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天高く馬肥ゆる秋

「やあ、ブラウナー参謀長」


「あ、玉川総督」


 軍務省を後にしたブラウナーは町の広場で昭弥とバッタリ会った。


「報告かい?」


「いいえ、転属です。王都の統帥本部に入ることになりました」


「栄転ですか」


「まあ、そうなのでしょうけど……」


 ブラウナーは言葉を濁した。野戦昇進が取り消されて降格というのは恥ずかしい。元の正規の階級から四階級上がっているとしても将官からの降格は言いたくない。

 だが肩章、袖章が既に変わっており、それを見た昭弥は事情を察して尋ねた。


「いっその事、チェニス軍に来ませんか? 優遇しますよ」


 昭弥はチェニス公爵の称号と領地を持っている。

 また、私兵を持つ権利もあり、軍の編成が行われ師団規模になっている。


「師団長、少将の階級を与えても良いくらいです」


「いや、止しておきますよ。私のような者が入ってもご迷惑でしょうし」


 実際は王国軍の方がまだ昇進の可能性が有るのでやめておいた。

 かつてはルテティア王国全軍合わせて三〇万人規模。東西南北に五万人規模の主力軍団、王都に予備軍団と近衛軍団だけ、他に各地方に無数の警備の兵力と自警団だけの小さなものだった。

 だが、大戦によって最盛期には三〇〇万人を動員した。

 大戦後、復員したが領域の拡大に技術革新による動員可能人数が増大して軍の規模が拡大。現在でも約一五〇万の将兵が王国軍に所属しており、かつての五倍の人数だ。

 そのためこれらの部隊を指揮する指揮官が不足しており、王国軍の昇進スピードが上雷始めている。

 現に兵隊出身のブラウナーが大佐の階級を持っているのが、その証明であり、まだ昇進しそうだった。


「けど、万が一上から睨まれたらお願いします」


「そうですか」


 昭弥は残念そうに言った。


「それより、今日はどちらへ?」


 昭弥は旅行カバンを持っていたが、いつもの事なのでまた何処か、遠くの鉄道に乗りに行くのではとブラウナーは思い、近所に出かけるような尋ね方をした。


「ああ、今回は仕事で九龍王国へ」


 話しを聞いた瞬間ブラウナーは嫌な予感がして尋ねた。


「なにがあるんでしょう?」


「いや、九龍王国への鉄道拡張計画を纏めるために向かうんだ。アクスムやデルモニアへの拡張も一段落付きそうだったから、今度は東方への開発を行うことになったんだ」


 アクスムへの開発に巨大な資金を投入していたため東方への投資は少なかった。

 だが、アクスムの開発に成功し、税収がもたらされつつあり、その資金で東方への開発が行われようとしていた。


「それと、向こうでアグリッパ大将とこの秋、というよりもうすぐ行われる臨時軍事輸送の打ち合わせもあるんだ」


「そういえば秋ですからね」


 天高く馬肥ゆる秋

 日本では秋を謳う文言という認識だが、元の中国では牧草を食べて肥え太った北方の馬に乗って匈奴が襲ってくるぞという意味だ。

 ルテティアも北方にエフタルという騎馬民族の連合国家があり、彼らは秋になると冬の備蓄を増やそうとルテティアへ攻め込んでくる。

 この騎馬対策を行う為に軍隊を北方へ輸送する計画をハレックと立てていた。


「かなり大規模で鉄道会社にとっても大きな仕事だからね」


 何しろ数万の軍隊と馬に装備品を輸送するので、幾つもの専用列車を用意して走らせるので、莫大な収入となる。

 北方の防衛にもなるから、なんとしても纏めなくては、と昭弥は使命感に燃えていた。


「そろそろ、列車の時間になるからこれで失礼するよ」


「あ、総督……」


「あ、ブラウナー准将」


「参謀長」


「おお、参謀長!」


 ブラウナーが東方軍について昭弥に声をかけようとしたとき、聞き覚えのある三人が話しかけてきた。


「スコット准将、アグリッパ大佐、ミード大佐」


 アクスムで部下だった三人に声をかけられた。

 正確にはアクスム軍へ配属された部隊の連隊長達で参謀長であったブラウナーに指揮権はなかったが、本来の司令官がブラウナーに指揮権を丸ごと押しつけたため、彼らの上官にならざるを得なかった。


「どうしてここに?」


 言った瞬間に思い至った。彼らも新しい部署への転属辞令を軍務省で受けに来たのだ。


「私は昇進の上に統帥本部付きになったわ」


 最初に話したのはノエル・スコット准将。スコット元帥の孫娘だ。大戦では大尉だったが昇進して大佐へ。そしてアクスムでの功績が認められて昇進したようだ。


「それはおめでとう。いやおめでとうございます」


「私は大佐の階級を正式に認められ、騎兵連隊へ転属となりました」


 次に話したのはメッサリナ・アグリッパ大佐。東方軍司令官アグリッパ大将の孫娘だ。彼女は先の大戦で反乱軍に居たのだが王国軍への復帰を許され、同じくアクスムでの戦いを認められて、大佐への昇進が正式に認められたようだ。


「俺は階級が認められて、新設の連隊へ初代連隊長として転属になった」


 最後に答えたのはローリー・ミード大佐。ミード少将の息子で、異常なほどの耐久力を持っている。


「何で来たんだよ」


「いやー何か、久方ぶりに王都に来たくなって休暇をな」


「そ、そういうことよ」


「そういうことですわ」


 ミードに釣られてスコット、アグリッパの二人も同意する。


「あなたブラウナー大佐は、王都出身よね」


「え、ええ」


 上官となったスコットにブラウナーは曖昧に答える。


「じゃあ、案内しなさい。私は久しぶりなので地理が少し疎くなってしまって」


「そうですね。この辺は余りよく知らないので、ブラウナー大佐に案内して貰いましょう」


「じゃあ、宜しくなブラウナー」


「ちょ」


 返答する前に、ブラウナーは三人に連れ出されてしまった。


「相変わらずだな」


 昭弥は離れて行く三人を呆れながら見つつ、列車に乗るために中央駅に向かった。


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