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鉄道英雄伝説 ―鉄オタの異世界鉄道発展記―  作者: 葉山宗次郎
外伝 ルテティア急行殺人事件
250/763

タニー氏の真実

遅れて申し訳ありません。

明日は平日通りの一八時頃投稿予定です

 リビエラを予定通り、正午に出発したルテティア急行はチェニスに向かった。

 昼食は、リビエラを出る前に海岸でのバーベキューだ。

 外で潮風を受けながらの食事は乗客の多くが初めてだったらしく、好評を頂いた。

 何とか事件の後の嫌な雰囲気を引き払うことが出来たと思った昭弥は、ダンスカーに行き、タニー氏と話しを行う事にした。


「しかし、タニーさんも凄いですね。短期間の内に香辛料の買い付けを行い、売り込み先を確保出来るとは」


「ええ、まあ。それほどでもありませんが」


「ご謙遜を。数日の内に全ての香辛料を売り切ることはそうできることではなりません」


 ろくに流通網が発達していない世界で、売る宛を持っているのは凄いことだ。

 特に相手が支払い能力があるか、買い取れる能力があるかを知る必要がある。何より相手と顔を合わせて取引する必要がある。

 詐欺や偽の契約書が作られたりするため、間違いの無いように顔を合わせず本人かどうかを確認する必要がある。

 最近は、銀行取引や電信、公正証書などの取引制度が発達したお陰で顔を合わせて取引する必要が無くなりつつあったが、今でも盛んに行われている。


「しかし、短期間に取引を全て完結させるとはどのような方法なのでしょうか。是非ご教授をお願いしたいのですが」


「いえ、それは我が社の秘伝でして」


「それでは致し方在りませんね」


 そういった話をしている間に、チェニスに近づいた。


「失礼」


 そう言ってタニー氏は立ち上がって、後方の自分の部屋に向かった。

 しかし、その前にティーベと複数の車掌が待ち構えていた。


「タニー氏ですね」


「そうですが、何か」


 タニー氏は怯えつつティーベに尋ねた。


「只今、国立銀行より連絡がありました。会計記録の不正改竄の疑いがあるため、拘束するように依頼がありました。申し訳ありませんが、自室に軟禁させて貰います」


「馬鹿な。そんな事があるはずは」


「残念ですが、銀行課長の報告書から疑いが濃厚とのことです。取調官が王都から来るまで軟禁させて貰います」


「待ってくれ、チェニスで人と出会う予定があるんだ」


「ご安心を連れてきますよ」


 なおもタニー氏は抵抗しようとしたが車掌に連れられて自室に閉じ込められることになった。


「召使いなどは何人でしょうか?」


「使用人が二人いるが」


「全員、この部屋に集めて下さい。出る事は出来ません」


「まて、チェニスで大事な荷物を受け取ることになっているんだ」


「車掌か公安官を通じて受け取ります。相手のお名前を」


「召使いが直接行くことになっている」


「ダメです。誰も出ていく事は出来ません。この部屋で待機して下さい。それに御安心を。その方もきちんとこの部屋にご案内します」


 ティーベが冷静に話すとタニー氏は、滝の様な汗をかき始めた。




 タニー氏が軟禁されて数分後、チェニスにルテティア急行が入線した。

 新たに作られてあ豪華列車用のホームに入り、停車するとドアを開き乗客を降ろした。

 アフターヌーンティーを楽しんで貰うためだ。

 大勢の乗客が降りた後、一人の人物がホームの中に侵入した。

 そして、周りを伺いながら列車に向かう。


「おい、何をしている!」


 それを駅員の一人が見とがめた。


「すみません。一寸外に用事があったもので、タニー氏の召使いです」


「そうですか。ではご案内します」


 事情を聞いた駅員はぴったりとくっつき、召使いを名乗った男を列車に案内した。

 そしてタニー氏の部屋に向かい、ドアをノックした。


「失礼します。今戻りました」


 途端にドアが開くと、中から屈強な鉄道公安官が現れた。

 どういう事か分からず、左右を見渡すと通路の端から新たな鉄道公安官が出てきて逃げ道を塞いだ。


「ど、どういう事ですか?」


「タニー氏ですね」


「!」


 部屋からティベリウスが現れて尋ねると、一瞬彼は目を見開いたが直ぐに首を振って否定した。


「ち、違う! 私は主では、ない!」


「ですが、あなたを主タニー氏だと言う人がいるんですよ」


 そう言ってティーベは公安官に客人を連れてくるように言った。

 そして現れた人物、国立銀行本店の守衛を見て召使いと名乗った男は戦慄した。


「では尋ねます。彼が何者であなたと何時出会ったか教えて下さい」


 ティーベに促された守衛は口を開いて断言した。


「一昨日の夜、本店に課長と入ったタニー氏に間違いありません」




「タニー氏とタニー氏、いやタニー達が自白したよ。昭弥の言っていたとおりだった」


 簡単な事情聴取を終えたティーベが昭弥の部屋にやって来て報告した。


「やっぱりね」


「しかし、よく分かったね。タニー氏に兄弟がいるなんて」


 正確には腹違いの兄弟だそうだが、二人は似ていた。並んでよく見れば違うのだが、伝聞だけだと同一人物と勘違いしてしまう。


「タニー氏は七人いる」


「え?」


「そう話してくれて思いついたんだよ。もしかしたら複数いるのかもしれないと」


 タニー氏が行った商売の手段は簡単だ。

 まず、予め二人で取引量を決めておいて一方はオスティアへ買い付けに、もう一人は王都で売り込みを行う。

 そして買い付けに成功して運んできて、迅速に納品するのだ。これを一人でやろうとしたら往復だけで時間が掛かるし、買い取りと売り込みでも時間が掛かる。

 そうした作業を分担して効率よく行っていたのだ。

 しかし、彼らのビジネスモデルは大きく崩れてしまう。


「僕たちの列車や電信のせいで、買い付けとか購入の遣り取りがやりやすくなったからね」


 本契約とまではいかなくても、見積もりや仮の契約、問い合わせなどなら電信で問題無い。更に本人が赴かなければならなくても、王国鉄道の急行列車で直ぐに向かうことが出来る。それが、一般の商人でも利用できるようになって王国は繁栄したが、タニー氏達の優位性は無くなり、一転して業績が悪化した。

 追加で王立銀行からの報告書が届いたが、タニー氏の会社は負債ばかりで倒産は免れないとのことだ。

 そこで、有り金を全部帝国に運んで夜逃げしようと、ルテティア急行に乗り込もうとしたが、銀行課長にばれそうになったので、今回の犯行に及んだ。


「今回の事件は彼らのビジネスモデルを再利用したんだ。一方がこの列車に乗り込んでアリバイを作り、もう一方が王都に残って銀行課長を殺すんだ」


 タニー氏が殺人犯だという証言で探す必要があるが、本人はルテティア急行に乗っていることになっている。そのため、警視庁の捜査の主力はルテティア急行に向かう。

 一方実行犯の方は、悠々と王都を出て経由地であるチェニスに楽々先回りできる。

 犯行時間が二一時だとしても二二時台の寝台特急に乗り込めばチェニスには翌日の午後二時頃には着ける。あとはチェニスのどこかで泊まり、ルテティア急行が来るのを待って召使いとして乗り込めば良い。


「凄い推理だね。どうして分かったんだ?」


「タニー氏の人物照会の時に会ったときだよ。僕は課長が亡くなられたとしか言っていなかったんだけど、タニー氏は何時殺されたか、尋ねてきたんだ。自然死なのか殺されたのか事故死なのか分からないのにね。まるで殺されるのが分かっていたかのようにね。だから、疑問に思って色々調べたんだよ」


「大した洞察力だね」


「ははは、それほどでも」


 そう言って昭弥が照れているとセバスチャンが慌てて入って来た。


「失礼します社長、緊急事態です」


「どうした?」


「憲兵隊が乗車を要求してきました」


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