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鉄道英雄伝説 ―鉄オタの異世界鉄道発展記―  作者: 葉山宗次郎
外伝 ルテティア急行殺人事件
248/763

オスティア臨時停車

 事件が起きたが、ルテティア急行は予定通り、午前七時にオスティアに到着した。

 停車時間の予定は二時間だが、事件のあらましを伝えるためにも暫し停車することにしたが、予想より長くなった。

 何故なら、十二時過ぎまで行われた晩餐会により、多くの乗客が深酒をして爆睡していた。晩餐会の後、サロンカーやダンスカーに場を移して夜明け近くまで飲んでいた人もいたので余計だった。

 そのため、昭弥が事情を話すことが出来たのは、午前十時になってからだった。

 昭弥は、ホプキンス男爵とナッサウ伯の召使いの死亡と、自社の社員ハンベールの殺人行為と未遂行為、詐欺行為を伝え謝罪した。

 そして警備を強化した上で列車を運行するが、下車したいのであれば、料金を全額返金し、王都行き若しくは帝都行きの交通手段を提供する事を伝えた。

 だが、幸いにも誰も名乗り出る人はいなかった。

 皆多かれ少なかれ、帝国相手に商談しに行くのであり、多少の事に怖じ気づくような人はいなかった。

 亡くなったホプキンス男爵も自領の商品を帝国に売り出すために乗っていたのであり、その意味では惜しい人を亡くした。

 疑惑のタニー氏も多額の資金を列車内に持ち込んで帝国で新たな商談を行うことになっている。

 殺人程度の事で降りようと考える人は一人も居ないと言うことだ。

 異なる考え方と言えばそれまでだが、すこし剛胆すぎるのではないかと昭弥は思った。

 結局、オスティアではダイヤ編成の関係上、暫し停車することになり、オスティア観光を行うことになった。

 昼食を終えると、臨時にオスティア観光を行う事となり、乗客の皆様は夕方まで観光に向かった。

 元々、オスティアでの滞在時間を伸ばすプランもあったので、変更はさほど問題無かった。

 昭弥が列車での風景移動、アメリカ、カナダやオーストラリアの大陸横断鉄道のような車窓を再現したいと臨んで停車時間を短縮するプランを採用したのだが、お客様的にはこちらの方が喜ばれるようだ。

 早急にスケジュールの変更を本社と協議しなければならない。


「しかし、タニー氏が降りないのは意外だったな」


 乗客への説明を終えて自分の部屋に一旦戻った昭弥は呟いた。

 警戒していた昭弥としては、肩すかしを食らった格好だった。


「タニー氏が犯人だと思っているのかい?」


「少なくとも王都での殺人に何らかの関与をしていると思っている」


 小さな疑問だが、引っかかっており解決しない限りスッキリしない。


「ソロソロ、王立銀行のシャイロック総裁にも電報が届くはずだ」


「どういうことだい?」


「タニー氏の商売の様子について調査して欲しいと頼んでいる。負債はないかどうか。商売上のトラブルはないかとか」


「気にしているね」


「それ以外に犯罪が行われている物は無いからね」


「社長、王都より電報が届きました」


 その時車掌長が電文を持ってやって来た。


「来たか」


 昭弥は電文を受け取ると、ざっと読んだ。

 一つは、中央駅に来た王立銀行職員の証言、もう一つはシャイロック総裁の調査の承諾だった。


「やっぱりな」


「どうしたんだい?」


「中央駅に集合写真とタニー氏拡大写真を送ってタニー氏と面識のある職員や守衛に見て貰ったんだ。そしたらどうなったと思う?」


「さあ?」


「反応が二つに分かれた。タニー氏だと言う人と、違うという人だ」


「え? どういうことだ」


「社長! タニー氏がチェニスに伝言電報を打ちました」


 その時、セバスチャンが入って来て電報の依頼書を見せた。

 伝言電報は鉄道会社の電報サービスで、到着した列車の乗客へ電報を渡す。


「どこからの列車の誰宛だ?」


「読み通り、帝都発の列車の乗客宛です。警備増加、歓談難し、銀行課長殺される、です」


「チェニスの鉄道公安部に伝えて、その電報を受け取った乗客を監視するように伝えろ。駅の外に出ても追跡するように言うんだ」


「良いんですか?」


 鉄道公安官の管轄は王国鉄道の敷地内のみだ。それより外は警察や憲兵隊、領主の私兵の領分だ。


「追跡なら問題無いだろう。互いにそれは理解している。それにチェニスなら僕が領主だから問題無い」


 チェニスは昭弥の領地であり、領主の許しを得たなら追跡は可能だ。


「分かりました。直ぐに伝えます。それと代官にも伝えておきます」


「頼むよ。乗車中のタニー氏の監視も頼む」


「どういう事だい?」


「それは」


「昭弥」


 ティーベに説明しようとしたとき、ユリアがやって来た。


「オスティアの観光に行きましょう」


「え?」


 いきなりの誘いに昭弥は驚いた。


「いや、これからちょっと……」


「行きましょう」


 と、言われて無理矢理連れて行かれた。一般人である昭弥に勇者の力があるユリアに抵抗できる訳がなかった。


「あの、護衛は」


「臨時の停車で手配できませんでした。全く、予定が変更になるのですから、きちんとお客様に対応してほしいものですわ」


「言い訳できませんね……」


 昭弥の不祥事と言うこともあり、強気に出られないことで渋々従うこととなった。




 オスティアの町は大きく変わろうとしていた。

 それまで町の中心だった海に面した倉庫街は、鉄道が乗り入れることの出来る新しい埠頭が出来た事によって衰退していた。

 典型的な港の寂れ方だ。

 新たな施設がそれまでの港の外側に出来て物流の拠点が移り、それまでの場所が寂れて行く。空き倉庫などが生まれる大きな理由だ。

 そこで昭弥はウォーターフロント再開発に従った改造を始めていた。

 倉庫を大改造して食堂にしたり、貸店舗やホテルにするなどして商業地区に改造。荷物の積み卸し場所を広場に変えるなどして、人を集めやすくしていた。

 丁度横浜の赤レンガ倉庫街のようにハイソな雰囲気にした。

 ただ、それだけだと人が集まりにくいのでカジノを設けてある。

 賭博というと白い目で見られそうだが、競馬はともかく、競輪やボートレース、パチンコがない世界でカジノくらいは作っておきたい。


「さて、何処に連れて行ってくれますか」


 そう言ってユリアが尋ねた。女王のドレスではなく、最近流行りだしたワンピースの裾の短いドレスで、活発なユリアにはよく似合う。

 ピンク色で所々フリルの付いた物で彼女の可憐さをより引き立てていた。


「そうですね」


 再開発に関わったことがあるとはいえ、全ての店を把握している訳ではない。

 何処に入るべきだろうか。

 かといって外からどんな店かよく分からない。


「とりあえずあそこのお店に入ってみますか」


 女性の出入りが激しい店を指して昭弥は向かった。勢いよく入って


「!」


 固まった。

 そこは色とりどりの布、薄い布と紐が店内に堂々と展示されている。


「あの……ここ……」


 一緒に入ったユリアも真っ赤になる、その店は

 ランジェリーショップだった。

 この世界では店頭売りは少ない。大体訪問販売で、貴族の邸宅や村々などを回って売り歩く。町にある店は例外で、問屋のようなものだ。

 だが、昭弥が駅ナカに店を入れるようになってから、店頭販売を行う店が徐々に増え始めており、中にはこのような専門店も出始めてきた。

 だが、ランジェリーショップだとは思わなかった。

 と言うか、結構過激だ。

 普通のブラやパンツも在るが紐パンや、隠せるのかと疑うような紐と布だけの物とか、ガーターベルトなど、なんで必要なんだと思うくらい種類が豊富で、女性達が皆真剣に見ている。


「……ああいうのを履いて欲しいんですか?」


 恥ずかしそうにユリアが尋ねた瞬間、昭弥は反転してユリアを連れて出て行った。


「他に店は」


 動揺しながらも必死に次の店を探す。こんなことは二度としたくない。

 女の子は宝石が好きだよ。

 ティーベの言葉を思い出して、宝石店は無いかと探し、見つけた。


「そこの宝石店にします!」


 そう言ってユリアを連れて入り込んだ。

 少々不機嫌そうにしているユリアだったが、何とか機嫌を取り戻そうと必死になる。


「ええと、何が良いですか?」


「決めて下さい」


 素っ気なく返されて昭弥は、見繕うことにした。と言っても、何が良いのか分からない。

 とりあえず大きな宝石にするべきか、色々入ったのが良いのか。

 どうやって決めれば良いんだ、と昭弥はパニック状態になる。

 店員に視線を向けても、クビを振るだけで答えてくれない。後ろから、凄まじい殺気が飛んできていることから答えたら殺されると思っているのだろう。

 自分で決めるしかない。

 その時、一対のブレスレットを見つけた。赤と青の宝石の付いた金のブレスレットで、彫りの模様が流れる風のようで綺麗だった。


「済みません! これを下さい!」


 そう言って店員に見せてお金を渡して購入した。


「どうぞ!」


 そして、二つを同時にユリアに差し出した。


「!」


 するとユリアは真っ赤になって、暫く固まったあと、ゆっくりと赤い宝石の付いたブレスレットを自分の左腕にはめた。


「あの……もう一つは?」


 昭弥が尋ねると、ユリアはビックリしたようで目を丸くしたあと、溜息交じりに答えた。


「誓いの番い、という装飾品です。何時までも一緒にいようと友情や愛情を具現化するための装飾品で同じ装飾で一部だけ変えて互いに肌身離さず持って、誓いを忘れないための物です」


「え?」


 つまり、婚約指輪みたいな物なのか。いや、友情も示すと言うから、問題無いのでは。

 ユリアはそれ以上は話さず、黙って列車の止まる駅に向かって歩いて行った。

 ただ、最初は不機嫌そうだったが、徐々に顔の表情に笑顔が戻っていった。


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