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鉄道英雄伝説 ―鉄オタの異世界鉄道発展記―  作者: 葉山宗次郎
外伝 ルテティア急行殺人事件
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憲兵隊

「憲兵隊だと」


 セバスチャンが憲兵隊の乗車要請を持ってきたことに、昭弥は顔をしかめた。

 ルテティア王国において憲兵隊は、軍内部の警察のみならず、街道の警備、地方の治安維持などを行う警察組織という役割も果たしている。

 これは武装した盗賊団を討伐するために騎馬憲兵隊が投入され、街道を巡回するようになったためだ。憲兵隊による警察活動と聞くと日本人は拒否反応を起こすだろうが、世界的にはフランス、イタリアを始め、多くの国が採用している。

 チェニスはチェニス公爵領になっていたが長年王家が保持してきた称号であり、長年のライバルであったアクスムへの侵攻拠点として重要な位置にあったため、中央政府の統制が強く、憲兵隊による警察活動が行われていた。


「だが、鉄道は管轄外だろう」


 ただし、複数の領地に跨がって運転する鉄道とその施設、敷地内は鉄道公安隊の管轄となっている。

 それは向こうも分かっているはずだ。


「そもそも何故、乗車する必要があるんだ」


「はい、何でもタニー氏の事業の一つに帝国からの衣料購入があり、その資金の一部がこの列車に乗っているため、回収の為に乗車させて欲しいと」


「厄介だな」


 軍に関わりのある事件に関しては憲兵隊が捜査を行うことになっている。

 軍の資金で調達を行おうとしていたので、憲兵隊が介入する口実になる。


「何とか資金だけを下ろせないか」


「王立銀行の許諾が必要だそうです」


「そうだった」


 巨額の資金が動くため、王立銀行に依頼して現金の用意を頼んでいた。

 王立銀行の依頼で王国鉄道が輸送している形を取っているので、許可無く下ろす訳にはいかない。

 職員の不正防止の為に作った規則だったが、こういうときに不便だ。


「直ぐに王都の本店に連絡して下ろす許可を頼め。それと憲兵隊には鉄道公安がしっかり守ると伝えてくれ」


「無論言いましたが、命令に従い護衛すると。また軍の予算に関わることであり、これに口出しすることは管轄権の侵犯と見なすと言っています」


「……仕方ないな」


 昭弥は仕様が無いと憲兵隊員に会いに行った。




「憲兵中尉のウンベルトであります」


 やって来たのは、憲兵の制服に身を包んだ大柄な将校だった。


「王国鉄道の玉川昭弥です」


「初めまして大臣。命令に従い、きちんと任務を遂行しますのでご安心を」


 一歩も引かない構えを見せている。

 彼の後ろにいる六人ほどの部下を見ても彼らはニヤニヤと笑ってこちらを見ている。

 その時、昭弥はこちらを見ている部下達の服装がやけに乱れていることに気が付いた。

 通常憲兵は閲兵などの儀礼に駆り出される事が多い上、他の兵士に対して威厳を見せるため服装を整えている事が多い。

 アクスムとの旧国境近くで治安が悪く盗賊との戦闘が多く、荒くれ者のような兵士も多いだろうが、それにしても乱れすぎではないか。


「……分かりました。では、何処か客室をご用意しましょうか」


「いえ、荷物車の金庫前で結構です。ご迷惑をかける訳にはいきませんから」


 そう言って昭弥の提案を感謝しつつ、固辞した。


「そうですか。では、車掌長。彼らを案内してくれ」


「わかりました」


 そう言って車掌長の案内で列車に乗り込んで行く彼らだった。


「宜しかったのですか社長」


 セバスチャンが昭弥に話しかけた。


「仕方ないだろう」


 下手にこじらせて、後々問題になり妨害などが行われるより良い。


「こうやって一つ認めると、また増えていきますよ。軍務省の確認を取るべきだったのでは?」


「答えてくるかな」


 軍務大臣のハレック元帥と昭弥の間は鉄道を巡って確執があり、まともに答えてくれるか分からなかった。


「それでも確認の為、待機するように言うべきでしたね。帝国軍の手先かも知れません」


「どういう事だ?」


「帝国軍は現在少数駐留しているだけですが、戦時や演習で指揮下に入れたり、査閲などで監督する権限があります。その権限を使って、諸侯軍の一部隊を手駒にする事があります。十分に気を付けて下さい」


「分かったよ」


 そうセバスチャンに言うと昭弥は駅の事務所に入り、電報を依頼した。




 一六時、ルテティア急行は定刻通り、チェニスを出発した。

 予定外の人員が乗ることになったが、特に問題無く列車は順調に進み、次の停車駅、新しい温泉保養地であるアスリーヌに向かう。

 アスリーヌはアスリーヌ伯爵領のことで、オーレリーが領主を務める地域だ。

 現在は王国鉄道と契約を結び、温泉を開発して一大保養地としての整備が進んでいる。

 ルテティア急行の停車駅の一つに選ばれたのも温泉が楽しめるのと、今後の発展を願っての事だ。

 何故、昭弥の元で貴族の当主が秘書と執事をやっているかというと、貴族には若年の間は他の貴族の家で家来を務めることによって、修行をする慣例があるからだ。

 他の家に行くことで自宅では分かりにくい、気が付きにくい貴族社会の仕来りやルールが教えられる。また、交友関係を広げることによって当主となったときに役に立つからだ。

 その点では昭弥は最適だった。

 新参者とはいえ、大臣を務め王国最大の企業である王国鉄道を率いており、将来は有望だ。

 貴族の慣習やルールは専門の家庭教師に任せる必要があるが、順調に成長している。


「さて、どうしたものかな」


 一旦部屋に戻った昭弥は、今後の事を思案した。

 少々厄介な事になりかねないからだ。その時、多分オーレリーを守る必要が出てくる。

 お客様も守る必要が出てくるが、狙われやすく対処能力の無いのがオーレリーだからだ。


「セバスチャン、憲兵隊の様子はどうだ?」


「はい、一号車の大金庫の前に陣取り、開ける者がいないか警戒しているようです。交代要員も金庫の近くに陣取り最大限の警戒を行っているようです」


「そうか」


 何が何でも誰も入れさせないという構えのようだ。

 お陰でどういう事を考えているか読めたし、対策を立てることが出来る。


「何か不安でもあるのかい?」


 昭弥の様子を見てティーベが尋ねてきた。


「うん、いくつかね」


「僕に出来ることはあるかい?」


「勿論。連絡トンネルを通っているとき、列車の職員を使って食堂車で何か催し物をやってくれ、帝都での商売のやり方とか顔つなぎの為にお客様が集まるように」


 帝都において他の帝国貴族や大商人相手に商売をしているティーベだ。顔が広く、商談を行いたくてやって来ている商人達にとっては何とかお近づきになりたい人物だ。

 その人物が主催するのだから、来ない訳がない。


「それはお安いご用だけど。良いのかい?」


「うん、職員全員を使ってもてなしてくれ、執事長のプルマンにもその旨を伝えておくから車内の乗客担当にやらせて。明日には到着だし、アスリーヌでは現地スタッフに任せれば良い。そのことも伝えてくれ」


 そう言って昭弥はプルマン宛のメモを書いてティーベに渡した。


「わかった。できる限りの事はするよ」


 そう言って打ち合わせのために、ティーベは部屋を出て行った。


「セバスチャン。三号車と四号車担当のメイドを連れてきてくれ」


「はい」


 暫くして言われたとおりセバスチャンはメイドを連れてきた。


「お呼びにより参りました」


 少々そわそわした様子だったが、昭弥は気にせず話しかけた。


「少し頼みたいことがありましてご協力願います。マリアベルさん」

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