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鉄道英雄伝説 ―鉄オタの異世界鉄道発展記―  作者: 葉山宗次郎
外伝 ルテティア急行殺人事件
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人物照会

「どういう事だ?」


 いきなり列車に乗っているお客様の照会なんて。しかも殺人事件で。

 そもそも、王都警視庁の特別捜査部は殺人を含む重大事件の捜査ということになっているが、警察組織の権限拡大を目指した機動部隊だ。

 主に複数の管轄に跨がる重大事件、王都内で強盗や殺人を犯した人物が王都外へ逃亡した場合など、警視庁の管轄外へ出ていったとき、あるいは入って来たとき他の機関と迅速に連絡連携して対処する部署だ。

 連絡連携と言っても、事前か事後に通知して強引な捜査を行うことも多い。

 特に複数の管轄を股にかけて捜査する騎馬憲兵隊と鉄道公安隊に対しては、権限を剥奪しようとしているのか、よく対立している。

 犯人が逃げようと列車や駅馬車を利用するため、捜査員が追跡と言って管轄を越えて、追いかけてくることが多い。

 そうやって既成事実を作り、警察権を拡大することを警察組織は目論んでいる。

 勿論、協力はするが勝手な捜査を許す訳にはいかない。

 捜査の為といって犯人逮捕のために乗客の安全を無視したり、列車の妨害を行われては問題だ。

 もともと公安隊は、乗客の安全確保、治安維持が第一であり犯人逮捕は二の次だ。それが警視庁には怠慢だと見ており、管轄を奪おうとしている。

 応える義務は無いと言ってはね除けることも出来るが、今後を考えると疎かに扱うことは出来ない。


「何故、照会を求めるのか、理由を聞いてくれ。鉄道公安本部を経由して警視庁に問いただすんだ。どれくらいで出来る?」


「間もなく、駅を通過しますから。順調に連絡が行っても三十分から一時間ほどかと」


「だろうね。車掌長、連絡文を頼む」


「どちらへ?」


「タニー氏に会いに行っておく。返事が来るまでにある程度はタニー氏の事を知っておきたい。連絡が届くかここで待っていてくれ。何かあれば僕の部屋に」


「解りました」




 車掌長から離れた後、タニー氏に会いに行った。

 タニー氏とは面識は殆ど無いが、帝国鉄道の開通後、香辛料の売買で大きくなった商会の一つだ。膨大な量の香辛料を帝国本土に持ち込み、多額の利益を得たという。

 現在は帝国との商売を拡大を計画しており、今回の参加も帝国本土での契約獲得のためで多額の現金を持ち込んでいた。

 昭弥は食堂車に向かったが、既に宴会は終わった後だった。


「宴会はどうなった?」


 執事長のプルマンに尋ねると応えてくれた。


「社長が出て行ってから陛下が閉会を宣言して終わりました。陛下はお部屋に、ティベリウス卿とオーレリー卿を連れて夜会をしているようです。先ほどからお菓子などを持ち込んでいます」


 自分の代わりに二人がお相手をしてくれるのは有り難い。


「他のお客様は?」


「サロンカーやダンスカーへ移動して歓談なさっております」


「タニー氏は?」


「サロンカーの方へ向かわれました」


「済まないが、付いてきてくれないか? タニー氏の顔をよく知らないんだ」


「解りました」


 そう言ってプルマンを連れてサロンカーに向かう。

 宴会の後、数人のお客様が酒やタバコを飲んで楽しんでいた。その中に、タニー氏はおらず隣のダンスカーに行くことにした。

ただ、その前にダンスカーの一階にある写真現像室に向かった。


「入っていいかい?」


 入る前にドアの前で尋ねた。


「どうぞ」


 中から現像技士の声がして、昭弥は中に入った。


「ああ、これは社長」


「遅くに済まない。記念写真は出来ているか?」


「は、はい。焼き増しを含めて完成しています。予備に数枚在ったはずだよな。それを貰えるか?」


「はい、どうぞ」


「それと、済まないが追加で仕事を頼む。写真の焼き増しと、拡大写真を数枚頼む。それと晩餐会の写真もだ」


 そういって拡大する部分と追加の写真を昭弥は指示した。


「現像が終わったら直ぐに車掌長に届けてくれ。それで仕事は終わりだ。残業代ははずむよ」


「解りました」


 そう言って現像技士は、請け負うと昭弥は部屋を出て行き、上のダンスルームに向かう。

 ダンスルームに入ると、周りを見回す。乗客数人がダンスに講じたり、カードゲームをしている。

 その中にプルマンがタニー氏を発見し昭弥に教えた。

 プルマンにタニー氏の特徴を聞いて覚えると昭弥は近づいて話しかけた。


「失礼します」


 昭弥は物腰低く話し始めた。


「王国鉄道社長の玉川昭弥です。タニー氏でいらっしゃいますか?」


「は、はい。そうですが? 何かご用で?」


「いえ、乗客の方々にご挨拶をと思いまして、出発のバタバタと、宴会ではゆっくりご挨拶も出来なかったので」


「それはご丁寧に」


「私の連れに何か?」


 そう言ってきたは帝国の駐在武官補であるスコルツェニー少佐だった。


「失礼いたしました。お二人はお知り合いなのですか?」


「何度か、帝国軍の物資の輸送にタニー氏の列車を使わせていただいた」


「そうでしたか」


 少佐は頭を下げた。


「そういえば急用があって離れましたが何か?」


 タニー氏に尋ねられて昭弥は正直に答えた。


「実は王都で王立銀行の銀行課長が亡くなられたので、その連絡で」


「え? いつ殺されたんですか?」


「さあ、今夜としか聞いていませんから」


 それに関連してタニー氏の調査をしているのだが、そこまで言う必要は無いだろう。


「玉川社長」


 すると周りに居た複数の乗客が昭弥に話しかけてきた。

 何処の会社の社長とか商会の会長とか、銀行の頭取とか、何とか昭弥との知遇を得ようと他の人を押し退けて話しかけようとしてくる。

 これでは話しどころでは無かった。

 昭弥を助けたのは、車掌の一人だった。


「社長、緊急通信が届いております。車掌長の部屋へどうぞ」


「わ、わかった。ありがとう。皆さん、急用が入りましたので失礼させていただきます」


 そう言って昭弥はその場を離れた。


「玉川社長!」


 だが新たに現れたホプキンズ男爵が前に立ちふさがった。


「鉄道計画について今一度確認させて貰いたい!」


「申し訳ございません。只今立て込んでおりまして、後ほど」


 そう言ってハンベールに任せて離れた。後ろから追いかけてくる足音が聞こえたが、食堂車の所で親衛隊の歩哨に捕まって身体検査を受けて足止めされており、振り切ることが出来た。あそこの歩哨は、鉄道関係者に関しては比較的緩い。流石にユリアの部屋の前は、マイヤーがいるので厳重だが、あそこは職員が通るので緩い。ユリアの部屋の前は、職員用の通路への階段の後ろで歩哨を配置しているので、スルーだ。

 男爵には申し訳ないが、足止めを喰らって貰おう。緊急の通信で返信に時間をかける訳にはいかない。

 ホプキンス男爵を置いて、昭弥はズンズンと進んで行き、車掌長の部屋に入った。


「通信が入ったって」


「はい、暗号電でしたが今解読を終えました」


 手元にある解読表を使って車掌長は暗号の解読を行い全文の解読を終え昭弥に渡した。


 発鉄道公安本部 宛オスティア急行車掌長

 今晩課長の入館時連れがタニー氏である、との情報あり。真偽を確かめられたし。


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