凶行
発鉄道公安本部 宛ルテティア急行車掌長
本文 課長の最終生存確認は二〇:三〇頃王立銀行本店入り口で守衛が確認。その時、タニー氏と名乗る人物と入ったことを確認済み。遺体発見は二二:〇〇、本店銀行課応接室にて。タニー氏を名乗った人物は建物内に発見できず。窓の一箇所が開いており、そこから逃走の可能性大。
「かなり詳しく書いてあるな」
「はい」
警視庁からの転送だとしたら捜査陣が結構優秀なのか、それとも完全にでっち上げているか、のどちらかだ。
「ともかく、タニー氏の容疑は晴れたか」
「納得していないようですけど?」
「まあね。色々、疑問があるけどね。ただ計画的な犯行だと思う」
「どうしてですか?」
「犯行が休息日の前日に行われている。銀行は休業だからね。犯行の翌々日まで露見しない可能性が高い」
七日に一度、日曜日のような身体を休める日がこの世界では設定されている。
その日は殆どの店が休みだ。
勿論、鉄道は毎日運転しており、交代制で休んでいる。
「送った写真の照合が出来るのは何時かな」
「先ほど通過駅に渡したばかりです。運良く王都行きの郵便車付の列車が捕まると良いのですが」
「運んでくれるだろうけど……」
その列車が何時やって来るか、準備にどれだけ時間が掛かるか。ダイヤが複雑なため確固とした予想は出来ない。
「分かった。写真がいつ頃着くか指令所に尋ねておいてくれ。それとリビエラに連絡して小型の機関車と客車の用意とそれを使って王室専用のプライベートビーチに行けるようにしておいてくれ」
「わかりました」
車掌長はそう言って通信文の作成を始めた。
それを見終わると昭弥は車掌長室を出て自分の部屋に向かうことにした。
「しゃ、社長」
昭弥は、考え事をしながら歩いていると二号車の通路をこちらに向かってくるハンベールに出会った。
「どうしたんだハンベール。ホプキンス男爵との話は付いたのか?」
「申し訳ありません。どうも納得出来ないらしく。社長と直接話させろと」
「こじれたか」
敏腕のハンベールにしては下手な交渉だった。まあ、仕方の無い部分もあったが。
となるとトイレで怒鳴っていたのは男爵か。かなりお怒りのようだったから何とかしないと。
「あ、社長失礼します」
その時、同じく車両後方からセバスチャンがやって来た。
「おお、セバスチャン。どうだった?」
「上手く行きました。予想通りでした」
「そうか」
その言葉を聞いて、昭弥はハンベールに哀れみの視線を向けた。
「少し話がある。俺の部屋に来てくれ」
「は、はい」
昭弥はハンベールを連れて自分の部屋に向かう。
階段を上がって、後ろの車両に入って最初の部屋、そこが昭弥の部屋だ。ドアに手を掛けてノブを回して開けると、目の前に銃口をこちらに向けたホプキンス男爵がいた。
「……」
突然、銃口を向けられて昭弥は驚いた。
と言うより、どうしてホプキンス男爵がいるのだ。
それも王国鉄道製造製、リボルバーの拳銃の銃口を昭弥に向けて。
「あの、ホプキンス男爵……」
「良くも私を虚仮にしてくれたな」
目が血走った様に怒り狂っている。ルテティア王国貴族は血の気の多い人が多くて直ぐに決闘沙汰になると聞いていたが、先ほどの宴会での行動が拙かったのか。
「落ち着いて下さい」
「ダメだ。私を虚仮にしてくれた落とし前はつけてもらう」
引き金に力を込めようとしたとき、昭弥が前につんのめった。そのまま前に出た昭弥は拳銃の真横を通過、直後にホプキンス男爵は発砲したが避けられた。昭弥の勢いは止まらず、男爵の身体にぶつかって拳銃をぶれさせた。
その隙に、昭弥を押したセバスチャンがホプキンス男爵に接近、拳銃を奪おうとする。
だが、上手く身体を横へ動かし、昭弥の衝突をかわした男爵は、セバスチャンに向かって対峙した。銃を向けようと距離を取るがナイフを持ったセバスチャンが接近してくる。
銃はある程度距離を取らなければ撃つことは出来ない。撃ったとしても当たることはない。なので男爵は一歩前に出て拳銃の握りの底でセバスチャンの側頭部を打った。
「グッ」
当然の頭部の衝撃にセバスチャンは驚き、意識を失った。
男爵はセバスチャンの無力化を確認すると昭弥に銃を再び向けようとした。
「おら!」
だが、態勢を立て直した昭弥が襲いかかり、拳銃を奪い取ろうとした。
そしてもみ合っている内に客室の吹き抜けにある階段にやって来てしまい、二人は階段を転げ落ちた。
「わっ」
十数段の階段を二人は転げ落ちたあと、一階で再びもみ合った。
階段から落ちた後、昭弥は運良く男爵に対してマウントが出来、押さえつけに入った。しかし、体力の差はいかんともし難く、昭弥は拳銃を放してしまった。
次の瞬間、数発の銃声が鳴り響き、昭弥の身体に銃弾が命中。
その衝撃で、昭弥の意識は闇に落ちた。




