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鉄道英雄伝説 ―鉄オタの異世界鉄道発展記―  作者: 葉山宗次郎
外伝 ルテティア急行殺人事件
255/763

結末と後始末

これで外伝は一区切りです。

明日からは、博覧会後の新章が始まります。お楽しみに。


5/11 誤字修正

「……どういう意味でしょうか?」


 横穴の中でスコルツェニーは昭弥に尋ねた。


「今回の一連の事件を仕組んだのは、あなたでしょう」


「あなたの社員が乗客を殺したのでは?」


「失礼。その事件は我が社の社員が行った不祥事で、あなたは巻き込まれただけ。それであなたの計画が狂った」


「計画とは?」


 昭弥はゆっくりと、スコルツェニーに話し始めた。


「始まりはタニー氏の裏稼業です。タニー氏は帝国との協力者だった。だが、最近の経営不振で廃業せざるを得なくなった。だが、潰れると帝国との関係がばれてしまう可能性があった」


 いくつか不明瞭な金の流れがあったことは、王立銀行からの調査で明らかになりつつあった。


「そこで、帝国への亡命あるいは逃走を持ちかけた。そして大量の資金を王立銀行から引き出して、逃がそうとした」


 同時に王国から大量の金を引き出そうと計画した。最近王国からの輸入が多く決済のために帝国の金貨で支払われたために、帝国本土では金が減っていた。そこで王国から金貨も引き出せる今回の計画を立てた。


「だが、銀行課長にばれそうになったので殺害を計画。兄弟を使った殺人計画を実行した。同時に、彼らのアリバイを確固とするため、更に王国への牽制を行う為にナッサウ伯に私を殺すよう脅した」


 通信担当の魔術師が体調を崩したのも、帝国の諜報員による工作だろう。

 通信を妨害して、王都の事件の遣り取りが出来ないようにして時間を稼ぐつもりだった。


「何でそんな事を?」


「簡単ですよ。ナッサウ伯は帝国の重要なコマでしたが、最近は意に反することが多かった。そこで処理しようと考え私を殺すように言った」


「妄想じゃ無いのか? 何故あなたを殺さなければ、ならないんですか」


「ええ、理由はないでしょうね」


 確かに王国で鉄道大臣と鉄道会社の社長をやっている昭弥は、帝国鉄道にとって危険だ。

 だが、帝国として見ると鉄道網の拡充を行っている昭弥は、非常に役に立つ人物であり失うのは惜しい。鉄道は発展段階であり、優秀な人材の需要は高いが、人数が少ない。中でも最先端を行く昭弥を亡くすなど論外だ。

 だが勝手な行動を行われ、不利益を被るのは勘弁したい。


「なので、牽制することにした。いつでも殺せると脅しをかけることで」


「殺すんじゃ無いのかい?」


「そんな気持ちはないでしょう。何しろ成功の見込みは殆ど無い」


 賢人伯は影響力は大きいが人を殺せるような能力は無い。

 更に昭弥の周りには、優秀な護衛、セバスチャンや獣人の秘書達がいる。

 彼女たちをかいくぐって、殺そうというのは難しい。


「成功させる気なんてない。必要なのはいつでも殺せると言うメッセージを送れば良いのだから」


 帝国が本気になって殺そうというのなら帝都内で殺せば良い。

 ユリアと違って昭弥は普通の人間なのだから簡単に暗殺できる。

 だが、王国鉄道内のしかも警備が厳重になった昭弥の部屋で事件が起きたらどうなるか。

 必要だったのは、王国の首脳部に帝国の腕が何処にでも伸びるという事を認識させたかっただけ。

 だからこそ、ユリアの部屋の前のトイレに拳銃を置いたのだ。

 脅迫のために銃弾を郵便で送りつけるのと一緒だ。


「駐在武官補なので身体検査を受けること無く食堂車の前にある警戒線を通過できますしね」


「身体検査が行われていたらどうするんだ? マイヤー隊長は容赦ないぞ」


「その時は、素直に預ければ良いのです。あなたは武官ですから護身用の銃を持っていても不思議じゃない。それにバックアップ用の武器を複数持つことも自然だ。一丁多く持っていてもおかしく無い」


 こうして自ら拳銃を持ち込んでユリアの部屋の前の共用トイレの中に隠しておいた。


「ユリアへの謁見を終えたあなたは、部屋に戻ったあと、賢人伯が出て行くのを見計らって伯の部屋にメモを置いた」


「召使いは?」


「彼は帝国の工作員でしょう? 伯を監視して誘導するために脅迫者として現れた。帝国を名乗らないのは、伯の敵意が必要以上に高まらないように。だが、この召使いもくせ者で、工作員でありながら自分の利益を求めて独自に動き出した。恐喝とか行って小金を稼ぐようになった工作員の始末もあなたの目的の一つでしょう。まあメモを見られないように私の部屋から書類を盗み出すように指示を出したのでしょう。彼が出て行ったのを確認してから伯の部屋にメモを置いて晩餐会に向かった」


 だが残念なことにモノクルをマイヤーさんに奪われたことで計画に穴が開く。


「伯は結局私の部屋に行かず、工作員とバッタリ会うことも無かった。臨んだ事件が起きることは無かった。それどころか予想外の事件、本当の殺人と殺人未遂が起こってしまった」


 トイレに置いていた拳銃が男爵に見つかり、それを使って昭弥を殺そうとした上に、ハンベールも独自の殺人を計画しており、工作員と男爵を殺し、昭弥も殺されそうになった。


「驚いたでしょうね。人死が出てしまっては、運転中止になる可能性もありましたし、タニー氏のアリバイも崩れてしまう可能性が出てくる。凄くハラハラしたでしょう。親衛隊も警戒に入っていて、何も出来ない」


「……」


「しかし、事件はオスティア近辺で無事に解決した。だが、次のチェニスで予想外の事件が起きた。いや、解決してしまった」


 タニー氏の不正が明らかになり、殺人の容疑も濃厚となった時、チェニスにやって来て同乗するはずだったタニー氏が逮捕。

 更に守衛の証言により逮捕は確実となった。


「これには流石に対応する必要が出たでしょう。そこでウンベルトを使うことにした」


「どうしてだ。王国軍では」


「王国軍は戦時には帝国軍の指揮下に入りますからね。これまで何らかの便宜を図ってきていて、手駒にしていたのでは? で、命令書を偽造するなりして彼らを列車に乗せた」


 軍務省に確認の電報を打とうにも軍務大臣のハレック元帥と昭弥は仲が悪いので、返答が来ない可能性が高いことも織り込んでいたのだろう。


「そして、彼らにタニー氏の始末を依頼した。報酬は帝国への亡命と車内の現金。まあ帝国に行っても報奨金が出るでしょうけど」


「待て、ウンベルトは強盗では?」


「いえ、タニー氏の殺害ですよ。躊躇無く殺していた」


「見せしめに殺していたのでは?」


「いや、人質が言うことを聞くのは最初に人が殺されるまでです。タニー氏に関しては予め殺すように依頼していたのでしょう。で、適当な理由を付けて殺した。そのあとの現金強奪はおまけ、盗れるなら盗っておこう。それぐらいの感覚でした」


 侵入した割りには計画があちこち杜撰、現金が一般流通していない高額紙幣だったり、半永久連結器を知らない、など所々に綻びがあったのはそのためだ。


「精々、引き込み線の奥に入って迷宮から逃走するのが目的でしょう。念の為に、奥地に仲間の工作員を待機させていたようですけど」


 あとは仲間と合流しウンベルトはそのまま帝国へ亡命。新しい名前や人生を与えられ幸せな生活を営む。そして昭弥達やウンベルトは開放され、事件は犯人逃亡のまま終了。


「これが新たに立てた案ですが、私が予め冒険者を派遣していたので失敗しましたけど」


「……どうして、そのような事を話すのだ?」


「答え合わせですよ。推測の部分もありますから」


「仮に、真実だとしてどうする気だ」


「これ以上の手出しを止めて貰いたいんですよ。王国はこれから博覧会があるので、帝国のちょっかいは止めて欲しいんですよ」


 博覧会を帝国が妨害してくることは予想できる。なのでちょっかいを出さないという保証と確約が欲しかった。


「何もしていないのに、そんな事を帝国が飲むと思うか?」


「交換材料はありますよ。逮捕した帝国工作員の引き渡しでどうでしょう?」


「何?」


「冒険者に頼んで待ち伏せしている連中を生け捕りにしてくれと言ってあるんです」


「帝国の工作員だという証拠はないだろう」


「ええ、王国がそう言うだけです。ですが、そのような事が行われたらどうなるでしょう?」


 帝国が支配下の各邦、諸侯の領地へ工作員を送っているのは公然の秘密だ。

 各邦の不信感が増す上に、王国と帝国の間に不和がある事を宣言することになる。

 事実かどうかを問わずだ。

 捕まえた工作員というのが盗賊だとしても、それに帝国の工作員の濡れ衣を着せることも出来る。


「王国にとっても不利では? 帝国と不和となれば、関係が悪化してい今の貿易や商談、投資が無駄になったり、中止になったりしないか。最悪の場合、帝国との戦争になるのでは?」


 スコルツェニーはそのような不利を承知しながらも顔に出さず、寧ろ王国の不利な部分を指摘して押しとどめようとしている。


「ええ、ですから、帝国の調査員が怪我をして入院したことにしませんか? 展覧会が終わるまで」


 昭弥もそれを認め、妥協案を提示した。


「つまり君は帝国が博覧会を妨害するという妄想の元に、いもしない工作員だとする存在を帝国の調査員として重傷のため、入院措置という名目で人質にすると言うことか?」


 あくまでも工作員と認めずスコルツェニーは交渉内容を確認した。認めたら、相手に交渉材料を与えるからだ。それを知っていて昭弥も交渉を纏めようとする。


「ええ、途中で妨害して博覧会を混乱させたら、工作員だと彼らが自供するでしょう」


 昭弥の言葉にスコルツェニーは黙り込んだ。


「わかりました。帝国の迷宮調査員の救助と手当て、治療の為の入院措置を感謝する」


「博覧会へのご協力ありがとうございました」


 交渉を妥結させた二人は互いに、真実を認めぬまま、列車に戻っていった。




「馬鹿らしいな」


「国家なんてそんな物だよ」


 列車に乗り込むスコルツェニーを見送ったレホスが呟き、昭弥が答えた。


「不名誉な事なんて表沙汰にしたくないんだよ。権威を維持するために失敗とか、醜聞は可能な限り抑えたいんだ」


「あー、やだな。とっとと貰うもん貰って帰りたいよ」


「ほら、約束した金だよ」


 そう言って昭弥は小切手を切った。


「現金が欲しいな。誰かのお陰で稼いだ金を税金として奪われたんだから」


「鉄道銀行の支店に行けば現金化してくれるよ」


「本物の金銀財宝が欲しい。何ならそこの金庫から、ぶっ」


「毎度ありがとうございます」


 元気に答えたのは亜麻色の美人剣士であり、レホスの仲間であるピニョンだった。

 レイピアの柄でレホスの脳天を叩き黙らせて昭弥の小切手を受け取った。


「何かご用がありましたら、遠慮無く私たちにご依頼下さい」


「え、ええ」


 そう言って昭弥は、彼らが<救助した帝国の迷宮調査員>を受け取って列車に乗り込んだ。


「じゃあ、また」


「ええ、お待ちしております!」


 元気に手を振って送るピニョンに昭弥は、手を振る。

 同時に叩かれて伸びて放置されているレホスに何か送る必要があるのではと考え、見舞いの品を用意しようと思った。




 こうしてレホス達と別れると、昭弥は機関士に命じて列車を出発させた。


「やれやれ、ようやく終わったね」


「良いんですか? あんな約束して、守るかどうか」


「その為の保証に<帝国の迷宮調査員>を博覧会が終わるまで<治療>するんじゃないか。博覧会が終わるまで手出ししなければ十分だよ」


「しかし、いつもながら無茶しますね」


「仕方ないよ」


「陛下に頼んだ方が良かったのでは? 一挙に粉砕してくれましたよ」


「絶対ダメ」


「何故です?」


「トンネル内で全力出されてみろ。崩壊してトンネルが不通になる」


「……そうですね」


 RPGゲームとちがって、迷宮の壁は破壊可能だ。通常なら問題無いが、勇者の血をひくユリアの場合、数百メートルにわたって吹き飛ばしかねない。

 崩落したら連絡トンネルは不通となり復旧できなくなる可能性が高い。

 だから、ユリアに知らせずに迷宮内のことを知っているレホス達に頼んだのだ。

 このトンネルで強盗を計画したのも、トンネル破壊を恐れてユリアが出て来ないようにするためだろう。


「まあ、これで帝国への依頼が容易になるよ」




 この後、安全が確認されたルテティア急行は多少の遅れがあったものの無事にアルカディアに到着。更に運転を続けて定刻通りにトラキアに到着した。

 乗客の殆どは列車強盗が起こったことを知らず、臨時の緊急停車という説明に納得し文句も言わずに乗り換えていった。

 そして、一行は待っていた王国鉄道所有の客船<海の女王>号に乗り込む。一部深酒をして担架で運ばれる乗客がいたものの帝都に向かって出港。無事に到着し、帝国との交渉を順調に行う事に成功した。

 勿論、裏で帝国の妨害を行わず、博覧会へ協力するよう交渉が行われた。

 帝国側としても工作員の身柄を確保されているため、やむを得ず王国へ妨害を行わず可能な限り協力する事で決着した。

 そのため、博覧会開催中は帝国は工作員などを使った妨害工作を行えず、別の方法で妨害を行うのだが、それはまた別の話だ。




 ちなみにオーレリーは、約束通り博覧会の後、昭弥の秘書兼執事を離れて、領地へ戻ることになったが、ユリアが気に入ってしまい、自らの執事兼秘書にしたいと言い出した。

 丁度セバスチャンが離れていたこともあり周りに男手が足りないという事情もあったしオーレリーも素直な性格から、陛下の役に立ちたいと快諾し、王城に入ることになった。

 ただ、そのことを知った某メイドは血涙を流して、王城への侵入を連日繰り返し親衛隊長との激しい戦いを繰り広げているが、それは別の話だ。

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