九龍王国軍
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「ここか……」
九龍王国首都西龍の郊外にある、九龍王国軍の駐屯地の営門前に立って昭弥は唖然とした。
何というか雑然としていて、繁華街のような場所だ。
駐屯地の前には、町が出来ているが悪所のような場所で、駐屯地との境界が曖昧に見える。
勿論塀や門はあり、境目はきちんと出来ているが、門をくぐっても意識しなければ、入ったことに気が付かなかっただろう。
「軍の駐屯地はこんなものかい?」
「いえ、普通はそれほど酷い場所では……」
付いてきたセバスチャンが答えた。
「……兎に角、物品を調べないと」
門をくぐって二人は駐屯地に入った。
歩哨も居らず、簡単に内部に入れた。だが、そこら辺にたむろしてた無頼の輩、恐らくこの駐屯地の兵士だろうか、に睨まれた。
そして何人かがやって来て昭弥達を囲んだ。
「新入りか? 珍しいな」
柄の悪い、上半身裸の東洋系の男が話しかけてきた。
「あ、王国鉄道の玉川昭弥です。軍需物資の輸送の打ち合わせに来ました」
「そんな話しは聞いていないが」
だが昭弥はアグリッパ大将が発行した命令書を取り出して見せた。
訪れた昭弥とセバスチャンに全ての施設、書類を求められる限り全て見せるようにとの命令書だった。
「王国軍の総司令官から命令書を受け取れるなんてどういう奴だお前は、いや、あなたは」
命令書を見た瞬間、彼らは言葉を改めた。そして恐らく指揮官クラスらしき人物がやって来た。
「失礼しました。この駐屯地の司令、孫です」
制服を着ていたが、所々皺があり、乱れている。普段着ていなくてタンスの奥に仕舞っていて慌てて取り出して着たが、着慣れていなくて乱れているという感じだ。
「しかしあなたのような若い方が大臣とは」
「鉄道について詳しいだけです。後日、輸送する物資や装備、人員の数を確認させて下さい」
「そうですか……付いてこい、いや、付いてきて下さい」
彼は渋々昭弥を倉庫へ連れていった。
「後は勝手に見てください」
酒臭い息で孫がそう言い残すと昭弥達を残してどこかへ行ってしまった。
「……なんなんですか! あの連中は!」
彼が去った後セバスチャンは激昂した。
「確かに一民間企業の社長ですが、歴とした王国の大臣相手にあのような態度は! 本来なら駐屯地の兵員全員を整列させて栄誉礼を行うぐらい」
「落ち着いてくれ、そんな事したら仕事にならないよ」
「そうですが、しかし」
昭弥は視察などで社員が整列したりして迎えることを許してはいない。自分の職務に専念し、お客様に対応するのが本分だと考えているからだ。
命令するのは精々質問したり、職務の様子を見せて貰ったりするくらいだ。儀式的な事を行われると、仕事の時間も減ってしまうので、止めさせていた。
そのことをセバスチャンも知っていたが
「しかし、不満です」
今回の事は頭にきたようだ。
「気を取り直して仕事を進めよう」
「……はい」
昭弥に言われてセバスチャンは仕事、調査を行うべく倉庫の中を確認しようとするが
「……」
中には殆ど何も無かった。
「おかしいな。本来なら輸送するべき小麦が大量に保管されているはずだが」
他の倉庫を見てみたが、すべて同じで空っぽだった。
「兵員もかなり移動するようだけど、食料が足りるのかな」
「社長」
「どうしたセバスチャン」
「その兵員の事なんですが、少ないように思われます」
「? どういう事だ?」
「兵舎に兵士がいません」
「休暇で外に出ているんじゃ無いのか?」
「それにしては兵舎の中が埃っぽいです。生活していれば床ぐらいは埃が払われているはずですが、積もっています」
「確かに」
小姑じゃないが窓の桟はともかく、床の場合足や靴の裏に埃が付いて床に埃が積もることは無いハズ。
なのに足跡一つ無いのはおかしい。
「……他にも調べる必要があるな」
昭弥はとりあえず駐屯地に引かれた引き込み線を確かめに行った。
多少荒れているがレールは大丈夫だった。
定期的にこの駐屯地に物資を運び込む列車があるため、整備は為されている。
「とりあえず貨物列車は入れそうか」
だが、運び出せる物資があるのか昭弥は心配になった。
「しかし、何処に行ってしまったんだ。物資も人員も」
駐屯地の調査を早々に切り上げた昭弥とセバスチャンは、駐屯地の外にある飲食店に入った。
拉麺、日本のラーメンではなく小麦を伸ばして麵状にした元祖拉麺、水餃子、小籠包、羊肉、タマネギの入った鶏ガラスープなどを食べる。
日本の中華料理のように洗練改良されていないが、ルテティアの料理より、昭弥が食べ慣れた料理に近くて、懐かしさのあまり、貪るように食べていた。
「記録のミスですかね」
「いや、運び込んでいるのは確かだ」
搬入の記録は貨車への積み込み記録、列車の牽引時の重量検査もあり、間違いなく多くの物資が搬入しているハズだが、その物資が見当たらない。
「一体何処へ運んでいったんだ?」
「申し訳ありません」
セバスチャンが頭を下げた。
元盗賊の経歴を生かして情報収集を行っているが、九龍王国は新たに出来たばかりの上、帝国人ではなく周出身者が多いため、情報提供者の獲得や潜入諜報員の送り込みが上手く行かず、帝国や王国の人間の入植、居住区に送り込むので精一杯だった。
「いや、準備が整わないのではしょうが無い」
その時、大きな怒鳴り声が町に響いた。
見ると、九龍王国の兵士達がケンカを始めていた。
止める者は無く、寧ろケンカに参加して行く連中が多く、僅かな時間で大乱闘に拡大した。
そして、昭弥の方へ拡大して行く。
しかも何故か銃声が響き、当たりは騒然となる。更に弾が昭弥達の周辺を飛ぶようになってきた。
「不味い、逃げましょう」
そう言って、二人は店の奥の勝手口から逃げる。
そして入り組んだ路地を走っていると、路地内でもケンカがあり、巻き込まれそうになる。
逃げ場を求めて二人は空いていた倉庫の中に入った。
ただ、慌てて倉庫の中に入ったので、中の木箱に激突して落としてしまい中身が出てきてしまった。
「な、なんだこれは」
出てきた物を見て昭弥は驚いた。
知らない物では無く、よく知っている物。自分のグループ会社の一つ鉄道兵器製造で作られている、後装式のライフルだった。
「何でこんなのがここにあるんだ」
「見たな」
昭弥が驚いていると先ほど会った孫が兵士達を連れてやって来た。
彼らは武器を持ってきて構えると昭弥達を拘束しようとした。
「武器の横流しをしていたのか」
町がやけに発展していることに昭弥はおかしいと思った。
駐屯地の近くには町ができものだが、それにしては町の規模が大きかった。兵士達が休日に飲み食いをするので町に金が落ちるが、人員に比して過大に昭弥は思えた。
何か別の収入源が有ると思ったのだが、武器や物資の密売、横流しで儲けていたのだ。
その金がこの町に流れてくるのだから、発展するはずだ。
「見られたからには死んで貰おうか」
彼らは昭弥とセバスチャンに銃を向けて引き金に指をかけた。
銃声が響いた。




