列車内の熱戦
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「さて、西龍まで一二時間。ゆっくり出来るね」
中央駅から出た高速線を使う寝台列車に乗り込んだ昭弥は購入した個室に入りゆっくりしていた。
「特別室に行かなくて良かったんですか?」
各寝台列車は通常特別室という一等より上質な部屋を用意しており政府高官や上流貴族が利用する。
「いいよ、変に広いと落ち着かない」
だが昭弥は豪華列車は好きだが、広すぎると落ち着かない性格だった。
勿論、手足を伸ばすことは好きだが、あまりにも広すぎるのも考え物で、特別室ではなく通常の個室に入っている。
二等の個室でトイレだけ付いていて、風呂はラウンジカーの下に共用風呂があるだけだが、乗客と話が出来る共用風呂の方が好みだ。
「では、色々確認事項を」
「その前に一つ聞いていいですか?」
昭弥はベットに寝っ転がって書類を確認しようとしたが、セバスチャンの問いかけで中断した。
「何?」
「陛下とはどうなんです?」
「え?」
突然のセバスチャンの問いかけに昭弥は驚いた。
「いや、どうって?」
「端的に言います。好きなんですか」
「そりゃ綺麗だし」
「済みません、尋ね方が不正確でした。愛していますか、結婚したいですか、自分の物にしたいですか?」
「何言っているんだ!」
思わず昭弥は叫んだ。こんなにずかずかと入ってくるセバスチャンは今までにない。
「エリザベスか、それとも公爵の差し金か」
昭弥を自分の息子宣言したラザフォード公爵と、そのお陰で義姉もしくは義妹となった公爵子女のエリザベスの名前を挙げた。
元々セバスチャンはラザフォード公爵家の執事だ。
二人の頼みを断ることは出来ないはず。脅されてやっているとしか思えなかった。
「……それは置いといて」
無言の行間から、それが事実だと昭弥は察する。
「兎に角答えて下さい」
「何で今なんだよ」
「じゃあ何時までダラダラと続けるんですか。一生お茶のみ友達ですか」
「うぐっ」
痛いところを突かれて昭弥は、しどろもどろになる。
「いや、好きとか愛しているとか言われたら、どちらかというと恩を感じていて答えたいなと言う気持ちで」
「好きとか愛しているとかは」
「分からない」
「ユリア様と鉄道、どっちを取るか迫られたらどうしますか?」
「えーと」
昭弥は、考えが纏まらなかった。セバスチャンは更に問いかける。
「数多の財宝と鉄道乗り放題券、貰うとしたらどっち?」
「財宝」
昭弥は即答した。
「……どうして?」
「財宝で鉄道会社買収して自分の物にしてから乗り回した方が良い」
実際現在の生活、鉄道会社社長として試乗、視察の名目で乗り回せるのは鉄オタとして至福の日々を送っていた。故に、更に鉄道を拡大出来る財宝が良いと判断した。
「……ごめんなさい、たとえが悪かった。美味しい料理と一日乗車券、貰えるとしたらどっち?」
「一日乗車券」
「やはり、鉄道優先ですか」
「当たり前だろ」
当然のことだとばかりに昭弥は胸を張って答えた。
「じゃあどうしてユリア様と鉄道を同時に提示されたとき、悩んだんですか」
「う……」
セバスチャンに言われて昭弥は当惑した。
「それだけユリア様が昭弥様の中で重要になってきたと言うことでしょう」
「……そうなんだろうけど」
「いっそ求婚したらどうですか」
「何で」
「何時までもうじうじ、先伸ばさしても意味がありません。ここですぱっと決めたらどうですか」
「でも今か?」
「今でしょう」
「何故」
「王国も会社も順調なんですよ。そりゃ前は絶望的でしたが昭弥様のお陰で回復出来、更に発展しています」
「だからといって身分差が」
「そんなのこの自由な王国では無いも同然です。他国を征服したり、占領したり開拓して英雄になれる国ですよ。初代だって皇族ですが、この土地に攻め込んで建国したんですよ。その後も、征服したり、開拓した人が英雄として王族に迎えられたり、結婚したんです。王国を繁栄させた昭弥様には十分な資格が、いえ、昭弥様以外に存在しません」
「いや、そんなわけ」
「他にいません」
セバスチャンに言われて昭弥は黙り込んだ。
「で、どうしろと」
「……ここまで言ってわからないんですか」
分かってはいるが分かりたくないと言うのが昭弥の心情だ。
だが
「分かったよ。良いのかどうか分からないけど、この出張が終わったらユリアさんに話すよ」
「よろしいです」
セバスチャンは満足そうに頷いた。
時間稼ぎで有耶無耶にしようと昭弥は考えていたが、セバスチャンはそんな事を許さなかった。
手元の通信依頼書に何か書き始めた。
「……それは何だ?」
「王城への通信文です。只今のことをお伝えします」
「何を書いているんだ」
「王都帰投後の昭弥様の一大イベント開催告知です」
「止めろ!」
流石に公開処刑などまっぴらゴメンだ。昭弥はセバスチャンから通信文を奪おうとするが、元盗賊の身のこなしに鉄オタが敵うはずも無く。セバスチャンは連絡袋に入れると、列車の廊下に出て行き、窓を開けると通過中の駅のホームに投げ落とした。
「あーっ」
手を伸ばすが時速百キロ以上で進んでいる列車から投げ落とされた物を掴めるはずも無かった。
「観念して下さい」
セバスチャンが昭弥に宣告する。
今の通信は嘘だと打たせるか。いや、既に流される電文を否定するのは難しいし技士が読んでいる。噂となって広がるだろう。
「わかったよ」
腹をくくって王都帰投後に行うしか無いと昭弥は観念した。
以降昭弥は、到着まで部屋から出る事は無く、一人ベットの上で悶々としていた。




