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詰問

 王都に到着したセバスチャンは、その足で鉄道会社本社に行き、事の次第をフィーネ達に伝えた。そして、本社を中心に事の次第を知らせ軍に対して昭弥を解放するよう要求するように伝えた。

 それを終えると王城へ行きエリザベスとラザフォード公爵に会い、ユリアの協力を仰ぎたいと伝えた。

 ユリアは既にセバスチャンの電報を読んでおり事件のあらましを知っていたが、セバスチャン本人の報告を聞いて更に怒りを募らせた。


「直ちに軍務大臣を呼びなさい」


 その一言が発せられて、ハレック元帥はすぐさま王城に参内した。これまでも呼び出したかったが、情報が錯綜し確実な情報が無いため呼び出したが強く言えずにいた。だが、今回はセバスチャンという証人と昭弥からの直筆手紙があり、事実を知ることが出来て詰問出来るようになった。


「元帥、どういう事ですか。勝手に鉄道大臣を憲兵隊が拘束するとは」


 故に謁見の間に入ってくるなりユリアはハレックを詰問した。


「武器の横流し疑惑のためです」


「黙りなさい! そもそもあなたが九龍王国軍に提供した新兵器が流出したのが問題でしょう。そして、その兵器を提供したのは、元帥、あなたです。そしてその兵器がアクスムに流れて反乱が長引きました。これをどう申し開くのですか!」


「申し訳ございません」


 元帥は素直に非を認め、膝を折り、頭を床に付けるほど低くして謝罪した。


「では直ぐに大臣を解放しなさい」


「しかし、取り調べが済んでおりませんし、取り調べのため各所へ移動させており、時間が」


「なりません。直ぐに解放してここに連れてきなさい。女王である私の大臣を許しも無く勝手に」


「……分かりました。しかし、移送を命じて言えるので王城へ連れてくるのに時間が」


「一時間以内に連れてきなさい」


「ですが」


 ガンッ


 ユリアが足で床を叩くと、そこから亀裂が伸びて行きハレックの眼前で止まった。


「出来なければ首を刎ねます。比喩ではありません」


「御意!」


 跳ね上がるように返事をすると直ぐにハレックは、ユリアの前から逃げるように部屋を出て行った。


「宜しいのですか?」


 側に控えていたエリザベスが尋ねた。


「構いません。何の証拠も無く拘束し処断するなど、あってはならないことです」


 殊勝なユリアの物言いだが、ろくな証拠や根拠もなしに因縁を付けて滅ぼすことをやって来たルテティア王国の女王の言葉だと急に色あせる。

 誰もがそれを知っているが、表だって口を出さないだけだ。


「しかし、一時間以内に連れてくることが出来るでしょうか?」


 エリザベスが、尋ねる。元帥を心配するというより、疑問に思ったので尋ねてみた、といった感じだ。


「出来なければ、首を刎ねるだけです」


 ユリアは本気で言っていたし自ら行うつもりだったが、実行される事は無かった。ハレックは僅か三〇分で昭弥を王城に連れてきてしまった。


「お連れしました」


「早っ」


 あまりの短時間の出来事に蕎麦に居たエリザベスが口を滑らし、ユリアは目を点にした。


「……九龍での鉄道の仕事は終わりましたか?」


「実行するどころか、話し合う前に捕まって出来ませんでしたよ。本当に迷惑ですよ」


 一瞬偽物かと思いユリアが話しかけたが、鉄道のことに関して淀みなく答える姿で本物だと確信した。


「……どういう事です軍務大臣。昭弥は九龍王国で取り調べが行われているはずでは?」


「調べたところ、取り調べには王都が良いと言うことで護送されておりました。現在、緊急輸送が行われており混乱が発生しており情報伝達が上手く行かなかったようです」


「つまり、あなたは自分の軍務省さえ把握することが出来ないと言うのですか」


「い、いえ、そういうわけでは」


 巨大官庁を一人で把握するなど不可能に近い。そのことはユリアも昭弥も分かっている。日本だと直ぐ大臣の責任問題、管理がなっていないと騒がれるが、命令なしに自らの権限で勝手にやる奴もいる。

 だが、どうもこれは大臣がやったように思えてならなかった。


「ハレック元帥、あなたを軍務大臣から解任します。そして、これより査問を行います」


「異議あり」


 そこに声を上げて割って入ったのは、帝国のルテティア王国駐在武官補のスコルツェニー少佐だった。


「何でしょうスコルツェニー少佐」


「はい、ハレック元帥をお迎えに上がりました」


「残念ですがそれは出来ません。ハレック元帥はこれより査問にかけられます」


「ダメです」


「どうして」


 ユリアの怒声を受け流しスコルツェニーは流れるように理由を述べた。


「皇帝陛下より帝国元帥ハレック閣下に召喚命令が下りました。直ちに帝都へ赴いて下さい」


「待ちなさい。これから王国による査問が」


「お黙りなさい!」


 ユリアの声に気圧されること無くスコルツェニーは、告げた。


「帝国皇帝の命令は王国女王の命令より優先されます。皇帝陛下がお呼びになっている元帥閣下を止めるのは、帝国皇帝に対する反逆行為と見なします」


「うっ」


 スコルツェニーに言われてユリアが黙ることになった。

 個人の力ならば、ユリアは人類最強であり、皇帝だろうがスコルツェニーだろうが瞬殺することは出来る。だが、王国の女王が行えば帝国への反乱となり帝国から討伐軍が送られてくることになる。

 王国軍は近年の近代化で強くなっており、帝国軍相手に互角に戦えるだろう。そうなれば王国全土は焦土と化し滅びてしまう。民は苦しみ、国土は荒廃するだろう。

 それは何としても避けなければならなかった。


「……分かりました」


 故にユリアはハレックをスコルツェニーに渡さざるを得なかった。


「ご理解ありがとうございます。ユリア陛下」


 スコルツェニーは完璧な敬礼をユリアに行ったあと、ハレック元帥を連れて、謁見の間を後にした。


「……いつもの事とはいえ、本当に腹が立つわ」


 扉が閉じた後、ユリアが毒づいて玉座に座り昭弥が尋ねた。


「いつもなんですか?」


「帝国の常套手段ね。貴族領内の人物をけしかけて引っかき回すのは。そして失敗すれば帝国内に匿う。必要とあらば帝国内で裁判を行い帝国に有利な判定、帝国側に付いていた人物を勝たせるとかしています」


 そうやって帝国は支配力を強化してきた。


「まあ、権限を集めすぎると行使しきれないから、他の貴族に与えて恩を着せることが多いけど」


 近年は鉄道によって迅速に移動出来るようになったために、帝国が権限を与える事は少なくなってきていた。


「しかし王都に来ていたのですね。どうして連れてきたのでしょう」


「きっと、自らの手元に置きたかったのでしょう。西龍で取り調べてる様に見せかけて時間を稼ぎつつ、王都近くの駐屯地に入れておいてタイミングを計って解放するようでした」


「何はともあれ、助け出せて良かったです」


 ユリアが心底ホッとしたように言うと昭弥が答えた。


「西に向かっていましたから、帝国へ連行されるのかと心配しましたよ。……それで、どうするんですか? 軍務大臣がいなくなったんですけど」


「とりあえずは代理に宰相のラザフォード公爵かスコット元帥を当てて、適当な後任を見つけることになるでしょう」


 ユリアが言い終えた時、昭弥は強烈な視線を受けていることに気が付いた。


「!」


 視線の元を辿るとエリザベスからの視線だった。

 義妹若しくは義姉である彼女から何故受けているのか、心当たりはあった。


(列車の事をセバスチャンが伝えたからな!)


 忘れたかったが、言ったことは否定出来ないし伝わっている。

 この視線は、とっとと言えや弟! と言う言葉に決まっている。

 最近は、視線だけで彼女と会話出来る様になっている。これが兄弟というものか。ハッキリ言って無視したいんだけど。

 どっちが兄か姉か決まっていない事を良い事に昭弥は無視しようとしたが。

 今度はユリアが期待に満ちた眼差しで昭弥を見ていた。


(こっちも知っているの!)


 完全に手詰まりになった昭弥は意を決して、伝えることにした。


「ユリアさん」


「? はい」


「好きです。結婚して下さい」


「!」


 いきなりのプロポーズにユリアの顔は真っ赤に染まった。


「な、な、な、な」


 驚くほど動揺し言葉が出せないでいる。

 あれ、知っていたはずなのにどうしてこんなに動揺するんだ、と昭弥は疑問に思った。


「う、嬉しいんですけど、きゅ、急に言われて、まさかここで、奇襲されるとは」


「え?」


 セバスチャンの電信によって伝わったんじゃ無いのか。


「! まさか……」


 エリザベスやラザフォード公爵に伝えていてもユリアには伝えていないのか。いや、エリザベスやラザフォードが違うことを伝えているかもしれない。例えば何かお土産を渡すとか、そういうことを言って過った方向へ導いている可能性がある。

 改めてエリザベスを見ると、してやったりという顔をしている。ラザフォード公爵など、良い場面を見る事が出来たと満足そうな顔だ。

 完全に嵌められたことに昭弥は気が付き、心の中に怒りが湧いてきた。


「あ、あの」


 だが、ユリアに声を掛けられて振り向くと、顔を赤らめて、はにかんでいる姿を見て一挙に怒りのメーターが下がった。

 それどころか昭弥自身もドキドキして、照れてしまう。


「昭弥」


「は、はい」


 ユリアにじっと見つめられて昭弥は視線を外せなくなった。白い頬がほんのりピンク色になった彼女は、その小さな口から、勇気を持って自分の熱い意志を伝えようとした。

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