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王国選挙

 昭弥が帝都から王都に帰ってきた時、その異変に気が付いた。


「なんだアレは?」


 王都中央駅前で異様な光景が繰り広げられていた。


「権利の拡大を! 社会保障の充実を!」


 昭弥の居た世界に照らし合わせれば、デモ活動か選挙演説と言ったところか。


「ああ、もうすぐ王国議会の選挙ですからね。ああやって演説しているんでしょうね」


「アレが普通なの?」


「いえ、ああいう人は多くなっているのは最近ですね」


 よく見てみると、殆どがこの周辺で働いている人達だ。彼らの服装を見るとそれほど裕福では無いが貧民でも無く、余裕があるように見える。

 いわゆる中間層の人達だ。


「働かなくて良いのか?」


 この時代は基本、多くの人間はその日の糧を得るために、汗水垂らして働かなくてはならない。


「生活に余裕が出来て政治活動に目が向いたようだね」


「まあ、それは良いんだけど」


 人は余裕が出来てこそ、周りに目が向くことが多い。

 王国鉄道の賃金が良く待遇が良いのも、彼らに余裕や余暇を与えるためだ。それが周りに波及し始めているのは良い事だ。

 貧困層の投票率が低いと言うデータもあるそうだ。一応、全ての市民に投票権があるが、行使する人が少ないのはそういう理由だ。

 ちなみに、王国の投票率は低かったが最近増えている。

 移民の国のため、自分の事で精一杯だったためだったり、奥地に住んでいて投票所へ行くのが困難だったからだ。

 だが、都市部へ労働者の流入が増えたために、投票が身近になり自分たちの権利を行使しようと、立候補者の声に耳を傾けていた。


「他にも居るようだね」


 周りを見ると、生活向上を、権利拡大を、給与の増額をという声が多い。


「権利意識が高まっているか」


 先のルテティア大戦で多くの人々が従軍した。

 その大半は王国軍に従軍した一般国民だ。

 彼らの多くは復員し、各地で復職、起業を行っており衰退しつつある貴族に変わり、王国の中心になりつつある。

 そのため王国を支え勝たせたのは自分たちだという意識が生まれ、権利拡大を訴えており、彼らの意見を代弁する議員候補が多くいた。


「奴隷解放を! 人々は皆平等です!」


 その中で昭弥を固まらせた声が響き渡った。


「ポーラさんだ……」


 帝国貴族でありながら奴隷制開放を訴えるポーラ・ワトソン男爵だ。ちなみに女性であり独身。

 彼女の奴隷解放運動は活発で、昭弥の元に来たことも一度や二度では無い。


「奴隷制度は人を家畜にする悪しき制度であり、悲劇の元凶です。このような制度は直ちに廃止しなくてはなりません」


 ちなみに帝国は奴隷制を採用しており、その傘下にある王国にも多くの奴隷がいる。

 だが、最近は戦争の激減などで奴隷の供給が少なくなっており、制度は縮小しつつある。しかし未だに残っているのも事実であり、大農場では奴隷が労働力となっていた。


「想像して下さい、今幸せに暮らしているあなたが、突然奴隷に落とされ誰かに使役されることを。決して夢物語では無く、それが現実なのです。例えどのような身分境遇であっても奴隷に落とされる事があります。それは貴族であっても公爵であっても変わりません。先の大戦を見て下さい。先の王国宰相だったアントニウス公爵は、ユリア女王に逆らったという罪で奴隷に落とされました。例え公爵でも女王の意向一つで奴隷に落とされるのです」


 彼女の演説を聴いて昭弥は背中がざわついた。

 確かにアントニウス公爵は奴隷に落とされユリアの元にいる。だがそれは反乱の首謀者だったからであり処罰をしただけである。決して無意味に奴隷に落とされたのではない。

 ましてその反乱は王国を救うためでありあえて、穢れ役となったのだ。それは秘密事項であったがアントニウス公を悪く言うのは、昭弥には許せなかった。

 ここで彼の無実と真実を叫びたいが、それは彼の決意と結果を裏切るものであり、出来なかった。

 その場を立ち去ろうとしたが、彼女は演説を続けその言葉に愕然とした。


「決して、夢物語ではありません。現に先の大戦では王国鉄道の玉川社長が奴隷となろうとした捕虜を助け出しました」


「ぶはっ」


 突然の事に昭弥は咽せた。

 周りに居た聴衆が一瞬昭弥を見たが、昭弥が反射的に顔を覆ってしまったので顔を見ることは無かった。さらに矢継ぎ早に演説をするポーラに意識が引き戻され、昭弥を見る人間はいなかった。


「このように奴隷を無くそうとする方は多くおり、奴隷解放が増えております。奴隷制度解体の為にどうか投票を」


 拍手と歓声が観衆の間から起こり、彼女の演説は終わった。


「ひでえな」


 確かに奴隷制度反対のスタンスを取っている昭弥だが、ポーラ女史を応援している訳では無い。だがあの演説、話し方は昭弥がポーラを支持しているような言い方だ。


「全く、酷いやり方だ。当選するのかね。というより当選できるのか?」


 帝国貴族だが、立候補の資格があるのだろうか。


「あー、各選挙区の基準を満たせば立候補できますね。王国は議席を町や都市、郡に渡しているだけなので彼らが誰を送ってくるかは、彼らの権利ですから。王都は帝国市民なら誰でも議員に立候補出来ますね」


「マジかよ」


 国全体で選挙権被選挙権が決まっているのでは無く、各都道府県に議席を割り当てて、後はお好きにどうぞ、と言ったところか。

 この状況だと下手をすればポーラ・ワトソンが王国の議会に議席を持つことになるのか。


「貴族から選出されないだろうね?」


 議会は議席を与えられた市町村の選挙によって選ばれる議員と貴族に分配、交代、互選で選ばれる議席がある。

 貴族の場合公爵は自動的に議員の席が、侯爵と伯爵は交代で、男爵以下は互選で行われる。

 ちなみに公爵は自動的に議席を与えられるので、チェニス公の昭弥にも議席はある。殆ど代理人に任せて出席していないが。


「最近、貴族の数が少なくなりましたからね。それにポーラ卿の領地は帝国本土にあったはず。王国には一片たりとも無く、王国の貴族の称号も無いので貴族からの選出は無いでしょう」


「そうか」


「しかし、おかしいですね」


「何がだ?」


「観衆ですよ。やけに統率されています」


 よく見てみると、拍手のタイミングがやけに合っている。行動の移り変わりも早い。

 まるで訓練された軍隊のようだ。


「少し調べてみる必要があるな。あと、今回の選挙でどういう勢力が議席を占めるか確認してくれ」


「はい」




 その日の夕方頃、セバスチャンが選挙予測を持ってきた。


「単純に見て貴族は女王派で纏まりますね。先の大戦で多くの貴族が処罰されて力を失いましたから。陛下の庇護に頼るほか有りませんから」


 反乱を起こした貴族の多くが爵位を召し上げられ、領地を削られていた。そのため経済的に困窮しており、王国からの年金などが頼りだ。そのため、王国に逆らう貴族は少なくなっている。


「そのため有力な議員が出てくることは少ないようです。そのため民衆出身の議員、特に都市部から力を持った議員が出てきそうです」


「力を持ってきた議員?」


「はい、主に新興商人です」


 鉄道の開通により、商業が盛んになっている。

 流通の規模、金額が大きくなり、その分新興商人が入り込む余地が増え、新たな勢力が出来つつあった。


「結構、増えていますね。蒸気機関が販売されて電気の供給も来て生産力が上がりましたからね。安価な上に、銀行が資金を貸してくれるので彼らの事業は発展しやすいんです」


「彼らはどんなことを求めているんだ」


「選挙でのスローガンは権利の拡大、公正な競争、更なる富の創出ですね」


「資本家か……」


 最近の鉄道事業の収入を見ると一等車の販売が増えている。

 利用者層、一等車を買える富裕層が増えた証拠だ。

 つまり、格差が広がっていると言うことだ。


「無事に済んで欲しいな今回の選挙は」

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