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鉄道英雄伝説 ―鉄オタの異世界鉄道発展記―  作者: 葉山宗次郎
外伝 ルテティア急行殺人事件
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真夜中のお茶会

「殺人容疑か」


 公安本部から送られてきた通信文を読んで昭弥は呻いた。

 お客様を疑うのは、あまりしたくない。


「どうしますか?」


「どうって?」


 尋ねられて昭弥は考え込んだ。不明な状況で何の情報が必要か考えなければ。

 何時殺されたのか時間が解らない。乗車前に殺されたのか、乗車後に殺されたのか。それをハッキリして貰わないと。


「警視庁へ問い合わせを。一、銀行課長が何時亡くなったのか。二、課長が生存している姿を見たのは何時か。三、タニー氏と会談していた時間は何時か。鉄道公安本部を通じて問い合わせてくれ」


「了解しました。暗号電となるので時間が掛かりますが」


「仕方ない。読まれるのは危険だしね」


 車掌長に頼み込み通信文を書いて出して貰う。

 簡単な換字式暗号だが、電信技士や覗き屋に一定時間、読まれなければ良いので、使っている。間違いも少ないし、素早く送れるからだ。


「ああ、それともうすぐ現像技士が記念写真と拡大写真を数枚持ってくる。二枚ほど抜いて手元に置いた後、残りは速達で郵送、あるいは至急で公安本部に送ってくれ。警視庁への提供も許すと書いておいてくれ」


「解りました」


 そう言って車掌長は通信文の作成と、写真転送用の封筒の準備を始めた。




 昭弥は指示を終えると車掌長室を出て行き自分の部屋に向かう。


「発車後に犯行が行われていたら、容疑が晴れる……」


 高速給水装置により、途中で停車せずにノンストップで走らせる事が可能だ。このルテティア急行ももう既に六時間以上、停車せずに走っている。

 発車後に乗っているのなら、犯行は不可能だ。


「……」


 だが、何かが引っかかる。


「警察は大丈夫なのか……」


 捜査のやり方が雑すぎるように思える。

 まあ、近代以前の世界だ。思い込みで捜査して適当な人間を犯人に仕立て上げて捕まえる事もあるだろう。

 日本の警察のように丹念な聞き込み捜査をしているかも疑問だ。

 正確な証言を集めることが出来るのだろうか。

 下手をすれば、あらぬ疑いを鉄道会社に向けられる可能性がある。権限を奪うためにありもしない事実を作り上げる可能性も出てくる。


「そこも含めて調べる必要もあるな」


 昭弥は三号車の連絡通路を上がり部屋に戻ろうとした。


「失礼します玉川社長」


 丁度三号車と四号車の連結部分で親衛隊員に呼び止められた。


「陛下がお呼びです」


「今ですか?」


「はい」


「分かりました」


 そのまま、反転してダイヤモンド・スイートに昭弥は入っていった。




 部屋に入り左右のゲストルームとトイレを過ぎて客間へ。

 奥は吹き抜けになっており、非常に広々とした空間となっている。


「失礼いたします」


 昭弥は客間に入り、テーブルに着いていたユリアに頭を下げた。


「良く来て下さいました。どうぞ」


「あ、ありがとうございます」


 椅子を勧められたので、昭弥は前にある椅子に座った。

 綿をふんだんに入れて作ったふかふかのソファーだ。自分で選んで持ち込んだこだわりの逸品である。


「忙しそうですね社長?」


「はい、王都から人物照会の要請があったので」


「誰を誰が?」


「お客様なので詳細は言えませんが警視庁の方から」


 言った瞬間、ユリアの機嫌が悪くなったことが分かった。

 王都警視庁への牽制にしようとしたけど、ユリアを見ていると警視総監、警視庁のトップが罷免される程度で済めば良いのだが。


「ご苦労様です」


「はい」


 勿論表面上は笑顔だが、怒りの波動というかオーラというかそういう物を感じる。

 異世界に来た時、チートは無いと言われた昭弥だが、隠された才能が覚醒したのだろうか。


「お茶にしませんか?」


 そう言ってやってきたのは側に居たティーベだった。

 宴会が終わった後、ユリアの相手をして貰っていたのだ。


「オーレリーは?」


「眠そうだったのでそこの部屋のベットに寝かせました」


 そう言って、客間の奥、吹き抜けの先にある部屋をユリアは指した。


「それは済みません」


 一〇代前半、小学校五、六年生か中学生くらいの年齢では、こんな深夜では眠ってしまう。

 その時ふと、昭弥は疑問に思った。

 奥の部屋で寝ている。

 ゲストルームあるいは乗客用として使える大きな部屋だ。

 通常は揺れの少ない一階を主ベットルームにするのだが、連絡通路が脇にあって少し狭くなるし、車両一杯に使えないので二階を使うこともある。

 ちなみにユリアはドレスと言うこともあり二階を使っているはずだ。


「どうしたのです?」


「いや……」


 ユリアのベットルームでオーレリーがどんなことをしているのか。いやどんなことが行われたのか何故か気になる昭弥だった。


「陛下とお話しをしていただけだよ。日頃何をしているかとか、辛くないかとか、臣下として頑張りますとか。陛下はもう弟が出来たようにかわいがってね」


「ティベリウス卿、あまり話さないでくださらない」


「失礼いたしました」


 そう言ってティーベは、ユリアに優雅に礼をして謝罪した。


「じゃあ、それからはティーベと?」


「そうだね。色々話したよ。二人が出会った時のこと、直ぐに鉄道に対する全権を与えたんだよね。それから暴れ馬のように帝国や王国のあちらこちらを回って鉄道を作る準備をしたんだろう?」


「ああ、技術力が無くて、サラマンダーも居なくて石炭を探したり、鉄鉱石を探したり大変だったよ」


「本当に王都に戻ることはありませんでしたし、勝手にどっかに行ってしまったり、全然帰ってきませんでしたから。王国の英雄なのに」


 二人の会話に不機嫌なユリアは割り込んだ。

 後ろに控えるユリア付のメイド、エリザベスの視線も険しくなる。


「ところで二人はどこかに旅行とかは?」


 察したのかティーベが二人に話題を出した。


「そうですねリビエラへ旅行に行きましたね。新しいリゾート地でプライベートビーチで楽しみました」


 ウットリするようにユリアが答えた。


「そうでしたね」


 宣伝目的のために来て貰ったんだが、そのことは黙っておこう。


「今回はリビエラに行きますがまた行くのですか?」


「今回は豪華列車専用のプライベートビーチだから違う場所だけど、直ぐ近くだからッ機関車を仕立てて向かうことが出来るよ」


「是非行ってみたいね」


「そうだね。皆で楽しもうか。直ぐに用意するよう連絡するよ」


 そう言うと昭弥は席を立って、車掌長の部屋に向かうことにした。今から行けば間に合うはずだ。

 昭弥は部屋を出ると外のトイレでホプキンス男爵が入っていて大声で騒いでいるようだった。

 まあ、鉄道が敷かれるか否かで自分の領地が発展するかしないかの瀬戸際にあると思っているのだから仕方あるまい。あと、どうもユリアの前で昭弥が計画自体を否定したことから、目立とうとして嘘を言ったように思われており、恥を掻かされたと考えているようだ。

 下手に昭弥が出ていっても火に油を注ぎそうだ。

 昭弥は車掌か客室係に対応するよう命じることにして、二号車に向かうことにした。


「車掌長。追加で通信を頼む。それと乗客対応に誰か派遣してくれ」


 車掌長室に入ると、通信を依頼し、三号車の男爵に対応するよう頼んだ。


「分かりました。それと今し方、公安本部より暗号電が届いて今解読しています。それと写真も先ほど届いて既に発送しました」


「上出来だ」


 車掌長から通信文を受け取ると文面を読み始めた。

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