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鉄道英雄伝説 ―鉄オタの異世界鉄道発展記―  作者: 葉山宗次郎
外伝 ルテティア急行殺人事件
247/763

第一の事件解決

「失礼します」


 昭弥に呼ばれたハンベールは、部屋にやって来ると頭を下げた。


「お体の具合は?」


 ハンベールはベットの上で横になっている昭弥を労る言葉をかけた。


「良くないね。君に弾を撃ち込まれたからね」


「……何を言っているんですか」


 落ち着いた口調で返事をする昭弥の言葉に動揺しながらも、ハンベールは答えた。


「どうして私が社長を殺そうと言うのですか」


「受注件数の水増し、いや内規違反の契約を行ったね。具体的には社で決めた契約条件や調査の数値を改ざんしたり開業後の収益の見込みに修正を加えて通るようにしていたね」


「な、なにを証拠に」


「ここにあるよ」


 そう言って昭弥は、書類の束をベットにおいて見せた。


「元の調査の報告書、試算した書類など。提出したのは改竄した後、改めて提出したんだろう。これが元の調査書だ。後は、どちらの数値が合っているか再調査すれば分かるよ」


 昭弥の指摘に、隣にいたセバスチャンが胸を張っている。彼が調べて持ってきた書類だ。

 ハンベールが晩餐会に出ている間に、彼の部屋に忍び込み、盗み出してきた書類一式だ。また本社でも彼の机などを捜索したり、調査員を現地に派遣するなどして裏付けを取っていた。


「……確かに改竄しました。ですがそれで社長の命を狙うなんて」


「僕だけじゃない。ホプキンス男爵も殺そうとして殺したんだろう」


「何故です!」


「君がホプキンス男爵から工作費用と行って金を無心したんだろう。男爵に契約を有利にして締結するから賄賂を要求したんだろう」


 一応王国鉄道は民間で役人が関係する贈収賄の罪には当たらないが、会社の内規で禁止されている。


「そしてバレそうになって私と男爵を纏めて殺そうとした」


「どうやって、銃なんて持ち込みようがないでしょう。親衛隊による警備と事前調査があったのに。第一私の拳銃は今も私の部屋の金庫の中です」


「外から運び込んだんだよ。郵便袋を利用してね」


 ティベリウスは事件の概要を説明した。


「予め仲間でも作っておいて途中駅で受け取る郵便袋に拳銃を入れておいて、宴会が終わった後あたりで回収。拳銃を持つと私を殺すべく部屋に向かうハズだった。しかし、僕が宴会を途中退席して、予定が狂った。男爵の相手をせねばならず、抜け出すタイミングを計れなくなり、強引に郵便車へ。歩哨線で男爵を引き留め郵便室で銃を回収すると僕を殺すべく、僕の部屋に向かった」


 だが、ここでさらに予想外の事態が起こった。

 ナッサウ伯の召使い、実際は盗賊だったのだろう、彼が先に重要書類を盗むべく昭弥の部屋に入って来ていた。

 金庫を見つけて解錠して抜き取ったとき、バッタリハンベールと出会ってしまった。


「君たちは、そこで争いとなった。当然だね、召使いは盗まれたところを見られたし、君は持っていないはずの拳銃を持っている。互いに見られたら拙いから殺そうとした」


 結果は、拳銃を持っていたハンベールが召使いを殺した。

 ドアを閉めていたから音が部屋の外に漏れることは無かった。


「予定が狂って、仕切り直そう、証拠を隠滅しようとして一旦郵便車に戻ろうとした。だが運悪く僕に会ってしまって拳銃を持ったまま引き返すことになった。そして部屋に戻った」


 しかも、運の悪いことに男爵が三号車トイレの備品棚に置いてあった拳銃を見つけてしまい、昭弥に対する殺意を抱いて昭弥の部屋で待ち伏せしようとした。

 ハンベールが鍵を開けずに出て行ったために、何の障害も無く入る事が出来た上、昭弥が直ぐにやって来てしまった。


「そして、僕が男爵ともみ合って落ちた後、これ幸いと君は吹き抜けから僕と男爵を殺そうと、拳銃で撃った」


 昭弥を貫いたのはハンベールが発砲した銃で、男爵はハンベールに気が付いて自衛のために持っていた拳銃を撃った。だが、昭弥が邪魔をして男爵の弾がハンベールに命中することは無かった。

 ハンベールも自分を攻撃してくる男爵を排除する必要から昭弥への銃撃は、流れ弾一発のみとなった。


「丁度弾切れになったたため、君は生死を確認すること無く、隣の客室へ行って事件を伝えた。そして、車掌長に伝えるあるいは本社への連絡という名目で、郵便室に向かった」


 触れ回るのは、事件現場となった社長の部屋に人を集め、他を手薄にするためだ。


「郵便車に来た君は郵便袋に拳銃を入れて回収されるようにしたんだ。そして何食わぬ顔で連絡文の作成を行っている間に郵便袋は列車の外へ。そして君の仲間に回収された」


「確かに、それなら食堂車の歩哨と、三号車の歩哨に見つからずに拳銃を持ち込めますね。ですが、証拠はあるのですか?」


 その時、ティベリウスが小箱をテーブルの上に置いた。衝撃で蓋が開くと、中に拳銃が入っていた。


「郵便室の職員が怪しんで沿線に降ろさずに残していたんだ。その中から見つけ出したよ」


 本当は指定地点で袋をセットするのを忘れて下ろし損ない、隠していたのだが、ティベリウスによって発見され、ミスを見逃すことを条件に、怪しいので降ろさなかったことになっていた。


「先ほど銃を発砲して調べたんだけどね。銃弾の特徴が車掌の部屋で発砲された物と一致したよ。君が二階から一階に居る男爵と昭弥を撃ったんだ」


 ティベリウスに突きつけられるとハンベールは、膝をついて床に倒れた。


「まさか運び出されていなかったなんて、金貨十枚やって確実にやるように、言い含めたのに畜生! 怠慢だぞ! 奴はクビにしてやる! 仕事を果たさないなんて! なんてことしてくれたんだ!」


 真っ当な事を言っているが、犯罪の為に買収して、その行為が行われなかった事を嘆いているだけだ。


「畜生! なんて運が悪いんだ!」




「しかし、本当に運が悪かったな」


 事件が解決してしみじみとティベリウスは話した。

 偶然、王都で殺人事件が起こって照会を行うべく昭弥が先に晩餐会を離れてしまい、タイミングがずれた。

 ハンベールが立てた計画では、晩餐会の後、男爵との話をこじらせ、社長と話すことにして自分は拳銃を回収。その後、話しに加わるべく社長の部屋に行き社長と男爵を射殺。自分は拳銃を郵便袋に入れ直して仲間に回収させる。

 これなら社長の部屋で契約を巡って言い争いになって、ケンカになり、社長が護身用の拳銃を取り出したが、男爵に奪われて射殺され、男爵は自決したように見える。


「本当にたまったものじゃないよ」


 現在、ハンベールは隣の部屋でフィーネ達監視の下、監禁されている。

 オスティアで、鉄道公安官に引き渡されたのち、王都へ護送されるだろう。

 内規の契約違反に賄賂の受け取り、詐欺、殺人未遂に殺人、郵便取扱規程の違反。

 死刑は確実だろう。

 あと、買収されたあげく袋を落とすのをミスった職員には、内規違反の収賄の罪で何らかの処罰を加えることにしよう。


「王都で殺人事件が無ければ君は死んでいたね」


「そうだね……」


 だがティベリウスの言葉を聞いた昭弥は思案顔になっていた。


「どうしたんだい?」


「ちょっと気になることが二つあってね」


「なんだい?」


「もう一丁の拳銃の出所だよ。誰が入れたのか気になる。二つ目は、タニー氏が本当に殺人を犯していないか気になるんだよ」


「確かにね。でもタニー氏は不可能だろう。列車が出発した後、事件が起こったんだから」


「そうだけどね。こうは考えられないかな。タニー氏が替え玉という可能性は?」


「替え玉?」


「うん、兄弟か似た人を雇って、この列車に乗り込ませる。そして本人は銀行に行って殺人を行う。そして、直後に駅に行ってオスティア行きの夜行列車に乗り込む」


「けど追いつけないんじゃないか?」


 犯行が行われた時間が二〇時台として、オスティア行きの寝台特急が出発するのは二一時台。所要時間は一二時間だから、到着は翌朝の九時台。

 その前にオスティアを出発するルテティア急行に間に合わない。


「オスティアで列車に乗り込んでいる替え玉が王都での殺人事件を理由に、銀行との契約の更新や確認を目的として降りたとしたら?」


 そして、そのまま王都行きの特急列車に乗り込む。

 途中の駅で王都からやって来る本人と合流して同じ列車に乗り王都へ。

 オスティア急行での行動を伝え、アリバイを完璧にして王都に帰り、オスティア急行に乗っていたように振る舞う。


「これならアリバイを証明できると思うんだけど」


「確かに、不自然じゃないね」


「タニー氏がオスティアで降りないかどうか、監視する必要があるね」


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