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国立銀行

「帝国の経済を繁栄させるため、ここに国立銀行の創設を宣言する」


 帝都にて皇帝フロリアヌスが国立銀行法を制定し、帝国に本格的な銀行が誕生した。

 すぐさま帝国各地に銀行が誕生し、業務が始まる。

 だが、開業を許されたのは帝国有数の商家であり、また裕福な都市の有志による設立だった。

 多大な資本金の有無を重視したと帝国は伝えたが、皇帝の懐に多額の認可料が入ったという噂がまことしやかに囁かれたが、皇帝をはじめ帝国は何も発表していない。




「馬鹿なことをしやがって」


 設立を宣言されて昭弥は悪態をついた。


「どうしてですか?」


 いつもの皇帝の愚行だと思ってセバスチャンが尋ねる。


「銀行券の発行を認める。銀行の誕生ですよ。帝国の経済も発展しますよ」


「ああ、確かにね。だが二〇〇以上も同時に設立なんて無茶苦茶だ。明治の国立銀行と同じだ」


 日本にも、明治時代、国立銀行が生まれたが最初は五行しかなかったが、後に増えて一五〇行以上となった。

 ちなみに国立銀行となっているが国の法律よって設立された銀行という意味で国立銀行と名付けられており、純粋な民間銀行だ。そのため最近の歴史の教科書では国法銀行と改めようという動きがある。

 それらの銀行は、民間ながら銀行券の発行が可能となっていた。


「信用創造をして資金が増えるのは良いのでは?」


「ああ、でも兌換券だからね。交換対象となる金貨の数が少ないと意味が無い。銀行間で金貨の取り合いが起こるぞ。不換紙幣も発行出来そうだが、通用するかな」


 昭弥も王立銀行を作るとき、定額手形――事実上の銀行券――を限定期間ながら不換紙幣にしようかと考えたが、シャイロック総裁の提案により迅速に金貨に交換出来る兌換紙幣として発行した経緯があった。


「いずれ不換紙幣が必要になるが、いま出すのは難しい」


 下手をしたら大失敗して信用が無くなり導入が著しく遅れる可能性が高くなる。


「あー、本当に嫌だな」


「あのどういう事になるんでしょうか?」


 セバスチャンに尋ねられて昭弥は少し考えてから答えた。


「インフレになって大混乱だろうね。でもって信用出来ない銀行券が出てくる。金貨が少ないから銀行間で取り合いが始まって、金貨を取れなくなった銀行が潰れる。そして銀行券は紙くずになり、持っている人は損をするね」


 昭弥の言葉をもう少し分かりやすく言うと、数セットのトランプを使って十数枚抜いて行うジジ抜きする、と言ったところか。

 各銀行で勝手に発行していて、複数の銀行券が使用されている。とりあえず額面は同じで各銀行券は共通して使えるが、信用度となると問題だ。

 いきなりある銀行が倒産して、その銀行券が紙くずになる可能性が高い。

 王立銀行は、準備の金貨はあるし徴税権という担保があるが、国立銀行の方は民間のため独自の資本、帝国発行の金貨でやるしかない。

 案の定、昭弥の予想通り、二〇〇を越える銀行は銀行券の大量発行を始めた。影響力を広げるには銀行券を発行して広範囲に浸透させるしかない。

 ネットのサイト閲覧数や、ネットオークションの取り扱いアイテム数と同じで多ければ多いほど使われる可能性は高くなり、生き残れる。

 昭弥の予想通り、不換紙幣も発行され始めたが、新しい経済アイテムの事を区別出来る人間は少なく、多くの人が銀行の説明や、特典に引き寄せられて受け取ってしまった。

 かくして各銀行が銀行券を発行したために、市場や一般に投入される資金量が増大。

 結果、通貨量が多くなりインフレとなった。

 引き留めるべきだったが、各銀行は生き残りをかけて更に銀行券を発行。他行が行うなら自分も、と各銀行は留まるどころか更に発行する。

 だが、それが出来る体力、ネットなら運営費、銀行なら資本金がどれだけ多いかで影響力は決まってしまう。

 実際、幾つもの銀行があまりにも多くの銀行券を発行しすぎて、原資不足となり倒産した。帝国で初めての銀行設立だったので、規則が緩く倒産防止となる取引量、発行量の規制が不充分だった。

 そのため、預けていた資産が銀行の倒産で消えた。何分の一が無くなった、と言った出来事が広がった。

 だが、それ以上の損害が発生したのは、次の事件からだった。




 最初の銀行が潰れて暫くして、第四二国立銀行が潰れた。

 その原因は噂からだった。

 ある市民Aがたまたま入った喫茶店で複数の客が倒産した銀行の話しをしていた。そして第四二銀行も危ないな、という話しを聞いた。

 根も葉もない噂だったが、Aは心配して友人のBに話した。その時はBも冷静だったがCも第銀行が危ないという話しを聞いていた。実際はCはDからDはAから聞いていた。不安になったAが大勢の友人に話しかけたためだった。

 だが複数の人から話しを聞いたBは本当ではないかと思い第四二銀行に向かった。

 すると、第四二銀行から大量の金貨を引き出した商人がいた。純粋な取引用の金貨だったのだが、Bは倒産するからその前に引き出したと解釈、自分の口座から全預金を引き出した後、知り合いに第四二銀行は危ないと話しその日のうちに町の預金者全員が第四二銀行から引き出してしまった。

 翌日には隣町にも伝わり、第四二銀行から預金が次々と引き出される。そして、引き出し用の金貨が無くなり受付中止となると、本当に金が無いと騒ぎだし、より悪化していった。

 更に他の銀行も危ないのでは、という不安心理が働き、各銀行でも取り付け騒ぎが発生。帝国の経済は大混乱に陥った。




「どうしてこうなったのだ」


 銀行を開設して帝国の活性化を図った皇帝だったが、裏目に出てしまい慌てた。


「はい、銀行の原資が少なかったのと、預金を全て引き出され、資産が無くなったことが倒産の原因です」


「何故、取り出すのだ」


「倒産すれば自分の資産は返ってきません」 


 制度上の不備もこれに拍車をかけた。

 日本なら銀行が倒産しても準備金や日本銀行に預けてある分など預金者一人につき一〇〇〇万まで保証される。だが、出来たばかりの帝国の銀行制度にはそのようなものは無く、倒産すれば返ってくる事はない。

 そのため、先を争って預金を引き出そうとした。


「引き出した資産は自ら持つか他の銀行に預けますし」


「何処に預けたんだ」


「ルテティア王国系列の銀行ですな」


「何故だ」


「ルテティア王立銀行が背後にあります。彼らは十分な資産を持っておりますし、いざとなれば王国の徴税権があります。資産の裏付けが十分であり、安心感があるようです」


「……果たして本当かな」


「はい?」


 暫くして皇帝はスコルツェニー少佐を呼んだ。


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