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鉄道英雄伝説 ―鉄オタの異世界鉄道発展記―  作者: 葉山宗次郎
外伝 ルテティア急行殺人事件
246/763

車内捜索3

「慎重にやってくれ、ズレたらやり直しだ」


「解っています。任せて下さいよ」


 ティベリウスが昭弥の部屋に戻ると、昭弥はセバスチャンに何かをやらせていた。

 その時、昭弥がティベリウスに気が付き話しかけた。


「ああ、ティーベ済まなかったね」


「いや、こちらも用事があったからね。ところで女王陛下は?」


 昭弥のベットに腰掛けながらティベリウスは尋ねた。


「さっき戻っていったよ。凄く心配するんで落ち着かせるのに大変だったよ」


「愛されているね」


「止してよ」


 照れるように昭弥は言う。


「ところで今、何をやらせているんだ」


「この部屋にあった銃痕の弾を回収して線条痕を確認している」


「線条痕?」


「ライフリングによって弾は回転する。王国鉄道が販売している拳銃にもライフリングが施されているんだけど、その形は一つ一つは微妙に違う。そのため、弾がライフリングを通るとき、跡が残るんだけど、その形は銃によって千差万別。一つとして同じ物は無いと言われている」


「じゃあ」


「うん、どの銃から発射されたか解る。いま、セバスチャンに薄紙に線条痕を上から鉛筆で擦って写している。もうすぐ全部終わるよ」


「終わりました」


 そういって、セバスチャンが一つ一つ弾から写した線条痕を書いた薄紙を渡した。

 そして昭弥が調べると、二種類の銃が使われていることが解った。


「部屋にあったのは二丁だね」


「本当かい?」


「まず間違いないと思うよ。思ったより特徴が違うから」


 そう言って二種類の線条痕を見せた。


「何処の弾だい?」


「それが不思議なんだ。召使いを殺したと思われる銃と、一階床面を撃った銃が同じ。で、男爵が二階で撃った弾と一階から二階への弾が一致している」


「どういう事でしょう?」


 不安そうにセバスチャンが尋ねる。


「召使いを殺した誰かが二階から発砲した。もう一丁の出所不明の銃を使ってね」


 ホプキンス男爵の銃は恐らく誰かがトイレの備品箱に入れた物だろう。だが、もう一丁誰かが持ち込んだ拳銃がある。


「昭弥の拳銃は?」


「マイヤーさんに取り上げられてそのままだよ」


 親衛隊の警備もあり、大丈夫だろうと考えて無理に取り返そうとも、新たに持ち込もうとも思わなかった。

 ティベリウスも同じ考えで貴族を示すサーベルのみ。セバスチャンも護身用にナイフを持っているだけだった。


「正式に配備されている銃は親衛隊が携行している拳銃と列車職員が自衛用に武器箱に入れているだけだけど」


「確認したけど、盗まれてはいなかったよ」


 親衛隊との合同調査で全ての武器が持ち出されていないこと、弾が使用されていないことを確認した。


「となるとどこからか持ち込まれたんだけど」


 発車前の検査では見つからなかった。そして、ティベリウスは昭弥に頼み込んだ。


「一寸見て欲しい銃が在るんだけど」




ダンッ


 拳銃が部屋の中で放たれ、分厚い布団のクッションに入り込み弾は止まった。

 ある程度冷えるのを待って弾を取り出し、検査を行った。


「どうだい?」


「残念だけど、この部屋にあったどの弾とも違う」


「そうか」


 ハンベールが犯行を行ったのだと考えていたティベリウスの推理は外れた。


「何時拳銃を持ち出せたかも分からないし」


 ハンベールとホプキンス男爵がサロンカーで話していることは途中、お客様に聞いて分かっている。そしてハンベールが事件後まで部屋に戻っていないことも客室係が証言している。晩餐会への出席には身体検査が行われるから、拳銃を持ち込むことは不可能だ。そしてその後も取りに行く余裕は事件後までない。


「ねえ昭弥。拳銃を隠し持ったまま運ぶ事は出来るかい?」


「どういう意味?」


「身体検査を受けずに運ぶ事が出来ないか。例えば分解して服のあちこちに隠すとか」


「難しいね。拳銃はリボルバーが大きくて隠しにくい。服の上から触れば一発だよ。何かに入れて隠して運ぶ事は出来るかもしれないけど」


「隠せるほど小さい拳銃ということは考えられるかい?」


「それも難しいね。セバスチャンに銃弾を見せて貰ったけど、大きめの拳銃弾で銃身が内の拳銃と同じくらいになるよ。魔法で銃身を強化すれば別だろうけど、弾の大きさまでは変えられないと思う」


 となると、食堂車前の身体検査を受けずに運び込めたと言うことだ。三号車の身体検査は受けていないハズなので、ここを突破したか列車の前の方で拳銃を手に入れたかのどちらかだ。

 だが、列車は出発前に徹底的に検査をしている。拳銃を隠す余地は無いハズなのだが。

 ティーベが考えている時、車掌長がやって来て昭弥に報告をした。


「先ほど連絡がありました。指定された連絡袋は無事に王都中央行き寝台特急に乗ったそうです」


「じゃあ、追加の写真も無事に王都に向かったんだね」


「はい、朝の九時頃には、王都中央駅に到着するはずです。そこで守衛による確認も行われる手はずです」


「時間的に結構かかるか。ありがとう」


 話しは終わったようで、車掌長は部屋から出て行った。

 一通りの話しが終わってティベリウスは昭弥に核心を尋ねた。


「何度も王都と連絡を取っているようだけど、どうやってやっているんだい? 魔術師はいないはずだろ」


「簡単だよ。電信を使っているんだ」


「電信? 列車の中から打てるのかい?」


 ティベリウスが聞いた話しでは、電信は有線で繋がっていなければ、交信できない。故に走行中の列車に使うことは出来ないと聞いていた。


「いや、連絡用の袋があって、それに通信文を入れて通過駅のホームに落とすんだ。ホームは列車通過を見守る駅員が受け取る。受け取った駅員は通信文を見て、指示通りに電信を行う。あとは運転指令所を経由して宛先に伝わるんだ」


「なるほど」


 列車の中から直接は不可能でも、外部を利用している訳だ。


「逆に王都からの通信はどうやって受けているんだ? 駅から袋を受け取るのかい?」


「そうだね。基本はそうだよ。ただ郵便袋を利用する」


「郵便袋?」


「うん。郵便事業の委託を受けているからその一環で郵便の輸送をしている。その過程で通過駅でも郵便のやりとりをしているんだ」


「どうやって遣り取りするんだ?」


「袋を列車の外にぶら下げて受け取り駅の篭に入れるんだ。ストッパーがあって篭に接触すると開放されて落とすようになっている。列車で受け取るときは逆に線路脇にぶら下がっている袋を列車の篭で受け止めるんだ」


 アメリカのバックス・バーニ〇のアニメで時折、線路脇のフックに袋をぶら下げると列車が来て袋が消えるシーンがあるが、それと同じ事が行われている。

 あれはアニメの表現では無く、実際に行われていたことだ。

 手紙などは急行によって運ばれるが一々全ての駅に停車していては急行では無い。かといって各駅停車だと手紙が届くのが遅れる。そこで、走行していても手紙の遣り取りが出来る様にこのような装置が考案された。

 一般的に車両から降ろす方は、台車と同じくらいの位置に、車両に乗せる袋はそれより上に設置するのが普通だ。


「郵便に使われるんだけど、それに便乗して列車と指令所との連絡にも使わせて貰っている。受け取る駅が少ないから、頻繁に使うことは出来ないけど」


「そうか……ところでこの列車に荷物を持ち込むことは可能だろうか?」


「? 手荷物なら誰でも部屋に入れられるし大きいなら一階の荷物置き場や荷物車に入れることが出来るけど」


「いや、言葉が足りなかったな。走行中の列車に荷物を持ち込むことは出来ないか? 具体的には郵便袋に入れて拳銃一丁を持ち込めないか? 今の装置を使えば」


 ティベリウスが言いたいことを昭弥は理解した。


「……可能だよ袋は大量の郵便物を運ぶ事が出来るから、拳銃くらいなら受け取ることは可能だよ」


 人一人が入ってしまうほど大きな袋をつり下げる事もある。袋を選べば本来の配達物に加えて、拳銃を入れることも出来る。多分袋か箱に詰め込んでいるだろうが、スペースは十分にある。


「どこから送るんだ」


「郵便室に装置がある。そこで遣り取りしている」


 それだけ聞くとティベリウスは駆けだした。

 三号車に移り、歩哨の前にある階段を通って、連絡通路へ。駆け抜けた後、職員車を通り過ぎて電源車にある郵便室に入った。


「な、なんです」


 突然入って来たティベリウスに担当者が尋ねた。


「郵便物を袋に入れて沿線に送り出しているそうだね」


「は、はい。そうですが」


「社長が撃たれた後、袋を送り出したか」


「え、ええ。勿論ですが。どうかしましたか」


「いや、何でも」


 平静を装ったが、ティベリウスは内心で舌打ちした。既に送り出された郵便袋に入っている可能性が高い。

 と言うより自分ならそうする。恐らく、袋を受け取る人間に内通者がいるはずだ。


「送り出す袋はそこに置いているのか?」


「は、はい。受け取った袋はそちらに置いて仕分けを」


 しどろもどろに答える、ジャンという名札を付けた職員を見ながらティベリウスは部屋の特異な点が無いか探った。

 そして、仕分け用の列にあるのに開封されていない袋を見つけた。


「これはなんだい?」


「は、はい。事件後に受け取ったばかりの郵便袋でこれから仕分けをする予定です。親衛隊の方が調べに他の郵便袋を確認していたので、あける暇が無くて」


「そうですか」


 ティーベは穏やかに聞いた後、笑顔でドスの効いた声で尋ねた。


「本当かい?」

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