小刻みに動かす。初めて全力で動かすため、どのような不具合が発生するか分からない。だから、少しずつ解放して異常振動が無いか確認して開いて行く。

 通常とは違う滑らかな振動が機関車に伝わってくる。

 昭弥は速度記録車に移って速度計を注視する。


「現在速度一〇〇……一一〇……一二〇……」


 高速線での通常営業速度だ。


「一三〇……一四〇……一五〇……一六〇」


 最高営業速度。遅れた場合に出す最高速度だ。


「一七〇……一八〇……」


 他の蒸気機関車が出せない速度だ。だが、もっと出す必要がある。

 しかし、速度の上がり方が鈍り始めた。


「一九〇」


 ジリジリと速度計が上がるが上がり方が先ほどと違って遅く昭弥達をじらす。

 短くとも長く感じる時間が過ぎてその時がやって来た。


「時速二〇〇キロ達成です!」


「よし!」


 念の為に乗り込んだ整備士達が喜びの声を上げた。

 だが、昭弥だけはじっと速度計を見ていた。


「どうしました?」


「まだ速度が上がっている」


 よく見ると速度計が上がっている。

 二〇一……二〇二……二〇三。


「ここら辺は平坦だったな」


「ええ」


 二〇四……二〇五

 記録を超えたな。

 一九三八年にイギリスの蒸気機関車マラードが記録した蒸気機関車の世界最高速度時速二〇三キロを越えている。

 あちらは七両の客車と記録車を引いていたから何とも言えないが、記録を出したのは間違いない。


「時速二一〇キロ達成しました」


 東海道新幹線開通時の最高速度で走っている。素晴らしい記録だ。


「問題はこの速度を維持出来るかどうかだね」


 昭弥は、冷静に言った。

 マラードをはじめとする機関車の最高速度記録は、下り坂で短時間の間だけ出せた速度だ。この速度を五時間ほど維持出来るかが問題だった。

 最初の一時間は問題無く進むことが出来た。

 だが、出発してから二時間後、問題が発生する。

 突然下部から音が響き、車体に何かが当たる音がした。


「どうした!」


「高速給水装置が壊れました」


「何だと」


 高速線運転用の機関車には運転中に給水出来るように車体の下部に出し入れ可能な吸水口が設けてある。

 長時間の高速運転を目指したウェントゥスにも搭載されており給水を行っていたのだが。


「時速二百キロには耐えられなかったのか」


「どうします?」


「追加給水車の方は無事か?」


「いいえ、そちらも破損した機材が激突したのか同時に破片が直撃したのか、壊れました」


「やはり、トラブルが起こるか」


 蒸気機関車で時速二〇〇キロで進むのは、昭弥の居た世界でも行われた事はない。本当に何が起こるのか分からない。


「進めるところまで進むしかない」


「しかし、大丈夫でしょうか。機関車の航続距離が足りるかどうか」


「そうなんだよな」


 セバスチャンの指摘に昭弥は顔をしかめた。

 蒸気機関車は水を石炭を燃やす熱で蒸気を作ってピストンに押し込んで走らせる。

 そのため、給水車のタンクがあるが二時間ほどで空になってしまう。

 ウェントゥスには追加給水車を装備させているが、最高速の高速運転中のため給水車の減りが早い。


「何とか持ってくれよ」


 昭弥は祈るように呟くが、給水が不充分だったこともあり、一時間半ほど進んだ後、水不足の為に西龍まで二百キロを残して停止してしまった。

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― 新着の感想 ―
[一言] うわぁ!超高速機関車すごいっ! おら、わくわくするぞーーー(⌒▽⌒)/
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