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皇帝の事情

「いや、本当に儲かるな」


 新たな本社のビルで川谷が呟いた。

 本日は鉄道会社の揚々たる出発を祈っての宴だった。

 株式会社化して、大商家を中心に配当を約束した株式を販売し、それを元に大改革を実行した。

 不採算路線を売却し、その利益を得、運賃の値上げによって収入も上がっている。

 更に沿線の市町村にも廃線をちらつかせて経営資金の寄贈を要求。鉄道による産物の販売で成り立っている市町村は金を出すしか無かった。

 こうして、大量の資金を得て帝国鉄道株式会社は、初年度にして大幅な黒字が約束されたようなものだった。

 正確な収支報告は出来ていないが、これまでの利益を足し合わせた額の倍くらいの利益になるだろう。


「何ら法律がありませんからね。自由に出来るのは良いことです」


「日本もこれくらいの自由が無ければ、失われた二十年から脱出出来んな」


「それに我々は来たくも無いのに勝手に連れてこられたんだ。そして鉄道を儲かるようにしろと言ってきたのだ。言われたとおりやって、こちらが好きにやっても向こうは文句あるまい。それどころか、これでも足りないくらいだ。もっと儲けても罰は当たらんよ」


 三人が口々に言っているとき、突如扉を破られた。


「な、なんだ」


 黒地に金縁の帝国近衛兵の集団が、無言で乱入し、三人を取り押さえた。


「待て! 何をするんだ!」


「黙れ!」


 そう言ってマスケット銃の銃床で殴りつけ床に抑え込むと、縄で縛り上げ三人は連行されていった。

 翌日、彼らは元老院の議場に連れてこられた。

 議場既に議員が全員集合していた上に、皇帝フロリアヌスも臨席していた。

 そして、帝国宰相ガイウスによって三人に罪状が言い渡された。


「川谷一樹、青戸浩之、末広貴樹。その方ら、帝国鉄道の重役にありながら、業者より賄賂を受け取り、公共財を不当な廉価で売却し、帝国に著しい不利益を被らせた。この罪万死に値する」


「何を言っているんですか経営者として当然の……」


「黙れ! 不当に値上げを行い、近隣の市町村から金を巻きあげ、帝国の財産を不当に売却したことは多くの証人がいる。多くの者が貴様らを告発しているのだぞ」


 そういって、議場の後方に居る訴え出た人々が頷いた。金銭を要求された市町村の役人、運賃が高くなり立ちゆかなくなった商人などが座り、彼らを口々に非難していた。


「全ては帝国の法に従ったまでです」


「その帝国の法は帝国の公共の秩序を守るためであり、民をいたずらに傷つけるための者では無い。そのような法は既に法では無い」


「お待ちください。全ての法は厳格に適用されなければ、誰も守ろうとしません。例え、それが悪法であっても法であり、守らなければ」


「黙れ!」


 末広の演説を皇帝が断ち切り、命令を下した。


「その方らの罪は明確である。なおも自らの罪を認めず、帝国になすりつけるとは言語道断。すぐさま死刑にせよ」


「ま、待って下さい! このような不当な事が許されて良いのですか。一体何の権限で皇帝が私たちを」


「帝国においては全て皇帝陛下の専断権が認められている。皇帝陛下の命は帝国においては絶対。貴様らに死刑が命じられれば死刑なのだ」


「ま、待って下さい! 慈悲を、法の加護を!」




 議場から連れ出された彼らは、すぐさま闘技場に連れて行かれた。

 剣闘士の戦いが行われる場だが、公開処刑が行われることも多々あった。

 そしてこの日は帝国鉄道で不利益を被り不満と怒りを募らせた民がこぞって押し寄せ、何万人も収容出来る闘技場は満杯となった。

 三人の処刑を見物するためである。

 三人は闘技場の中心に引きずり出され、鎖で繋がれると、ミノタウロスが放たれ彼らに襲いかかった。

 圧倒的な力で掴まれると鎖ごと身体を引き千切られ、最後には喰われて無くなった。




「全く、役に立たない者を連れてきおって」


 三人が処刑されたことを報告されて皇帝は、毒づいた。

 実際は彼らは本当に鉄道が儲かるようにしただけだ。実際、帝国鉄道会社の収益は、帝国直轄の時代も含めて最大になった。しかし、それは帝国の体制を崩壊させるような形であった。

 特に鉄道が帝国の物流や経済を担う重要なシステムの一部となりつつあっただけに、鉄道の分割は帝国の一体化を阻害する要因となりつつあった。

 故にフロリアヌスは皇帝の専断権という伝家の宝刀を放つこととなった。

 皇帝が自由に決めて良いという権限だが、乱用すると帝国国民の反発を受ける諸刃の剣である。

 今回は、国民や元老院の支持があって使用できたが、下手に使うのは避けたい。


「それで、帝国鉄道を元に戻すことは可能か?」


「技術的に出来ますが、売り払われた路線の買収などに多額の費用が掛かります。また、市町村への返金、運賃の値下げもありますので」


「連中の稼いだ金を使っても無理か」


 彼らが売却で稼ぎ出した金で買い戻すのだから、金が足りない。

 だが、鉄道を復活させなければ帝国の統一は危うい。

 元々帝国各地を結びつけることによって帝国を一つにまとめ上げ、今日呂君あ中央集権国家にしようとしていた。鉄道が延びる過程で、様々な物産が流通することにより、貴族領の経営を困難にして貴族の力を弱めることも目的だ。

 帝国の領地は広く、効率的な統治には独立して判断を下せる貴族領が必要だった。特に帝都と離れており連絡に時間の掛かる辺境は特にだ。

 だが、鉄道のお陰で連絡が容易になり、軍隊さえ派遣可能になり、貴族領の利点は失われ欠点のみが残ることとなった。

 反乱を起こす危険のある貴族領を減少させ帝国、ひいては皇帝の力を強めるのにフロリアヌスとガイウスは鉄道の拡充に努めた。

 昭弥を敵視しながらも、暗殺せず生かしているのも鉄道の発展に役に立つ人物だからだ。

 故に、帝国は帝国鉄道を維持する必要があり、分断された状態を直す必要があった。


「また鉄道このように値上げを抑え、勝手に廃線出来ない様にする法律を策定する必要があるとの意見が出ておりますが」


「必要かもしれぬな。だがそれでは他の鉄道会社に任せると言うことになるでは無いか」


「はい、ですが帝国政府に預け管理すれば大丈夫では無いかという意見が出ております」


「うむ、帝国の鉄道は帝国が管理しなければな。いっそ全ての鉄道を管理下に置くか」


「宜しいかと思いますが、既存の鉄道も買収となると多額の費用が掛かります」


「そのような金は無いというのか。先日改鋳したばかりではないか?」


「既に使い切っております」


「うぐっ」


 デフレを克服するために大量の金貨を出す為であったが、デフレの病巣は深く帝国政府が発行した分では足りなかった。


「だが、必要だろう……まて、確かユリアの王国は、金が溢れているな」


「はい、銀行というシステムを作り、一枚の金貨で数倍の金額の様に扱える方法だとか」


「それは、凄い」


「はい、帝国内でも銀行の有効性を認め、設立するべしという話しが出てきております。既に帝都の大商家などから銀行の設立願いが出ております」


「よし、認めよう」


「そう簡単に、認めて宜しいのですか?」


「良いだろう。しかし、皇帝に要求を認めさせるにはそれ相応の礼儀が必要であろう」

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