召喚者達
数日後、帝国奥地で巨大な爆発が起こった。ジャネットの研究所を中心として被害半径は一キロほどとなったが、無人地帯だったため研究所以外に被害は無かった。
更にその三日後、帝城に三人の異世界人が帝都に送られてきた。
三人だったのは、四人目を召喚しようとしたところで装置が暴走し爆発、完全に破壊されたためだった。
彼らは帝国の迎賓館で歓待を受けた後、謁見の間に送られ皇帝に謁見した。
「ようこそ来てくれた」
フロリアヌスは直々に三人をもてなした。
「出来れば名前を聞きたいのだが、私はフロリアヌス、リグニア帝国の皇帝だ。卿らは? 名前と何を生業としているか聞きたい」
ジャネットの翻訳魔法で会話には問題無かった。三人は皇帝の問いに戸惑ったが、周囲の近衛兵の無言の威圧に抗しきれず、ぽつりぽつりと答え始めた。
「……川谷一樹です。投資会社で鉄道関連のコンサルタントをしていました」
一番若い人物が答えた。
「……青戸浩之。鉄道会社の社長を務めています」
初老の人物が答えた。
「……私は末広貴樹。政治家だ、鉄道に関しての政策に関わったことがある」
老齢の人物が答えた。
「ほう」
全員鉄道関係者、ジャネットは仕事をこなしたようで、フロリアヌスは満足した。
そして、いきなり別世界に連れてこられて不安がる彼らに皇帝フロリアヌスは命じた。
「頼みたいことがある。我が国にも鉄道があるのだが最近芳しくない。これを復活させて欲しいのだが」
本人は頼んでいるつもりでも事実上、命令だった。
断ろうとしたが、周りの雰囲気、完全武装の近衛兵が囲んでいるでは全く対抗出来そうに無い。三人は承諾以外に方法は無かった。
「……分かりました。では資料を見させて貰ってから検討いたしましょう」
答えたのは政治家の末広だった。大戦に従軍した上、魑魅魍魎の政治の世界を歩いてきただけあって、度胸はついていた。
「できる限り早期に用意しよう。卿らが活躍出来るように最大限の配慮も行おう」
こうして新たな召喚者がこの世界にやって来た。
「……どうも帝国が異世界人を召喚したみたいです」
「そのようだね」
「どうも民営化。帝国鉄道を株式会社にしているようですが」
「だろうね。デフレでも全体的な発行量は増えているから株式を発行すれば資金を得られるよ」
冷や汗を掻きながらセバスチャンが昭弥に報告した。
つい最近、帝国鉄道の人事で新たにトップが三人変わった。
だが、誰も今まで帝国鉄道どころか帝国全土でも聞いたことの無い名前であり、何者なのか調査を行っていた。扶桑の人間に似ているという情報が入っていたが、確証は無く、そのまま名簿を昭弥に渡したのだが、それからずっと取り付かれたように作業を行っていた。
彼らは、帝国鉄道について調べ改革案を出し、その全てを実行するように皇帝に命令された。そして彼らは、自分たちのやり方で行っていた。
簡単に言えばトップダウンによる改革である。
「ははは、相変わらずだな」
三人の仕事の報告を受けた昭弥は異常なほど冷静な声で返答した。だが、自分のやっている作業を止める事はない。
「……社長と同じ異世界からの人達ですか?」
震える声を抑えつつセバスチャンは尋ねた。
名前の響きが昭弥の世界の人間と似ていたからだ。
「ああ、名前に関しては聞き覚えがあるよ」
それでも昭弥はある種の執念というか怨念を込めて一つ一つの作業を丹念にやっている。
「……お知り合いですか」
「いや、でも有名だったからね。彼らは」
昭弥は答えたが、心の内がどす黒いオーラとなって当たりに吹き出した。
「……お会いしたいのですか」
「是非!」
殺意の籠もった声で喜々として答えた。
耐えきれなくなったセバスチャンは核心を突く質問をした。
「どうして拳銃を整備しているんですか」
「何故って、彼らを撃ち殺すためさ」
さも当然のように拳銃のグリスアップと動作確認を行いつつ答えた。
「三丁も必要ですか!」
「一人につき頭と首と心臓に二発ずつ撃ち込む必要があるからね」
「何でですか!」
「鉄道にとって害悪だからだよ」
昭弥は殺意に満ちた声で答えた。
「あ、あのどういう事をしたんですか」
「俺の居た世界の鉄道を破壊した」
「え、犯罪者なんですか?」
「もっとたちが悪い」
昭弥は説明した。
「まず、末広だが、こいつは政治家。国が保有していた鉄道を分割民営化しやがった」
「それが悪いことなんですか」
「悪いね。それまでは国鉄で全土を結ぶ鉄道網が出来ていたが、赤字だからといって数個に分割されて民営化しまったよ。しかも、一部、赤字路線は民間にや地方に押しつけやがった。中には廃線になった部分もある。お陰で鉄道は各所で分断されてしまった。全国的に直通電車が少なくなって不便になった。一括民営化も出来たのに労働組合を分割するためにやりやがった。巷じゃ民営化の成功例とか言っているが、体力が無くて整備や設備が酷くなっている会社もあってこのままでは滅びるぞ」
「で、でも、赤字が解決して良かったのでは」
「その赤字の原因を作ったのが末広なんだよ。地元に鉄道を建設させたり、子分の戦局に鉄道を建設させたからね。赤字は国鉄持ち。国鉄が建設しなくなったら、建設公団を作って勝手に敷設して押しつけるんだ。建設費も込みで押しつけるんだから、赤字にならない方がおかしい。まあ他の政治家も噛んでいるが自分たちの行いを棚に上げて、悪し様に赤字を批判して分断したんだから人に責任を押しつけて自分だけは助かるというクズだ」
「で、でも黒字の会社もあるのでは?」
「その黒字も、酷いものだよ。国鉄の債務を新会社は継承せずに別組織へ行ったり免除したり。結局破綻して税金で補填だ。他の会社は借金なしか圧縮されて足かせが無くなった。そのくせ、公共交通機関では無く、儲けるためのシステムに変えやがったのが民営化された会社社長の青戸だよ。奴はドル箱の高速鉄道に集中投資して儲かるようにした」
「良いのでは?」
「その代わり他の路線は貧弱になったよ。ある地方なんか高速鉄道は一時間に上下四回通るのに、各駅停車は朝昼夜の一日三回くらいしか通らない路線に変えやがった」
「ほ、他にも為になる会社を経営している方が居るのでは」
「他会社のクズの見本が川谷だ。ケルベロスっていう投資会社から派遣された奴なんだが、住民の生活路線が不採算だから廃止を求めてきたんだ。投資会社なんて赤字の会社を買収してリストラして一時的に黒字にして見栄えを良くしてから、高値で売り払い、あとはどうなろうと知ったことでは無い。そんなもの、とっとと処分するべきだ」
「あー……」
昭弥の怒りは相当なものだ。このままでは本当に帝都に乗り込んで殺人を犯しかねない。
「し、しかし、どうして皇帝はそのような人物を召喚したんでしょうか」
「知るかよ」
昭弥は吐き捨てて、旅行の準備を始めている。絶対に帝都に行って三人を殺す気だ。
「か、彼らが帝国鉄道を経営したらどうなるのでしょうか?」
セバスチャンが尋ねると、ようやく手を止めた。
そして、暫し思案し結論を述べた。
「……あくまで想像だがやはり分割民営化をするだろうな」
「分割ですか」
「ああ、不採算路線が多いからな。連中なら、それを最小限にしようとするだろう。で、儲かる部分だけ残して他はしらない」
彼らは日本での成功体験があるから、同じ事をするだろう。
その場合、どうなるか昭弥は考えて、憂鬱になった。
「どうしますか?」
「……ほっとく訳にも行かないが、帝国鉄道だからな」
溜息を付いて、述べる。今後の暗い未来を考えてしまい殺意も萎えてしまったようで、昭弥は椅子に身を預けた。
その時、話題となった帝国鉄道、正確にはその経営者である三人から手紙がやって来た。




