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鉄道英雄伝説 ―鉄オタの異世界鉄道発展記―  作者: 葉山宗次郎
外伝 ルテティア急行殺人事件
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幕間 リビエラの陽光

 オスティアでの長い臨時停車の後、夜八時頃に発車したルテティア急行は、大幅な遅れがあったものの、次の停車駅リビエラに到着した。

 ここは豪華列車専用のプライベートビーチを設置。

 他の人に気兼ねなく海水浴を楽しむことが出来る。

 何しろ駅がビーチの目の前にあり、直ぐ海水浴を楽しむことが出来る。

 線路とホームの関係で一旦降りて行く必要があるが、お陰で列車の客室からオーシャンビューを臨むことが出来る。

 昭弥達は、浜辺のテラスに降りてきて、朝食と海水浴を楽しんでいた。

 もっとも昭弥は撃たれた影響で体力が弱まっており海水浴はパスしたが。


「ようやく、ひと息付けるね」


 食事の後、ティーベが昭弥に紅茶を渡してきた。


「ありがとう」


 オスティア出発前、ユリアに連れ出されて買い物に出かけることになり、帰ってきたら急行の遅れを何とかするべく各所に通達。

 他にも王都で起きた殺人事件に関する連絡、調整。

 王都に残してきた鉄道会社の仕事諸々。

 それらを片づけた時にはオスティアを出発していた。

 そして今朝起きたら、前日の仕事分の確認を行ってそれらをかたづけてようやく休憩できた。

 オスティアでは時間が有ったとはいえ、ユリアの買い物に付き合わされて、消耗した。

 勘弁願いたいと昭弥は思ったが、ユリアの頼みでは仕方ないが疲れた。

 ただ、ユリアとしては、昭弥がティベリウス卿と一緒にいる時間が長く、そのことに焦りを感じ、強引でも自分に引き寄せようと考えて、申し訳ないと思いつつ連れ出したのだ。

 だが、昭弥にとっては疲れただけだ。


「本当に波瀾万丈だね」


「全くだよ。ゆっくり出来る豪華列車のハズだったのに、ちっとも気が抜けない」



「ははは、何事もはじめはそんなものさ。僕だって領地で新しいホテルを開業したら従業員の教育やお客様の招待や対応で、てんてこ舞いだったよ」


「ははは、そりゃ大変だね。今の僕にはよく分かるよ」


「なら思いっきり楽しもうよ!」


 そう言って元気に言ったのは秘書のティナだった。


「そうしたいんだけど、ぶっ!」


 振り向いてティナの姿を見て驚いた。

 彼女は水着姿だった。

 通常なら驚かないが、その姿がスク水姿だったから驚いたのだ。

 しかも何故か、胸元が異様に広い。

 確かに彼女は巨乳に属しているが、胸元が異様に開いている。

 で背中の所が何故か少し膨らんでいる。

 そして昭弥は気が付いた。

 ティナがスク水を後ろ前に着ていることを。

 後ろから虎人族の特徴である尻尾が出て動いている。専用の穴を開けたのかと思ったが、旧スク水のスリットを尻尾出し用と勘違いして後ろ前に着てしまったようだ。


 元気な天然ドジッコって、いいよな。ケモ耳が付いたらなおよし


 単位制高校に通っていたとき、仲良くなったアニメオタクな同級生の一人が言った言葉が何故か脳内で再生された。 

 当時は何を言っているかわからなかったが、今はその意味が分かる。

 反則すぎる。


「ねえ、行こうよ」


 気が付いた時、ティナは眼前にやって来ていた。

 下から覗き込むように、キラキラとした瞳を向けてくる。顔立ちは良く、鼻筋は通っており、口元は小さく可愛い。

 そしてその下にある巨乳が、大きく開いた後ろ前のスク水のせいで余計に強調され、よく見えてしまう。

 ああ、何故か顔が赤くなってしまう。


「あら、お困りのようね」


 そう声を掛けてきたのは、筆頭秘書のフィーネだった。

 まずい、狐人族の彼女はやけに妖艶で、色々と迫ってくる。前回も紐のような水着で昭弥に迫ってきたことがあり、今回も激しく際どい水着で昭弥の悩殺にかかるに違いない。

 意地でも見ないと思ったが、本能は正直で首が彼女の方向へ向いてしまった。


「どう?」


 微笑む彼女の水着姿は


「……」


 スク水だった。

 ユリアがバカンスでスク水を着たことから王国で流行しており、彼女たちもそれに則って着ているようだ。

 で、ティナと同じようにスク水を後ろ前に着ている。


「似合う?」


 ポーズを作ってフィーネは昭弥に尋ねてきたが


「……」


 正直微妙だった。

 確かに、フィーネの体型は素晴らしく、顔も良くて美人だ。すらりとした足に白い肌に金色の髪なので、どんな衣装も似合う。スク水も着ていれば他の男性なら振り向くが、昭弥の場合は違った。

 美的感覚と言うより、昭弥の偏見というか彼女への評価というか、昭弥内の定義からして彼女のスク水はなし、と言うより残念だった。

 フィーネは確かに色っぽく色仕掛けを積極的にしてくる困った秘書だが、仕事は完璧で他の秘書の能力や持っている仕事を把握して、的確に分担させる事が出来るし、調整力も凄い。

 その能力で昭弥は本当に助かっており、憧れの美人先輩を越えて、頼りになる美人のお姉さん、美人教師と見ていた。

 なので、同級生あるいは上級生が着るスク水を彼女が着ると、優秀で頭が良いのにコミュ力不足で生徒と仲良くなろうと頑張る残念な美人教師に見えてしまう。

 簡単に言って興ざめなのだ。

 ティナの場合は、少し幼く年も近いので同年代の同級生という感覚で見てしまい、何時の日か夢想した同級生のガールフレンドが声を掛けてくると言う、伝説のシチュエーションになって凄くドキドキする。

 だが、フィーネのスク水姿後ろ前はそのような昭弥側の事情により彼を冷静にした。


「うん、フィーネは綺麗ですよ」


 心から照れずに言えた。

 実際、綺麗で後ろ前とはいえフィーネのスタイルを良くしているので、嘘は言っていない。


「なんかティナと反応が違うわね」


「まあ」


 ジト目でフィーネが尋ねてきたが、昭弥は適度にはぐらかすしかない。


「まあ、いいわ。そういえば女王陛下は? 王室用のプライベートビーチに行く予定じゃ?」


「その予定だったんですけど、何故か先ほどキャンセルされて」


「ふーん」


「どうしました?」


「いいえ何でも」


 勝ち誇ったようなフィーネの顔を見て昭弥は尋ねたが、彼女は何も言わなかった。

 フィーネは大まかにユリアの事情、心情を推察していた。

 この前着たスク水が流行りすぎているのだ。

 実際、この列車の女性客の多くがスク水を着て海水浴を楽しんでいた。

 その中にユリアがスク水を着て行けば、自分の体型の格差が露わになってしまう。

 そんな公開処刑を避けるために、なにより昭弥に見られたくなくて海水浴をキャンセルして部屋に引きこもっていた。


「何か理由を知っているの?」


 ただ、昭弥だけは分からず、事情を知っていそうなフィーネに尋ねたが。


「さあ」


 相変わらずの勝ち誇った顔をしているだけで、何も答えなかった。


「私が何か?」


 その時、聞き覚えのある声が昭弥の背後から聞こえて振り返ると、そこにはドレス姿のユリアがいた。

 あちこちにフリルの付いた可愛らしいドレスで、海風に吹かれてヒラヒラと漂っている。


「へ、陛下」


 昭弥は立ち上がって臣下の礼をとろうとしたが、ユリアに止められた。


「かしこまらないで下さい。お見舞いに来たのです」


 そう言って左手を伸ばして、昭弥の左腕の血色を見た。


「大丈夫ですか?」


「ええ、大分良くなっています」


 そう言ってユリアは労いの声を掛けているが、実際は違った。

 自分の左腕に付いているブレスレットと、昭弥が左腕に着けているブレスレットを獣人秘書達に見せつけていたのだ。

 自分と昭弥の時間を作るために強引に買い物に行ったが、思わぬ収穫が出来た。これを最大限に生かそうと皆がいる前に見せつけるべく、ユリアは現れたのだ。

 誰が勝者で、優位にあるのか示すために。

 あからさまな示威行為で、彼女たちを牽制する。

 それはフィーネやティナも分かっていたが、それでも意識し、嫉妬心が燃え上がる。

 そのため、昭弥の周囲が異様な雰囲気となり、非常に居心地が悪くなってきた。 

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